変革を続け、人と事業を育てる ―三井物産のサステナビリティ経営

「After/Withコロナ時代の企業経営」シリーズ第4回は、三井物産株式会社が考えるサステナビリティ経営について、大間知慎一郎氏(現在は代表取締役副社長執行役員)にお話をお伺いしました。

 「After/Withコロナ時代の企業経営」シリーズ第4回です。

2020年 5月、新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」)が 企業 経営に 与える影響が見通せない中、三井物産株式会社は「中期経営計画2023」を発表しました。「Transform & Grow(変革と成長)」をスローガンとして、事業基盤の拡大、新事業への挑戦、DXへの取組み強化、人材育成戦略など、コロナ禍を乗り越え、さらにバリューアップしていくための多角的な施策を打ち出しています。

「After/ Withコロナ時代の企業経営」シリーズ第 4回は、三井物産株式会社が 考えるサステナビリティ経営について、企業としての真の社会貢献を目指す三井物産株式会社代表取締役専務執行役員CSO(Chief Strategy Officer)の大間知慎一郎氏(現在は代表取締役副社長執行役員※)にお話を伺いました。

※大間知様の肩書は、インタビュー実施当時(2021年2月)の代表取締役専務執行役員CSOと記載しております。現在は代表取締役副社長執行役員CSOとなっています。

インタビュアー=松下 修
KPMG FAS代表取締役パートナー 

COVID-19を受けた中期経営計画とアクションプランの見直し

-COVID-19の世界的流行は、世界中の企業に大きく影響を与えています。まず、COVID-19が御社の経営にどのような変化をもたらしたか、お話いただけますでしょうか。

対談

代表取締役専務執行役員 CSO
大間知 慎一郎氏

1984年慶應義塾大学卒業後、三井物産株式会社に入社。鉄鉱石部に所属し、米国三井物産および欧州三井物産での勤務も経て、2011年に鉄鉱石部長就任。以降、金属資源副本部長、事業統括部長、金属資源本部長、インド総代表を歴任し、2020年4月に専務執行役員 CSO就任。同年 6月には代表取締役専務執行役員 CSO就任。本年4月1日より代表取締役副社長 CSO就任。

大間知 昨年2月、3月頃は、先がどうなるのかがまったく見えませんでした。5月に発表を予定していた中期経営計画を本当に出せるのか、というところから議論が始まりました。計画は既にある程度形にはなっていましたが、COVID-19の影響、特に定量面の影響を見通すことが困難で、そのままで出せる状態にはなくなりました。各事業本部との話し合いも通じて、かなりの影響が出ることが分かり、その結果、主に2021年 3月期の事業計画にCOVID-19の定量影響を織り込んだ上で中期経営計画を公表しました。

第二四半期が終わった秋に再度状況を確認したところ、影響がかなり明確に見えてくるようになりました。たとえば自動車関連では小売りや販売金融、更には関連素材で需要が大きく減退していました。原油価格も一時期かなり下落していましたので、それに伴い、エネルギーも厳しい状況に陥りました。最も影響を受けたのは、旅客輸送関連です。我々は海外で複数の旅客鉄道を手掛けていますが、ここが大きな打撃を受けており、今はどうやって回復させるかのダメージコントロールに取り組んでいます。

尚、新中期経営計画と合わせて、新しいMission、Vision、Values(MVV)を発表しました。新しいMVVにある4つのValuesは当社のDNAとも云える「挑戦と創造」を支えるもので、「変革を行動で」、「多様性を力に」、「個から成長を」、「真摯に誠実に」です。いずれも非常に平易で、判り易く掲げやすいものとなっています。しかし、これを実践するのは簡単なことではなく、全社員が相当の覚悟を決めて実践していく必要があります。人の生き様、そして言動や立ち振る舞いといったものは、強い思いと覚悟なしに変えられるものではありません。この意識を社員全員と共有できればと思っています。

-企業によっては、かえって業績が上がっているところもありますが、御社はいかがでしょうか。

大間知 産業ごとに影響が異なっており、そういった事業もあります。各国に先駆けて中国の景気回復が早く、中国向けの鉄鋼製品や化学品などの素材が流れるようになったことから、物流を含めて、こうした事業は活動停滞の最悪期を脱し、持ち直しの動きを見ることができました。

