After/Withコロナ時代の企業経営 -第1回-ソフトバンクグループの財務戦略

「After/ Withコロナ時代の企業経営」シリーズ第1回として、コロナ禍を乗り越えるために下したソフトバンクグループの決断とコロナ禍におけるCFOのミッションについて、ソフトバンクグループ株式会社取締役専務CFO兼CISO兼CSusOの後藤芳光氏にお話を伺いました。

「After/ Withコロナ時代の企業経営」シリーズ第1回として、ソフトバンクグループ株式会社取締役専務CFO兼CISO兼CSusOの後藤芳光氏にお話を伺いました。

新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19という)の世界的流行は人々の移動を制限し、世界経済に深刻なダメージを与えています。日本企業も程度の差はあるもののほとんどの業種で業績が悪化、多くの企業が事業戦略の抜本的見直しを迫られました。コロナ禍によってマーケットが動揺するなか、3月、ソフトバンクグループは自己株式取得と負債削減のために保有株式を資金化して4.5兆円を調達するプログラムを発表しました。

インタビュアー=岡田 光
KPMG ジャパン ソフトバンクグループ担当パートナー

マネジメントの役割はリーダーの 任命と権限委譲

- COVID-19の世界的流行はさまざまな変化を引き起こしましたが、CFOの役割にも変化があったでしょうか。もし、変化があったのだとしたら、どのような変化が起きたのか、お話いただけますでしょうか。

後藤 コロナ禍によって、CFOの役割はより多様化していますし、各社それぞれ役割と取り組むべきミッションを抱えています。ですから、ソフトバンクグループ(以下、SBGという)のCFOとしてのミッションも、たとえば総合商社や航空会社のCFOとはまったく異なるものとなります。特に、コロナ禍のような不確実性が増した状況下では、ミッションも役割も企業ごと、産業ごとに異なるのではないかと思っています。実は私のSBGのCFOとしての一番のミッションはコロナ禍前とまったく同じで、「経営がやりたいこと」を、リスクをマネージしながら効率的に実現することなのです。あらゆる市場変化に対応できる財務運営、前向きな意思決定に深く関与していく経営と最高にシンクロした戦略的財務運営を行うことです。実際、今年の3 月にはまさに前代未聞の市場変化が起きたわけですが、こうした外部の環境変化に即して思い切った対応を素早く意思決定し、実行することで、短期的なミッションを果たしましたし、現在はより中長期的な観点から戦略的財務運営を行っています。

後藤氏

ソフトバンクグループ株式会社
取締役専務 CFO 兼 CISO 兼 CSusO
後藤 芳光 氏
Yoshimitsu Goto

一橋大学卒業後、安田信託銀行(現みずほ信託銀行)に入行。2000年6月にソフトバンク(現ソフトバンクグループ)へ入社し、2012年7月から常務執行役員財務部長、2018年4 月から同社専務執行役員CFO 兼 CISO、2020年6月から同社取締役として、資金調達など財務運営を統括。また、ソフトバンク㈱の取締役や福岡ソフトバンクホークス㈱の代表取締役社長CEO 兼オーナー代行も兼任。

- 後藤さんは福岡ソフトバンクホークスのCEOも兼任されていらっしゃいますが、グローバルベースで投資を行うSBGのCFOと、地域密着なビジネスを行う福岡ソフトバンクホークスのCEOの役割に違いはあるのでしょうか。共通点と相違点を教えてください。

後藤 マネジメントにとって重要なことは、「意思決定プロセスをクリアに持ち、ブレない判断を行う」ことと、「権限委譲をきちんとできるか」だと考えています。そういう意味では、CEOのミッションもCFOのミッションもまったく同じです。

それぞれの会社ごとに取り組むべきテーマは違いますが、テーマを明確にしたらテーマごとに信任できるリーダーを選び、目をつぶって任す。そして、目を開けたときに気づいたことを言う。これが大事です。

  • 意思決定プロセスをクリアに持ち、ブレない判断を行う
  • 権限委譲をきちんとできるか


- 「目をつぶって任す」。わかっていても、実行するのはなかなか難しいように思えます。

後藤 最初からマネジメントが目を開けていたら、船頭が2人いるということになってしまいますよね。それでは、リーダーはうまく動いてくれません。こういうと難しく聞こえるかもしれませんが、リーダーになるのは長いこと付き合ってきた、いわば戦友なわけですから、言葉はいりません。それに本当に必要なときには、向こうから相談にきます。こうした関係を築けていれば、権限委譲は成功しているといえます。業種が違っても、ローカル・グローバルという視点が違っていても、マネジメントとしてやるべきことは正しい意思決定です。

日本では少ないですが、欧米ではたとえば自動車の製造会社の社長がまったく違う業種の社長に転職するということが普通に起きます。優れたCEOは、異業種においても優れたCEOとして活躍するとされています。営業マンだって同じで、自動車の販売会社のトップセールスマンは、不動産や証券会社でもトップのセールスマンになれるでしょう。これは、知識に差があるという話ではありません。目の前にいる仕事相手が何を考えているかを相手の立場に立って推し量り、どれくらい相手の動きに遅れずについていけるかです。これができる人はどの分野でも活躍できます。コロナ禍ではなおのこと、こうした力が必要とされるのではないかと思います。

