税務情報(2019.6-7)

本稿は、2019年6月から7月に財務省・国税庁等から公表された税務情報ならびにKPMG税理士法人のウェブサイトに掲載している情報をまとめてお知らせするものです。

本稿は、2019年6月から7月に財務省・国税庁等から公表された税務情報ならびにKPMG税理士法人のウェブサイトに掲載している情報をまとめてお知らせするものです。

I. 2019年度税制改正

1. 財務省 - 税制改正の解説の公表

7月3日、財務省は「令和元年度 税制改正の解説」を公表しました。

「税制改正の解説」には、改正の背景や趣旨のほか、条文からは読み取ることができない解釈などが示されているため、改正内容の理解に役立ちます。

2. 国税庁 - 法人税に係る法令解釈通達の発遣

国税庁は、2019年度税制改正に対応した「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」(6月28日付)を発遣し、国税庁のウェブサイトにおいて7月3日に公表しました。
このページには、改正に伴い所要の整備が行われた以下の通達が掲載されています。

第1 法人税基本通達関係
第2 連結納税基本通達関係
第3 租税特別措置法関係通達(法人税編)関係
(2019年度税制改正では過大支払利子税制について大幅な改正が行われましたが、今回公表された法令解釈通達には、本税制に関する通達の改正は含まれていません。)
第4 租税特別措置法関係通達(連結納税編)関係
第5 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律関係通達(法人税編)関係
第6 「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」通達関係

なお、2019年度税制改正に対応したタックスヘイブン対策税制に関する法令解釈通達「租税特別措置法関係通達(法人税編)等の一部改正について」は5月31日付で発遣されています。(通達の概要を、「KPMG Insight Vol.37(2019年7月号)」でご紹介しております。)
(2019年度税制改正における所得税及び相続税の改正に対応した法令解釈通達についても、7月5日から8日にかけて発遣されています。)

3. 国税庁 - 移転価格税制に係る事務運営指針の公表

国税庁は7月3日、2019年度税制改正における移転価格税制等の改正内容を反映した「『移転価格事務運営要領』の一部改正について(事務運営指針)」を公表しました。
この改正により、たとえば、独立企業間価格の算定方法としてDCF法を適用する場合の留意事項を示す事務運営指針(4 - 3、4 - 13)や特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置の適用又は適用免除規定の検討に当たっての留意事項を示す事務運営指針(3 - 6、4 - 15)のほか、差異調整における統計的手法(いわゆる四分位法)の適用に当たっての留意事項を示す事務運営指針(4 - 4(一部改正)、4 - 5、4 - 6)が新設等されています。
なお、「『別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集』 新旧対照表」についても、改正内容を踏まえた改訂が行われています。
(「『連結法人に係る移転価格事務運営要領』の一部改正について」等も同日に公表されています。)


上記の1.、2.及び3.に関するe-Tax News
KPMG Japan e-Tax News No. 176(2019年7月4日発行)

4. 国税庁 - タックスヘイブン対策税制に関する2つのQ&Aの公表

国税庁は2019年度税制改正におけるタックスヘイブン対策税制の改正に関連した、以下の2つのQ&A(情報)を公表しました。

このQ&Aは、2018年1月に公表された初版をベースとして同年8月に改訂されたQ&Aに、以下の内容が加えられるなどの変更が行われたものです。


(1)ペーパー・カンパニーに該当しないこととされる一定の持株会社等

「I ペーパー・カンパニー等について」に「(5)ペーパー・カンパニーに該当しないこととされる一定の持株会社等について」が追加されました。新たに2つのQ&A(Q8の4及びQ8の5)が設けられています。


(2)地域統括業務を行っている場合の主たる事業の判定

地域統括業務を行う外国関係会社の適用除外基準(事業基準)の判定における「主たる事業」について争われた事案を踏まえ、新たなQ&A(Q10の2)が新設されました。


(3)ペーパー・カンパニーの判定における実体基準

「I ペーパー・カンパニー等について」の「(1)ペーパー・カンパニーの判定における実体基準について」では、実体基準の判定における「固定施設」とは単なる物的設備ではなく、そこで人が活動することを前提とした概念であるとされていますが、改訂により、この場合における「人の活動」は必ずしも外国関係会社に雇用された者の活動に限られないということが示されました。これに伴い、Q8の2に一部記載が追加されています。

