アップデート!非財務情報開示の今 第8回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2022年1月~3月の動向)

「週刊経営財務」(税務研究会発行)3552号(2022年4月18日)に「アップデート!非財務情報開示の今 第8回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2022年1月~3月までの動向)」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

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この記事は、「週刊経営財務3552号」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

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I.はじめに

本連載企画「非財務情報の開示を巡る国内外の動向」では、国内外の非財務情報に関する最新動向について解説している。2022年については、四半期を目途にその動向について解説を行っていく。本稿では、2022年1〜3月の動向について、以下に焦点を当てて解説する。

(国内の動向)

  • 金融審議会/Disclosure Working Group(以下「DWG」という。)における審議
  • 経済産業省/非財務情報の開示指針研究会における討議


(国際的な動向)

  • 欧州財務報告諮問グループ(以下「EFRAG」という。)によるサステナビリティ報告基準の作業文書の公表
  • 自然関連財務情報開示タスクフォース(以下「TNFD」という。)によるフレームワークベータ版(v0.1)の公表
  • 米国証券取引委員会(以下「SEC」という。)による気候変動情報開示規則案の公表
  • 国際サステナビリティ基準審議会(以下「ISSB審議会」という。)によるIFRS®サステナビリティ開示基準の公開草案の公表

なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを申し添える。

II.金融審議会/DWGにおける審議

2021年9月から、金融庁に設置された金融審議会/DWGで有価証券報告書における開示要求の拡充を視野に入れた検討がされている。同会議は、概ね1か月に一回のペースで開催されており、2022年1月は経営上の重要な契約、2022年2月は情報開示の頻度・タイミング(四半期開示のあり方に関する事項を含む。)、2022年3月はサステナビリティ開示全般・気候変動に関する開示と人的資本・多様性等に関する開示について議論されている。このうち、2022年3月の審議では、具体的には、事務局から、今後の進め方について以下のような論点が提示されたうえで議論がされた。

  • 「サステナビリティ情報」について、以下の取組みを並行して進めていくことについてどう考えるか
    • 有価証券報告書にサステナビリティ項目に関する「記載欄」を設け、当初の開示項目として、「ガバナンス」と「リスク管理」は全ての企業が開示し、「戦略」と「指標と目標」は各企業が重要性を判断して開示する。
    • 任意開示等において、気候変動関連の開示の質と量の充実を促す。
    • サステナビリティ基準委員会(以下「SSBJ」という。)において、ISSB審議会等への意見発信を進めつつ、日本における実務面も踏まえた検討を進める。
    • SSBJの検討結果を踏まえ、DWGで改めてサステナビリティ開示の個別項目の取り扱いを議論するとともに、SSBJの役割の明確化に向けた検討を進める。
    • 中長期的な課題として、サステナビリティ開示における保証の在り方に関する検討を進める。
  • 「人的資本・多様性」に関しては、ISSB審議会の基準策定作業を先取りし、以下の取組みを進めることについてどう考えるか
    • 中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む。)や「社内環境整備方針」の開示を求める。
    • 上記の「方針」と整合的で測定可能な指標の設定、その目標及び進捗状況の開示を求める。
    • 企業の多様性確保に係る指標として、中長期的な企業価値判断に必要な項目の開示を求めるとしたうえで、企業負担等の観点から、他の法律の定義・枠組みに従って開示する。

(出所:第7回金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(令和3年度)事務局説明資料P41-45を筆者要約)

III.経済産業省/非財務情報の開示指針研究会における討議

2021年6月から、経済産業省に設置された非財務情報の開示指針研究会(以下「非財務研究会」という。)で、非財務情報の開示指針の方向性について認識の共有を行いつつ、非財務情報の利用者との質の高い対話につながる開示、及び開示媒体の在り方について検討がされている。2022年2、3月はISSB審議会のTechnical Readiness Working Group(以下「TRWG」という。)が公表したサステナビリティ関連財務情報開示の全般的な要求事項のプロトタイプ、及び気候関連開示プロトタイプに関する議論が行われた。

また、2022年3月25日に、非財務研究会から上記プロトタイプに対する基礎的な見解が公表されている。公表された見解では、全体としてプロトタイプに対して賛同が示されたほか、指標の内容や算定方法の過度な具体化への懸念、マテリアリティの検討に当たってのガイダンス文書の作成の提案、全般的要求事項と気候関連開示プロトタイプの記載の重複に対する懸念などが示されている。

IV.EFRAGによるサステナビリティ報告基準の作業文書の公表

EUでは、2023年または2024年度からサステナビリティ情報の開示要求を大幅に拡充する方向で、指令の策定(Corporate Sustainability Reporting Directive:CSRD)に向けた検討が進められている。CSRD案では、新たに策定されるサステナビリティに係る報告基準に準拠して情報を作成することとされているが、この報告基準に係る作業文書が、EFRAGから2022年1月より続々と公表されている。