後藤 芳光 氏

- リーダーを任命するにあたり、一番重視するのは何でしょうか。

後藤 その人がどれだけのミッションをコンプリートしてきたかという点です。ただし、実績だけを見ることはしません。単純に売上が伸びたかどうかだけでなく、その人が記憶に残る人間であるか、顧客からどのくらい支持されているか、社内で特に部下からどれだけ評価されているかなど、多面的に評価します。そういう意味では、360度評価の下半分の180度評価が大事だと思っています。

- リーダーには、必ずしも知っている人が任命されるとは限りません。これまで関係性があまりなかった人や外部の人と一緒に新しいことをする際、どのようなことを重視すべきだと思いますか。

後藤 まず信頼することです。個人的に全然知らない人であっても、何らかの理由で選ばれたわけですから、その理由を理解し、お互いに分かり合える努力をすることです。私は基本的に性善説なので、相手の思考の理解に努めて、無意味に敵を作らないようにしています。

そのせいか、あまり知らない人でも、社交辞令やお世辞を言ってうまくやりたいと思っている人と、こちらの身になっていろいろと真剣に考えてくれて本気で頑張ってくれる人を見分けることができます。ですので、これまであまり関係性がなかったとしても、そういう方を信頼するというのは難しくはないですね。

総額4.5兆円に及ぶステークホルダーに対する還元がSBGのコロナ禍への対応

 - コロナ禍によって世の中のあり方が大きく変化しましたが、SBGはコロナ禍に対してどのような対応をなさったのでしょうか。

後藤 コロナ禍対応を含め、各ビジネスの経営は各子会社や投資先のビジネスオーナー、CEOが行っており、戦略的投資持株会社であるSBGは各社の対応と結果としての企業価値の状況を注視しています。コロナ禍で世の中のあり方は大きく変わりましたが、グループ内でコロナ禍によってビジネスに大きな影響を受けた子会社や投資先はごくわずかです。これは、SBGが基本的にAIやITを基盤とする企業への投資を行ってきたからです。

一方、マーケット全体としては、コロナ禍で資本市場が大きく動揺したため、戦略的投資持株会社としてのSBGも非常に重要な局面を迎えました。そこで、我々は多くの企業が保守的な対応を行う中で我々にしかできないこと、我々がマーケットに対してすべきことは何かを考え、その結果として我々の株式と債券の価値下落によってダメージを負ったステークホルダーに対する大規模な還元を行うことにしました。

具体的には、3月に公表した自己株式取得と負債削減のための4.5兆円のプログラムです。ここ最近ではアップルが500億ドル(約5兆3500億円)の自己株式買いを発表しましたが、SBGのこのプログラムにおける2.5兆円※という規模の自己株式取得は国内において過去最大だと思います。

負債削減については、「単なる借金の返済ではないか」というご指摘も受けましたが、我々としては単なる返済ではないという認識でいます。マーケットが大きく動揺している時期の返済の必要がない期限途中での償還は、何らかの理由で期限まで当社の債券を保有できなくなった投資家に資金化の機会を与えるということです。そういう意味で、我々は「還元である」と考えています。

負債についても、前述のプログラムで既に1.2兆円の削減を行っています。その1つとして個人向け社債の買入償還を実施しました。2000億円のオファーに対し、最終的には約1600億円の買入申込みとなり、400億円未達に終わりましたが、非常にうれしいことでした。資金を還元したいと投資家へ提案したら、逆に投資家の側からむしろ社債を持ち続けたいという方々も多かったということ。我々はそう理解しています。

自己株式取得は、株価が上がるという目に見える形でマーケットの反応を知ることができます。しかし、個人向け社債の投資家とは、通常は証券会社を通じたやりとりに限定されていますから、今回のようなケースで、ダイレクトに個人投資家の考えを知ることができたのは非常によかったと思っています。

※2020年3月13日の取締役会決議に基づく自己株式取得を含む(総額5000億円)

自己株式取得と負債削減のための4.5兆円のプログラムを決定
ソフトバンクグループは2020年3月23日、自己株式取得と負債削減のために最大4.5兆円の同社保有資産の売却または資金化を決定した。これにより、最大2兆円の自己株式取得に加え、残額を負債の償還、社債の買入れ、現預金残高に充当すると公表した。

「福岡発」の世界一を目指し結果として地域に貢献する

- 企業の社会貢献活動についてお伺いします。福岡ソフトバンクホークスを通じて、地域社会に対してどのような貢献をしようとお考えですか。

後藤 地域創生や地域貢献という考えで福岡ソフトバンクホークスの経営は行っていません。確かに、日本の野球ビジネスは地域に根差したビジネスモデルであり、地域に根差した事業展開をしていますが、「福岡の皆さまへ」ではなく「福岡発」が大事と考えています。福岡発で全国区になり世界的にも有名になった明太子のように、「福岡発」で世界一を目指し、世界一になったものを福岡、九州の人々に自慢に思ってもらうことが大事なのです。それが福岡の皆さまの成功体験、自信、礎となり、最終的には地域還元に繋がるものと考えています。