2019年度税制改正では、外国関係会社が連結納税規定やパススルー課税規定を適用している場合における外国関係会社の租税負担割合及び適用対象金額並びに内国法人における外国税額控除の規定に係る取扱いが整備されましたが、今回公表されたQ&Aには、この取扱いに関する解説のほか、具体的な事例を用いた全13問のQ&Aが掲載されています。


上記に関するe-Tax News
KPMG Japan e-Tax News No. 174(2019年6月27日発行)
KPMG Japan e-Tax News No. 175(2019年7月3日発行)

5. 国税庁 - 電子帳簿保存法に関する改正通達及びQ&A等の公表

国税庁は7月17日、2019年度税制改正に対応した電子帳簿保存法に関する以下の法令解釈通達及びQ&A等を公表しました。


通達等

今回の通達の改正により、たとえば以下の見直しが行われています。

  • スキャナ保存制度では、国税関係書類に係る記録事項の入力を、(1)その作成又は受領後、速やかに行うか、(2)その業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこととされているが、この規定における「速やかに」及び「その業務の処理に係る通常の期間」の捉え方が緩和された。
  • 国税関係書類の作成又は受領をする者が自らスキャナで読み取る場合には、「特に速やかに」タイムスタンプを付すこととされているが、この規定における「特に速やかに」の捉え方が緩和された。
     

Q&A

2019年度税制改正の内容を反映したQ&A(「電子計算機を使用して作成する帳簿書類及び電子取引関係」及び「スキャナ保存関係」の2つ)が掲載されています(既存のQ&Aから変更(新設)された箇所は、「改正箇所抜粋」の記載があるPDFファイルから確認が可能)。
今回の改訂により、たとえば「スキャナ保存関係」には以下のQ&Aが新設されています。

  • 過去分重要書類のスキャナ保存に関するQ&A(問62及び問63)
  • 公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による認証を受けたソフトウェアに関するQ&A(問79~81)

なお、国税庁の「電子帳簿保存法関係」のページには、上記のほか、2019年度税制改正に対応した申請書等の様式や、自社開発システム等を対象とした電子帳簿保存法における要件適合性に関する事前相談窓口などの情報も掲載されています。

6. 経済産業省 - 特別試験研究費税額控除制度ガイドラインの公表

経済産業省は「特別試験研究費税額控除制度ガイドラインについて」のページに、「特別試験研究費税額控除制度ガイドライン(平成31年度版)」を掲載しました。

2019年度税制改正では、試験研究費の税額控除制度のうちオープン・イノベーション型の試験研究費(特別試験研究費)について、たとえば、新事業開拓事業者等(研究開発型ベンチャー企業)との共同試験研究や委託試験研究等に係る試験研究費の額が特別試験研究費の額に追加される等の改正が行われました。
上記のガイドラインは、今回の改正を受けて既存のガイドラインが更新されたもので、「新事業開拓事業者等」の定義が追加されるとともに、実際にこの制度を活用する際の実務的な手順の詳細等が掲載されています。
また、ガイドラインの末尾に「参考10 試験研究費税額控除制度におけるリサーチ・アドミニストレーター(URA)の人件費の取扱いについて」が追加されましたが、これは7月10日に国税庁から公表された文書回答事例(7月9日付)と同様のものです。


上記に関するe-Tax News

KPMG Japan e-Tax News No. 178(2019年7月19日発行)

