【開催報告】ECOSYSTEM INSIGHT Powered by KPMG

2022年1月27日(木)ライブ配信を実施しました。カーブアウトベンチャーの特徴やその支援方法、カーブアウトベンチャーへの投資を通じてどのようにしてオープンイノベーションを推進していくのかについて語っています。

2022年1月27日(木)カーブアウトに焦点を絞ったECOSYSTEM INSIGHT Powered by KPMGのライブ配信を実施しました。

2022年1月27日(木)19時、カーブアウトに焦点を絞ったECOSYSTEM INSIGHT Powered by KPMGのライブ配信を実施しました。第1回目は、カーブアウトベンチャーの特徴やその支援方法、カーブアウトベンチャーへの投資を通じてどのようにしてオープンイノベーションを推進していくのかについて、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社 パートナーの水本 尚宏氏とBIRD INITIATIVE株式会社 代表取締役社長兼CEOの北瀬 聖光氏にご登壇いただきました。パネルディスカッションでは、KPMG FASパートナーの岡本 准をモデレータに、水本氏には投資会社の立場から、北瀬氏にはカーブアウトした立場から「なぜカーブアウトをするのか」をテーマに語っていただきました。

Session1:総額250億円 東大IPCのカーブアウトファンドについて

登壇者:水本 尚宏氏(東京大学協創プラットフォーム開発株式会社 パートナー 投資 ・インキュベーション担当)

日本のベンチャーの時価総額を全部足しても米国には遠く及びませんが、世界に冠たる日本の大手企業からイノベーティブなITベンチャーを生み出すのは、すでに最適化された組織が確立されている以上きわめて困難です。そこで、東大IPCは2020年に約256億円を運用する、カーブアウトに焦点を当てたオープンイノベーション推進1号投資事業有限責任(AOI1号)を設立しました。2016年に作った協創プラットフォーム開発1号投資事業有限責任組合(協創1号)と合わせれば、約500億円超のファンドです。政府系でこれだけの規模で始めたのは日本初です。

日本でもカーブアウトの事例は増え、実績のあるPEファンドも多くなりましたが、東大IPCが目指すカーブアウトはそれらのファンドとは少し違います。我々が投資するのは、売上は数億円程度と低いものの高い成長性が見込める、将来に可能性があるベンチャーです。カーブアウトの主体も、その多くが子会社の経営陣で、従来の親会社主導とはまったく異なります。それは、我々の目的が成熟期の事業を切り出して組織を一変させ、成長軌道に乗せる手助けをすることだからです。

成功事例も出てきました。たとえば、ベンチャーの時価総額上位35社のうち3社が東大IPCの投資先ですが、そのうちの1社の株式会社QDレーザは量子ドットレーザ技術をコアテクノロジーに、2021年2月にマザーズ市場に上場、約500億円の時価総額をつけました(2021年2月の調査時点)。また、ファイメクス株式会社は2022年1月にシリーズBで約11億円を調達しましたし、Onedot株式会社は東大IPCの投資後に売上が3倍近くになったと聞いています。最近では、新しい取組みとしてジョイントベンチャー型カーブアウトも始めました。これは、1社では実現困難なプロジェクトを他社と組み合わせて独立ベンチャーにするというアプローチです。この事例には、BIRD INITIATIVE株式会社や株式会社トレードワルツがあります。

従来のカーブアウトのパターンは「ポートフォリオの整理」や「戦略の不一致」でしたが、最近は「そうせざるをえない」パターンが増えてきたように思います。これは、経営陣が優秀で、カーブアウトしないと彼らが辞めてしまうことから親会社が認めざるをえないというものですが、実はこのパターンの成功率が最も高くなっています。

Session 2:カーブアウトを組成するカーブアウトベンチャー、BIRD INITIATIVE

登壇者:北瀬 聖光氏(BIRD INITIATIVE株式会社 代表取締役社長兼CEO NECコーポレートエグゼクティブ)

日本電気株式会社(以下、「NEC」)では、M&Aやストラクチャード・スピンインを含めて5件のカーブアウトを実行しました。調達した資金は52億円ほどで、そのなかの1社はシリーズAにまで進んでいます。NECはITの会社ですから、イノベーティブな企業であり続けるために、私は人事や評価、ルールを変えてきました。新規事業に、従来の人材採用や評価制度、ガバナンスポリシーを適用することは難しいからです。制度変更することで、新事業開発ができる環境がかなり整備できたと思っています。