- 「福岡発」で世界一になるために、福岡ソフトバンクホークスに求められることは何でしょうか。

後藤 何よりも強くなることです。福岡ソフトバンクホークスは強くないといけないし、毎年優勝しなければならない。強くなれば、地域にも優しくなれます。そして、そのための努力により、ブランドも、そこから派生するビジネスも、日本や世界において成長し、期待されるようになるのです。福岡ソフトバンクホークスの社長に就任するとき、「福岡発で世界一の会社にしたい」と話しましたが、福岡ソフトバンクホークスも世界一になれれば、結果的には地域貢献にもなるのではないかと考えています。

ただ、とても残念なことに、九州は度重なる自然災害に悩まされています。次の「サステナビリティ経営」の質問でもお答えしますが、長い歴史の中で幾度も氾濫の被害に遭うこの地域に、それでも住み続ける人たちの気持ち、業、宿命論を深く理解しないと、本当の意味での支援や地域貢献は難しいのではないかとも考えています。

後藤 芳光 氏

- 近年、サステナビリティ経営が注目されていますが、それについてどのようにお考えでしょうか。

後藤 安定的な運用を目指す投資家にとって、数多くの投資対象の中からより安定的な投資先を選ぶために、いくつかの視点を持つのはごく当たり前のことです。そういう視点の1つとして、企業のサステナビリティやESGに対する対応を見ることは重要だと思います。

こうした投資家の観点からみると、SBGはより説明を強化していく必要があると認識しています。

また、ステークホルダーが求める情報を提供するためには、できるだけ世界の共通の枠組みを踏まえながら努力をしていく必要があると考えています。

世界が持続可能な社会の実現に向かう中、サステナビリティやESGについて考えていない企業はないでしょう。しかし、ESGの本質に対する理解がなければ、格付を上げるための小手先の対応に終始してしまい、実質的な対応が行われない恐れがあります。また、昨今では石炭火力産業について持続可能ではないといわれていますが、もしかすると将来的には情報産業も、人権侵害など人々の脅威となって持続可能でないとされることだってあり得るわけです。

何が言いたいのかというと、ESG格付のような欧米主導で定義されているサステナビリティ・スタンダードというものは、時代の流れによって常に変わるということです。

  • 常に大局的な見地から、企業として世の中のために何ができるかを必死に考えて、そのために経営を行うこと
ですから、そうしたスタンダードに振り回されるのではなく、常に大局的な見地から、企業として世の中のために何ができるかを必死に考えて、そのために経営を行うことが、サステナビリティ経営において本質的に求められているのではないでしょうか。

SBGはESGという枠にとらわれず、より幅広い視点から人々を幸せにするために必要なことを誰よりも考えて経営を行っていると自負しています。また、持続可能性というのは、究極的にはビジネスが人々の役に立っているかということだと思いますが、すべての領域で人々の役に立つようになることはできません。ですから、SBGは「情報」に絞り込んで、経営を行っています。

- 最後に、Withコロナの世界で実現したいことを教えてください。

後藤 コロナ禍で、これまでのように飛行機に乗って世界中を飛び回って同じ価値観を共有できる同志に会うことは難しくなりましたが、一方でより高い視点から、より広い視野で、戦略的な思考をする時間が多く取れるようになりました。逆説的ではありますが、これは非常によかったと思っています。そして、この期間に改めて思ったことは、我々は「情報革命」における革命家であり、冒険家だということです。革命家である孫さんを支え、「険しさ」をあえて「冒す」人として、世の中のトレンドや潮流に流されることなく、本当に人々が幸せになるために必要なことを考え、これからも誰かが作った枠にはまって守りに入ることのないように、その実現に向けた挑戦を続けていきます。

- ありがとうございました。

集合写真

新連載「After/Withコロナ時代の企業経営」について

COVID-19を契機に世界中で人々の生活スタイルや活動の基本設計が変化したことで、地政学の観点も踏まえたグローバルオペレーション、グローバルマネジメントの早急な変革など、多くの企業が事業戦略の抜本的な見直しに直面しています。そこで、本誌では直面する変化への対応について、日本を代表する企業のCXOにお伺いする新連載「After/Withコロナ時代の企業経営」を展開していきます。

KPMGジャパン ソフトバンクグループ担当パートナー:岡田 光(写真中央)/ロケット 和佳子(写真右)

インタビュアー

国内外のM&A案件におけるフィナンシャル・アドバイザーとして、助言、事業価値評価、ストラクチャリング等の業務において数多くの実績を有し、電機、商社、小売、製薬、IT 関連セクター等において豊富な案件経験を有する。1991年以降KPMGニューヨーク事務所にて会計監査、財務アドバイザリー等の業務に従事した後、95年よりKPMGコーポレ-トファイナンスにおいてM&A案件のフィナンシャル・アドバイザー業務に従事。経済誌等への寄稿多数。中央大学ビジネススクール(大学院戦略経済研究科)客員教授。慶應義塾大学大学院 特別招聘准教授。 米国公認会計士。