ジョイント・ベンチャー(JV)設立を伴う事業投資において、JVパートナーによる重大な不正・不法行為が発覚した場合、JVの存続が困難になるだけでなく、JVに出資した自社のレピュテーションにも影響を及ぼす可能性があります。特に、海外JVおよびJVパートナーのモニタリングに課題認識を有する日本企業は少なくありません。

KPMGは、モニタリングに係る課題が多い海外のJVおよびJVパートナーをモニタリングするための仕組みの構築・高度化のための幅広いサービスを提供します。

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JVパートナーに起因するリスク

JVに出資する企業は、JVA (ジョイント・ベンチャー契約)に基づいて自社が持つノウハウやリソースをJVに提供します。JV運営にはJVパートナーから提供されるノウハウやリソースが不可欠ですので、JVAに基づく義務をJVパートナーがしっかりと履行するか、また、そもそも履行するだけの能力を有しているか把握する必要があります。特に、JVパートナーに業績不振等の環境変化が生じた場合には、JVパートナーによるJVAやSHA(株主間契約)から逸脱した行為を行う可能性が高まりますので、JVパートナーに対するモニタリングの仕組みが必要です。

海外JVに係るトラブルが多い背景・要因

海外JVでは現地国のJVパートナーとのトラブルは少なくありませんが、その背景には次のような要因が挙げられます。

  • 日系企業は、JVパートナーとの信頼関係を損なうことを懸念し、JVA・SHAにおける条項が不十分で、曖昧な契約を締結してしまい、JVパートナーとの間で認識の齟齬が発生することがあります。契約書に明記していない事項について、海外JVパートナーと交渉することは容易ではありません。
  • 言語の壁や習慣の相違、地理的制約等があり、JVパートナーとその従業員とのコミュニケーションが不足することで、異例事項が発生することがあります。
  • JVパートナーが事業展開を行う国・地域によっては、JVパートナーの与信判断などに必要な情報(与信情報、ニュース、リスク情報、業績に関する口コミ)を得ることが非常に困難なことがあります。
  • JVの現地の役員や幹部・従業員は、現地企業であるJVパートナーを優先する行動をすることが少なくありません。そのため、JVパートナーから派遣されたJVの共同経営者に、経営の実権を握られることも少なくありません。
  • JVパートナーから派遣されたJVの共同経営者が長期間に渡り、JVの経営の実権を握った結果、現地の従業員・取引先との共謀などにより、重大な不正行為をしていた事例もたびたび見られます。
  • 日本企業からJVに従業員を派遣しても、派遣する人数は限定的で、また経営管理の経験や海外法令・リスク管理などのノウハウがない従業員が派遣されることが多く、JVの運営業務に従事することに注力し、JVパートナーのモニタリングを実行できていない事例は非常に多いです。
  • トラブル発生を想定した対応は、JVA・SHAにおいて予防的措置と事後的な対応方針を具体的に定め、双方が合意することが肝要ですが、信用不安など、JVパートナーに重要な環境変化が生じた際には、契約に定めた予防的措置は遵守されなくなる可能性が高まり、また、事後的な対応が迅速には実行できず、事態が重大化してから対応するような対応が後手に回った失敗事例も少なくありません。

JV・JVパートナーのモニタリングプロセス(イメージ)

JV・JVパートナーのモニタリングプロセス(イメージ)
JV・JVパートナーのモニタリングプロセス(イメージ)

JV・JVパートナーモニタリングプロセスのポイント

JVの組成時

  • JV組成時には自社の戦略や進出国の外部リスクを踏まえて、事業目的の達成が可能か苦慮して、JVパートナーを選定しているか?
  • JVパートナーに対して審査・与信調査を行い、JV運営に必要十分な能力を有しているか、また、JVの運営を困難にするようなコンプライアンスリスク等の有無について検証しているか?

JVA・SHAの契約時

  • 異例事項が発生しないよう、また、異例事項が発生した際に適時に対応し損害を最小限に留められるよう、予防的措置・事後的な対応策を具体的に定めているか?
  • JVに対して、具体的な事前承認事項・報告事項、役員派遣、監査権限など株主権を円滑に行使できるために必要な条項が、JVA・SHAにて定められ、合意しているか?
  • リスク管理・コンプライアンスなどの内部統制に関する当社のグループ管理方針は、JVも可能な限り遵守するようJVA・SHAにて定められ、合意しているか?

JV・JVパートナー・外部環境のモニタリング

  • JVA・SHAにおいて当社がモニタリングできる事項を具体的に定め、合意されているか?
  • 自社の事業戦略やJVの設立目的に照らして、JVパートナーが必要な能力を継続して有しているか、JVパートナーとの関係が自社にとってリスクに繋がらないか継続的にモニタリングする体制が確立しているか?
  • JVやJVパートナーの所在国に関するビジネス情報(例:法規制、市場の動き)を収集する体制が確立しているか?

報告

  • JVA・SHAにおいて当社がモニタリングできる事項を具体的に定め、合意されているか?
  • 自社の事業戦略やJVの設立目的に照らして、JVパートナーが必要な能力を継続して有しているか、JVパートナーとの関係が自社にとってリスクに繋がらないか継続的にモニタリングする体制が確立しているか?
  • JVやJVパートナーの所在国に関するビジネス情報(例:法規制、市場の動き)を収集する体制が確立しているか?

