EUサステナブルファイナンス(気候変動、ESG等)開示ルールの整備と我が国の対応

EUサステナブルファイナンス(気候変動、ESG等)開示ルールの整備と我が国の対応

本稿では、EUで導入が始まったサステナビリティに関する開示ルールをご紹介します。

加藤 俊治

KPMG サステナブルバリュー・ジャパン/LEAD of TCFD/Taxonomy group

あずさ監査法人

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本稿では、EUで導入が始まったサステナビリティに関する開示ルールをご紹介します。このルールは、KPMG Insight Vol.43(2020年7月号)「EUタクソノミーの最終化、TCFDと新型コロナ危機後の世界」でご紹介したEUタクソノミーを中心としたEUサステナブルファイナンスの枠組の1つです。開示ルールは、投資会社、保険会社、銀行などに自社に係るサステナビリティ関連の開示、その販売あるいは投資アドバイスの対象となる金融商品に係るサステナビリティ関連の開示を要求しています。機関投資家、個人投資家は、こうした開示情報によってESG、気候変動リスクに貢献する企業からサステナブルな金融商品を購入することができます。
また、グローバルなデファクトスタンダードになる可能性があるEUのグリーンマーケット戦略に関して、我が国の対応をオプション形式で展望します。世界各国、地域がグリーンリカバリーを目指す中で、グローバルな緩和マネーの争奪戦に我が国が劣後しないよう、慎重かつ迅速に判断する必要があると思われます。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ご紹介:TCFD及びEUタクソノミーに関するKPMGジャパンのサービス等

KPMGジャパンでは、GSDアプローチによるTCFDアドバイザリーサービスを提供しています。
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※ GSDアプローチとは、Gap analysis(TCFD最終提言とのギャップ分析)、Scenario analysis(シナリオ分析)、Disclosure analysis(開示内容・手法の妥当性分析)を指します。

ポイント

  • EUでは、金融市場参加者と、その販売・アドバイスする金融商品に関する開示ルールの整備が最終局面を迎えている。
  • EUタクソノミーを中心としたEUグリーンマーケットは、グローバルスタンダードになる可能性がある。
  • グリーンマネーのグローバルな争奪戦に我が国が劣後しないように、対策を検討する必要がある。

I. EUの金融市場におけるサステナビリティ開示ルール

1. はじめに

EUでは2019年12月に欧州グリーンディールを公表し、2050年までに気候中立(温暖化ガス排出量の実質ゼロ)を目指すことを表明しました。そのためには産業技術のイノベーションと並んで、それを可能にするための莫大な民間資金が必要になります。そこで、民間資金を環境的にサステナブルな投資案件(金融商品)に確実に誘導するために、何がサステナブルであるかを明確化するためのタクソノミー(分類)に関する規則(Taxonomy Regulation、以下TR)を2020年6月に整備しました。
民間資金の投資の対象となる経済活動が環境的にサステナブルな案件であると言えるためには、下記の6つの目標と4つの要件を満たさなくてはなりません。これを満たした経済活動が環境的にサステナブルな経済活動としてグリーンラベルの対象となり、その経済活動を営む企業、その経済活動を含む金融商品がグリーンな企業および金融商品としてグリーン志向、ESG志向の民間資金の投資対象となります。

6つの環境目標

  • 気候変動の緩和
  • 気候変動への適応
  • 水資源等の使用と保全
  • 循環経済等への移行
  • 大気・水・土壌等の汚染防止
  • 植生・森林・希少種などエコシステムの保護

4つの要件

  • 上記6つの環境目標のうち少なくとも1つ以上を対象とし、それに実質的に貢献すること
  • 残りの環境目標について重大な損害をもたらさないこと(do not significantly harm、以下DNSH)
  • OECD(経済協力開発機構)の多国籍企業行動指針、国連のビジネスと人権に関する指導原則、労働における基本的原則および権利に関するILO(国際労働機関)宣言などに準拠すること(社会(S)とガバナンス(G)に関する最低限のセーフガード規定)
  • 科学的根拠に基づいた一定の技術スクリーニング基準(technical screening criteria、以下TSC)に準拠すること


