新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が世界的な半導体の需給ギャップを引き起こし、車載半導体の供給不足問題が表面化しました。この問題は半導体のリードタイムの長さやサプライチェーンの複雑性に起因し、長きにわたり自動車の製造に影響を与えることとなりました。車載半導体部品を安定的に確保するためには、半導体メーカーとの協力関係強化、生産計画の改善、車載半導体の標準化などのレジリエンス強化策を検討することが重要となります。同時に、今後は自動運転や電気自動車の普及に伴う需要増にも備え、パワー半導体やSoC(System on a chip)などの安定的な確保も求められます。半導体供給不足問題から得た教訓を基に、車載半導体調達方針を再評価する必要があるということです。

COVID-19感染拡大後の半導体供給不足問題から生じた自動車業界のサプライチェーンの混乱は、着実に収束の兆しを見せ始めており、自動車メーカーの生産台数も順調に回復しています。このような背景を考慮して、サプライチェーンレジリエンスを強化するための車載半導体調達方針について考察します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

POINT 1:自動車業界を苦しめた車載半導体供給不足問題

車載半導体の供給不足により、大幅な減産を強いられるなど、自動車業界は長期にわたり厳しい状況に直面した。この問題の背景には、車載半導体サプライチェーンの複雑性・不透明性、半導体製造拠点の局所的な集中などがある。

POINT 2:有事に備えるための車載半導体調達方針の再評価

車載半導体供給不足は解消に向かっており、自動車の生産台数も回復しつつあるが、今後も同様の問題が生じる可能性がある。将来的に起こり得る有事に備えてサプライチェーンのレジリエンスを強化するには、車載半導体調達方針の再評価が求められる。

I コロナ禍で生じた車載半導体供給不足に伴うサプライチェーンの混乱

1.車載半導体供給不足問題が自動車産業に与えた影響

2020年2月に始まったCOVID-19の感染拡大は、世界中の半導体需給バランスに大きな影響を与えました。この影響は自動車産業にも波及、半導体供給不足は自動車サプライチェーンに深刻な影響を及ぼしました。半導体部品の不足によって、自動車メーカーは計画どおりに車両を生産できずに減産を余儀なくされ、自動車部品メーカーの稼働にも大きな影響を及ぼしたのです。一度生じた半導体の需給ギャップはすぐには解消されず、自動車関連企業は長きにわたり半導体供給不足問題と向き合う状況に陥りました。

自動車には、エンジンの制御に関わるエンジンECU(Electric Control Unit)やエアバッグの作動を管理するエアバッグECUなど、多くの電子制御部品が組み込まれています(図表1参照)。

【図表1:車とECUの関係図】

有事に備えるための車載半導体サプライチェーンレジリエンスの強化_図表1

出所:KPMG作成

これらの電子制御部品には多種多様な半導体部品が搭載されているため、1つでも半導体部品が不足したら、完成品の車両として納品することはできません。そのため、半導体の供給不足問題は自動車のサプライチェーン全体に大きな混乱をもたらしました。

また、半導体の製造には通常数ヵ月にわたるリードタイムを要します。しかも、生産能力にも限界があるため、自動車メーカーの急な増産要請に迅速に対応することは困難です。その結果、半導体供給不足問題は長期化することになりました。

特に、2021年の夏から秋にかけて東南アジア諸国でCOVID-19の感染者数が増加し、各国・地域でロックダウンが実施されたことで、自動車のサプライチェーンは大きな影響を受けました。マレーシアをはじめとする東南アジア諸国には、歴史的に半導体メーカーの後工程(前工程で回路を形成したウェハーをチップサイズに切り離し、樹脂などでパッケージング加工して、検査するまでの一連のプロセス)の製造拠点が集中しています。東南アジア各国・地域でのロックダウンの影響で、これらの後工程製造拠点の稼働率が低下したことにより、車載半導体の供給不足問題は一段と深刻化しました。このサプライチェーンの混乱の影響により、自動車メーカーの半導体供給不足問題は拍車がかかり、さらなる減産を余儀なくされたのです。

半導体のサプライチェーンは、複数の国・地域にまたがることも稀ではないことから、地政学的リスクも考慮する必要があります。たとえば、半導体の基板となるウェハーをA国で製造し、前工程(ウェハー上に大規模集積回路を形成するプロセス)をB国で処理し、C国に輸出して後工程のプロセスを経て完成するという流れになることもよくあります。このように、半導体の製造プロセスは複数国・地域間に展開されることも多いことから、地政学的なリスクを伴うことも考えられます。

