CSRDの最新動向、先読み3大論点、そしてフランスのCSRD限定的保証ガイドライン

本稿では、冒頭で最終化されたESRSの概要に触れた後、「先読み3大論点」として域外適用、国際サステナビリティ基準審議会(以下、「ISSB」という)が開発するいわゆるISSB基準との関係、ESRSとISSB基準などとの同等性評価を取り上げ、解説します。

本稿では、冒頭で最終化されたESRSの概要に触れた後、「先読み3大論点」として域外適用、国際サステナビリティ基準審議会(以下、「ISSB」という)が開発するいわゆるISSB基準との

2023年7月、EC(欧州委員会)はESRS(European Sustainability Reporting Standards:欧州サステナビリティ報告基準)のセクター共通基準を最終化しました。ESRSはEUのサステナビリティ開示基準であり、CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)の下位に位置づけられています。また、2023年10月17日にECはCSRDの適用対象を画する企業規模判定の基準を改訂しています。本改訂は、会計指令の定めに基づき、インフレを考慮したものであり、2024年1月からの適用が見込まれています。さらに、大規模企業の要件のうち、総資産は25百万ユーロ超に、売上は50百万ユーロ超に引き上げられています。

本稿では、冒頭で最終化されたESRSの概要に触れた後、「先読み3大論点」として国際サステナビリティ基準審議会( 以下、「ISSB 」という)が開発するいわゆるISSB基準との関係、ESRSとISSB基準などとの同等性評価、域外適用を解説します。また、フランスが公表しているCSRD開示に関する限定的保証業務のガイドラインの主なポイントに触れます。

なお、本稿の意見等を含む内容は執筆者の個人的見解であり、筆者の所属する法人の公式見解ではありません。本文の内容についてはすべて執筆者の責任に帰します。

Point

Point 1 CSRD/ESRSの関係とESRSの特徴を理解する

ISSB基準は、サステナビリティ開示基準のグローバルベールラインである。ESRSは、グローバルベースラインの上にEU固有の開示項目を積み上げたものである。ESRSにはmaterialityとPhase-inアプローチという2つの特徴がある。

Point 2 CSRDに関するフランスの限定的保証ガイドラインを参考に先手の対策を講じる必要がある

グローバル企業へのCSRD域外適用の開示基準は、2024 年6月(本稿執筆時点で、2026年6月までとする協議あり)までに採択される予定である。対応に向けた内部統制の構築には、フランスの限定的保障ガイドラインおよびIAASB基準案が参考になる可能性がある。

Point 3 基準間の同等性評価は詳細が未公表

日本のサステナビリティ開示基準は、ISSB基準をベースに一部修正のうえ、最終化する見通しになっている。EUによる第三国のサステナビリティ開示基準とCSRD/ESRSとの同等性評価については、詳細な判断基準はまだ公表されていない。
 

I 最終化されたESRSの概要

1.ESRSの概要

ESRSの開示項目(DR:Disclosure Requirements)数は82項目となりました。基準書と開示項目数との関係は図表1に示すとおりです。(図表1参照)

図表1 ESRSの基準書と開示項目数

 

基準書No

基準書テーマ

開示項目数

横断的基準

ESRS1

全般的要求事項

0

ESRS2

全般的開示項目

12

E環境

E1

気候変動

9

E2

汚染

6

E3

水と海洋資源

5

E4

生物多様性とエコシステム

6

E5

資源の使用とサーキュラーエコノミー

6

S社会

S1

自社の労働力

17

S2

バリューチェーンにおける労働力

5

S3

影響を受けるコミュニティ

5

S4

消費者および最終顧客

5

Gガバナンス

G1

企業行動

6

   

合計

82

出所:KPMG作成

2.ESRSの2つの特徴

最終化されたESRSには、マテリアリティ(以下、「materiality」という)評価に応じた開示、段階的な導入(以下、「Phase-inアプローチ」という)という2つの特徴があります。