今は、NECだけではチャレンジできないことを行うために、BIRD INITIATIVE株式会社(以下、「BIRD」)を立ち上げ、代表を務めています。BIRDは、デジタルのNEC、リアルな場所を持つ株式会社大林組、IT系商社的な伊藤忠株式会社、日本産業パートナーズ株式会社(JIP)、株式会社ジャパンインベストメントアドバイザー(JIA)、東大IPCからの出資によって、2020年9月、資本金6.4億円で設立したベンチャーです。6社の共創によって、R&Dの課題である「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」を乗り越えることを目標としています。

現在、来年度に2件のプロジェクトでカーブアウトを目指しています。1つはドローンで、もう1つはデジタルツインです。数年後には、空にいろいろなドローンが飛び交う時代がやってくるでしょう。ドローンプロジェクトでは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて、稚内市でセンシティブUTMというドローンの官制制御システムを使った薬の配送、海獣監視、密漁監視、航空貨物連携物流などの実証実験を実施しました。

私は、R&Dの課題の多くは仕組みに問題があると思っています。そこで、NECの経験を踏まえながら、「イノベーショングランドデザインで変革を起こしやすくするような、美しいあるべき姿を支援する」ことを、BIRDの事業方針としました。応用研究から事業化し、カーブアウトしていくことを目的としているからです。企業にとっては、自社ブランドでは困難な新規事業開発を委託できるメリットがある反面、将来競合になるかもしれないと思うかもしれません。そこで、BIRDは必ずカーブアウトすると説明しています。その出口は、カーブアウトして株主に戻ることもありますし、ベンチャーとして一緒に大きくしていくこともあります。

Session 3:パネルディスカッション「なぜカーブアウトをするのか(親会社と投資会社双方の視点)」

モデレータ:KPMG FAS パートナー 岡本 准
パネリスト:東京大学協創プラットフォーム開発株式会社 水本 尚宏氏/BIRD INITIATIVE株式会社 北瀬 聖光氏

カーブアウトを支援する水本氏、カーブアウトを実現させた北瀬氏。冒頭で、北瀬氏は「NECでできることはNECでやればいい。でも、プラットフォーム事業のようなものはNECの看板でないほうがいい」とカーブアウトせざるをえなかった事情と、カーブアウトしたかった心境を語り、事業会社であるがゆえの縛りとカーブアウトの必要性を語ります。

一方、ベンチャーキャピタル(以下、「VC」)と事業会社のジョイントベンチャーという新しい形のカーブアウトを実現させた水本氏は、「BIRDさんは、どんどんカーブアウトを作ろうとしています。BIRDさんと我々が一緒にベンチャーに投資してIPOさせることができればレバレッジも効くし、面白いですよね」と、VCらしい企みを明かします。

カーブアウトは、親会社との関係性も重要です。どのように親会社と折り合いをつけていくかについて、「カーブアウトをしたいという方には、実績を残したほうがカーブアウトしやすいという話をします。もっと言えば、実績が何もない状況ではカーブアウトは止めたほうがいい」と、水本氏からは厳しめの発言が飛び出しました。カーブアウトは親会社が認める人材が始めるから成り立つという前提があるからです。「一番簡単なのは、活躍して、そのカーブアウトする事業を成長させることです。これが、実は親会社を説得するときに一番有効です」

現在もNECという大手IT企業に属する北瀬氏も、「社内も説得できない事業ならば、外ではもっと無理です」と、新規事業を大きくしていくことの難しさを述べています。さらに、「歴史ある企業で新規事業を始める時のしんどさというのは、すぐに『小さい』と言われることです。ですが、大企業にとっては小さくても、外部には魅力を感じてくれる人もいます」。困難でも、やり方はあると強調します。

水本氏は、経営者の最大の素養は「味方を集める、仲間を作る」ことだと言います。「味方ができれば、カーブアウトはガラッと動き出します。ぜひ社内に仲間を探してほしい」。カーブアウトの相談を受けると、水本さんは最初に味方になってくれる役員がいるかどうかを尋ねるようにしているそうです。応援してくれる味方(役員)を作り、チームを組成し、作戦会議を開く。そういうストーリーを考えるのだと言います。「さきほど北瀬さんが言ったとおり、社内の取締役1人味方にできない人は、たぶん独立しないほうがいいです」

その後も、コア事業・ノンコア事業のカーブアウト、カーブアウトしたベンチャーに対するVCからのサポート、注目しているディープテック領域とその投資価値などについて盛り上がり、最後に視聴者へのメッセージをいただきました。

水本氏:応援してくれる人は必ず見つかるので、やりたいのだったら挑戦してほしい。ただ、覚悟だけは決めてほしい。それさえあれば、必ず達成できるでしょう。

北瀬氏:今は兼業や副業もできることから、カーブアウトする敷居は従来よりも下がっています。応援してくれる方々も大勢いるので、チャレンジしたい人はチャレンジしてほしいですね。

執筆者

あずさ監査法人
企業成長支援本部 インキュベーション部

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