ファッション関連はかなりの打撃を受け、リアルでの店舗販売は厳しい状況が続いていますが、その代わりにECが伸びました。また、巣籠り需要を着実に取り込んだ日本やインドでのテレビショッピング関連事業など、強い部分も出てきています。

昨年末以降の感染再拡大で景気回復のモメンタムは再び弱まっていますが、引き続き、アジアでの消費者ビジネスにも力を入れていきます。また、ロジスティクスも含めてラストワンマイルの需要が増えていますので、そこにもしっかり手を打たなければならないと思っています。

以上がCOVID-19のおおまかな影響です。率直なところ、どれがCOVID-19の影響で、どれが通常なのか、非常に分かり難くなっています。今や、COVID-19がある中で仕事をしていくというのが、ある意味で通常な姿となってきています。

-COVID-19の渦中という厳しい経営環境の中で、経営課題や戦略などはどのように対応されたのでしょうか。

大間知 昨年 5月に新中期経営計画を発表する際に、一年目のアクションプランを最初に考えていたものから変更しました。

対談

社員やステークホルダーの安全を確保しながら、顧客やパートナーとの信頼関係をどうやって築き、維持するのかといった点を加えたものです。

ただ、我々が 目指 すべき「Transform & Grow(変革と成長)」、この方針はまったく変えていません。むしろこの状況だからこそ、変革を加速することが求められています。 COVID-19による環境の変化をいち早く捉えて、ニーズに応えることで社会貢献と自分たちの成長を両立させていく必要性を改めて認識しました。

-数字以外に見直したのは、どのような部分でしょうか。

大間知 主に見直したのは、いわゆる中核事業です。COVID-19で不可逆的に環境が変わり、おそらく発生以前の状態には戻らないでしょう。そのため、機械・インフラ、金属資源などの事業領域で既存事業の再評価を集中的に実施して、その中で、撤退を決めた案件もありました。エネルギーはCOVID-19の環境変化に加え、脱炭素の流れへの対応もあり、一部事業領域の取組方針について見直しを行いました。

一方、Strategic Focusであるエネルギーソリューションやヘルスケア・ニュートリション、そしてマーケット・アジアと表現している消費者ビジネス、これらは着実にニーズが高まっており、引き続き、注力していきます。今まで、三井物産の柱は資源、エネルギー、インフラ、素材等で、その次に新しい領域がありましたが、今後はこれら新しい領域が収益の柱に育っていくと思っています。

現下の状況で、現在の中核事業が、いつまで中核であり続けられるのかが見え難くなってきており、早く新たな領域を中核に育てないといけない状況にあります。既存事業をプラットフォームとして複合的な価値を創造する、すなわち、当社の強みを活かせる事業領域をStrategic Focusとして掲げ、変革と成長を促進させます。

- ありがとうございます。「変革と成長」という考え方の基本に関してはまったく揺るぎなく継続する一方で、経営環境の変化に応じてアセットを入れ替える。それを早く行う必要があるということですね。

攻めと守り一体でDXを強化するために、人材育成に取り組む

-COVID-19の影響とは別の軸として、これからの企業経営にはDX(=デジタルトランスフォーメーション)が必須になると思います。御社のDXの取組みを教えてください。

大間知 DXについては我々も日々勉強しながら、各現場でリアルのビジネス知見とデジタル技術を掛け合わせて、様々なDXの取組みを進めています。

会社としての方針は、2つあります。1つは守りのDXと呼んでいる、データドリブンDX (DD)です。簡単に言えば、データを紐付けして意思決定に徹底活用する取組みで、デジタル 総合戦略部、各事業本部、フィナンシャルマネジメント部の三位一体で進めています。事業本部ごとのKPIを見える化したことで、経営判断を下しやすくなりましたし、業務効率が向上しました。たとえば、カーボンプライシング制度を導入したデータプラットフォームを構築しており、脱炭素の取組みに関する経営判断を下す上での‘’守りのDX‘’として活用しています。

