ASBJ、実務対応報告第43号 「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」を公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2022年8月26日、実務対応報告第43号 「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表しました。

企業会計基準委員会は、実務対応報告第43号 「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表しました。

本実務対応報告では、「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示について定めています。本実務対応報告は、2022年3月15日に公開草案が公表され、これに寄せられたコメントの検討を経て公表されたものです。なお、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する、新株予約権や新株予約権付社債を発行する場合の会計処理に関する記載が追加されていますが、大きな見直しはありません。

I.本実務対応報告の公表の経緯

2019年に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正され、いわゆる投資性ICO*1については金融商品取引法の規制対象となりました。

こうした状況を受けて、ASBJは電子記録移転有価証券表示権利等*2に係る会計上の取扱いについて検討を重ね、その結果を実務対応報告として公表しました。

*1  Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称。明確な定義はないが、発行者が将来的な事業収益等を分配する債務を負っているとされるものが投資性ICOにあたる。

*2  電子記録移転有価証券表示権利等とは、以下の金融商品取引法第2条第2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下「みなし有価証券」という。)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるものをいう。

  1. 債券や株券等、有価証券に表示されるべき権利(有価証券表示権利)のうち、当該権利を表示する有価証券が発行されていないもの(金融商品取引法第2条第2項柱書)
  2. 信託受益権、持分会社の社員権、集団投資スキーム持分等(金融商品取引法第2条第2項各号)

II.本実務対応報告の主な内容

1.範囲

本実務対応報告は、株式会社が電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としています。すなわち、株式会社以外の信託、持分会社、民法上の任意組合、商法上の匿名組合等(「会社に準ずる事業体等」という。)による電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は対象とされない一方で、株式会社による保有の会計処理においては、発行者がいずれの事業体等であるかにかかわらず、電子記録移転有価証券表示権利等を保有する場合の会計処理を取り扱うこととしています。

2.電子記録移転有価証券表示権利等の会計処理の基本的な考え方

電子記録移転有価証券表示権利等は、その定義上、従来のみなし有価証券と権利の内容は同一であると考えられます。すなわち、電子記録移転有価証券表示権利等の発行と従来のみなし有価証券の発行との差は、いわゆるブロックチェーン技術等を用いて発行するか否かのみであると考えられます。したがって、本実務対応報告では電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券を発行及び保有する場合の会計処理と同様に取り扱うこととしています。

なお、金融商品取引法上の有価証券であっても、一部の信託受益権は、「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)及び「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品実務指針」という。また、両者合わせて、以下「金融商品会計基準等」という。)上の有価証券には該当しません。そのため、本実務対応報告でも別の取扱いとされています。

3.電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理

従来のみなし有価証券の発行と同様、電子記録移転有価証券表示権利等の発行に伴う払込金額は以下のように負債、株主資本又は新株予約権として会計処理を行うこととしています。

(1)発行に伴う払込金額が負債に区分される場合
金融商品会計基準第7項に従って契約上の義務を生じさせる契約を締結したときに発生の認識を行い、金融商品会計基準第26項に従ってその金額を、原則、債務額をもって算定する。また、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する新株予約権付社債の場合には、「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下「複合金融商品適用指針」という。)等の定めに従う。
 

(2)発行に伴う払込金額が株主資本又は新株予約権に区分される場合
企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(以下「純資産会計基準」という。)第5項から第7項に従い、資本金、資本剰余金などその内訳項目に区分し、会社法第445条及び第446条の規定に従って払込金額を計上する。また、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する新株予約権付社債の場合には、複合金融商品適用指針等の定めに従う。

なお、1.範囲に述べた通り、本実務対応報告の対象は株式会社による発行に限られています。すなわち、金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない一部の信託受益権についての受託者による信託の会計処理は対象とされていません。

4.電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理

(1)金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合

  • 発生及び消滅の認識
    原則として金融商品会計基準第7項から第9項及び金融商品実務指針に従い、契約上の権利を生じさせる契約を締結したときに発生を認識し、契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したとき又は権利に対する支配が他に移転したときは、当該金融資産の消滅を認識することとしています。

    なお、約定日から受渡日までの期間が市場の規則又は慣行に従った通常の期間である有価証券の売買については金融商品実務指針に別途の定めがあり、原則約定日基準で有価証券の発生及び消滅が認識されます。この点、電子記録移転有価証券表示権利等の売買については、事例が限定的である現状を踏まえると、約定日及び受渡日が明確ではない場合が生じ得ると考えられ、また、実務上、約定日から受渡日までの期間が市場の規則又は慣行に従った通常の期間であるかどうかの判断が困難である可能性があります。よって、従来のみなし有価証券とは異なり、売買契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合には、約定日から受渡日までの期間が市場の規則又は慣行に従った通常の期間であるか否かを問うことなく、売買契約を締結した時点で、買手は発生を、売手は消滅を認識することとしています。なお、売買契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間かどうかは、我が国の上場株式における受渡しに係る通常の期間と概ね同期間かそれより短い期間であるかどうかに基づいて判断することが考えられるとされています。
  • 貸借対照表価額の算定及び評価差額の会計処理
    従来のみなし有価証券と同様に、金融商品会計基準第15項から第22項における有価証券の保有にかかる定め、および、金融商品実務指針(組合等の会計処理を定める第132項及び第308項を含む)に従い会計処理することとしています。

(2)金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない場合
金融商品会計基準等上有価証券として取り扱われない一部の信託受益権については、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(以下「実務対応報告第23号」という。)の定めに従うこととしています。

ただし、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号に基づき、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱われるものについての発生及び消滅の認識は、上記(1)金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合と同様に行うこととしています。

5.開示

従来のみなし有価証券に求められる表示方法及び注記事項と同様とされています。

6.適用時期

2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されます。ただし、実務対応報告の公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間からの早期適用も認められます。

図1 株式会社が電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の会計処理のまとめ

図表1

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
マネジャー 豊永 貴弘

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