【図表2:半導体製造のサプライチェーン例】

有事に備えるための車載半導体サプライチェーンレジリエンスの強化_図表2

出所:KPMG作成

2.複雑な車載半導体サプライチェーン

車載半導体部品の取引プロセスは、一般的に各自動車メーカーが生産計画を自動車部品メーカーに提出し、それに基づいて1 次取引先が半導体メーカーに発注し、製造された半導体部品が自動車部品メーカーに届けられ、最終的に自動車メーカーへと供給されるというフローです。これは、半導体メーカーの直接的な顧客の多くは自動車部品メーカーであるということです。結果として、自動車メーカーは限定的なサプライチェーン情報しか入手できないことが多くなります(図表3参照)。

【図表3:車載半導体のサプライチェーン例】

有事に備えるための車載半導体サプライチェーンレジリエンスの強化_図表3

出所:KPMG作成

前述のとおり、半導体のサプライチェーンは複数の国・地域にまたがることも多く、サプライチェーン全体の情報をリアルタイムで把握するのは容易ではありません。そのため、サプライチェーン内のボトルネックを迅速に特定することが難しくなる場合もあります。これに加え、サプライチェーンの情報は各企業の競争力を支える重要な要素であるため、供給側から情報開示を控えるケースも存在します。

こうした背景から、半導体の需給ギャップが生じた際には、サプライチェーンにおける情報の非対称性が問題をより複雑化させる可能性があります。サプライチェーン全体を把握し、リスクを最小化するには、情報の共有と透明性の確保が求められます。

また、自動車には多くの半導体部品が搭載されています。たとえば、ドライブレコーダーは、イメージセンサー、フラッシュメモリ、汎用マイコン、複数のアナログ半導体など、さまざまな半導体部品によって構成されています。加えて、自動車メーカーごと、さらには同一メーカーでも車種ごとに異なる仕様や要件が存在します。この状況も、車載半導体サプライチェーンの複雑性を増加させる要因となっています(図表4参照)。

【図表4:車載半導体と役割】

車載半導体(例) 役割
汎用マイコン さまざまな電子制御ユニットの頭脳としての役割を果たす半導体。
アナログ半導体 センサーなどから得たアナログ信号を、コンピューターで処理できるデジタル信号に変換する半導体。
センサー 外界の情報などを検出する役割を持つ半導体。
SoC(System on a chip) 自動運転や先進運転支援システムの演算を処理するために必須となる半導体。
パワー半導体 電力の変換や制御を担う半導体。電動車には必須の半導体。

出所:KPMG作成

各自動車メーカーは独自の設計や仕様を半導体部品に反映させるため、供給側に多種多様な要求をします。一方、半導体メーカーは各自動車メーカーの異なる要件に対応しつつ、多品種の半導体部品を供給することになります。結果として、サプライチェーンの管理はより煩雑になるのです。

II 車載半導体のサプライチェーンレジリエンスの強化のための方針

サプライチェーンに不測の事態が生じた時には、その危機からいかに迅速に立ち直るかが重要になります。そこで、ここでは車載半導体のサプライチェーンレジリエンスを強化する方策として、以下の5つを考察します。

1.半導体メーカーとの関係構築と長期契約

前述のとおり、半導体メーカーは自動車メーカーにとって間接的な取引先となります。そのため、両社のコミュニケーションは綿密になされていないと考えられます。しかし、それではサプライチェーンレジリエンスを強化することはできません。平時から半導体メーカーと直接コミュニケーションを取り、自動車メーカーは自社の要望を正確に伝達しつつ、半導体メーカー側のニーズもくみ取ることが重要です。

特に注意すべきは、半導体部品の生産終了リスクです。現在供給できていたとしても、半導体製造設備の老朽化、関連部品の生産終了により、半導体メーカーが現状の生産ラインで生産を継続することが困難になる可能性があります。半導体メーカーとの対話を通じ、半導体部品の生産終了リスクを十分に考慮しつつ、半導体部品を安定的に確保することも重要になるでしょう。

また、半導体部品を長期的に調達する契約を締結することも、半導体メーカーが設備投資の意思決定をするうえで重要になると考えられます。

2.半導体メーカーや部品サプライヤーとの情報共有

サプライチェーン全体での情報共有と協力体制の構築は、レジリエンスを高めるうえできわめて重要です。自動車メーカー、半導体メーカー、自動車部品メーカーの間で緊密なコミュニケーションを築き、生産計画やリスクに関する情報をリアルタイムで共有することができれば、問題の早期発見と適切な対応が可能となります。企業や業界を横断するデータ連携の取組み例としては、欧州で行われているCatena-X、経済産業省が主導するOuranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)などが挙げられます。