グリーンラベルまでのプロセスは以下のとおりです。

グリーンラベルまでのプロセス

2. サステナビリティ開示ルールの概要

(1)スコープと定義

EUは2019年11月27日に“REGULATION (EU) 2019/2088 on sustainability - related disclosures in the financial services sector”(金融サービスセクターにおけるサステナビリティ関連開示規則、Sustainable Finance Disclosure Regulation、以下SFDR)を採択しました。その適用は、2021年3月10日からとされています。
EU加盟国が独自にサステナブルファイナンス、ESG投資関連の開示ルールを定める場合は、各国の事情による細かな相違により国境をまたぐ資金移動や金融商品間の比較が難しくなります。それでは冒頭に述べた民間資金の活用が困難になることから、EU域内の統一ルール※1として定められたのがSFDRです。
なお、2020年4月23日にSFDRの下位法令のドラフト(以下CP:Consultation Paper)※2が公表されており、同年9月1日までが意見募集期間となっています。
SFDRでは、金融サービスセクターでメインプレイヤーとなる金融市場参加者(financial market participant)と金融アドバイザー(financial advisor)に対して、契約前、契約後のそれぞれの期間を対象に、彼ら自身とその取り扱う金融商品に関する開示義務を負わせています。
主な定義は以下のとおりであり、既存のEU法令、TRと関連した定義となっています。
金融市場参加者とは、保険会社、銀行等与信金融機関、投資会社、資産運用会社などを指します。
金融アドバイザーとは、投資アドバイスを提供する保険商品の仲介会社、銀行等与信金融機関、資産運用会社などを指します。
金融商品とは、投資信託、年金商品などを指します。
サステナブルな投資とは、以下のようなインジケーターによって測定される経済活動に投資することをいいます。たとえばエネルギー利用、再生可能エネルギーの利用、資源利用、温室効果ガス排出量、生物多様性とサーキュラーエコノミーなどの環境目的(E:environmental objective)に貢献する経済活動、または不平等もしくは社会的な絆、雇用関係、人的資本などの社会目的(S:social objective)に貢献する経済活動であって、他の環境目的、社会目的を著しく害さない(DNSH)こと、投資対象が被投資会社である場合には適切なガバナンス(G:governance)が実施されており、健全な経営組織、被用者との関係、報酬制度を備え、税法順守などを行っている企業に対する投資を指します。
サステナビリティ・リスクとは、それが発生した時に実際にあるいは潜在的に重要なネガティブインパクトを投資価値にもたらすようなESGに関連した事象等を指します。
サステナビリティ・ファクターとは、人権、反腐敗などに関するE、S、および雇用に関する問題を指します。

※1 EUで定められる法令には、DirectiveとRegulationがある。前者は、EU加盟国が国内事情を反映して一部修正することができるが、後者は、EUで採択され次第修正されることなく各加盟国の法令となる。

※2 Joint Consultation Paper ESG disclosures, Draft regulatory technical standards with regard to the content, methodologies and presentation of disclosures Article 2a, Article 4(6) and (7), Article8(3), Article9(5), Article10(2) and Article11(4) of Regulation (EU) 2019/2088

 

