「日・フィンランド 地方版MaaSの実装に向けたワークショップ」開催レポート

「日・フィンランド 地方版MaaSの実装に向けたワークショップ」開催レポート

KPMGモビリティ研究所はフィンランド大使館商務部と共同で「日・フィンランド 地方版MaaSの実装に向けたワークショップ」を2019年12月に開催しました。その様子をご紹介します。

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はじめに

近年、過疎化による採算性悪化や公共交通機関のドライバーの高齢化等が原因で、地方都市における移動手段は加速度的に不足しており、早急に解決すべき社会課題となっている。一方、近年盛り上がりを見せるCASEやMaaSは、地方都市における交通課題解決の福音となるのではないかと期待されていることから、本ワークショップでは、MaaS先進国であり、地方版MaaSにおいてもKyytiという代表的企業を輩出しているフィンランドの事例、国内における地方版MaaSの成功事例となりつつある豊明市の「チョイソコ」、地方版MaaSの推進に向けて政策ツールの総動員を進めている国土交通省モビリティサービス推進課の取組みについて学びつつ、日本国内外から官民問わず参加した名だたるMaaS有識者が集まり、過疎地域に求められるモビリティサービスや収益化の道筋について熱く議論を交わした。

開会に先立ち、フィンランド大使のPekka Orpana氏、KPMGモビリティ研究所アドバイザーおよび筑波大学 名誉教授である石田東生氏の両氏より開会の挨拶があった。Orpana氏は、フィンランドと日本が抱える地方における公共交通課題の類似性を指摘したうえで、MaaS領域で先行するフィンランドと、モノづくりを得意とする日本は地方の交通課題を解決する良きパートナーになり得ると述べた。石田アドバイザーからは、「本ワークショップをきっかけにMaaS関係者のネットワークが強化され、始まったばかりのわが国におけるMaaS実装の取組みに弾みがつくことを期待する」との話があり、ワークショップはスタートした。

1.Kyyti MaaS Made Easy

Kyyti CEO Pekka Motto氏

Pekka Motto氏

「RIDE」という名を持つ、フィンランドの代表的MaaS企業

ワークショップは講演とディスカッションの2パートにて構成され、講演パートではまずフィンランドにおける代表的なMaaSスタートアップである、KyytiのMotto氏によるサービスおよび事例紹介から始まった。Kyytiはフィンランド語でライドを意味しており、Whimを運営する同じフィンランドの代表的なMaaSスタートアップであるMaaS Global社とほぼ同時期の2016年に設立された。ヘルシンキなどの都市部を中心に展開するWhimとは対照的に、Kyytiは地方都市を中心にその土地の自治体/公共交通機関とパートナーシップを結び、パートナーのブランドでの事業を展開している。Kyytiが提供するのは、決済、ID管理、輸送ルート探索、公共交通機関との連携機能など、MaaS事業を行う上で必要なプラットフォームやアプリケーションといったテクノロジーであり、彼ら自身の言葉でいうと、ホワイトレーベルのアプリケーション提供が主たる事業となる。すなわち、利用者にサービスを提供するのはパートナー企業であり、BtoBtoCがKyytiの事業の基本形態であると言える。

フィンランド全土に広がるパートナーシップ

地方におけるMaaS事業は収益性が関心事となるが、Kyytiは行政からの補助金を前提とした事業運営を行っている。地方都市において行政が運営する公共交通機関に対し、高い効率での運行を可能とするプラットフォームやアプリケーションを提供し、運行費用の削減や利便性を高めることに寄与することでパートナーシップフィーを得ているのだ。事業は現在のところ順調にスケールしており、最近ではMatkahuoltoという、やはりフィンランドの長距離バス会社との提携を発表した。この提携により、Kyytiの事業はフィンランド全域に広がったことになる。また、フィンランドの農業生産者組合との提携も発表しており、この有力かつ公的なパートナーとの提携は、Kyytiにロビー活動における発言力を与え、彼らのビジネスをより力強いものとするだろう。提携以外にも、「ローミング」という手段でサービス提供地域を拡大しようとしている。かつて、携帯電話等で事業者や国を跨いで通話を実現するローミングというサービスが存在していたが、同じ概念のサービスをモビリティの世界に持ち込もうとしているのである。利用者が普段利用している自国のアプリを、他国でも利用可能にすることがモビリティ世界におけるローミングとしており、まずは単純なローミング機能を2020年夏までにスウェーデンで試験導入する計画をしている。提携やローミングを通じ活動エリアを拡大させていくKyytiの更なる発展を予感させながら、Motto氏の講演は締めくくられた。