7. 東京都 - 法人事業税の税率改正のための東京都都税条例改正案の成立

2019年度税制改正における地方税法等の改正により、2019年10月1日以後に開始する事業年度の法人事業税の税率の改正が行われました。
これを受け、東京都の法人事業税の税率(超過税率)を改正するための東京都都税条例改正案が2019年第2回東京都議会定例会に提出されていましたが、6月19日、この条例改正案が原案どおり可決・成立し、6月26日に公布されました(東京都公報 増刊74号)
また、東京都主税局は同日、「令和元(2019)年10月1日以後に開始する事業年度に係る法人事業税の税率について」を公表しました。改正の趣旨及び改正の内容(改正後の東京都の法人事業税率)が掲載されています。


上記に関するKPMG Japan tax newsletter(2019年5月29日発行)
東京都 - 2019年10月以後に開始する事業年度の法人事業税の税率(案)を公表(日本語)
Tokyo - Proposal for Business Tax Rates(英語)

上記に関するe-Tax News
KPMG Japan e-Tax News No. 173(2019年6月20日発行)

8. 中小企業強靭化法の施行

2019年度税制改正における(1)中小企業防災・減災設備の特別償却制度の創設(租税特別措置法第44条の2)や(2)税制適格ストックオプション税制の適用対象者の拡大(租税特別措置法第29条の2)は、中小企業等経営強化法の改正が前提となっていたところ、この改正が盛り込まれた中小企業強靭化法(正式名称「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律」)が7月16日に施行されました。
これを受け、経済産業省及び中小企業庁は、(1)および(2)に関する新たな情報をウェブサイトに掲載しました。


(1)中小企業防災・減災設備の特別償却制度

中小企業庁の「事業継続力強化計画」のページには、制度概要をまとめた資料のほか、この特別償却制度の適用を受けるために作成し、認定を受ける必要がある事業継続力強化計画に関する情報等が掲載されています。


(2)税制適格ストックオプション税制の適用対象者の拡大

経済産業省の「社外高度人材に対するストックオプション税制の適用拡大」のページには、制度概要をまとめた資料や、この改正の適用を受けるために作成し、認定を受ける必要がある社外高度人材活用新事業分野開拓計画に関する情報等が掲載されています。

9. 国税庁 - 中小企業経営強化税制に関する質疑応答事例の公表

中小企業経営強化税制について、「平成31年度税制改正の大綱」(P.47)では、特定経営力向上設備等の範囲の明確化を行う旨が明記されるとともに、2018年12月に経済産業省から公表された「平成31年度(2019年度)経済産業関係 税制改正について」(P.21)では、「働き方改革に資する設備(休憩室に設置される冷暖房設備や作業場に設置されるテレワーク用PC等)も本税制措置(中小企業経営強化税制)の適用対象であることをQ&A集等を通じて明確化」する旨が明らかにされていました。
上記の記述に対応するものとして、国税庁は7月11日、「中小企業者等が取得をした働き方改革に資する減価償却資産の中小企業経営強化税制(租税特別措置法第42条の12の4)の適用について」という質疑応答事例を公表しました。
取得した働き方改革の推進に資する減価償却資産が中小企業経営強化税制における生産等設備を構成する減価償却資産に該当するか否かについて、具体例を交えて解説されています。

II. 租税条約

1. ナイジェリアとの租税条約 - 締結交渉開始

財務省は6月18日、日本国政府がナイジェリア連邦共和国政府との間で、租税条約を締結するための交渉を6月19日より開始することを公表しました。


財務省プレスリリース
日本語:ナイジェリアとの租税条約の締結交渉を開始します
英 語:Negotiations for Tax Convention with Nigeria will be Initiated


 

2. アルゼンチンとの租税条約 - 署名

財務省は6月28日、日本国政府とアルゼンチン共和国政府との間で「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とアルゼンチン共和国との間の条約」の署名が6月27日に行われたことを公表しました。アルゼンチン共和国との間にはこれまで租税条約は存在せず、本条約は、両国の緊密化する経済関係等を踏まえて新たに締結されるものです。
本条約は、両国間で生ずる二重課税を除去するため、両国において課税することができる所得の範囲を定める規定等を設けています。また、本条約の締結によって、両国の税務当局間において、本条約の規定に従っていない課税についての協議、租税に関する情報交換及び租税債権の徴収共助の実施が可能となります。