(1)Materiality評価

全般的な開示項目を定めるESRS2の開示項目(図表2参照)を除くすべての開示項目がmateriality評価の対象になりました。具体的には、気候変動関連の開示項目を定めるE1に含まれる9つの開示項目や自社の労働力に関する開示項目を定めるS1に含まれる17の開示項目などは、materiality評価を行った結果、materialでないと判断されれば、開示を要しないことになりました。

図表2 ESRS概要:ESRS2 General disclosures

  DR(Disclosure Requirements:開示項目)の概要
  ESRS2 General disclosures( 全般的開示項目)
1 サステナビリティ報告書作成の基礎となる全般的項目
2 サステナビリティ報告書に関連する個別の状況( バリューチェーン情報の見積り方法等、前期からの変更点など)
3

AMSB(Administrative, Management and Supervisory Bodies 最高意思決定機関(highest decision-making authority ))の構成、責任およびサステナビリティ課題(sustainability matters )に関する専門性とスキル

4 AMSBにサステナビリティ課題がどのように報告され、どのように対処されたか
5 サステナビリティ関連の業績(performance)とインセンティブスキームの統合に関する情報
6 サステナビリティ報告書に含まれる情報とサステナビリティに関するデューデリジェンス(DD)とのマッピング
7 サステナビリティ報告プロセスに関連した内部統制とリスク管理の主要な特徴
8 重要な製品・サービスグループ、重要な市場・消費者グループ、地域別の従業員数、化石燃料関連の収益など、サステナビリティ課題に関連・影響する戦略、ビジネスモデル、バリューチェーンに関する情報
9 各ステークホルダーの利益や識見をどのように戦略とビジネスモデルに反映したか
10 重要なIRO(impacts, risks and opportunities )、およびIROがどのように戦略とビジネスモデルに関連性を有しているか
11 IROを識別し、重要性を評価するプロセス
12 サステナビリティ報告書に含まれる開示内容がESRSが求めるDRに準拠している状況

出所:KPMG作成

ただし、E1の気候変動関連のすべての開示項目をmaterialでないとして省略する場合には、詳細な説明をする必要があります。また、E1以外の各ESGトピック基準書に含まれるすべての開示項目を省略する場合には、簡単な説明を付すことができます。加えて、開示項目に含まれる小項目( datapoint )のうちSFDR(Sustainable Finance Disclosure Regulation:サステナブルファイナンス開示規則)などEUの法令と関連して開示が求められている項目を省略する場合には、その小項目がmaterial でないということを明示する必要があり ます。

( 2) Phase-inアプローチ

開示企業が、特に初年度の開示において極端な負担を負わないようにPhase-in アプローチが導入されています。その主な概要は以下のとおりです。まず、開示企業はE( 環境)に関する基準書に定められている財務的影響額の開示を、初年度は省略することが可能です。この財務的影響額に関しては、当初3年間は、質的開示のみを行うことが許容(E1〔気候変動〕だけは定量的開示がimpracticableなケースに限定)されています。また、S1( 自社の労働力)に定められた開示項目のうち自社従業員の特性や研修とスキル開発などについては、初年度は省略することが可能です。

次に、平均( 連結)従業員数750以下の開示企業は、初年度の開示において、E1のスコープ3 開示およびS1( 自社の労働力) に定められたすべての開示項目を省略することができます。また、初年度および翌年度の開示において、E4( 生物多様性とエコシステム)、S2( バリューチェーンにおける労働力)、S3( 影響を受けるコミュニティ)、S4( 消費者及び最終顧客)に定めるすべての開示項目を省略することができます。

図表5 域外適用の概要

域外適用の要件

(要件1)域外親会社が、EU域内において150百万ユーロ超の(連結)売上があること

AND

(要件2-1)EU子会社が大規模企業に該当する等CSRDの適用対象であること

OR

(要件2-2)EU支店がEU域内において40百万ユーロ超の売上があること

開示主体と内容 EU子会社またはEU支店が、域外親会社の連結サステナビリティ情報(原則として保証付)を開示
開示の基準 2024年6月30日までに採択
適用開始時期 2028年1月1日以降
留意事項 欧州委員会は、加盟国からの報告を受けてサステナビリティ報告を実施した域外親会社のリストを公表

