社会課題に関連する開示タスクフォース、2024年上期に統合し新組織を発足

2023年8月、タスクフォースの統合を進めていた、不平等関連財務情報開示タスクフォース(TIFD)と、社会関連財務情報開示タスクフォース(TSFD)の設立準備組織は、2024年上期に統合後の新組織を発足する方針を表明しました。

2023年8月、社会課題に関連する開示の枠組みの検討を進めてきた2つの組織は、2024年上期に統合後の新組織を発足する方針を表明しました。

これまでの動向

2023年8月、タスクフォースの統合を進めていた、不平等関連財務情報開示タスクフォース(Task force on Inequality-related Financial Disclosures、以下「TIFD」)と、社会関連財務情報開示タスクフォース(Task force on Social-related Financial Disclosures、以下「TSFD」)の設立準備組織は、2024年上期に、統合後の新組織である不平等・社会関連財務開示タスクフォース(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures、以下「TISFD」)1を発足する方針を表明しました。

両組織は、持続可能な開発のための世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development、以下「WBSCD」)による支援の下、2023年4月に、タスクフォースの統合と、統合後に予定している活動の方向性について公表していました(参考:社会課題に関連する開示タスクフォースが統合へ)。今回リリースされた両組織の統合を表明した文書(以下「本文書」)では、統合後の組織の目的やアプローチ等、より具体的な活動の方向性が示されています。

目的と達成に向けた取組み

TISFDはその目的として、不平等・社会課題に関連する組織の重要な財務リスクの評価に関する、投資家、企業、規制当局、一般市民および労働者からの情報ニーズに応えることを掲げています。このほか、金融システムの安定化、不平等がもたらすシステミックリスクの評価と対処、取組みを通じた現状の改善(特に社会的弱者・経済的弱者)についても目的として掲げています。

TISFDはこれらの目的達成のため、次の取組みを進めるとしています。

  • 以下を目的とした不平等・社会課題に関連する情報開示に関するグローバル・フレームワークの構築
    • 不平等・社会課題に関連する影響、依存、リスクおよび機会(ガバナンス、戦略、マネジメントプロセスに関連するものを含む)に関する企業と投資家の対話に資する開示の推進
    • 企業の人権尊重に関する国際基準への準拠、および不平等に関するシステミックリスクに留意した、効果的なリスク管理の理解に基づく開示の実施
    • 不平等・社会課題に関連して取り扱う論点の範囲と、各論点の関係性が容易に理解できる開示構造の構築
    • フレームワークの適用にあたって、一貫性・比較可能性を担保するための、主要な不平等・社会課題に関連する用語の定義と考え方の提供
  • 以下に関するガイダンス類の開発
    • 不平等・社会課題に関連する影響、依存、リスクおよび機会に関して、どのような情報が財務上の重要性、およびインパクトの重要性を踏まえて、重要と考えられるか(企業による貢献や、システミックリスクや機会に対するエクスポージャーを含む)
    • 不平等・社会課題に関連する指標および目標の設計と、閾値、転換点、トリガーの特定(これらが企業および投資家にとってなぜ重要であるかの説明を含む)

その上で、フレームワークの構築やガイダンス類の開発が、不平等・社会関連課題に関して影響を受ける全てのステークホルダーにとって、不平等・社会関連課題についての学習およびキャパシティ・ビルディングを実践するための情報提供に繋がり、また、共通かつ深度ある理解を実現するための一助になるとしています。

取組みを進めるためのアプローチ

TISFDは目的の達成に向けた取組みを進めるために、既存の枠組みや基準等に基づく不平等・社会関連課題に関する開示の現状を把握した上で、包括的で根拠に基づく調査をステークホルダーに周知する形で実施することを通じて、目的達成に向けた課題の解決に取り組むとしています。

その上で、具体的な対応としては、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)および自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の枠組みをはじめとした既存のサステナビリティ開示基準との相互運用性の検討や、国連機関や経済協力開発機構(OECD)によって開発された不平等・社会関連課題の管理と測定に関する国際基準や枠組みとの整合性の担保等を挙げています。

また、TISFDの運営は、今後設置を予定しているワーキング・グループを含め、多様性があり、バランスの取れたステークホルダーとの対話を基礎とした、反復的かつ透明性のあるプロセスにより行うとしています。運営に参加するステークホルダーには、投資家、企業、規制当局、一般市民および労働者等、公共部門と民間部門の両方における、不平等および社会課題による影響を受ける全ての当事者が含まれるとしています。

社会課題に関する報告の枠組みの今後

社会課題に関する報告については、国際的に基準設定主体における動きが活発化しており、2023年7月に欧州委員会(EC)は欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)を採択しました。この基準には、社会課題に関連し、自社の労働者、バリュー・チェーンの労働者、影響を受けるコミュニティ、顧客およびエンドユーザーの4つの開示が含まれています。また、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2023年5月に公表した「情報要請:アジェンダの優先度に関する協議」(Request for Information and comment letters: Consultation on Agenda Priorities)において、今後の2年間の作業計画に追加する可能性がある新たなリサーチおよび基準設定のプロジェクトとして人的資本、人権を提案(参考:社会課題に関連する開示タスクフォースが統合へ)しています。

TIFSDは本文書において、ISSBやESRSの検討主体である欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)、GRIをはじめとするサステナビリティ報告の基準設定主体、および規制当局の持つ知見の活用や、G7やG20が打ち出す国際的な政策との連携も進めるとしています。WBCSDをはじめとするTISFDに関連する組織は、ISSBが公表した「情報要請:アジェンダの優先度に関する協議」に対するコメントレターにおいて、TIFSDが今後取り組む不平等・社会関連財務開示についても、前向きな検討の実施を求めており、2024年の正式な統合組織の発足後は、社会課題に関する国際的な開示枠組みの検討において、一層の働きかけを進めていくことが考えられます。

今後のスケジュール

TIFDとTSFDの設立準備組織は統合プロセスの完了後、社会的弱者のコミュニティを含む、多様なステークホルダーの代表者から構成されるワーキング・グループの立ち上げを目的とした準備組織を立ち上げるとしています。ワーキング・グループでは、統合後のタスクフォースのガバナンスや検討プロセスといった基盤の検討の他、本文書で示した活動方針の精緻化の協議を2023年第4四半期から開始し、2024年の上半期には統合後のタスクフォースを正式に発足させる予定としています。

1 本名称は仮称であり、今後の意見募集等のプロセスを経て変更される可能性があるとしている。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
シニアマネジャー 瀧澤 裕也

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