(2) 主な開示ルールの概要

1. サステナビリティに有害な影響を与える事象に関する会社レベルの開示

サステナビリティに有害な影響を与える場合には、その投資がサステナブルな投資に該当しない可能性が高くなり、ESG志向の投資家の意思決定に影響することになります。そこで、SFDRは金融市場参加者に対して会社レベルでの開示を要請しています。
まず、金融市場参加者がサステナビリティ・ファクターに基づく投資意思決定において、サステナビリティに与える主要で有害な影響を考慮している場合には、販売しようとする金融商品のタイプ、主要で有害な影響を与える活動の大きさと性質を十分に考慮したデューデリジェンスポリシーに関するステートメントをウェブサイトで公表しなくてはなりません。ステートメントの中には、サステナビリティに与える主要で有害な影響の特定とプライオリティ付けに関するポリシーおよびインディケーターに関する情報、主要で有害な影響に対する計画されたアクションなどを含まなくてはなりません。
一方で、金融市場参加者が、サステナビリティ・ファクターに基づく投資意思決定においてサステナビリティに与える有害な影響を考慮していない場合には、考慮しなかった理由、有害な影響を考慮する意思があるのか、あるとすればいつなのかを同様にウェブサイトで公表しなくてはなりません。
次に金融アドバイザーは、投資アドバイスしようとする金融商品のタイプ、その活動の大きさと性質を十分に考慮して、サステナビリティに与える主要で有害な影響を考慮してアドバイスしているかどうかに関する情報をウェブサイトで公表しなくてはなりません。これらを考慮していない場合には、その理由と考慮する意思があるのか、あるとすればいつなのかを、同様にウェブサイトで公表しなくてはなりません。

2. サステナビリティに有害な影響を与える事象に関する金融商品レベルの開示

2022年12月30日までに、金融市場参加者が販売しようとする金融商品に関しては、その金融商品がサステナビリティ・ファクターに与える主要で有害な影響を考慮したものであるか、どのように考慮したのかについて、明瞭かつ根拠に基づいた説明、および定期開示においてサステナビリティ・ファクターに与える主要で有害な影響に関するステートメントを開示しなくてはなりません。

3. その他の主な開示

その他の主な開示としては、インデックスを利用することでその金融商品をサステナブルな投資であるとしている場合には、そのインデックスがどのようにサステナブルな投資目的と整合しているのかに関する情報、そのインデックスが市場で広く用いられている他のインデックスとどのように異なり、どのような理由でサステナブルな投資目的と整合していると判断したのかに関する説明を開示しなくてはなりません。
また、EやSを促進するものとして金融市場参加者が販売する金融商品に関しては、EやS、その他のサステナブルな投資目的に関する説明、対象とする投資目的に対するサステナブルな投資であると評価・測定した手法、モニタリング手法、評価・測定に関連するサステナビリティに関するインディケーター、その金融商品がサステナビリティに与える影響の概要を開示することとされています。

 

(3) サステナビリティに対して主要で有害なインディケーター

開示に必要となるサステナビリティに対して主要で有害なインディケーター(PASI:Principal adverse sustainability indicators)は、CPにおいて定量的なインディケーターとして32種類用意されています。気候その他の環境(E)に関連したものが16種類、人権、反腐敗など社会(S)・雇用関係に関するものが16種類です。
前者の例としては温室効果ガス排出量、エネルギー効率、生物多様性など、後者の例としては社会・雇用問題(ジェンダー問題など)、人権(強制労働など)、反腐敗などに関する定量的指標が含まれています。
こうした内容も金融市場参加者の開示対象に含まれているのは、SFDRの大きな特徴であり、開示負担は大きいものと予想されます。

