会計・監査ダイジェスト 会計及び監査を巡る動向 2020年8月号

会計・監査ダイジェストは、日本基準、国際基準、修正国際基準及び米国基準の会計及び監査の主な動向についての概要を記載したものです。

会計・監査ダイジェストは、日本基準、国際基準、修正国際基準及び米国基準の会計及び監査の主な動向についての概要を記載したものです。

ハイライト

今月は、主に以下のような留意すべき情報が公表されています。

1. 日本基準

法令等の改正

【最終基準】
法務省、「会社計算規則の一部を改正する省令」を公布

法務省は2020年8月12日、「会社計算規則の一部を改正する省令」(以下、「本省令」)を公布した。

本省令は、企業会計基準委員会(ASBJ)による2020年3月31日付けの「収益認識に関する会計基準(改正企業会計基準第29号)」等の改正及び「会計上の見積りの開示に関する会計基準(企業会計基準第31号)」等の公表を受けて、会社計算規則の改正を行ったものである。

なお、会社計算規則第115条の2第1項第1号(いわゆる収益の分解情報)及び第3号(当事業年度及び翌事業年度以降の収益の金額を理解するための情報)の注記については、本省令案に関する意見募集を通じて作成負担が過大となることへの懸念が寄せられたこと等を踏まえ、省令案での扱いを見直し、有価証券報告書を提出する大会社(会社法第444条第3項に規定する株式会社)以外の株式会社にあっては上記の注記を省略することができることとしている。

また、上記に限らず、いずれの注記も各株式会社の実情を踏まえ、計算書類においては当該事項の注記を要しないと合理的に判断される場合には、当該事項について注記しないことも許容されるとの考え方が示されている。

公布の日(2020年8月12日)から施行されるが、適用時期については会計基準等と整合するように経過措置が設けられている。

あずさ監査法人の関連資料:ポイント解説速報(2020年8月25日発行)

日本基準についての詳細な情報、過去情報はあずさ監査法人のウェブサイト(日本基準)

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2. 国際基準

会計基準等の公表(国際会計基準審議会(IASB)、IFRS解釈指針委員会)

【最終基準】
IASB、最終基準「金利指標改革 - フェーズ2(IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の改訂)」を公表

IASBは2020年8月27日、最終基準「金利指標改革 - フェーズ2(IFRS第9号「金融商品」、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」、IFRS第7号「金融商品:開示」、IFRS第4号「保険契約」及びIFRS第16号「リース」の改訂)」(以下、「本改訂」)を公表した。

IASBは、金利指標改革に伴う財務報告上の問題について、金利指標の置換え前の期間に生じる影響と金利指標の置換え時に生じる影響の2つのフェーズに分けて取り組んできた。本改訂は後者に対処するものであり、前者については2019年9月公表の「金利指標改革(IFRS第9号、IAS第39号及びIFRS第7号の改訂)」で対処している。

本改訂の主な内容は、以下の通りである。

  • 償却原価が算定される金融商品について参照する金利指標が変更されたとしても、このような契約上のキャッシュ・フローの算定の基礎が金利指標改革の直接の結果として必然的に変化し、かつ、新しい契約上のキャッシュ・フローの算定の基礎が変化が生じる前の基礎と経済的に同等である場合には、実務上の便法として、金融商品の帳簿価額の修正は行わず、変動金利の金利リセット時に準じて会計処理を行うこととする。
  • ヘッジ会計については、以下の手当てを行う。
    • 金利指標改革から生じる不確実性がもはや存在しなくなった時点で新たなヘッジ関係を反映するようにヘッジ文書の変更を要求する。ここで、上記の金融商品の条件変更の実務上の便法が適用される場合と同じ2要件を満たす場合には、当該ヘッジ文書の変更をもってヘッジ会計が中止させられることはないこととする。
    • 項目グループのヘッジについては、従来の金利指標を参照するサブ・グループと新たな金利指標を参照するサブ・グループにヘッジ対象を分割し、項目グループのヘッジ対象に関する適格性要件の規定をサブ・グループ毎に別々に適用する。
    • 代替的な指標金利が契約上明示されていないリスク要素に指定される場合、指定時において独立して識別可能でなくても、指定した日から24か月以内に独立して識別可能になると企業が合理的に予想している場合には、これをリスク要素としてヘッジ対象指定できるものとする。この24か月の起算は、ヘッジ関係ごとではなく金利指標ごとに設定する。
    • IAS第39号のヘッジ会計を適用している場合に要求される「ヘッジの有効性に関する遡及的な評価」を累積ベースで行っている場合については、ヘッジ対象とヘッジ手段の公正価値変動の累積額を不確実性が解消した時点でゼロリセットするオプションを設ける。
  • 金利指標改革から生じるリスクにどの程度晒されているか、代替的な指標金利への移行をどのように管理しているのか及び移行の完了度合い等に関する開示を行う。