財務省プレスリリース
日本語:アルゼンチンとの租税条約が署名されました
英 語:Tax Convention with Argentina was Signed


 

III. その他

1. 国税庁 - 定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関する改正通達の発遣及びFAQの公表

国税庁は、定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いについて定める既存の通達を改正する法令解釈通達を発遣するとともに、これに関するFAQを新たに公表しました。

この改正通達の原案は4月11日よりパブリックコメントに付されていましたが、寄せられた意見を踏まえて原案が一部修正され、6月28日に発遣されました。
今回の改正により、各保険商品の実態に応じた取扱いとなるよう資産計上ルールの見直しが行われるとともに、類似する商品や第三分野保険の取扱いに差異が生じることのないよう定期保険及び第三分野保険の保険料に関する取扱いが統一されることとなりました。
なお、改正後の取扱いは以下の保険料について適用され、既契約分に係る保険料への遡及適用はありません。

  • 2019年7月8日以後の契約に係る定期保険又は第三分野保険の保険料(以下の保険料を除く。)
  • 2019年10月8日以後の契約に係る解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険の保険料
     

国税庁は7月8日、改正後の通達に関して寄せられた主な質問に対する回答を取りまとめたFAQ(全20問)を公表しました。
このFAQでは、たとえば、改正通達の適用日前の契約に係る定期保険等について、改正通達の適用日以後に契約内容の変更等の事由が生じた場合における改正通達の適用関係が明らかにされています。


上記に関するKPMG Japan tax newsletter(2019年7月1日発行)

国税庁 - 定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いを定める通達の改正通達を発遣(日本語)

上記に関するe-Tax News
KPMG Japan e-Tax News No. 177(2019年7月9日発行)

2. 国税庁 - 特定譲渡制限付株式に関する文書回答事例の公表

国税庁は7月3日、大阪国税局による文書回答事例「譲渡制限期間の満了日を「退任日」とする場合の特定譲渡制限付株式の該当性及び税務上の取扱いについて」を公表しました。
この文書回答事例では、一定の制度設計のもと、譲渡制限期間の満了日を確定した日付ではなく取締役等の退任日とした譲渡制限付株式が特定譲渡制限付株式に該当すること等が確認されています。

3. 経済産業省 - サービス開発に関するQ&Aの公表

2017年度税制改正において、試験研究費の税額控除制度の対象となる試験研究費の範囲に、対価を得て提供する新たな役務の開発(サービス開発)に係る試験研究のために要する一定の費用が追加されましたが、このサービス開発に係る試験研究費に関し、経済産業省は「サービス開発にかかるQ&A」を公表しました。
このQ&Aは全14問から成るもので、これまで経済産業省から公表されてきた資料や、「I. 1.財務省 - 税制改正の解説の公表」でご紹介した税制改正の解説では明らかにされていない内容(たとえば、サービス開発に係る人件費の対象となる一定の情報解析専門家の範囲についての解説)が含まれています。


上記に関するe-Tax News
KPMG Japan e-Tax News No. 178(2019年7月19日発行)

4. 国税庁 - 財務諸表のCSVデータの作成方法に関する情報の公表

国税庁は7月31日、e-Taxのページに「財務諸表のCSV形式データの作成方法について」というお知らせを掲載するとともに、「財務諸表のCSV形式データの作成方法(暫定版)」のページを公表しました。
2018年度税制改正により、e-Taxにおける財務諸表については、2020年4月以後の申告から現状のデータ形式(XBRL形式)に加えてCSV形式による提出も可能とされます。このページには、CSV形式データを作成するに当たり参考とすべき「勘定科目コード」及び「標準フォーム」の暫定版のほか、留意事項や具体的な作成イメージなどの情報も掲載されています。
なお、「勘定科目コード」及び「標準フォーム」の確定版は、2020年2月下旬に公開される予定です。

執筆者

KPMG税理士法人

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