2.豊明市におけるオンデマンド型シャトルサービス「チョイソコ」について

アイシン精機株式会社 イノベーションセンター 部長 加藤 博已 氏

加藤 博已 氏

アナログな仕組みで実現するオンデマンド型シャトルサービス

次に、愛知県豊明市で運行されているオンデマンド型シャトルサービス「チョイソコ」を展開するアイシン精機株式会社の加藤氏より、サービスを成功させるために行った取組みや工夫について説明があった。チョイソコは現在、主に高齢者を対象として大型のワゴン車2台を用いて運行されている。もともとはライドシェアサービスとして企画されていたが、乗車率が低く、採算性が低いと予測されたため現在の形になったそうだ。また、自社保有技術を中心にITシステムありきのサービス検討を行っていたが、ターゲットとなる高齢者はスマートフォンを使えない人が多いという点が考慮され、コールセンターを中心とした仕組みでサービスは構成されている。現状、ほぼ100%の利用者が電話による乗車予約を行っている。

多くのステークホルダーにより支えられる「チョイソコ」

チョイソコの特徴的な点の1つに、サービスが行政/自治体だけでなく協賛企業からの協賛金にも支えられているという点が挙げられる。スーパーや病院などチョイソコの目的地や、その他チョイソコにより集客率向上などの効果が見込まれる企業にスポンサーとなってもらい、月額5,000~10,000円の協賛金を得ているのだ。比較的少額の協賛金とすることで気軽に協賛企業の参加を募るというアイシン精機の戦略は的中し、サービス開始当初は18社だった協賛企業が現在は50社にまで増加しており、黒字化の大きな要因となっている。さらに、周辺ステークホルダーとの関係性を重視し、競合関係となり得るコミュニティバスなど既存公共交通機関との棲み分けやチョイソコ車内への広告掲示を行ったり、税金が投入されるスキームを鑑みて黒字分を行政に還元したりと、良好なパートナーと認識されるような配慮や工夫をしているのだ。

移動需要の創出こそがカギ~高齢者と向き合い育てた「チョイソコ」

行政や協賛企業に支えられているとはいえ、利用者がいなければサスティナブルなサービスは成り立たない。そこでアイシン精機は自ら積極的な移動需要を創出している。利用者が外出したくなるように豊明市の健康長寿課などと連携し、さまざまな需要創出企画を打ち出してきた。需要創出以外にも、主な利用者である高齢者と徹底的に向き合い、使いやすいサービス構築に余念がない。たとえばチョイソコを会員登録制にし、電話番号や健康状態など細かな情報を求めている。これは、予約者が停留所に現れなかったときの連絡手段の確保や、健康状態から乗降にかかる時間を計算し、その情報を基に運行計画に反映するために行っている。ほかにも、200メートル間隔でバス停を設置し、最長でも100メートル歩くことでバス停にたどり着けるように配慮しているそうだ。情報発信手段においても工夫がある。高齢者の電子メール開封率は極めて低いという点が考慮され、運行に関わる情報や地域のイベント情報は紙(ダイレクトメール)で郵送している。一斉配信ではなく、利用者一人ひとりに情報を届けている点と、会員の詳細な情報を取得している点を活かし、協賛企業の広告を会員の属性に合わせて配布することを実現しているのだ。このダイレクトマーケティングは大変好評で、特に協賛企業にとって協賛金を拠出することに対する納得感や満足度向上につながっている。講演の最後には、地方都市におけるMaaSの1つの成功例を示したチョイソコをさらに発展させるべく、他地域への展開や町おこしツールとして活用することへの可能性を加藤氏は語っていた。

3.日本版MaaSの取組みについて

国土交通省 総合政策局 モビリティサービス推進課 課長 重田 裕彦 氏

重田 裕彦 氏

MaaSの定義とわが国の状況

国土交通省の重田氏からは、わが国でMaaSを推進させるための取組みや課題が語られた。本論に先立ち、MaaSに対する理解が多様化している現状を踏まえ、国土交通省が考えるMaaSの定義が示された。その定義によると、「MaaSとはスマートフォンアプリを用い、地域住人や旅行者等、個々人の移動ニーズに対し、複数の公共交通やそれ以外の交通機関、その他サービスを最適な形で組み合わせ、予約、決済、検索を一括で行えるサービスを指す。なお、スマートフォンアプリを用いることは必須要件ではなく、課題を解決するためのツールを活用していれば、チョイソコのように電話での予約や手紙を用いた広告もMaaSの概念に合致する」とも補足された。MaaSの定義を踏まえてわが国のMaaSに注目してみると、日本版MaaSは観光だけではなく、ショッピング、ヘルスケア、物流等、交通以外のさまざまなサービスと結びついているのが特徴である、と重田氏は分析している。

