EUタクソノミーの最終化、TCFDと新型コロナ危機後の世界

EUタクソノミーの最終化、TCFDと新型コロナ危機後の世界

EUタクソノミーの最終化が進んでおり、留意する必要がある6つの環境目標と4つの要件を解説するとともに、TCFDと新型コロナ危機について考察します。

加藤 俊治

KPMG サステナブルバリュー・ジャパン/LEAD of TCFD/Taxonomy group

あずさ監査法人

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サステナビリティが企業経営および投融資判断の課題となってから一定の時間が経過しました。世界的な金融緩和や低金利が継続し、地球温暖化など気候変動リスクに投資家の意識が集中するなか、マーケットにあふれたマネーはサステナブルな投融資案件を目指して動き続けています。
本稿では、最初にEUタクソノミーを採り上げます。EUタクソノミーはサステナブルファイナンスの中核であり、欧州の非財務情報開示ルールに含まれる気候関連情報に関する開示ガイドラインを通してTCFDとも繋がっています。また、新型コロナ危機の影響を受けて、将来的に環境(E)だけでなく社会(S)もタクソノミーのスコープに含まれることが見込まれています。
次に、TCFDと新型コロナ危機について考察します。新型コロナ危機によって社会(S)に注目が集まりましたが、その結果TCFDの経営上のプライオリティが低下することがあり得るのかを考察します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

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※ GSDアプローチとは、Gap analysis(TCFD最終提言とのギャップ分析)、Scenario analysis(シナリオ分析)、Disclosure analysis(開示内容・手法の妥当性分析)を指します。

ポイント

  • EUタクソノミーの最終化が進んでいる。「環境的にサステナブル」であるために、6つの環境目標と4つの要件に留意することが必要である。
  • 企業と金融機関等の金融市場参加者は、EUタクソノミーに準拠した「環境的にサステナブル」な案件にどの程度関与しているのかを開示する必要がある。
  • 新型コロナ危機後の経済社会を展望する際のキーポイントは、スチュワードシップコードの再改訂とステークホルダー資本主義である。
  • 新型コロナ危機によって、ESGのうちS(社会)に注目が集まっているが、E(環境)の中心となる気候変動リスク、およびそのTCFDに基づく開示の重要性は引き続き高い。

I. EUタクソノミーの最終化

1. はじめに

EUは2019年12月に欧州グリーンディールを公表し、サステナブルな社会の実現とそのための経済的な成長にコミットしました。その中で2050年までに気候中立(温暖化ガス排出量の実質ゼロ)を目指すことを表明し、今後10年間で毎年2,600億ドルの追加投資が必要であると試算しています。この投資額を公的資金だけで調達するのは難しく、民間資金を活用することになります。
民間資金をサステナブルな投資案件(金融商品)に確実に誘導するためには、その投資案件がサステナブルであることを投資家に確信させる必要があります。そこでEUは、何がサステナブルであるかを明確化するために、タクソノミー(分類)に関する規則(Taxonomy Regulation、以下TRという)の制定に向けて前進してきました。

2. 最近の経緯

2018年3月に公表された欧州サステナブルファイナンスに関するアクションプラン(Action Plan:Financing Sustainable Growth)に基づいて、EC(欧州委員会)が作成したタクソノミー規則案(2018年5月)を審議してきましたが、2019年12月に欧州理事会と欧州議会がその内容に修正を加える形で政治的な合意に達しました。そして、2020年3月にTEG(Technical Expert Group)からタクソノミーに関する最終レポートが提出されました。その後、同年4月に欧州理事会で修正案が採択され、現在は欧州議会での採択を待っている状態です※1。欧州議会で採択されれば、正式な規則としてオフィシャルジャーナル(The Official Journal、官報のこと)に掲載され、適用開始を待つことになります。
EUでは、ECが法案を作成し、これを欧州理事会と欧州議会が審議、その後それぞれが採択すると法令(指令(Directive)、または規則(Regulation))として成立します。指令はEU各国の国内事情を反映して各国において法制化されますが、規則はそのまま各国の国内法となります。


※1 本稿執筆後の2020年6月17日に欧州議会で採択された。

3. EUタクソノミーの趣旨

欧州サステナブルファイナンスは、サステナビリティを利用したEUの経済政策の根幹であり、冒頭で述べたように巨額の民間資金の導入を見込んでいます。ESG投資が盛んとなり、資金の出し手である年金基金、資産運用会社、銀行、保険会社などの機関投資家、リテール投資家などの目線は上がっています。流通する金融商品がサステナビリティ、グリーンを謳っていても、そこに投じられた資金が実際にグリーンな投資案件に投じられるか否かは、投資家にとって不透明です。そのため、グリーンでない投資案件をグリーンであると詐称するグリーンウォッシュを防止することが、市場の信頼性を確保するために求められます。
そこで、どのような案件(金融商品)がサステナブルといえるのかを定めてラベリングすることで、投資家に安心してサステナブルな金融商品に資金を投じてもらうことが、タクソノミーを定める目的です。