作業文書で示されている本報告基準の全容は図表1のとおりである。すべての開示に関係する戦略、ガバナンス、影響、リスク、機会に関する開示基準を設けるとともに、E・S・Gのそれぞれに分けたセクター共通の開示基準が設けられ、セクター固有の規定も設けられる予定である。また、表示に関する基準、及び概念ガイドラインも作成される予定である。

図表1:欧州サステナビリティ報告基準の一覧(2022年1月時点)

項目 基準コード、基準名
戦略、ガバナンス、影響、リスク、機会

ESRS

  1. 一般的な要求事項
  2. 戦略及びビジネスモデル
  3. サステナビリティに関するガバナンスと組織
  4. サステナビリティに関する重要なインパクト、リスクと機会
  5. 方針、目標、行動計画及びリソースに関する定義
セクター共通

ESRS E

  1. 気候変動
  2. 汚染
  3. 水・海洋資源
  4. 生物多様性
  5. 循環経済

ESRS S

  1. 自社の従業員
  2. 自社の労働環境
  3. 自社の機会の平等
  4. 自社の労働関連の権利
  5. バリューチェーン上の従業員
  6. 影響を受けるコミュニティ
  7. 消費者、最終利用者        

ESRS G

  1. ガバナンス、リスク管理、内部統制
  2. 製品・サービス、取引先との関係の管理・質
  3. 責任ある事業慣行
セクター固有

ESRS SEC

  1. セクター分類
    ※開示すべきセクター別情報は、ESRS SEC2からESRS SEC41において決定される(ESRS SEC1 1項より)。
表示

ESRS P

  1. サステナビリティに係るステートメント
概念に係るガイドライン

ESRG

  1. ダブルマテリアリティ
  2. 有用な情報の質的特性
  3. 時間軸
  4. バウンダリーと報告のレベル
  5. EU基準と国際的な基準の整合性
  6. 結合性

(出所:PTF-ESRS Batch 1 working papers-Cover note and next stepsより筆者作成)

図表1で示されているとおり、EFRAGのサステナビリティ報告基準では「E」分野だけでなく、「S」や「G」についても具体的な規定化が予定されており、「E」の中でも気候変動だけでなく生物多様性や循環経済など、様々な開示が求められることが想定されている。EUに所在する日系企業の現地法人でも、CSRDの適用対象となる企業が存在するため、子会社に対象企業が存在する場合、作業文書の内容からサステナビリティ報告基準の動向を注視する必要があると考えられる[1]

V.TNFDによるフレームワークベータ版(v0.1)の公表

1.TNFDとは

まず、本ガイダンスの公表主体である自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:TNFD)について説明する。TNFDは、世界の金融の流れを自然にとってマイナスの結果からプラスの結果へとシフトさせるようサポートすることを究極の目的として、自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みを提供することを目標とした国際的な組織である。TCFDに続く枠組みとして、2019年に世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で着想され、2021年に立ち上げられている。日本では、環境省がTNFDの議論をサポートするステークホルダーの集合体であるTNFDフォーラムに参加している。

2.TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク

TNFDは2022年3月22日にTNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク(以下「TNFDフレームワーク」という。)ベータ版v0.1を公表した。TNFDフレームワークは、投資家、アナリスト、企業経営者や取締役、規制当局、証券取引所、会計事務所など、様々な市場参加者に関係がある自然関連リスクと機会に関する提案とガイダンスを提供することを目指している。なお、今年及び来年にかけて複数回ベータ版が公表される予定であり、最終的な提言は2023年後半に発表される予定である。

TNFDフレームワークベータ版v0.1には、次の3つのコア要素が含まれている。

(1)自然を理解するための基本(となる知識)

(2)TNFDによる情報開示の提言(草稿版)

(3)自然関連リスクと機会を評価するためのLEAP(Locate、 Evaluate、 Assess、 Prepare:発見、診断、評価、準備)プロセス

(出所:TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク ベータ版v0.1リリース エグゼクティブサマリー(日本語)P4より抜粋、一部追記)

(1)自然を理解するための基本(となる知識)
ここでは、自然、依存関係と影響、及び自然関連リスクと機会に関するTNFDの定義を示している。TNFDでは、自然を4つの領域(陸、海、淡水、大気)で構成されると定義し、環境資産(森林、湿地、サンゴ礁、農地など)を地球に自然に存在する生物と非生物の構成要素と定義している。また組織がビジネスプロセスを機能させるうえで依存している生態系サービス(清潔で定期的な水の供給など)を依存関係と定義している。組織は、環境資産や生態系サービスに対してプラスにもマイナスにもなる影響を与えるが、これにより将来の自然関連リスクと機会を生み出す可能性があるとしている。

