EU-CbCR開示制度のフランス国内法制化

EU指令によるCbCR(国別報告書)開示制度は2023年6月22日、フランス共和国官報にて公表され、国内法制化されました。適用開始年度はEU指令に準じて2024年6月22日以降に始まる年度となります。

EU指令によるCbCR(国別報告書)開示制度は2023年6月22日、フランス共和国官報にて公表され、国内法制化されました。

対象となる日系多国籍企業は、他EU加盟国におけるCbCR開示制度と並行して、フランスでも開示する対応を取る必要があります。

EUのCbCR開示制度とは、EU域内で活動するEUに最終親会社を置く多国籍企業ならびにEU域外に最終親会社を置く多国籍企業(日系多国籍企業含む)に対して、EU域内での活動に係る税務情報等を記したCbCRを、所定機関(商業登記所等)へ報告・開示し、さらに会社のウェブサイトにて開示するよう義務付ける制度です。

当該制度に関するEU指令は、2021年11月11日に欧州議会で承認された後、2021年12月1日付のOfficial Journal of the European Union(欧州連合官報)で公表され、2021年12月21日に正式発効しました。EU加盟各国は、2023年6月22日までに各国国内法における法制化を行うことが求められていましたが、フランスでは期限となる2023年6月22日に官報にて公表され、フランスで正式に国内法制化されました。

概要は下記の通りです。

(1)対象法人:以下のいずれかに該当するフランスに居住する法人(EU指令に準じる)

  • 連続する直近の2事業年度において、売上高が7億5,000万ユーロを超過する独立したフランス法人
  • 連続する直近の2事業年度において、連結売上高が7億5,000万ユーロを超過する最終親会社であるフランス法人
  • 連続する直近の2事業年度において、連結売上高が7億5,000万ユーロを超過し、EUもしくはEEA(欧州経済領域)の域外に居住する最終親会社に支配された「中規模以上」のフランス法人

    「中規模以上」の定義:下記の3項目のうち、2項目以上を満たすフランス法人

1.当事業年度の総資産が600万ユーロを超過
2.当事業年度の売上高が1,200万ユーロを超過
3.当事業年度の平均従業員数が50人を超過
⇒多くの在仏日系企業はこれに該当すると見込まれます。

  • 連続する直近の2事業年度において、連結売上高が7億5,000万ユーロを超過し、EUもしくはEEA(欧州経済領域)の域外に居住する最終親会社に支配されたグループに属するフランス支店。この場合のフランス支店の閾値は連続する直近の2過年度において、フランス支店の売上高が1,200万ユーロを超過していること(EU指令では800万ユーロとなっている)。
    ⇒フランスに子会社ではなく、支店を設立している場合は、これに該当するかについて検討する必要があります。
  • 連続する直近の2事業年度において、単体売上高が7億5,000万ユーロを超過し、EUもしくはEEA(欧州経済領域)の域外に居住する最終親会社に設立されたフランス支店。この場合のフランス支店の閾値は連続する直近の2過年度において、フランス支店の売上高が1,200万ユーロを超過していること(EU指令では800万ユーロとなっている)。
    ⇒グループの構成法人が日本法人とそのフランス支店のみである場合、これに該当するかについて検討する必要があります。
     

(2)免除規定:以下のいずれかに該当するフランスに居住する法人もしくは支店(EU指令に準じる)

  • 金融機関である場合(別途、既にCbCRの開示を義務付けられているため)
  • フランス国外に法人・支店を有しない場合、等
     

(3)開示事項:下記の通り(EU指令に準じる)

  • 構成法人・支店の名称、事業年度、使用通貨
  • 事業内容
  • 従業員数
  • 売上高
  • 税引前利益
  • 当該国における当期利益について当該国で納付すべき法人税額
  • 当該年度に実際に納付した法人税額
  • 利益剰余金

    注:1つの課税管轄に複数の法人・支店がある場合は、課税管轄ごとに合算します。
    注:フランス法人・支店が開示内容に不備があると認識している場合、その旨、様式に注釈を付けなければなりません。
    注:上記「当該国における当期利益について当該国で納付すべき法人税額」および「当該年度に実際に納付した法人税額」において、前年度から重要な変動がある場合、注釈を付けることが可能です。
     

