地方版MaaSの実現にかける政策当局の狙い

地方版MaaSの実現にかける政策当局の狙い

【インタビュー】日本発の地方版MaaSが目指すものや、地域公共交通活性化法を制定した背景などについて、国土交通省 総合政策局 モビリティサービス推進課の課長 重田裕彦氏にお話を伺いました。

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国土交通省 モビリティサービス推進課 課長 重田 裕彦 氏

重田 裕彦 氏
国土交通省 総合政策局
モビリティサービス推進課 課長

既に欧米では多くの好事例が報告されているMaaS(Mobility as a Service)。最近では日本でもこのMaaSという言葉が浸透しつつあります。ただMaaSと言っても国によりその内容は異なります。日本では、特に地方における高齢化、急激な過疎化に伴う交通手段等の問題解決を目的に、日本発の地方版MaaSを普及させていくことが喫緊の課題です。
地方版MaaSの推進に向けて、昨年7月に国土交通省に新設されたモビリティサービス推進課の課長 重田裕彦氏に、日本発の地方版MaaSが目指すものや、地域公共交通活性化法を制定した背景などについてお話を伺いました。

2019年7月に新設されたモビリティサービス推進課が設立された背景

KPMG:モビリティサービス推進課は昨年7月に国土交通省に設置されたばかりの新しいセクションだと伺いましたが、どのような背景から新設されたのでしょうか。

重田:今まで国土交通省(以下、「国交省」という)の部門では、モードごとの事業規制が主でしたが、そこにパッケージとして1つのサービスを提供するMaaSのような考え方が現れてきて、またそれを可能にするようなIT技術の進歩があり、国交省として、この時代の変化にタイミングを逸することなく対応すべく、新しいセクションを作って集中的に取り組むべきということで新設されました。
モビリティサービス推進課のメンバーにはさまざまなバックグラウンドを持つ者を揃えました。これまではMaaSに関する問い合わせは省内の各局に分かれていましたが、今後は当課がワンストップの窓口となります。航空、自動車、バス、タクシー、鉄道、道路、インフラ、街づくりまでを含むあらゆるテーマを扱い、国交省のMaaS戦略のハブとなって取り組んでいくことを目指しています。また、これまでは国交省があまり付き合いのない業界、特にIT業界やコンテンツプロバイダー業界などとは今後は直接関わるようになります。
MaaSやモビリティサービスに関心がある企業の方には、所属している業界に関係なく、当課に相談していただきたいと思います。また、MaaS関係の活動を推進している“スマートモビリティチャレンジ推進協議会”は、経済産業省の自動車課と連携して、国交省では当課が事務局を務めています。

日本発のMaaSにとって欧米とは異なる背景や事情

KPMG:欧州では以前から、最近は米国でもMaaSという表現が使われるようになってきましたが、欧州と米国ではMaaSが異なる意味で使われているように感じます。例えばフィンランドやスウェーデンのMaaSは、MaaS事業者がモビリティサービスを自ら提供するのではなく、サービスを提供している事業者をパッケージ化するサービスのことを指しています。これに対し、米国では1つの企業がワンストップでモビリティサービスを提供するのがMaaSであると捉えられているイメージがあります。ちなみにITS世界会議ではMobility on Demand(MOD)という言い方がされていました。
日本でもMaaSという言葉は浸透してきましたが、日本の実態を考えていくうえで欧米とは異なる背景や事情があれば教えてください。

重田:世界における主要国の日本大使館に調べてもらったところ、MaaSという言葉で実際にサービス提供しているのは数ヵ国しかないということがわかりました。そのため、用語の使い方については、当課でしっかりと見極めてから国内に発信していく必要性を感じていますが、AIやIoTなどの新技術を活用し、利用者の利便性を高めるような移動サービスが広まりつつあるというのは世界共通だと認識しています。
日本の事情を考えるうえで重要なのは、公共交通の成り立ちが欧州と日本では大きく異なるということです。欧州では公共サービスとして公共交通が提供されていますが、日本では鉄道、バス、タクシーなど数多くの公共交通を提供しているのは民間事業者です。経済が右肩上がりの時は、都市開発を含め収益を得られたのですが、近年はそれが難しくなってきており、従来の公共交通サービスのビジネスモデルからの転換が必要になってきているという難しさがあります。
大手電鉄系のMaaSサービスを見ると、鉄道だけでなく主要駅にバスやタクシーを走らせる、観光事業を行うといったことに取り組んでいます。このような事例を見ると、そもそも交通事業者がMaaSを提供できる環境にあったということができます。交通事業では採算がとれなくても、観光、小売り、医療福祉といった幅広い周辺サービスとの連携を工夫することで公共交通+周辺サービスという形で提供するMaaSのモデルは欧州にはあまりなく、日本独自のものではないでしょうか。こういったところに日本でのMaaSに発展の可能性を感じています。

地域公共交通活性化法を制定した背景

KPMG:私鉄が交通サービスだけでなく、デベロッパー事業や小売事業などを行うというモデルは日本が誇れる先進事例として挙げられます。そういったプレーヤーはこれからも重要ですが、そこにIT業界や自動車業界などがMaaSを語るうえで切り離せない存在になりつつあると考えています。