上記の例として、TNFDフレームワークはミツバチの受粉活動について挙げている。陸上生態系内のミツバチは環境資産に当たり、それらによって提供される受粉サービスが生態系サービスとなる。ミツバチの受粉行動によって作物の受粉を行い、原材料としている会社にとって受粉サービスは依存関係となるが、森林伐採によるミツバチの個体数の減少は原材料の収穫量・質の低下をもたらすため、森林伐採は環境資産及び生態系サービスに対するマイナスの影響となり、将来の自然関連リスクを生み出すこととなる。

(2)TNFDによる情報開示の提言(草稿版)
情報開示に関するTNFDの提言は、TCFDが既に提案した内容に基づいている。すなわち、図表2のように、情報開示に関するTCFDの4つの柱であるガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標に沿ったものとなっている。なお、指標と目標の温室効果ガスの開示については現在検討中であり、次版以降のベータ版に含められることが予定されている。

図表2:情報開示に関するTNFDの提言(草稿版)

図表 ②	TNFDによる情報開示の提言(草稿版)

(出所:TNFD自然関連リスクと機会管理・豊穣開示フレームワーク ベータ版v0.1リリース エグゼクティブサマリー(日本語)P6より抜粋)

(3)自然関連リスクと機会を評価するためのLEAPプロセス
TNFDの提言には、LEAP(Locate、 Evaluate、 Assess、 Prepare:発見、診断、評価、準備)と呼ばれる自然関連リスクと機会に関する統合評価プロセスが含まれている。LEAPアプローチは、次の4つの中核的な分析アクティビティのフェーズから構成されている。

  • 自然との接点を発見する
  • 依存関係と影響を診断する
  • リスクと機会を評価する
  • 自然関連リスクと機会に対応する準備を行い、投資家に報告する

(出所:TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク ベータ版v0.1リリース エグゼクティブサマリー(日本語)P7より抜粋)

LEAPアプローチは、企業や金融機関が社内で自然関連リスクと機会を評価できるようにするための任意のガイダンスではあるが、TNFDは、アナリストや財務報告書の作成者が使用する同様のアプローチでは、同じ構成要素と検討事項を含めることが極めて重要であるとの考えを示している。

VI.SECによる気候変動情報開示規則案の公表

SECは、2022年3月21日に、上場企業に気候変動リスクの開示を求める規則案を公表した。開示事項としては、主に(1)気候に関するリスク及びその影響、(2)気候関連リスクのガバナンス及びリスク管理プロセス、(3)温室効果ガス排出量、(4)財務諸表注記での特定の気候関連財務指標及び関連する開示、及び(5)気候関連の指標及び目標、該当する場合移行計画に関する情報があり、全体としてTCFD提言が基礎とされている。

一部の大企業[2]には、Scope1、2の温室効果ガス排出量について、当初、限定的保証業務を受けるほか、数年経過後に合理的保証業務を受けることが提案されている。現行の温室効果ガス排出量に対する保証業務は限定的保証業務がほとんどであるため、本規則案がそのまま最終化された場合には、開示を行う企業及び保証業務を提供する監査事務所等の双方への影響が大きいものと考えられる。

VII.ISSB審議会によるIFRSサステナビリティ開示基準の公開草案の公表

ISSB審議会は、3月31日に、公開草案「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(IFRS S1)」及び「気候関連開示(IFRS S2)」を公表した(以下「全般的な開示基準」及び「気候関連開示基準」という。)。本公開草案は、本稿3.でも触れた、TRWGによって作成されたサステナビリティ関連財務情報開示の全般的な要求事項のプロトタイプ及び気候関連開示プロトタイプをベースに、全般的な開示基準では定義の明確化、気候関連開示基準では移行計画及びカーボンオフセットに関する情報開示、シナリオ分析の要求事項などが追加されている[3]

全般的な開示基準では、サステナビリティに関連する財務情報開示のコアとなる要素を包括的に規定している。また、企業が全般的な開示基準に従って気候関連の開示を行う際には、気候関連開示基準を適用しなければならないとされている。両基準は、TCFD提言と整合したものとなっており、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つの事項に沿った開示を行うことが提案されている。

なお、SECによる気候変動情報開示規則案及びISSB審議会による公開草案については、今後、別稿において詳細な解説を予定している。

VIII.おわりに

本稿では、2022年1〜3月における、非財務情報開示に関する国内外の動向について概観した。特に3月は主要な団体からサステナビリティ関連基準案が次々と公表されており、2022年はサステナビリティ報告の制度化が急速に進んでいく一年になると考えられる。本連載の次回の記事では4〜6月の主な動向について解説する予定である。

注記
[1]  参考:本誌3516号「アップデート!非財務情報開示の今 第1回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2021年6月までの動向)」
[2] 早期登録会社(概ね、株式時価総額7、500万ドル以上の企業が相当)及び早期登録大規模会社(概ね、株式時価総額7億ドル以上の企業が相当)が該当する。
[3] 参考:本誌3536号「アップデート!非財務情報開示の今 第6回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2021年11月の動向)」

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アシスタントマネジャー 公認会計士
渡部 瑞穂(わたなべ みずほ)

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