「コロナ時代のBCP」第17回。人権問題に関する意識が世界的に強くなっており、企業が事業を継続するには自然災害だけでなく、これらのリスクについても対応する必要があります。今回は、人権問題・規制を踏まえたBCP(事業継続計画)を見直す3つのポイントについて解説します。
本連載は、日経産業新聞(2021年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

世界的に一般消費者の間で人権への意識が高まり、企業で人権問題が露呈するとレピュテーション(評判)の毀損につながるケースも増えている。「サプライヤーや取引先が知らないうちに人権を侵害していた」といった企業の管理外での問題で責任を問われる事例も見られる。
国際労働機関(ILO)の推定では、全世界で2,100万人が強制労働や人身取引などを強いられている。被害者の90%(1,870万人)は企業活動により搾取され、これらの企業は強制労働からの多くの不法利益をあげているとされる(2021年5月執筆時点)。

サプライチェーンを含めた従業員の人権に関する各国・地域の規制も厳しくなっており、企業が事業を継続するには自然災害だけでなく、これらのリスクについても対応する必要がある。人権問題・規制を踏まえてBCP(事業継続計画)を見直す3つのポイントを紹介したい。

まず1点目は「規制の把握・モニタリング」である。米カリフォルニア州のサプライチェーン透明法や英国の現代奴隷法など、海外では取引先などの労働環境について事前の調査・報告などを求める規制・法律が相次ぎ導入されている。日本でも同様の法整備が進むことが想定され、常に注視する必要があるだろう。
日本での法整備を待つだけではない。自社のサプライチェーン上で人権侵害が発生していないか、今は違反していなくても将来規制に抵触するような事業計画になっていないかなど、先読みして対策を立てるとともに、自社の海外拠点などを活用しながら海外での規制動向を継続的にモニタリングしていくことが欠かせない。

2点目は「リスク顕在化への備え」である。リスクの未然予防の検討も重要であるが、同時に実際にリスクが発生する事態を想定したうえでの検討も必要である。たとえば、外注先・調達先による児童労働が発覚した、またNPOなどからの問い合わせなどを受けた場合に企業としていかに対応すべきなのか、投資家や顧客からの信頼失墜などの影響をいかに最小限にとどめることができるのかなど、あらかじめシミュレーションし、手順化することである。

3点目は「新技術を活用したトレーサビリティ(履歴追跡)の確保」である。グローバル化によってサプライチェーンが複雑化したことで、人手によって把握・管理するには限界にきている。ブロックチェーン技術などを活用すれば、サプライチェーンの可視化とトレーサビリティの確保、また問題発生時の早期検出が容易になる。
そうしたシステムを整えるに当たって、各サプライヤーや取引先との対話も欠かせない。彼らの状況を理解したうえで相互にどういうメリットがあるか検討し、現地などの実情に応じた仕組みづくりとインセンティブ(誘因)設計につなげていくことが必要となる。

以上のような対応が企業の持続可能性の要件になってきており、経営者は透明性と説明責任を持った対応が求められている。

人権に関する海外の主な規制
制定年 法令・規制名
米国政府 2015年

連邦調達規則
米カルフォルニア州 2012年

サプライチェーン透明法
欧州連合(EU) 2014年
非財務情報開示指令
2021年 紛争鉱物資源規則
英国 2015年

現代奴隷法
オーストラリア 2018年

現代奴隷法

執筆者

KPMGコンサルティング シニアコンサルタント 峠 真央

日経産業新聞 2021年5月14日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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