出所:KPMG作成

Ⅱ CSRD/ESRSとISSB基準と の関係

ISSBは、2023年6月にIFRS®サステナビリティ開示基準としてIFRS S1号( サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項:以下「S1」という)およびIFRS S2号( 気候関連開示:以下「S2」という)を公表しました( 図表4参照)。

ISSB基準は、各国・地域で開発されるサステナビリティ開示基準のグローバルベースラインです。CSRD/ESRSは、グローバルベースラインを基礎として、その上にEU固有の開示項目等を積み上げることになります。図表4からわかるように、両者は基準書の開発に関して、協創と競争の関係にあるといえるかもしれない状況 です。

ISSBは、S2の気候関連に続く基準書開発のテーマを検討中です。そのうちESG トピックに関するテーマ候補は、「生物多様性・エコシステム・エコシステムサービス( 以下、「BEES 」という)」、「人的資本」、「人権」の3つです。BEESには、ESRSの基準書にも含まれている生物多様性、汚染、水・海洋資源、サーキュラーエコノミーが含まれます。仮にISSBがBEES、人的資本、人権を次のテーマに選んだ場合1には、図表4にあるように、2026年から2027年にかけてESRSのセクター共通基準( 図表1参照)と同じような基準書の構成( 除:ESRS G1)になる可能性があります。これをどのように捉えるかが問題になりますが、この点については基本に立ち返って考えることが必要です。

つまり、ISSB基準はグローバルベースラインであり、ESRSはそれを基礎としてEU 固有の開示項目等を積み上げるサステナビリティ開示基準であるということです。

ECはESRSのセクター共通基準を最終化した際に同時に公表したQ&Aにおいて、ESRSはISSB基準をそのなかに取り込むサステナビリティ開示基準であり、それがISSB基準をエンドースメントするIOSCO ( 証券監督者国際機構)の意向にも沿うものであるという趣旨の記載を行っています。

ECのこうしたスタンスは不変である可能性があります。したがって、開示企業がサステナビリティ開示および内部統制構築に係るプロジェクトを実施する場合には、CSRD/ESRS対応を行うことが同時にISSB基準対策にもなる可能性があると思われます。

図表4 CSRD/ESRSと国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)との関係:協創と競争

図表4 CSRD/ESRSと国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)との関係:協創と競争

出所:KPMG作成

Ⅲ ESRSとISSB基準等との 同等性評価

図表4 にあるようにISSB基準の開発が進み、それに伴ってISSB基準を基礎に基準開発を行うSSBJ( サステナビリティ基準委員会)によるわが国のサステナビリティ開示の基準書が徐々に最終化されると、ESRSとの同等性評価が話題になると予想することが可能です( 図表3参照)。

図表3 ESRSとISSB基準等との同等性評価

Q1 誰が同等性を評価するのか?
A1 EC(欧州委員会)です。
Q2 どういう判断基準なのか?
A2 その開示基準が、①ESGを含むこと、②企業がサステナビリティに与える影響およびサステナビリティが企業に与える影響を開示するように求めていることです。

出所:KPMG作成

まず、同等性評価を行うのはESRSを定めるECです。このことはCSRDに定められています。では、どういう判断基準で同等性評価を行うのかですが、詳細な判断基準はまだ公表されていません。しかし、CSRDはおおむね以下の2 つの判断基準にしたがって同等性を評価するとしています。

 

第1は、同等性評価の対象となる基準書がESGファクターの開示を要求していること、第2にその基準書が企業がサステナビリティ課題に与える影響、サステナビリティ課題がどのように企業の業績などに影響しているのかを理解するのに必要な情報の開示を要求していることです。この2つの判断基準のうち第1の判断基準は、ISSB等の基準書開発が一定程度進めばクリアできる可能性があると思われます。

第2 の判断基準は、いわゆるdouble materialityを求めていると理解されることがありますが、double materialityという用語は条文では使用していません。したがって、必ずしもdouble materialityそのものを求めていると理解する必要はないように思われます。また、ISSB基準のS1も、自分が採用するmaterialityの概念については明言していません。