II. 我が国の対応

これまでEUのSFDR、TRの概要をみてきましたが、このような開示ルール、投資ルールは何のために設定されているかを考えてみる必要があります。SDGs、パリ協定、サステナビリティの達成・確保のためという一面もありますが、経済政策であるというもう1つの側面を忘れてはなりません。
SDGs、パリ協定、サステナビリティのどれをとっても、現状の延長線上では達成できません。達成するためには、イノベーションが必要であり、そのためには巨大な資金が必要です。新型コロナ危機前から続く低成長、そして新型コロナ危機によって世界中の中央銀行による緩和マネーがグローバルに溢れており、その緩和マネーの争奪戦の最前線がまさにこの分野なのです。
EUはこのグローバルマネーの争奪戦に勝利するために、EU全域をカバーする緻密な戦略、つまりグリーンディールとサステナブルファイナンス戦略を策定しました。そのルールの中心は、産業・業種ごとにどのような経済活動がサステナブルであるかを定義するTRと、本稿で概説したSFDRによる開示情報です。SFDRのサステナブルな投資に関する定義は、SFDRがTRと深く結びついていることを表しています。6月に成立したTRではE(環境)のみを対象としていましたが、TRの最後には今後の検討項目の1つとしてS(社会)に関するタクソノミーが明確に提示されていました。今後、TRのアップデートが進む中で、Sに関するタクソノミーが確立されれば、SFDRとの連携はさらに強くなります。そしてTCFDを含む非財務情報開示も、タクソノミーに準拠する形で発展することになります。
グリーンボンドなどグリーンマーケットにおいてはEUがマーケットリーダーになっており、タクソノミーを中心としたEUのストラクチャー、ルールがグローバルなデファクトスタンダードになる可能性はある程度高いのではないかと想像されます。
翻って我が国には、EUのようなマーケット全体を包み込む単一のルールは確立されていないように見えます。
我が国にとっても、新型コロナ危機後のグリーンリカバリーにおいてサステナビリティに関する民間資金への期待は大きく、グローバルマネーの争奪戦において劣後することは許されない状況にあると考えられます。
我が国としては、タクソノミーを法制化するのか、法制化する場合にはEUタクソノミーを受け入れるのか、独自のタクソノミーを開発するべきなのかを検討する必要があると思われます。
まず、タクソノミーの法制化を考えてみると、そのメリットとしてESG志向を強める投資家に対して安心感を与えられることが指摘できます。気候変動対策、環境政策は中長期の課題です。これから市場に参入してくるミレニアル世代はSDGsネイティブ世代であり、確実にグリーンなプロジェクト等に投資することを望むようになると予測できます。そして、我が国の資本市場において外国人投資家の占める割合が大きいことを考えれば、法制化することで彼らの資金を呼び込む手段が1つ増えると捉えることができます。
また、2020年3月に再改訂されたスチュワードシップコードでは、資産運用企業などの機関投資家と被投資企業との間でサステナビリティに関する建設的な対話(エンゲージメント)を実施することが、明確に求められるようになりました。どういった企業活動をサステナブルなものとして考えているのかは、各被投資企業の固有の事情によってさまざまではあると考えられますが、法制化されたタクソノミーがあれば、一定の目線にしたがって被投資企業のサステナビリティに対する取組み状況を資産運用会社等が評価することが可能になると思われます。
一方で法制化した場合には、それが固定化されてしまい、新しい産業や技術の開発、イノベーションをかえって阻害する可能性もあるという大きなデメリットもあります。
こうしたメリット、デメリットをよく吟味して、法制化の可否を検討することが望まれます。
次に、仮に法制化する場合にEUタクソノミーを受け入れるのか、独自のタクソノミーを開発するのかが問題となります。
EUタクソノミーがEUの経済政策の中心の1つであるということは、EUタクソノミーのTSCはEU域内の産業界、各企業の固有の事情を反映して定められることを当然意味しています。したがって、EU企業と日本企業が競合するようなエリアに関しては、日本企業にとってEUタクソノミーは参入ハードルとなり得ます。これは、EUタクソノミーを受け入れる場合のデメリットであり、環境政策、産業政策の一部がEUの同政策の強い影響を受けざるを得ないことも予想されます。
一方で、グリーンマーケットのリーディングプレーヤーはEUであり、気候変動対策がグローバルマネーの誘致合戦であることを重視するならば、EUタクソノミーを受け入れる方がメリットが大きくなるとも考えられます。
もう1つの折衷案的な選択肢としては、独自のタクソノミーを開発したうえで、EUから同等性評価を受ける方法があります。同等であると評価されれば、EUタクソノミーを受け入れる際のメリットを享受できる可能性があり、実際にGDPR(EU一般データ保護規則)では、同等性評価を受けることで、日本とEUの間でのデータ流通の円滑化が図られています。
いずれにしても、気候変動対策、環境政策が経済政策でもあるという側面に十分留意して、今後の方策を検討する必要があると思われます。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス(CoE)
TCFDグループ
テクニカルディレクター 加藤 俊治

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