「日本版MaaS」展開に向けて

日本版MaaS普及に向け、国土交通省では委員会を設置したうえでデータ連携、運賃システム、都市インフラ、AIデマンドバスの実現などのあり方について検討を進めている。例えばデータ連携については、標準化や利用ルール、個人情報の取扱いやセキュリティについて、関係省庁と連携しながら検討が進められており、2019年度中のガイドライン化が予定されている。AIデマンドバスについては、地域の移動手段の維持と効率的なダウンサイジングを目的に導入検討しているとのことで、2019年度には実証実験を行う19の自治体を選定したうえで国土交通省から予算上の支援を実施しており、先進的モデルを構築し、他自治体等へ展開していく計画だという。一例として三重県菰野町、広島県庄原地区、島根県太田市、京都丹後鉄道などで行われている実証実験や、それに伴う定額乗り放題、グリーンスローモビリティ活用、QRコードによる運賃徴収等の関連実験が紹介された。国土交通省では今後、MaaS普及のためにさまざまな取組みや支援を行っていき、規制が足かせとならないよう柔軟に対応できるような仕組みづくりや、地域公共交通活性化再生法という法案の提出を予定しているとのことだ。重田氏は「日本だけではなく、同様な課題を持つ国や地域との連携を推進していきたい」と述べ、講演パートを締めくくった。

4.有識者によるディスカッション

フィンランドにおけるモビリティ改革の現状

ディスカッションパートでは、まず国際経済研究所 主席研究員の宮代陽之氏からKyytiに対し、ライドシェア事業における個人所有の自家用車活用の可能性について質問があった。地方における交通資産として自家用車の存在があるのではないか、という考えからだ。この質問に対し、KyytiのMotto 氏は「フィンランドでは個人間でのライド提供は行えない現状があり、仮に実現させようとするならば高い保険料が課題となる」と回答した。ライドシェアに用いられる車両はタクシーとして分類されることから、「兼業タクシードライバー」がタクシー向けの高い保険料を賄える回数の運行を行うことは困難である、というのがMotto 氏の見立てだ。一方で、同じくKyytiのCOO Niskanen氏は「アメリカのカリフォルニアやオランダでは、ボランティアドライバーを取り込む仕組みを構築している」と言い、実現可能性に含みを持たせていた。次いで石田アドバイザーからの「フィンランドでは誰がMaaS実現のための障壁となり得る規制や商習慣の改革を推進したのか」と質問したが、Motto氏によると2015年~2019年に運輸通信大臣であったAnne Berner氏が大きな役割を果たしていたようだ。自身の任期は1期のみ、と決め運輸通信大臣に就任したBerner氏は、任期満了後における関係業界団体との関係に強くとらわれることなく規制革命を推し進め、フィンランドをモビリティ先進国に押し上げたとのことだ。

MaaS事業成功のカギとは

ITFのPhilippe Crist氏からは、MaaSには共通的なゴールがあるのではないか、という発言があった。「MaaSにとって交通サービスを改善することが唯一のゴールであり、MaaSが導入されてもサービスレベルが変わらない、もしくはそれ以下となってはならない。コスト削減したうえで、サービスレベルを維持しなければならない。」とCrist氏は主張する。カナダのInnisfilでは、人口4万人都市の公共交通機関をすべて廃止し、Uberを導入した結果、多大な補助金を投入せざるを得なくなった事例があった。「公共交通機関を残したうえで、補助的にUberを導入すべきだったのではないか」と疑問を呈し、「イノベーションはすべてを更新するのではなく、古いものを新しいやり方で提供すること」と、MaaS事業を成功させるための考え方を示した。
国土交通省の重田氏からは、特に誰が公共交通を支えるべきなのか、という点について現在の状況と今後の方向性が紹介された。ヘルシンキ交通局が公共交通を支えるフィンランドとは異なり、わが国では主に民間企業が公共交通を提供している。利用者のみならず、ドライバーも高齢化している過疎地域において、民間企業が公共交通を支えることに限界が訪れており、自治体や国が補助金を支払うことでつなぎとめているのが状況なのだという。今後は地域全体で公共交通を支え、さらに人と物を一緒に運ぶ、介護車両やスクールバスの空き時間を有効活用する、など多くの工夫が必要となる。そのための積極的な議論に参加して欲しい、と重田氏は呼びかけた。

誰が利用者のニーズと向き合うべきか

最後に、KPMGモビリティ研究所の伊藤アドバイザーより、誰が利用者のニーズと向き合うべきなのか再考が必要なのではないか、という問題提起があった。チョイソコのケースでは豊明市の担当者にも地域の公共交通を改善したいという強いモチベーションが存在したことが成功要因の1つである、としたうえで、そのような担当者の重要性を主張した。また、新規に参入したい交通事業者にとっては、公共交通を改善したというモチベーションを持つ自治体がどこに存在するのか見えにくいことも課題であり、行政にはその橋渡しをして欲しいと要望した。アイシン精機の加藤氏からは「新しいことをやるためにはパワーが必要であるが、メーカーもリスクを負って取り組んでおり、関わるプレイヤー皆でリスクを按分しながら地方におけるMaaSを実装していきたい」と呼びかけがあり、ワークショップは締めくくられた。

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