S1の結論の背景には、ISSB基準に準拠したサステナビリティ開示は概念的・実務的に人(S )や環境(E )や経済に企業が与える重大な影響に関する報告を補完するという趣旨と思われる記載があります。

図表4 CSRD/ESRSと国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)との関係:協創と競争

図表4 CSRD/ESRSと国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)との関係:協創と競争

出所:KPMG作成

Ⅳ 域外適用

1. 適用要件と開示する可能性のある 項目

日米中などのグローバル企業にCSRDを域外適用するための要件の概要は、図表5のとおりです。適用開始時期は2028年1月ですから、まだ相当程度の残り時間があると認識されているかもしれません。しかし、域外適用の開示基準を採択するのは、CSRDでは2024年6月までと定められています( 但し、図表4の※3にあるように本稿執筆時点では2年間延期することが協議されています)。

域外適用の開示基準で、実際にどの程度の開示項目をESRSから引き継ぐのかは、現時点で予想するのは困難です。しかし、域外適用の条文のなかに、CSRDが域外企業に求める開示情報の大枠を定めたものがありますので、そこから一定程度の想定をすることは可能と思われます。CSRD/ESRSから一定程度ディスカウントされた開示項目になる可能性があると思います。( 図表6参照)

図表6 CSRD域外適用で開示する可能性のある項目の概要

域外適用の開示基準は2024年6月末までに採択予定であり、現時点でその内容を予想することは困難です。下表は、CSRDがダブルマテリアリティの観点から求める開示情報と域外適用の条文が求める開示情報の関係を表します。

  CSRDで求められる開示項目 域外適用条文
1 サステナビリティリスクに関連するビジネスモデルと戦略のレジリエンス ×
2 サステナビリティ関連の機会 ×
3 パリ協定と整合するアクション、財務・投資計画
4 ビジネスモデル・戦略が、ステークホルダーの利益に配慮する方法および連結グループがサステナビリティに与える影響に配慮する方法
5 サステナビリティ課題に関連して戦略が実施された手法
6 2030 年・2050 年に向けたGHG 排出量削減目標
7 経営組織のサステナビリティ関連の専門性とスキル
8 サステナビリティ課題に対するポリシー
9 サステナビリティ課題に関連する経営組織のメンバーに対するインセンティブスキーム
10 サステナビリティ課題に関連するDD プロセス
11 自社事業およびサプライチェーンの製品・サービス等がサステナビリティに与える重要な負の影響
12 重要な負の影響を防止・軽減等するためのアクション
13 サステナビリティに依拠することから生じるグループにとっての重要なサステナビリティリスクと管理 ×
14 上記1 ~ 13 に関連する indicators(KPI)

※ 〇 CSRDがダブルマテリアリティの観点から求める開示項目のうち、域外適用の条文が公表等を要求しているもの
×  CSRDがダブルマテリアリティの観点から求める開示項目のうち、域外適用の条文が公表等を要求する項目に含めていないもの。ただし、開示不要となるかは不明。
△  CSRDがダブルマテリアリティの観点から求める開示項目のうち、域外適用の条文が where appropriate な場合に公表等を要求するもの

出所:KPMG作成

2. 域外適用とグローバル内部統制の構築

重要なことは、域外適用にも開示内容について保証が必要とされていることで
す。この保証の基準がどの程度の目線になるかは、各開示企業がサステナビリティの開示に関する業務プロセス、内部統制を構築するに際して重要な参照データの1つになると考えられます。保証基準の目線を下回る内部統制を構築してしまうリスクを回避する必要があります。まず、その前提として、CSRDにおいてどのような保証基準が想定されているのかをみてみましょう。CSRDはその前文にヒントを示してくれています。そこには、合理的保証の場合には内部統制の状況を考慮した手続きなどを含むことから、限定的保証よりも合理的保証のほうが手続きの範囲が広くなることなどが記載されています。

次に、EUが実際に保証基準を作る際に、どのような手続きを要求するのかが問題となります。これについては、CSRDが求める限定的保証の公開草案すら公表されていないことから慎重に検討する必要があります。ただ、手掛かりはあります。それはIAASB( 国際監査・保証基準審議会)から2023年8月に公表された「国際サステナビリティ保証基準(ISSA )5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」案」( 以下、「IAASB基準案」という)です( 図表7参照)。

