ASBJ、「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」を公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2022年3月15日、「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」(以下「本論点整理」という。)を公表しました。

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2022年3月15日、「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関...

本論点整理は、金融商品取引法上の電子記録移転権利又は資金決済法上の暗号資産に該当する ICO トークンの発行及び保有に係る取引に関する会計基準を整備していく一環と して、関連する論点を示し、基準開発の時期及び基準開発を行う場合に取り扱うべき会計上の論点について関係者からの意見を募集することを目的としています。

本論点整理に対するコメント期限は、2022年6月8日です。

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I.本論点整理の公表の経緯

2016年に改正された「資金決済に関する法律」(以下「資金決済法」という。)を受け、ASBJでは、2018年3月に実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下「実務対応報告第38号」という。)を公表しました。しかしながら実務対応報告第38号は当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取扱いのみを定めたものであり、企業が仮想通貨※1を発行した場合の会計処理は、対象範囲からは除外されていました。

さらに、2019年に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」により、金融商品取引法が改正され、いわゆる投資性ICO※2については金融商品取引法の規制対象となりました。

こうした状況を受けて、ICOトークンの発行・保有等に係る会計上の取扱いの検討が必要となり、うち、金融商品取引法上の電子記録移転権利※3については、早期に会計基準を開発する一定のニーズが存在するものと考えられたため、ASBJはより範囲の広い電子記録移転有価証券表示権利等※4を対象として、実務対応報告公開草案第63号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(以下「実務対応報告(案)という。」を公表しました。

他方、引き続き資金決済法の規制対象とされた投資性ICO以外のICOトークン(「暗号資産」に該当するものに限る)については、対象とする取引事例が少数であり、特に個別性が強いことも考えられる発行取引に関して取引に対する関係者の共通認識が必ずしも定まっていないと考えられることから、ASBJは本論点整理において、識別した論点の整理を公表し、関係者からの意見を募集することとしました。
 

※1 資金決済法上の仮想通貨とは、以下のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができるものをいう(ただし、通貨建てのものを除く)。

  1. 物品の購入若しくは借り受け、又は役務提供の対価の支払いのために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却することができる財産的価値
  2. 不特定の者を相手方として、1と相互に交換することができる財産的価値

なお、2020年の資金決済法の改正により、仮想通貨は暗号資産に呼称が変更された。

※2 Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称。明確な定義はないが、発行者が将来的な事業収益等を分配する債務を負っているとされるものが投資性ICOにあたる。

※3 電子記録移転権利とは、下記※4の電子記録移転有価証券表示権利等の説明1及び2のうち、2に対応するもの(一部内閣府令で定めるものを除く)。

※4 電子記録移転有価証券表示権利等とは、以下の金融商品取引法第2条第2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下「みなし有価証券」という。)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるものをいう。

  1. 社債券や株券等、有価証券に表示されるべき権利(有価証券表示権利)のうち、当該権利を表示する有価証券が発行されていないもの(金融商品取引法第2条第2項柱書)
  2. 信託受益権、持分会社の社員権、集団投資スキーム持分等(金融商品取引法第2条第2項各号)

II.本論点整理の主な内容

1.論点整理を行う範囲

本論点整理では、資金決済法上の暗号資産に該当するICOトークンを対象として、その発行及び保有に関する論点について取り扱っています。併せて、電子記録移転有価証券表示権利等に該当するICOトークンについても、当該実務対応報告(案)で取り扱わないこととした一部の発行及び保有に関する論点について本論点整理において取り扱っています。なお、次項以下において「ICOトークン」は、資金決済法上の暗号資産に該当するICOトークンを指します。

2.主要な論点

【論点1】基準開発の必要性及び緊急性、並びにその困難さ
ICOトークンの発行取引のこれまでの実施状況及び今後の普及見込み、並びに現在、会計基準が存在しないことがICOトークンの普及に及ぼしている影響の有無を踏まえ、速やかに基準開発に着手すべきか否か、速やかに着手しない場合は効果的かつ効率的な基準開発の観点からどのようなタイミングで基準開発に着手すべきかが論点となります。

【論点2】ICOトークンの発行者における発行時の会計処理
ICOトークンの発行取引については、発行者が何ら義務を負担しないケースのほか、発行者が財又はサービスを提供する一定の義務を負担するとしても、その財又はサービスの価値が調達した資金の額に比して著しく僅少であるケースの存在も聞かれており、発行時に利益が生じうる会計処理を定めるべきか否かを考える上では、ICOトークンの発行取引の実態をどう捉えるのかが論点となります。

【論点3】資金決済法上の暗号資産に該当するICOトークンの発行及び保有に関するその他の論点
自己が発行したICOトークンを保有している場合について、(a)ICOトークンの発行時において自己に割り当てたICOトークンの会計処理と、(b)ICOトークンの発行後において第三者から取得したICOトークンの会計処理、が論点となります。

【論点4】電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有に関する論点

電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有に関して想定される論点のうち、以下の論点を取り上げています。

  • 株式会社以外の会社に準ずる事業体等における発行及び保有の会計処理
  • 株式又は社債を電子記録移転有価証券表示権利等として発行する場合に財又はサービスの提供を受ける権利が付与されるときの会計処理
  • 暗号資産建の電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理
  • 組合等への出資のうち電子記録移転権利に該当する場合の保有の会計処理(現行の組合等への出資の処理と同様の取扱いとするか、それとも有価証券に係る現行の定めを準用するか)

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
マネジャー 豊永 貴弘

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