もう1つは、攻めのDXです。これは、DXにより事業価値を高めることが目的で、事業本部を中心に取り組んでいます。たとえば、三井海洋開発(MODEC)と取り組むFPSO事業では操業停止時間 (ダウンタイム)を65%減らすことができました。海底にある原油や天然ガスを生産・積出する浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備 FPSO(Floating Production, Storage & Offloading System)から2年間のデータを収集・分析して、予知保全に関するモデルを組み立てたDXプロジェクトの成果です。

FPSOは船であると同時に巨大なプラントですから、トラブルなどによるダウンタイムをいかに短くできるかは事業における重要なポイントとなります。

現在は、予知保全を通じた当社取組事業の操業効率化・良質化に加え、他社へのサービス展開による新規事業創出にも取り組んでおり、2020年1月には世界経済フォーラム(WEF)より「第 4次産業革命をリードする世界で最も先進的な18の工場」の1つに認定されました。

-DDにおけるデータの紐付けとは、データをリアルに収集し、そのデータを分析し、その分析したデータを使う側にとっての価値になる形で戻すということだと思います。これをどれくらいの範囲で実行するかが重要となってきますが、御社は連結決算対象だけでも500社以上あります。 DDをどの程度の規模で広げているのでしょうか。

大間知 従来のレポートラインは、関係会社からの報告を本社の営業担当者が受け取り、その上司、財経部門、コーポレート、最終的に役員というようにバケツリレー的に報告をするプロセスでした。今は関係会社から月次報告を受けた時点で、営業担当者も役員も同時にその報告を見ることができるようにする取組みを各現場で進めています。

関係会社からの月報は、会社ごとに、カバーされる内容も、フォーマットも微妙に異なっていました。まず、見たい情報・見て判断をするのに必要十分な情報は何かを考え、そして、計画対比の進捗状況等について、統一的な評価ができるようにフォーマットを合わせることも大切です。この活動には満点も終わりもなく、各現場での創意工夫が進んでいます。

ご質問のデータの収集範囲をどこまでとするかについては、連結子会社のみならず持分法適用会社についてもどうするかを考える必要があります。ただ、これは、結局のところ、どこまで当社が関係会社に貢献できるかに関わってきます。貢献の仕方にはいろいろとありますが、まず何よりも、当社のネットワークでバリューチェーンをつなぐことで、その会社の価値向上、またはビジネスの拡大に貢献していくということが必須です。

また、当社が関係会社の経営改善に寄与していることが大事です。このためには、関係会社にしっかりとした人材を出向者として送り、その人材が関係会社の経営に貢献することが必要です。出向者はあくまでも関係会社の社員として経営に貢献するのが役割であり、当社との連携を担当することはあるとしても、当社の意向を受けて動くのではなく、For The 関係会社で仕事をして貰います。

一方で、関係会社の経営改善には、当社が株主として、そしてパートナーとしてしっかりと寄り添う必要があります。たとえて言えば、必死になって火を消している消防士に「何時になったら火を消せそうか」とか「被害の状況は」などと聞いたり、「何とかして火を消せ」とか言ったりしているだけでは、相手にもして貰えません。「足りないものがあれば、直ぐに手配をする」、「周りに延焼しそうだが、これは我々が対応する」と言った形で、寄り添って一緒に闘うことが必要です。そうすれば経営を見るために必要となる情報も共有して貰えるし、それに対するアドバイスも聞いて貰えるようになります。具体的には関係会社の経営幹部や他株主との日頃の対話、そして取締役会等でのしっかりとした対応が重要で、それに向けていかにしっかりとした準備をして、いかに意義のある発言をするかが大事になります。このように、関係会社が当社の存在を必要とする関係を築くことが前提となります。

相手に「この人の言うことなら聞こう」と思って貰えない限り、関係会社の経営改善に関与することは出来ません。取締役会等で、質問ばかりしているようでは相手にして貰えないということで、ここは全人格での勝負となります。