重田:地方版MaaSは、特に、地域の移動手段の確保という課題に直面している自治体が主導し、そこにITを提供するサービス企業が協力し、実際の運行は地元の交通事業者が行うというモデルがよく見られます。ただし、その際に考えなくてはならないのが収益の面で、これは、新サービスにより収益を飛躍的に向上させるということは難しいというのが現実ではないかと思います。地域の移動手段を維持するために公共団体から提供される補助額の増加を抑え、また削減していくために、新しいサービスを提供していくということだと思います。このような背景を踏まえた新しい地方版MaaSのビジネスモデルを日本としては目指していきたいですね。

KPMG:自治体が主導し、民間のアイデアやノウハウを盛り込んでいくためには、第三セクターのような公民が一体となった組織のあり方についてもう一度検討する価値があるのではないかと思いますが、仕組みについてのお考えがあれば教えてください。

重田:「地域公共交通活性化法」という新しい法律は、“地域の移動手段を総動員する”ことを目指しています。路線バス、コミュニティバス、スクールバス、介護用バスなど、すべての交通サービスを活用し、更には安全性の確保を最優先とした上で地域のニーズに適切に対応できるような自家用有償旅客運送のあり方を考えていかなければならないと思っています。
そのきっかけの1つになり得るのがMaaSではないかと思います。加えてMaaSの目的・効果ともいえる、外出機会を作り出し、地域の人が移動するようになることで少なからず地元経済への貢献も増えていくと思います。健康な高齢者が増えることは医療・福祉にとってプライオリティの高いテーマでもありますので、そういった部局ともうまく連携していければと思っています。

地方版MaaSが全国展開していくために必要なこと

KPMG:地域や社会として最低限必要な移動サービスは提供されるべきですが、そのサービスのみで採算を得るのは難しいことから、行政による一定の支援や補助には頼らざるを得ないと思われます。しかし、その支援に依存するのではなく、一定部分までは支援を減らしつつ、独自に売上や利益を稼げる余地は残しておくことが重要だと思っています。国内における地方版MaaSの成功事例となりつつある豊明市のチョイソコや、MaaS先進国であるフィンランドの代表的企業のKyytiは、うまくバランスを取ってサービスを提供している印象です。今後、日本全国で地方版MaaSが普及していくために重要になることは何でしょうか。

重田:1つの地域で成功させた後に他のエリアにも展開していくという戦略を持った事業者がいることが理想的です。特定の地域だけで収益を上げることは難しいので、横展開することで総合的に収益性を確保できるような事業者が出てきて欲しいと考えています。ただし、地域課題に直面すべきサービスでもあることから、自治体としっかりとタッグを組んで進めてもらえることが不可欠です。

地方版MaaSの普及に向けて地域と連携した国土交通省の新体制

KPMG:モビリティサービス推進課は本省のセクションですが、各運輸局の相談窓口はどうなっているのでしょうか。

重田:各運輸局の交通政策部交通企画課がMaaSを担当しています。MaaSの普及に向けた講演会の実施、案件形成に向けた各種調整、MaaS関連の補助・支援事業の窓口などを担当しています。

KPMG:大きな方針を決めるのは本省になると思いますが、地域で解決すべきことで運輸局の支援が必要な場合には交通政策部交通企画課が窓口となってくれるというのはわかりやすい仕組みですね。そういう仕組みになっていることは多くの事業者に浸透しているのでしょうか?

重田:現在は全国に周知されているという状況ではありませんが、来年度以降は補助や案件の申請がすべて各運輸局を通して本省に上がってくる仕組みになりますので周知されていくものと思われます。スマートモビリティチャレンジ推進協議会の地方版である“地域シンポジウム”もあり、その運営は運輸局と経産局が共同で行っています。

公共交通事業者が他の事業者と連携して取り組める仕組みを構築

KPMG:MaaSの盛り上がりがきっかけとなって自動車業界やその周辺業界、ITや通信業界、商社や小売事業者などがモビリティサービス事業への参入を検討するようになっていますが、これら企業の地方版MaaSへの関与についてはどのようにお考えでしょうか。

重田:「地域公共交通活性化法」ではMaaS事業を位置づけ、円滑な事業実施を後押しするために、複数モードにわたる運賃設定の手続きのワンストップ化という規制緩和を行おうと考えています。また、交通事業者だけでない観光、小売り、医療福祉といった幅広い関係事業者も含めた任意の協議会を自治体が自由に作ることができる制度を整えようとしています。あわせてMaaSを提供しようとする事業者が協議会の設置を地方自治体に働きかける要請制度も設けたいと考えています。この協議会をきっかけに自治体主導で幅広い関係者が協力する枠組みが作られ、MaaSを提供するなど新しいアイデアを有する事業者がリードして新しいモビリティサービスを具体化していくと、地域に根差した理想的な地方版MaaSの実装へとつながっていくと考えています。

先行するフィンランドからの学び

KPMG:MaaS先進国であるフィンランドから学べることがあれば教えてください。

重田:Kyytiの取組みから学べたことは、彼ら自身が地方版MaaSのビジネスモデルを作り上げたということです。交通密度が低い地方では公的補助が行われることが前提となっているため、そのことを前提に新たなサービスを創り出すべきというコメントがありましたが、その考えは今回の新しい法律にも盛り込まれています。
また、MaaSのデータ連携のガイドライン作成の際にはフィンランドの交通サービス法を研究しました。先行する事例があることは大いに参考になります。MaaS先進国のフィンランドとはこれからも引き続き連携していきたいと思っています。

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