 

JVパートナーに起因するJVのトラブル事例

事例 1

JVの概要

  • アジア某国での居住用マンション事業へ参入するため、某国の過去のPJにおいて起用した建設工事の下請事業者と50%ずつJV出資した。
  • 役員は2名ずつの派遣で社長はJVパートナーから派遣した。

トラブルの概要

  • 出資したJVにおいて、JVパートナーから派遣されたJVの幹部および財務担当者がJVから不正に資金を出金し横領した。
  • JVの幹部がJV所有の不動産を流用した。
  • JVパートナーが負担すべき経費をJVに負担させる、JV幹部のファミリー企業との利益相反取引等の不正も発覚した。

本件のポイント

  • JVパートナーの別のプロジェクトが不調で資金不足の状況に直面しているとの情報を得ていなかった。
  • JVパートナーがJVから建設工事を受託する等、JVとの取引を通じた不正の機会が非常に多い状況にあった。
事例 2

JVの概要

  • アフリカ某国におけるガスプラントプロジェクトの受注を目的として、米国企業、フランス企業およびイタリア企業とJVを設立し、当該JVは某国企業より工事を受注した。

トラブルの概要

  • JVは受注確保のため、アフリカ某国の政府高官に対する贈賄資金の提供のため英国人のコンサルタントを起用した他、某国の公務員に対する贈賄資金の提供を日本の商社に調整を依頼した。
  • JVに出資する米国企業との共謀もしくは幇助にあたるとされ、JVに出資していた日本企業と贈賄に協力した日本の商社は、米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)の違反で米国当局から摘発され、多額の制裁金を支払うに至った。

本件のポイント

  • 米国FCPAは、米国企業・米国人と米国に上場している企業が対象となるが、上記の日本企業・商社はそのいずれでもないが、受注のためにJVパートナー企業との間でさまざまな態様で「共謀」を行っていたことやJVパートナーによる公務員への資金提供を「幇助・教唆」したとの理由で、米国FCPA違反に問われた。
  • JVパートナーに米国企業・米国上場企業がある場合には、FCPAによる贈賄の摘発の可能性は高まるが、JVパートナーに対する審査・調査や贈賄リスク評価が不十分であった。
事例 3

JVの概要

  • 日本企業がアジア某国での事業拡大のために、現地メーカーとのJVをタックスヘイブンで有名な地域で設立した。JVの株式の過半数はJVパートナーが保有した。

トラブルの概要

  • JVパートナーとJVとの間で継続的に利益相反取引が行われていたが、当該情報は開示されていなかった。
  • 出資とともに事業運営ノウハウを提供した日本企業に対するロイヤルティが長期に渡り支払遅延が発生した。
  • 上記の結果、信頼関係が崩壊し、日本企業はJV設立の地域にて提訴するも、問題が長期間、解決しなかった。

本件のポイント

  • SHAに規定した仲裁条項に基づくJVパートナーの主張通りに、裁判での審議が停止しました。
  • 出資とともに事業運営ノウハウを提供した日本企業に対するロイヤルティが長期に渡り支払遅延が発生した。
  • 海外での紛争の可能性を踏まえて、海外での仲裁地の適切性・紛争の解決方法については、十分に検討すべきだった。また、BEPS規制対応や税務コンプライアンスの面からも、租税回避地・低課税地域でのJV設立は慎重に判断すべきだった。

JV・JVパートナーのモニタリングのためのテクノロジーの活用

テクノロジー 目的とポイント 備考
契約管理
(契約管理ツール)
  • JVA・SHAに盛り込むべき条項の漏れを防止する
  • 経験や実例を踏まえた条項のアップデートが必要
  • モニタリングが機能するための前提条件が整えられているか
  • JVA・SHAに限らず、契約書の管理は契約全般で実施するのが望ましい
  • 条項があるだけでは、予防的な有事対応は機能せず、事後的な対応では選択肢が狭まる
ITインフラ
(クラウド/セキュリティ)
  • JJVに対するモニタリングを可能にするために整備(セキュアなクラウド環境でのファイル共有、承認ワークフロー、オンラインバンキング等)
  • モニタリングには証跡(統制)が必要
  • JVに係る異例事項では、勝手に承認が行われたり、知らないところでオンラインバンキングの口座開設・悪用がされたケースあり
分析ツール
(財務分析/可視化ツール等)
  • JV・JVパートナーの財務分析
  • モニタリングを効果的かつ効率的に実施する為に使用
  • JVに係るトラブル事項では、JVの財務諸表に異変が生じていたにも関わらず、気が付かれず対応が遅くなったケースあり
情報収集
(公開・非公開情報/自動化ツール)
  • JVパートナーや取引先に関するリスク情報等の取集
  • マニュアルでリスク情報を収集するのは網羅性および手間から困難
  • OSINT(公開情報を基に、データ収集、分析、利用などを行う手法)の活用
  • 自動で情報収集が出来る一方、カスタマイズしないと多数のアラートやJV・JVパートナーに関係の無いアラートが報告され対応に困る例も発生する
契約管理
目的とポイント
  • JVA・SHAに盛り込むべき条項の漏れを防止する
  • 経験や実例を踏まえた条項のアップデートが必要
  • モニタリングが機能するための前提条件が整えられているか
備考
  • JVA・SHAに限らず、契約書の管理は契約全般で実施するのが望ましい
  • 条項があるだけでは、予防的な有事対応は機能せず、事後的な対応では選択肢が狭まる

