「コロナ時代のBCP」第1回。新型コロナウイルス感染症(COVID-19) や社会統制の厳格化など、不確実性がある時代の企業経営において求められるレジリエンス経営について解説します。本連載は、日経産業新聞(2021年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

さまざまな障害にしなやかに対応して回復するという意味の「レジリエンス」という言葉が今、企業経営にとってかつてないほどの重みを持っている。現代社会を表現するキーワードとして、変動、不確実、複雑、曖昧の頭文字をとった「VUCA(ブーカ)」が広がっているように、リスクへの企業の耐性、すなわちレジリエンス経営の重要性はここ最近、高まりつつあった。それが今回の新型コロナウイルス感染症の拡大によって大きな経営上の潮流として決定づけられたといえる。
実際、世界の企業経営者はさまざまなリスクを数年前から感じている。KPMGが毎年世界の企業経営者を対象に実施している「グローバルCEO調査」 では、経営への脅威として「環境と気候変動」「破壊的技術」「地政学リスク・保護主義の台頭」「サイバーセキュリティ」「各国規制の強化」などが上位に挙がっていた。

新型コロナに代表される感染症の脅威は、上記のリストに新たに加えられるだけでない。またたくまに世界に感染が広がり、経済活動を止めたことを考えると、既存のリスクを大きく助長するインパクトをも持っている。その対策を含めて世界のビジネスや経済、政治などに対する影響は大きい。
事実、コロナ禍におけるデジタル化への要請、特にトレーサビリティー(追跡)技術の発展や業務の自動化などはかつてないほどの追い風を受けている。また、コロナ禍と連動する形での一部の国家による国家権益の主張や社会統制の厳格化、また貿易規制の強化や経済ブロック化はますます顕著なものになりつつある。まさに企業経営にとっての未知の領域はコロナ禍によって加速度的に大きくなっているといえる。

こうした環境変化に対して、従来型のリスク管理や危機管理、さらには企業組織の在り方において変化を求める向きが強い。不確実性がある時代の企業経営においては、立ち止まることは許されず、継続的なチャレンジが不可欠である。チャレンジによる失敗を恐れることのない強さと柔軟さ、レジリエンス経営が問われている。
特に企業経営に求められる風土的な要素は「フェイルファスト(誰よりも先に失敗すること)」である。実際にKPMGの「グローバルCEO調査」でもイノベーション(技術革新)を促進する社風では「フェイルファスト」の重要性を多くの経営者が認識していることが明らかになっている。
「フェイルファスト」は「ラーンファスト(早く学ぶ)」でもあると説く向きもある。これは失敗を通じて機動的に学び、転換し、または調整を加えることの重要性を強調したものともいえる。

こう考えると、レジリエンス経営はリスクに対する「守り」の意味だけではなく、リスクを乗り越え学び、成長を続ける「攻め」の意味も帯びていることがわかる。これまで日本企業が多くの災害などに直面しながら改良してきたBCP(事業継続計画)も、レジリエンス経営により新たなステージに向かうことが望まれている。
 

執筆者

KPMGコンサルティング パートナー 足立 桂輔

日経産業新聞 2021年4月16日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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