本改訂は、2021年1月1日以降開始する事業年度から遡及的に適用し、かつ、早期適用が認められている。そのため、本改訂が適用されていれば継続していたはずのヘッジ関係であって、既にヘッジ会計の適用が中止されているものの、当該ヘッジ関係が本改訂適用開始日にヘッジ会計の要件を満たす場合には、あたかもそのヘッジ関係が中止されていなかったかのような処理をしなければならない。比較情報の修正再表示は要求されず、その場合、本改訂の適用による影響は、適用初年度の期首剰余金を調整する。

あずさ監査法人の関連資料:ポイント解説速報(2020年9月4日発行)

IFRSについての詳細な情報、過去情報はあずさ監査法人のウェブサイト(IFRS)

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3. 修正国際基準

新たな基準・公開草案等の公表として、今月、特にお知らせする事項はありません。

修正国際基準についての詳細な情報、過去情報は
あずさ監査法人のウェブサイト(修正国際基準)

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4. 米国基準

会計基準等の公表(米国財務会計基準審議会(FASB))

【最終基準(会計基準更新書(Accounting Standards Update; ASU))】
ASU第2020-06号「負債 - 転換権その他のオプション付き負債(サブトピック470-20)並びにデリバティブ及びヘッジ会計 - 自己の株式に係る契約(サブトピック815-40) - 転換可能金融商品及び自己の株式に関する契約の会計処理」の公表(2020年8月5日 FASB)

発行者による転換可能金融商品の会計処理、及び自己の株式に関する契約がデリバティブの範囲の徐外に該当するか、については、現行の会計処理が複雑であり、また実態よりも形式に基づき会計処理が行われているという批判がなされていた。本ASUは、資本と負債の両方の性質を持つ転換可能金融商品及び自己の株式に関する契約に関する複雑な会計処理を簡素化する改訂を行うとともに、開示情報の拡充を図っている。主な改訂は以下の通りである。

 

転換可能金融商品

  • 現行の会計基準では、転換可能な負債性金融商品(例えば、転換社債)は5つの会計処理モデルに基づき会計処理が行われている。全体を1つの負債性金融商品として認識する最も単純なモデルを除き、残りの4つのモデルはいずれも転換可能な負債性金融商品を負債部分と資本部分又はデリバティブ部分の各要素に分けてそれぞれ会計処理を行う(分離の方法についてもそれぞれのモデルで異なっている)。転換可能な優先株式についても、類似のモデルが存在している。
  • 本ASUは、現行の転換可能金融商品に適用される上記5つの会計処理モデルのうちの2つのモデル(beneficial conversion feature modelとcash conversion model)を削除することで簡素化を図っている。この簡素化により、より多くの転換可能な金融商品が全体を1つの金融商品として会計処理されることとなり、組込まれた転換特性を分離して認識するケースが少なくなる。
  • 情報の透明性や財務諸表利用者の意思決定の有用性を向上させるため、転換可能金融商品の契約条件等に関する開示の拡充も図られている。

 