ITインフラ(クラウド/セキュリティ)
目的とポイント
  • JJVに対するモニタリングを可能にするために整備(セキュアなクラウド環境でのファイル共有、承認ワークフロー、オンラインバンキング等)
  • モニタリングには証跡(統制)が必要
備考
  • JVに係る異例事項では、勝手に承認が行われたり、知らないところでオンラインバンキングの口座開設・悪用がされたケースあり

分析ツール(財務分析/可視化ツール等)
目的とポイント
  • JV・JVパートナーの財務分析
  • モニタリングを効果的かつ効率的に実施する為に使用
備考
  • JVに係るトラブル事項では、JVの財務諸表に異変が生じていたにも関わらず、気が付かれず対応が遅くなったケースあり

情報収集(公開・非公開情報/自動化ツール)
目的とポイント
  • JVパートナーや取引先に関するリスク情報等の取集
  • マニュアルでリスク情報を収集するのは網羅性および手間から困難
  • OSINT(公開情報を基に、データ収集、分析、利用などを行う手法)の活用
備考
  • 自動で情報収集が出来る一方、カスタマイズしないと多数のアラートやJV・JVパートナーに関係の無いアラートが報告され対応に困る例も発生する

テクノロジーの必要性と留意点について

効率化の観点

  • JV・JVパートナーのモニタリングに必要な要員の増加は実務上は難しいといえます。そのため、効率的なモニタリング業務が可能となるテクノロジーを導入して、リスク検知やリスクへの対応を行うことが鍵となります。

高度化の観点

  • JV・JVパートナーのモニタリング業務は属人化させず、誰が実施しても一定の水準を保てるようにする必要があります。そのため、自動化ツール等の導入による分析は、高い品質を維持し、業務の標準化につながります。

説明責任の観点

  • JV・JVパートナーのモニタリングの事績を確保することは、万が一の事態が発生した際の説明責任を果たす際に必要な要素です。

留意点

  • JV・JVパートナーへのモニタリングに必要なインフラは、自社・JV・JVパートナーが置かれた状況や重点的に管理したいリスク事項を考慮して決定する必要があります。
  • テクノロジーの導入はあくまで効率化・高度化の手段ですので、導入自体が目的化しないよう留意しつつ、各々のテクノロジーの特徴を踏まえて、目的に合わせたカスタマイズや最適化が必要です。

 

ジョイント・ベンチャー(JV)およびJVパートナーの構築支援

1. モニタリング体制の診断と高度化の支援

JV・JVパートナーのモニタリング体制に関する現状診断を行います。その上で、関連部署の役割の整理、平時・緊急時の報告事項の整理、モニタリングツールの導入を含む高度化のための提言や実行を支援します。
また、サードパーティリスク管理や贈賄リスク管理などの個別の重要リスク対応体制の高度化の支援も可能です。

2. JV組成ガイドラインの策定支援

「JV組成検討(フィージビリティスタディ含む)」「DD(JVパートナーの調査)」「契約交渉・締結」「クロージング」などの各段階における審査基準・手続、DDで問題が検出された際の対応・判断原則などを整備し、「組んではいけない会社」と誤ってJVを組成することを防ぎます。
リスク評価の着眼点やJVパートナーの把握に当たっての実施手続(チェックリスト)の作成も支援します。調査漏れや調査レベルでのばらつきを防ぎ、迅速な対応が期待できます。

3. 企業・個人のバックグラウンド調査

世界中の数万以上の情報ソースから、ターゲット企業(JVパートナー候補)とターゲット企業内における重要な役員等の個人に関する情報を効率的に収集・分析し、報告します。

4. JV・JVパートナーの管理方針の策定支援

JVの組成地域、規模・特性、出資比率、戦略上の重要性などJVの重要性やJVパートナーのリスクに応じ、自社で実施すること、JVに実施を求めること、およびJVパートナーに要求することを管理方針として策定します。
JV・JVパートナーのモニタリング根拠となるJVA・SHAのレビューも併せて支援します。

5. JVにおける不正疑義の監査・不正調査の支援

JVからの情報入手が可能な場合や協力が得られる場合、不正等の疑義の監査・不正調査を実施または支援します。

6. 財務分析支援

KPMGが開発した決算データ分析ツール「子会社分析ツール」により、JVの決算の異常性の有無を適時にデータ分析する体制構築を支援します。また、JVパートナーの財務分析についての支援も可能です。

7. グループ管理体制の確立支援

グループ管理体制診断、グループ会社管理規程・基準等の見直しを支援します。詳細は「グループ管理体制の確立支援」サービスをご参照ください。

 

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