(4)開示要領:下記の通り(EU指令に準じる)

  • EU加盟国ごとに記載
  • EU非協力リスト掲載国ごとに記載
  • 上記以外の課税管轄については合算して記載
     

(5)セーフガード条項:下記の通り(EU指令に準じる)
開示により事業の商業的地位に重大な不利益をもたらす場合、その情報を一時的に省略できます。ただし、省略された情報は5年以内の公開が義務となっています。省略する際はその理由を明確に記載する必要があります。また、EU非協力リスト掲載国に係る情報については、省略は不可とされました。
 

(6)開示請求:下記の通り(EU指令に準じないフランス独自の項目)
非開示法人・支店に対しては、第三者が裁判所に開示請求をすることができます。
 

(7)罰則(EU指令では罰則を許容している)
現状罰則規定はありませんが、今後罰則規定が加えられる可能性はあります。
 

(8)会計監査人の関与:下記の通り(EU指令に準じる)
会計監査人は、当該フランス法人・支店がCbCRの作成義務を負っていたかどうか、および負っていた場合には開示されたかについて、監査報告書に記載しなければなりません。
 

(9)適用開始年度:2024年6月22日以降に始まる年度(EU指令に準じる)

例:

  • 12月末決算のフランス法人・支店:2025年12月期が開示初年度となります。
  • 3月末決算のフランス法人・支店:2026年3月期が開示初年度となります。
     

(10)開示期限:決算日から12ヵ月以内(EU指令に準じる)
 

(11)テンプレートおよび様式:下記の通り(EU指令に準じる)

  • EU指令に準じて、EU加盟国の一言語であるフランス語でのテンプレートおよび様式としています。
  • 実際のテンプレートおよび様式は、今後公表予定です。
  • フランス語以外のテンプレートおよび様式に基づいて作成されたCbCRは、フランス語に法定翻訳する必要があります。
     

(12)申告・開示要領:下記の通り(EU指令に準じます。)

  • フランス法人・支店による商業裁判所への電子申告:および
  • 下記のウェブサイトのいずれかに5年間開示
    • フランス法人が独立した法人である場合、そのフランス法人のウェブサイト
    • フランス法人が最終親会社である場合、そのフランス法人のウェブサイト
    • フランスに支店がある多国籍企業の場合、
      • そのフランス支店のウェブサイト、もしくは
      • そのフランス国外の関連者(本店)のウェブサイト
    • フランスに法人がある多国籍企業の場合、
      • そのフランス法人のウェブサイト
      • そのフランス法人の姉妹関連会社のウェブサイト
      • そのフランス法人の最終親会社のウェブサイト
         

(13)ウェブサイトでの開示の免除規定:なし(EU指令に準じない)
EU指令ではEU域内の第三者がCbCRを法人登記簿で無償で閲覧できる場合、法人・支店のウェブサイトにて開示することを免除していますが、同規定は現段階のフランス国内法制では採択されませんでした。

今後の対応

適用開始年度はEU指令に準拠し、2024年6月22日以降に始まる年度となるため、対応には十分な期間を確保できると考えられます。対象となる多国籍日系企業は、以下の項目を念頭に置きながら準備を進めることが推奨されます。

  • 他EU加盟国での法制化の進捗状況と内容の確認。EU指令に準じた法制化か、もしくはEU加盟国において独自の規定を盛り込んでいるか。
  • BEPS行動13におけるマスターファイル、ローカルファイル、CbCRとの整合性の確保。
  • 日本親会社側およびフランス法人・支店における担当者の任命と、申告・開示手続きにおける責任分担の検討。
  • BEPS 2.0のGloBEルールの導入による、国別の実効税率の管理およびステークホルダーへの説明対応。

フランスで国内法制化されたCbCR開示制度の概要は以上となりますが、適用開始までまだ期間があり、フランスでの申告・開示手続きのさらなる詳細について追加の指針が公表される可能性があります。上記は現時点での概要を記載したのみですので、実務上の検討・作業にあたっては税務専門家の支援を受けることが推奨されます。

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