自己の株式に係る契約

  • 自己の株式に係る契約(自己の株式により決済される可能性がある契約を指し、新株予約権のように単独で存在している金融商品や転換権のように他のホスト契約に組み込まれている金融商品の両者のケースがある)がデリバティブの範囲の徐外に該当するか否かの判定は、契約が「自己の株式に連動しているか」及び「資本に分類されるか」という2つの要件に基づき行われる。いずれか一方でも満たさない場合には、契約は資産又は負債として(場合によってはデリバティブとして)会計処理される。
  • 現行の会計基準では、契約が「資本に分類されるか」の判定にあたり、契約の決済が自己の株式ではなく現金で行われる可能性がある場合には当該契約は資本には分類されないとする考え方のもと、その評価に7つの条件が存在している。より実態に合致した検討を可能とするため、本ASUは、7つの条件のうちの3つ(Settlement in unregistered shares、Collateral、Shareholder rights)を削除した。改訂後は、より多くの自己の株式に係る契約がデリバティブの範囲の徐外に該当し、独立したデリバティブの場合には資本として会計処理され、組込特性の場合にはもはや分離して会計処理されないこととなる。

 

1株当たり利益

  • 転換可能金融商品の希薄化後1株当たり利益計算は、転換されたと仮定して算定する方法に統一する。
  • 転換可能金融商品及び自己の株式に係る契約について、現金決済か株式決済かの選択が含まれる場合、希薄化後1株当たり利益計算は株式決済を前提とする。

適用事業年度と移行措置
本ASUの適用を開始する事業年度は以下のとおりである。

 

公開の営利企業かつSEC登録企業

(小規模登録企業を除く)

それ以外の企業
適用開始事業年度

2021年12月15日より後に開始する事業年度

(期中期間は年度と同じ)

2023年12月15日より後に開始する事業年度

(期中期間は年度と同じ)


2020年12月15日より後に開始する事業年度より早期適用は可能であり、その場合、事業年度の期首から適用する必要がある。ダウンラウンド条項を有する転換可能金融商品については、早期適用に特別の規定が設けられている。

移行措置として、修正遡及による移行と完全遡及による移行の選択適用が認められている。また、すべての企業は、本ASU適用時点において、転換可能な負債性金融商品について取消不可の公正価値オプションを適用することが認められている。

KPMGの関連資料:Defining issues(英語)

 

【公開草案(会計基準更新書(Accounting Standards Update; ASU)案)】
ASU案「報酬 - 株式報酬(トピック718):資本に分類される株式オプション報奨に係る基礎となる株式の現在価値の決定」の公表(2020年8月17日 FASB)

企業が株式オプション報奨を発行する場合、トピック718は株式オプション報奨の評価のため、オプション価格モデル(例えば、ブラック・ショールズ・モデル等)を使用することを要求している。この点、非公開企業が株式オプション報奨を発行する場合、当該企業の株式には通常活発な取引市場がないため、オプション価格モデルに必要なインプットのうち、特に自社株式の現在の市場価格の算定にあたり実務的な負担が生じているとのフィードバックが利害関係者からFASBの諮問機関である非公開企業評議会(PCC)に寄せられ、PCCが必要な会計基準上の手当てを検討していた。

本ASU案は、資本に分類される株式オプション報奨を発行している非公開企業が当該株式オプション報奨に係る公正価値を算定するにあたり、トピック718の要求事項に対する実務的な便法として、オプション価格モデルに代えて、内国歳入庁(IRS)のIRCセクション409Aで認められているPresumption of reasonableness (合理性の仮定)の要求事項を満たす評価技法を用いて、株式の現在価格を算定することを認めることを提案している。当該実務上の便法は、株式オプション報奨ごとに採用できることを提案している。

当該実務上の便法は、本ASU案の適用日以降開始する事業年度、及び翌事業年度に含まれる期中期間に付与されたか変更された適格な報奨に対し、将来に向けて適用されることが提案されている。本ASU案の適用日は、関係者から寄せられたフィードバックを踏まえて決定される。早期適用は認められることが提案されている。

コメントの締切りは2020年10月1日である。

KPMGの関連資料:Defining issues(英語)

米国基準についての詳細な情報、過去情報はあずさ監査法人のウェブサイト(米国基準)

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執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

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