DDをどこまで広げていくのか、いけるのか、そして、それによって関係会社の価値向上を成し遂げていくためには、このような関係会社との信頼関係が不可欠となります。

-信頼関係の上にデジタルの力を借りて会社をさらにバリューアップさせるということですね。それを推進するDX人材は、どう獲得されているのでしょうか。

大間知 DX人材をどうやって確保するかは課題です。デジタルのトップエキスパートと呼ばれるDX人材については、当社内での取組みに加えて、IT戦略子会社の三井情報株式会社(MKI)や三井物産セキュアディレクション株式会社も通じて連結グループでの内製化を図っています。しかし、トップエキスパートさえいればDXが進むかというとそうではありません。その中で、当社にはエキスパートとビジネスをしている事業本部の社員をつなぐ人材が不足しているという課題があります。

そこで、全社員が一定のレベルでデジタル武装をできるように、2022年3月期よりDXやITに関する研修を開始します。デジタルスキルの標準装備を目的とした全役職員を対象とする基礎編から、業務ニーズにあわせた専門性の獲得や高度DX人材養成のための応用編まであります。DXを進めるためには、エキスパートとビジネス人材の知見をつなげることが不可欠ですが、 DXが分かりビジネスも分かっている「つなぐことが出来る人材」、すなわちDXビジネス人材の育成が、今一番大事なことだと考えており、3年間で100名をDXビジネス人材として内製化していきます。

-社員全員がデジタルリテラシーを得ないといけないというのは、非常に重要なコメントです。大間知さんもおっしゃったように、DX人材は本当に不足しており、 DX人材の獲得は、今や企業の重要な経営課題にもなっています。

大間知 そのとおりです。当社もDX人材を獲得するために、3月にDXに特化したDXインターンを実施します。当社の重要な事業パートナーであり、深層学習技術をはじめとする人工知能技術を開発・提供する株式会社Preferred Networksとの共同企画で、優秀な学生に採用試験の一部を免除することも考えています。

オンラインだからこそ可能になったコミュニケーションで、結び付きを強める

-今は、人と人が直接会って話をすることが難しい環境です。その中で、御社が重視してきた「人と人のネットワーク」をさらに進化させていくためには、どのようなことが大事だとお考えでしょうか。

大間知 当社のお客様やパートナーとのネットワークと信頼関係は当社がビジネスを創る上での土台であり、それは揺るぎない事実です。それなくして、今の事業はできていませんし、これからの新しい事業もできないでしょう。

今の制約がある環境下でも、既存のお客様やパートナーのように、すでに信頼関係が築けている相手であれば、またはそういう方が1人でも相手側にいれば、オンラインでもほぼ問題はありません。むしろオンラインの方が、都合が良い面もあります。コロナ禍の影響でお互いに移動が無くなり、アポイントが取りやすくなっているからです。

以前、ブラジルの事業を担当していたことがあるのですが、当時は20時間以上かけてブラジルに行き、数時間だけ会って帰国するということもありました。しかし、今の担当はそれをテレビ会議でできますし、しかも前日に「明日どう?」と連絡すれば、世界各地で働いている関係者がみんな出席できます。よく知っていて、これまでの信頼関係があれば、オンラインであってもすぐに話ができると思います。

一方で、本当に厳しいぎりぎりの交渉をしなければいけないときや新規のお客様やパートナーとの面談は、オンラインだけでは難しいところがあります。ここはもう少し突っ込めるとか、ここは別の引き出しから話を切り出さないといけないといったことは、話をしている時の感覚で掴むものなので、相手の顔や表情を見ながらでないと厳しいと思います。そういう場合には、制約はあっても行かないといけないときがあります。

尚、人と人との信頼関係を築こうという時、オンラインでもリアルでも共通だと思っていることがあります。それは、最初の一歩、第一印象の大切さです。最初に会ったときにどういう話をして、どういう印象を相手に持ってもらうか。そこで入り口を間違えると、取り戻すのはなかなか難しいのではないでしょうか。こういうことは、手段や環境以前の問題であり、それに向けた準備も大事だと思います。

