TNFDベータ版フレームワークv0.4の解説

2023年3月、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は自然関連のリスク・機会の管理と開示のためのベータ版フレームワークv0.4を公表しました。本記事では、v0.4および今までのベータ版の内容を総括・整理し、企業が取るべき行動について考察します。

本記事では2023年3月に公表されたTNFDベータ版フレームワークv0.4および今までのベータ版の内容を総括・整理し、企業が取るべき行動について考察します。

TNFDは、金融の流れを「ネイチャーポジティブ」な方向に向けることを目的に、自然関連問題に関するリスク・機会を財務および事業活動の意思決定に織り込むことを目指して設立された国際的なイニシアティブです。2020年7月の非公式的な発足から、自然関連のリスク・機会の管理と開示のためのフレームワークの検討を重ねてきました。

今回、2023年9月に予定されている最終版フレームワークの公表に先立ち、最後のベータ版であるv0.4が公表されました。並行して基準化が進む欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の「E4 生物多様性と生態系」の中でも、TNFDが提示するリスク・機会の特定・管理・開示アプローチ(LEAPアプローチ)が言及されており、TCFDと同様に、TNFDフレームワークは多くの企業が準拠すべき自然関連の報告基準となる可能性があります。

本記事では、シナリオ分析・目標設定等を中心に、v0.4のポイントを解説します。また、発行を重ねるごとに複雑性を増しているベータ版フレームワークの理解を助けるため、v0.1からv0.4までに公表された内容を総括・整理します。


※これまでに公表されたv0.1からv0.3までの解説記事は、KPMGのウェブサイト「生物多様性に関する課題対応支援」をご参照ください。

本稿では、企業・金融機関に広く適用される内容を概説しています。金融機関に特化したTNFDベータ版v0.4の解説は「金融機関とTNFD開示ベータ版フレームワーク」をご覧ください。

目次

TNFDフレームワークの構造を読み解く
主要なアップデート
 1.TNFD開示で考慮すべき「一般的要件」
 2.探索的なシナリオ分析
 3.目標・指標の設定
 4.ステークホルダー・エンゲージメント
さいごに:9月の最終版公表に向けて、今とるべき対応は?

9月の最終版公表に向けて、今とるべき対応は?

TNFDフレームワークは4回のベータ版の発行を経て具体性を帯び、シナリオ分析等の発展的な分析方法も提示されるようになりました。一方で、「自然資本」という分野がまだ黎明期にあるのも事実であり、行動を起こすうえでは、社内のリソース不足、関係部門の協力を得ることの難しさ、情報やデータの質的・量的な不足など、さまざまな制約条件が想定されます。

こうした状況を踏まえると、まだTNFDに着手できていない企業は、まずは自社とネイチャーポジティブ、双方のために重要な事業や原材料を適切なロジックで特定したうえで、スモールに分析を始めることが最適と考えます。最初の分析を経て企業が感じることはさまざまですが、多くの企業においては、重要な領域を絞り込むロジックの大切さ、そして自身が持っている情報・データ(サプライチェーン上流の位置情報等)の不足感を感じるという声を頂いています。投資家や金融機関とコミュニケーションを行うためにも、重要性の判断基準を客観的に示せること、そして重要な事業や原材料等についてはトレーサビリティが担保されており、今まで見えていなかった自然との関わりを把握し管理できるようになること、これらは今後TNFDが成熟していくにつれて、ますます重要視されるでしょう。

また、自然資本・生物多様性に関する方針を立案し、経営戦略に組み込みたいと考える企業も増えています。ただし、これまでの「CSR活動としての生物多様性保全」という思考の延長線上で、方針や戦略に着手することは得策ではありません。「生物多様性」からより広範な「自然資本」という概念への転換、それを「CSR活動」から「ビジネスリスク」として捉える思考の転換を組織的に行うためにも、サステナビリティの担当者を中心とした意識醸成が求められています。

KPMGの支援サービス

KPMGは、社内研修の実施や最新動向のインプット、実際のリスク・機会分析のご支援まで、専門家の知見を活かした一連の生物多様性・自然資本関連支援を行っています。支援サービスに関しては、「生物多様性に関する課題対応支援」をご覧ください。

執筆者

KPMGあずさサステナビリティ
シニアコンサルタント
伊藤 杏奈

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