3.自動車メーカーが提示する生産計画の改善

コロナ禍では自動車メーカーからの急な増産・減産要請により、サプライヤーに負担がかかるケースも多く見受けられました。経済産業省が2022年7月に公表した「自動車サプライチェーンの強靭化に向けた取組」は、半導体を安定確保するには自動車メーカーが提示する生産計画の精度向上、計画の適時アップデート、提示した計画へのコミットが非常に重要であると述べています。

巨額の設備投資が必要でかつ、製品のリードタイムが長い半導体を製造する企業にとって、自動車メーカーによる長期の確度の高い自動車生産計画へのコミットメントはとても重要となるでしょう。

4.車載半導体の標準化とシャーシのプラットフォーム化

車載半導体は、安全性やコスト面の観点から、旧世代の半導体部品が継続して利用されているケースが多くあります。典型的なのがセーフティ系ECUです。人命に関わるエアバッグECUなどのセーフティ系のECUには、安全性から旧世代の半導体部品が使用されています。

また、車載半導体の多くは車種ごとに設計・仕様が異なることから、半導体メーカーは自動車メーカーごとに異なる種類の半導体を製造しなければなりません。
半導体供給不足に陥った際も、自動車メーカーごとに仕様が異なることが原因で納期遅延となったケースが散見されました。この課題を解決する方法の1つが標準化です。自動車メーカーごとに異なる仕様を一括で標準化することは容易ではありませんが、有事に備えるべく、標準化できる部品に関しては、業界共通で仕様を統一して、標準化の方向に向かうべきです。

さらに、自動車のシャーシのプラットフォーム化を進めることにより、搭載する半導体品種数を大幅に減らすことも重要と考えます。これにより、半導体部品一品種あたりの発注数量が増えることで、コストダウンと調達リスク低減につながるでしょう。

5.適正在庫の保有

余剰在庫を極力減らすという発想はコスト削減の観点で重要である一方で、半導体部品のように、リードタイムが長い部品に関しては、有事に備えるべく、在庫保有量を増加させることも得策であると考えられます。つまり、完成車を製造できない減産の機会損失を考慮しつつ、在庫保有期間を調整することが重要ということです。また、この場合には、在庫リスクをどこで負うかについても事前に取り決める必要があります。

III サプライチェーンロバストネスという発想

ここまで、サプライチェーンの危機からいかに早くリカバーするかというサプライチェーンレジリエンスに基づく対応策を論じてきました。最後に、サプライチェーンの堅牢性を向上させるサプライチェーンロバストネス( 頑強性)という発想に触れます。

地政学的リスクに焦点を当てると、半導体サプライチェーンを複数国にわたるものから、1国に集約するという戦略が考えられます。半導体の製造プロセスを完全に1国内で行うことで、地政学的リスクを低減するというわけです。ただし、半導体製造施設の設立には膨大な投資が必要であり、民間企業の取組みだけでは困難な場合もあるでしょう。このようなケースでは、政府の支援が有効になります。世界では、政府が半導体製造施設の設立のリスクとベネフィットを考慮し、補助金を通じて民間企業を支援するという動きが加速しています。

日本でも、政府が半導体製造施設の設立を補助金で支援する動きが活発化しており、地政学的リスクに左右されないサプライチェーンの構築が推し進められています。ただし、集積地で有事が生じた場合には顧客への供給が完全に止まってしまうリスクも孕んでいます。この点にも留意すべきです。

IV 今後不足すると予想される車載半導体

コロナ禍においては、最新技術ではないレガシー半導体を使用した汎用マイコンやアナログ半導体の供給不足が主要な課題となりました。一方で、自動運転や電気自動車の普及に伴い、将来的に需要が増大すると予想される半導体への注目も高まっています。

自動車の運転および先進運転支援システムの技術の進展に伴い、複雑な情報処理を行うためのSoC、物体を検知するために使用されるレーダーやLiDAR等の需要も増加すると考えられるため、今後はこれらの部品の安定供給もきわめて重要となります。同時に、電気自動車に不可欠なパワー半導体の需要も増大すると見込まれていることから、新たなパワー半導体の世代に関しても安定的な確保が必須となります。このように、将来不足すると見込まれる半導体部品を特定し、将来需要に対応できる体制を整えるべきと考えます。

V 平時にこそ再考すべき車載半導体の調達方針

車載半導体供給不足問題を経験したことにより、たとえ1つの部品が不足するだけでも計画どおりの自動車製造が困難となり、サプライチェーン全体に深刻な影響をもたらしました。また、供給不足が続いた間は企業間で半導体部品の争奪戦が勃発し、調達方針を見直しても、車載半導体部品を思うように調達できない状況が続きました。車載半導体供給不足問題が緩和されつつある今、将来の危機に備えた安定的な車載半導体調達方針を再評価すべきでしょう。

執筆者

KPMGジャパン
自動車セクター
マネジャー 川瀨 健一

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