4. EUタクソノミー規則(TR)の概要

(1)6つの環境目標

TRでは、「環境的にサステナブル(environmentally sustainable)」であるというラベリングを行います。そのためにまず下記6つの環境目標を定めます。

  • 気候変動の緩和(以下、緩和)
  • 気候変動への適応(以下、適応)
  • 水資源等の使用と保全
  • 循環経済等への移行
  • 大気・水・土壌等の汚染防止
  • 植生・森林・希少種などエコシステムの保護

 

(2) 4つの要件

ある経済活動が「環境的にサステナブル」であると認定されるには、以下の4要件をすべて満たす必要があります。

  • 上記6つの環境目標のうち少なくとも1つ以上を対象とし、それに実質的に貢献すること
  • 残りの環境目標について重大な損害をもたらさないこと(do not significantly harm、以下DNSH)
  • OECD(経済協力開発機構)の多国籍企業行動指針、国連のビジネスと人権に関する指導原則、労働における基本的原則および権利に関するILO(国際労働機関)宣言などに準拠すること(社会(S)とガバナンス(G)に関する最低限のセーフガード規定)
  • 科学的根拠に基づいた一定の技術スクリーニング基準(Technical Screening Criteria、以下TSC)に準拠すること

上記4要件のうちTSCは6つの環境目標それぞれに関連して定められることになっていますが、今後2つに分けて立法化されることが予定されています。緩和と適応に関するTSCは2020年12月31日までに立法化され、2021年12月31日までに適用開始となる予定です。残りの4つの環境目標に関するTSCは2021年12月31日までに立法化され、2022年12月31日までに適用開始となる予定です。

 

(3) 3種類の環境的にサステナブルな経済活動

環境的にサステナブルな経済活動は、1. Own performance:その経済活動そのものが6つの環境目標のうちの1つに実質的に貢献する経済活動(例:低炭素エネルギーの生成、エネルギー効率の高い生産プロセスなど)、2. Enabling Activity:他の経済活動を6つの環境目標のうちの1つ以上に実質的に貢献可能とする経済活動(例:低炭素を可能とする製品・機械の生産など)、3. Transition activity:技術的・経済的に実行可能な低炭素化のための代替手段がないものの、温暖化ガス排出量実質ゼロに近づけることを可能とする経済活動の3種類に分類されています。

 

(4) 開示

経済活動や経済活動を裏付けとした金融商品がどの程度環境的にサステナブルであるかは、EUタクソノミーに基づいて開示されなくてはなりません。なぜなら、その開示をもとにして投資家が投融資の判断を行うことが、サステナブルな案件に民間資金を確実に集める前提条件となるからです。
開示の主な主体は、500名以上の従業員を有する企業(上場会社、銀行、保険会社などを含む)と、金融市場参加者(financial market participant、例:投資会社、資産運用会社など)の2種類です。
企業は、経済活動(売上、設備投資など)のうち、タクソノミーと整合した経済活動の割合を開示することがTRによって求められています。これらの企業は既に非財務情報開示指令(NFRD)の対象となっていることから、気候変動リスクの開示も行う必要があります。NFRDに基づく気候変動リスクの開示に関するガイドラインに従った開示は、TCFDが求める開示項目をすべて含んでいます。
なお、上記企業に含まれる金融機関は、下記の金融市場参加者に関する開示規制の対象にもなります。
金融市場参加者は、「金融サービスセクターにおけるサステナビリティに関連する開示に関する規則(Regulation on Sustainability-Related Disclosures in the Financial Services Sector:SDR)」に基づいて、投資案件・金融商品の裏付けとなっている経済活動がどの程度環境的にサステナブルであるのかを開示することが求められており、たとえば投資対象となっている企業の経済活動(売上、設備投資額など)のうち、タクソノミーと整合した経済活動の割合を開示したり、投資ポートフォリオの中でタクソノミーと整合した経済活動の割合を開示することが想定されています。

 

(5) 今後の課題

  1. 新型コロナ危機との関連
    TRは「環境的にサステナブル」というワーディングからわかるように、ESGのうちE(環境)の環境目標だけを取り扱っています。しかしTRはサステナビリティに貢献する金融商品や投資案件への資金誘導を目的としていることから、本来であればS(社会)も目標とするべきです。新型コロナ危機によってSにフォーカスが当たり始めていることからも、将来的にはSもTRの目標に含められる可能性があります。
    そもそもTRは2021年12月31日までにECがTRのスコープを見直すことに関するレポートを公表するように定めており、その中にサステナビリティに関する目標としてSをスコープに含めるかをレポート対象の1つとするように求める条項があることから、その可能性に留意する必要があります。