IAASB基準案には、限定的保証および合理的保証の双方に関して記載されており、2024年12月末までに最終化される見込みです。本稿の主題ではないので解説は割愛しますが、CSRD/ESRSが採用するdouble materialityに関する記載も含まれています。

図表7 域外適用とグローバル内部統制の構築

図表7 域外適用とグローバル内部統制の構築

出所:KPMG作成

一方で、CSRDは、ECがサステナビリティ保証基準の採択を行うまでの期間において、サステナビリティ保証業務に関するガイドラインの策定をCEAOB(Committee of European Auditing Oversight Bodies:欧州監査監督機関委員会)に要請しています。また、同期間においてEU加盟国の保証基準( national assurance standards)による保証業務を許容しています。

一方、IAASBはIAASB基準案を作成するにあたり、エンゲージメントを行った相手( 国際的規制当局、各国の規制当局)に、金融庁、SEC( 米国証券取引委員会)等と並んでCEAOBを挙げています。なお、CEAOBは2023年4月に、IAASBの保証基準開発をサポートする旨のコメントレターを公表しています。

このような状況を勘案すると、IAASB基準案がCEAOBのガイドライン開発だけでなく、CSRDに関するサステナビリティ保証基準の開発に影響を及ぼす可能性があること、そしてCSRD域外適用企業のグローバルなサステナビリティ開示に関する内部統制構築の重要な参考情報になり得る可能性があるといえるかもしれません。CSRD域外適用の対象となり得る本邦グローバル企業の多くは、2025年からのEU現地でのCSRD対応を検討されているのではないかと思います。その場合は、現地でのサステナビリティ開示に関する内部統制構築が必要になると想定されますが、その構築においては日本の親会社による十分なコミットが有効であるケースがあり得ると思われます。そして、その上に築かれる内部統制は、域外適用に向けたグローバルなサステナビリティ開示に関する内部統制構築の基盤となる可能性があります。CSRDの現地対応から域外適用に至るまで、グローバルなサステナビリティ開示に関する内部統制を現時点から連続的に構築していくことが重要な選択肢になる可能性があると思われます。

Ⅴ CSRDに関するフランスの 限定的保証ガイドライン

(1) 背景など

Ⅳ2. でEU加盟国の保証基準に言及しました。

フランスのH3C( Haut Consei l du Commissariat aux Comptes:フランス会計監査役高等評議会)は、H3Cの代表者・法定監査人・保証サービス提供者等から成るワーキンググループを設置して、フランス国内で必須となる限定的保証業務に関する基準書の開発に貢献するべく2023 年6月にガイドライン(Limited Assurance Engagement on Sustainability Information -GUIDELINES )を公表しました。それは、将来的にECが採択する限定的保証基準によってリプレイスされることが予定されています。

このガイドラインは、内部統制構築に際して1つの目線を与えてくれるものではないかと思われます。本節では、その主なポイントを紹介し ます。

( 2) マテリアリティ

CSRDがダブル・マテリアリティを採用していることから、ガイドラインもダブル・マテリアリティを前提に記載されてい ます。

ダブル・マテリアリティは、サステナビリティ課題( 環境、社会、人権、ガバナンス等)がインパクト( 影響)・マテリアリティおよびファイナンシャル( 財務的)・マテリアリティのいずれかまたは双方に該当した場合に、マテリアルであると判断する考え方を指します。その開示項目がマテリアルであると判断された場合には、企業は当該開示項目を開示することになります。

保証業務の実施者は、インパクトを識別するために企業が定義し、実施したプロセスを検証します。そこには、企業に影響を与えるまたは企業によって影響を受ける可能性のあるステークホルダーの識別、インパクト・マテリアリティおよびファイナンシャル・マテリアリティの決定が含まれます。また、保証業務の実施者は、企業がサステナビリティ課題のインパクト・マテリアリティを決定するアプローチを評価することが求められています。そのプロセスは、①企業が与えるインパクトに関連する状況の理解、②ステークホルダー等とのエンゲージメントを通じたインパクトの識別、③実際のインパクトおよび潜在的なインパクトの重要性の評価、④マテリアルなサステナビリティ課題の決定の4つに分かれています。