-信頼関係が強さの源泉になっているということですね。同じ会社内でもテレワークが普及し、直接顔を合わせて話し合う機会が減っていますが、御社ではいかがでしょうか。

大間知 社内でもリアルで会う機会は減っているので、特に新人の教育など、課題と認識している部分もあり、現場にはできる限りのフォローをお願いしています。

一方、経営幹部のメッセージの発信や、組織や国境を超えたディスカッション、国内ビジネス強化に関する支社との打ち合わせなどは、物理的な移動がなくなったことで、かえって機会が増えていると思います。COVID-19の感染拡大前だったらできなかったようなことが、ずいぶんできるようになりました。

たとえば、サステナビリティや人権、ダイバーシティ&インクルージョンについて、幹部へのインタビュー形式で行うライブイベントを実施していますが、そのライブイベントには何百人もの社員が視聴者としてリアルタイムで参加しています。これはリアルではなかなかできなかったことです。そういう意味では、社員にとって経営幹部のメッセージを直接聞ける機会が増えているのではないかと思います。

オンライン会議やテレワークの場合、移動の時間がありませんから、その分社員がイントラネットなどを見る時間や、意見交換をする機会も増えています。私も、そういったものにメッセージを投稿するようにしています。

現在、めまぐるしく変化する事業環境や価値観の変化に対応すべく、イントラネットを刷新するプロジェクトも進行しています。また、4月からは社内誌もリニューアルをする予定です。社員が社内誌を当社ネットワーク内限定公開のサイトでタイムリーに閲覧できるようにしていきます。一方で、社員の御家族やOB/OGの皆様には、引き続き紙冊子を季刊発行するスタイルとしています。社員が物理的に離れた場所にいる状況にあっても、一体感を醸成し、エンゲージメントを高めていくことは重要だと思っています。

-最初におっしゃられたように、やるべきことは変わらないということですね。その軸をしっかりブレさせない中で、今度はいかに変化に柔軟に、力強く対応していくかが大事だと思います。

会社として長い時間軸で社会に貢献し続けていくために、サステナビリティを考える

-大間知さんは、サステナビリティ経営推進部も担当され、サステナビリティ委員会の委員長もなさっています。会社としてもサステナビリティ経営は意識されているかと思いますが、最後に、サステナビリティに関する考え方、取り組みについてご紹介いただけますでしょうか。

インタビュアー=松下 修

対談

大間知 従来は、企業による社会貢献といえば、CSR活動ということで、ボランティアや寄付、基金などが中心でした。しかし今では、SDGsそしてESGということで、事業を通じて社会課題を解決していくというのが当たり前のように求められています。当社も「気候変動」「ビジネスと人権」「サーキュラーエコノミー」を中期経営計画におけるサステナビリティ経営上の重要課題として取組みを進めています。先ほど、エネルギーや資源などがいつまで中核事業であり続けられるか分からないと申し上げましたが、そういう意味では、社会のサステナビリティに貢献する事業が当社にとってサステナブルな事業になる。

逆に、社会のサステナビリティに貢献していない事業はサステナブルではなくなる、ということではないかと思っています。ただし、この転換は、容易なことではないと考えています。

-会社として社会にどう貢献していくかというのは、長い時間軸で考える必要があるかと思います。その部分はいかがでしょうか。

大間知 大きく目指しているものとして、当社は2050年の「あり姿」としてNet-zero emissionsを、その道筋として2030年は2020年比でGHGインパクトの半減を打ち出しています。ですが、目標は分かっていても、そこに一気には行けません。目標に向けて、現実解を考えていかなければいけないのだと思っています。

今ではあまり言わないようになったかと思いますが、20年ほど前はEconomy、 Environment、それからEnergy、この「3つのEのトリレンマ」をどうやって克服するかというのが、人類にとっての大きな課題だと言われていました。ただ、その頃から言われていたのが、経済の発展度合い、地理的な条件、人口分布、そういうものによってEconomyに力を入れる国・地域もあるし、Environmentが一番大事という国・地域もあるということでした。つまり、3つの課題の中でどこにウェイトがあるのかというのは、必ずしも全世界で一緒ではないと思っています。