  2. ブラウンな経済活動
    また、TRでは経済活動を環境目標に貢献するグリーンの観点から捉えていますが、TEGの最終レポートでは、環境目標に重大な損害をもたらす経済活動の概念をブラウンとしてTRに含めてはどうかと提案されています。現実の経済活動を、環境目標に実質的に貢献するグリーンとそれ以外の2つに分類するのではなく、グリーンとブラウン、そしてどちらでもない経済活動の3つに分類することで、TRによって説明責任が課される企業にとって有用ではないかと考えられています。ブラウンな経済活動によって生じる環境目標に対する重大な損害が、企業努力によって社会的に許容可能なレベルまで低下する場合には、TRに基づいて環境的にサステナブルとはいえないブラウンな経済活動の改善を投資家に開示することが、経営者の説明責任を果たすことに繋がるとの考え方です。

 

(6) 最後に

TRに定められたEUタクソノミーは、サステナブルファイナンスの分野でグローバルスタンダードになる可能性があることから、今後の展開に留意する必要があります。

II. TCFDと新型コロナ危機後の世界

1. はじめに

新型コロナ危機後の経済社会がどのようになっているのかを予測してみたいと思います。
その際のポイントは、スチュワードシップコードの再改訂によって機関投資家と企業とのエンゲージメントのテーマとしてサステナビリティが明記されたこと、株主第一主義からステークホルダー資本主義への転換です。

 

(1) 投資家サイド:スチュワードシップコードの再改訂

2020年3月に再改訂が実施され、サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を考慮した建設的なエンゲージメントの実施が機関投資家に明示的に求められました。今回の新型コロナ危機では、従業員の職場環境、感染防止対策など、ESGのうちのS(社会)に対する注目度が上がりました。従前から機関投資家の関心が高かった気候変動リスクなどのE(環境)と並んで、エンゲージメントの重要テーマと考えられます。

 

(2) 経営者サイド:ステークホルダー資本主義

2019年8月に、米国の経営者団体であるビジネスラウンドテーブルは株主第一主義の考え方を転換し、従業員、サプライヤー、地域コミュニティなどのステークホルダーの利益を重視したステークホルダー資本主義への移行を宣言しました。
これは今まである程度ないがしろにされてきたSが、企業経営の重要テーマの1つになったことを意味しています。

 

(3) 今後の展望

投資家にとって企業のサステナビリティが投融資判断の重要な要素であることは、新型コロナ危機の前後で変わることはないと思われます。
PRI(国連責任投資原則)が2020年3月27日に公表した「責任投資家のCOVID-19(新型コロナ危機)への対処方法」(“HOW RESPONSIBLE INVESTORS SHOULD RESPOND TO THE COVID-19 CORONAVIRUS CRISIS”)では、投資家に対して、人的資本の管理は企業のサステナビリティの基本であり、従業員の職場環境の安全性とその経済的安全性などを、経営者報酬や自社株買いなどによる株主の短期的利益よりも重視するように求めています。その一方で、気候変動リスクなどの経営課題に継続して対応する必要性を強調しています。
EとSはどちらか一方を重視するものでなく、両立させるべきものです。Eは中長期の時間軸、Sはそれよりは短い時間軸で捉えることができます。企業とのエンゲージメントでは、この時間軸の違いを意識することが必要です。そして、中長期的な利益を重視する責任投資家にとって、Eの中心となる気候変動リスクに関するTCFDに基づいた開示の重要性は、今後も増していくと想定されます。
一方で、経営者も投資家と同様に、E、Sについてサステナビリティの観点から取り組む必要があります。中長期的な経営課題としての気候変動リスク対策は引続き重要であり、TCFDに基づく開示を推進、充実させる責任は重大です。投資家や銀行との投融資判断においてサステナビリティの重要性が高まるなか、企業活動自体のサステナビリティに必要な資金調達は最重要テーマです。エンゲージメントとディスクロージャーによってその経営責任を果たすことが、ステークホルダー資本主義への道筋の1つであり、サステナビリティにコミットした経営を実践することにつながるはずです。また、株主第一主義のもと業績連動報酬の占める割合が高くなっていましたが、今後はサステナビリティの達成度に応じた報酬など、役員報酬システムの見直しが進むものと思われます。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス(CoE)
TCFDグループ
テクニカルディレクター 加藤 俊治

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