加えて保証業務の実施者は、企業によって実施されたネガティブなインパクトに関するサステナビリティのデューデリジェンスについても評価することが求められています。ポジティブなインパクトについてもアプローチを評価します。

一方で、保証業務の実施者は、企業のファイナンシャル・マテリアリティを決定するアプローチを評価することが求められています。特に企業が実際のリスクと機会だけでなく、①発生する可能性があるリスクと機会を考慮することが適当であると考えていたこと、②財務的影響のもとになる自然および社会的リソースへの依拠を考慮し、リスクまたは機会の要因を踏まえた分類等の要因を考慮していたことを検証するとされています。

保証業務の実施者は、企業がリスクと機会が財務的影響に短・中・長期に与える寄与度について、①将来現実になる可能性がある(deemed likely to materialize)と考えられるシナリオおよび予測、②サステナビリティ課題に関連する潜在的な財務的影響を踏まえて検証します。検証の対象になるサステナビリティ課題は、発生可能性が50%未満(more likely than not )の状況から生じるもの、または財務諸表に認識されていない資産・負債から生じるものを指します。後者には、将来事象が発生した後にキャッシュフロー生成能力に影響する可能性があるもの、財務報告の観点からは資産として認識されていないが自然資本・知的資本・人的資本などのように財務業績に重大な影響を有するもの、将来事象であってそれが発生した場合には自然資本・知的資本・人的資本等のあり方に影響する可能性があるものを含み ます。

(3) 内部統制

保証業務の実施者は、サステナビリティ報告とその作成に関連する内部統制の構成要素についても理解することが求められています。

具体的には、①統制環境、②サステナビリティ情報およびその作成に関する内部統制手続、③内部統制手続が適切に実施されていることを確認するために定めた主な手法、④サステナビリティ情報をドラフトし作成するための情報システム、⑤企業がサステナビリティ情報をどのようにコミュニケーションしているかなどです。

(4) EUタクソノミー

ESRSではEUタクソノミーのいわゆるグリーン売上割合等を開示するように定められています。したがって、ガイドラインでも限定的保証業務の対象に含まれています2。したがって、EUタクソノミーの開示情報に関して、限定的保証に必要な手続きを実施することになります。

Ⅵ さいごに

CSRD/ESRSを巡る動向は、今後ますますスピードを増し、その影響する範囲も広がりをみせるものと考えられます。その時々の状況を冷静に分析し、的確に対応することが重要です。

1 このほかに「報告における統合」もテーマ候補です。ESGの3つを含めて、合計4つのテーマが候補となっていますが、キャパシティの制約からすべてを取り上げるのは難しいとされています。

2 EUタクソノミーの概要については、動画"【第37回~TCFDを旅する~】 3分解説シリーズ EUタクソノミーのグリーン判定プロセス"を参照

執筆者

あずさ監査法人
金融アドバイザリー事業部
加藤 俊治/テクニカル・ディレクター

執筆者紹介

あずさ監査法人
KPMG サステナブルバリューサービス・ジャパン/ TCFD/Taxonomy シニアエキスパート
加藤 俊治/テクニカル・ディレクター

都市銀行を経て、1999年に朝日監査法人(現 有限責任 あずさ監査法人)に入所。金融事業部にて銀行、証券業、アセットマネジメント業など主に金融機関の監査業務に従事しながら、IFRS(国際財務報告基準)に関する会計アドバイザリー業務、ボルカー・ルールなどの金融規制に関するアドバイザリー業務、銀行設立に関するアドバイザリー業務などに従事。現在、KPMG サステナブルバリューサービス・ジャパンのTCFDグループを統轄し、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)最終報告書に基づく開示フレームワーク、欧州サステナブルファイナンス、EUタクソノミー、ESG投資などサステナビリティを専門分野とする。