当社のマテリアリティの一つに「環境と調和する社会をつくる」がありますが、「安定供給の基盤をつくる」や「豊かな暮らしをつくる」も同じく当社のマテリアリティとして重要な課題です。したがって、「LNGも化石燃料でCO2を出すから一切供給を止めよう」ということにはなりません。Net-zero emissionsに近づけるためには、トランジションとして石炭よりも少しでも環境負荷が低い燃料を使うことが求められ、また、人々が生きていく中でLNGは必要であり、これも目標実現に向けた現実解の一つなのだと思っています。ただ、いずれにしても100年後には化石燃料自体がなくなるわけですから、人類は再生可能なエネルギーで生きていくことになるのでしょう。

当社が取り組む石炭火力発電事業もすぐに止めるべきかというと、地域の人々の生活にとっては欠かすことのできない基幹電源になっているという、地域の社会的ニーズも考えなければなりません。また、考えるべきは社会やコミュニティだけではなく、株主の皆さんもいます。石炭火力発電事業のいくつかはPPA(Power Purchase Agreement;電力販売契約)に基づいて運営されており、案件組成・建設・操業を通じて当社にとって重要な収益源となっていることも事実です。そういったバランスも考えながらやっていかないといけないという難しさが、サステナビリティ経営にはあります。一番大事なのは、常に誠実に、そして真面目に真摯に考え抜く、考え続けるということだと思っています。

-会社として社会にどう貢献していくかということで、いろいろな活動をされていらっしゃいます。その中で、会社が向いている方向と社員一人ひとりの意識、個人的な価値観が違う方向を向いていたら、目標を達成するのが難しいような気がしますが、いかがでしょうか。

大間知 それぞれの人にそれぞれの考えが あるように、私には、私の考え、思い、そして 守りたいことがあります。社員の皆さんにはいろいろな機会を捉えて、働くことの意味や自分が大切にしていることについて、話をしていますし、海外の社員の皆さんにもわかるように、それを英語にしたものを作り、伝えるようにしています。そのような話をしながら、若い方が働くということの中で、社会貢献というものへの意義を強く感じているように思っています。

-むしろ若い人のほうが積極的ですよね。

大間知 私は、若い方々には「サステナビリティ経営はCSR活動ではない」と言っています。サステナビリティ経営とは、すべてのステークホルダーの役に立ち、貢献していることだと思っています。

たとえば、再生可能エネルギーにしても、今はレッドオーシャン化をしているので、簡単な取組みではありません。そういう中で、当社としては強みを活かせるものを選ばなければなりません。このように、我々は事業を通じて社会に貢献する一方で、ヒトとカネを投資した事業としてのリターンも返さないといけません。これは当たり前のことではありますが。三井物産という会社が、まず世の中に貢献しなければなりません。ここで言う世の中とは、顧客や投資家、そしてコミュニティも含めたすべてのステークホルダーとなります。社員には、すべての活動を通じて世の中に貢献する会社が三井物産であり、その三井物産の中で全人格をかけて汗を掻いて働くことで世の中に貢献し、それにより、三井物産で働いている時間を含めて、充実した人生としてほしいと思っています。

-本日はありがとうございました。

対談写真

新連載「After/Withコロナ時代の企業経営」について

COVID-19を契機に世界中で人々の生活スタイルや活動の基本設計が変化したことで、地政学の観点も踏まえたグローバルオペレーション、グローバルマネジメントの早急な変革など、多くの企業が事業戦略の抜本的な見直しに直面しています。そこで、本誌では直面する変化への対応について、日本を代表する企業のCXOにお伺いする新連載「After/Withコロナ時代の企業経営」を展開していきます。

KPMGジャパン 三井物産担当パートナー:松下 修(写真右)

インタビュアー

1986年、英和監査法人(アーサーアンダーセン監査部門、現 あずさ 監 査 法人)に入所。アーサーアンダーセン・シドニー事務所勤務を経て東京に帰任、監査業務に従事。その後、95年よりM&A取引におけるアドバイザリー業務に特化。以来 25年超にわたり、商社、製造業、小売、流通、 情報産業を中心に幅広い分野で、事業会社の国内および クロスボーダーM&A案件に多数携わる。また、90年代 後半以 降 の日本 におけるプライベート・エクイティ( PE) 台頭期から国内外PEファンドへのアドバイスに多数関与。公認会計士。