実質金利によるキャッシュ・フローの変動性のヘッジ(IFRS第9号に関連)- IFRS-ICニュース

IFRS解釈指針委員会ニュース - 「 実質金利によるキャッシュ・フローの変動性のヘッジ(IFRS第9号に関連)」については、2021年6月のIFRS-IC会議において審議された内容を更新しています。

「 実質金利によるキャッシュ・フローの変動性のヘッジ(IFRS第9号に関連)」については、2021年6月のIFRS-IC会議において審議された内容を更新しています。

関連基準

IFRS第9号「金融商品」

概要

IFRS-ICは、企業のリスク管理目的に合致する場合に、LIBOR等の名目金利ではなく、(名目金利から物価変動の影響を除去した)実質金利の変動から生じるキャッシュ・フローの変動リスクのヘッジにキャッシュ・フロー・ヘッジを適用できるかについての質問を受け取りました。前提となる取引は以下のとおりです。

  • 企業はLIBOR等の金利指標を参照する変動金利負債を発行する。
  • 企業はインフレーション・スワップを締結する(上記変動金利負債から生じる変動金利キャッシュ・フローを受け取り、インフレ指標に連動するキャッシュ・フローを支払う)。

ステータス

IFRS-ICの決定

キャッシュ・フロー・ヘッジは認識されている資産又は負債の全部又は構成要素に係る特定のリスクに起因し、かつ純損益に影響する可能性があるキャッシュ・フローの変動性に対するエクスポージャーのヘッジです(IFRS9.6.1.1, 6.5.2)。IFRS第9号のキャッシュ・フロー・ヘッジにおいて、企業は特定のリスク要素をヘッジ対象に指定することができますが、その場合当該リスク要素が独立に識別可能かつ信頼性をもって測定可能であることが要求されています(IFRS9.6.3.7)。この点、反証可能ではあるものの、インフレリスクは契約上で特定されている場合を除き、この要件を満たさないとされています(IFRS9.B6.3.13)。

IFRS-ICは、企業がIFRS第9号6.4.1項のヘッジ会計の適格要件を検討するにあたって、質問の取引にキャッシュ・フロー・ヘッジを適用するためには、以下について評価する必要があることを指摘しました。

・実質金利要素は、独立に識別可能かつ信頼性をもって測定可能であるか(IFRS9.6.3.7の要求)

・その結果、企業は変動利付金融商品に含まれる実質金利要素に起因するキャッシュ・フローの変動エクスポージャーを有しているか(IFRS9.6.5.2(b)の要求)

IFRS-ICは、以下のとおり指摘しました。

  • リスク要素をヘッジ指定するためには、リスク要素は個別のヘッジ関係において独立に識別可能かつ信頼性をもって測定可能でなければならない。実質金利が契約上明示されていないリスク要素としてヘッジ対象の適格要件(IFRS第9号6.3.7項の要求)を満たすためには、変動利付金融商品が発行されヘッジ活動が行われる市場構造によりその適格性が担保される必要がある。そのためには実質金利は変動ベンチマーク金利を決定する際の識別可能な価格決定要素でなければならず、これはすなわち、実質金利の変動により変動利付金融商品に生じるキャッシュ・フローの変動が、独立に識別可能かつ信頼性をもって測定可能であるということを意味している。
  • IFRS第9号B6.3.13項は反証可能な推定として「インフレリスクは契約上明示されている場合を除き独立に識別可能で信頼性をもって測定可能なものではない」と述べているが、これは公正価値ヘッジとキャッシュ・フロー・ヘッジの両方に適用される。IFRS第9号B6.3.14項は物価連動債券の量と期間構造が十分に流動性のある市場を形成しておりその結果としてゼロクーポン実質金利の期間構造の構築が可能となっている状況に言及しているが、これは公正価値ヘッジの場合に上記推定が反証できるケースの例示である。一方、名目金利は通常、実質金利の変動を直接の原因として変動しないため、関連する負債性証券の市場からゼロクーポン実質金利の期間構造を導けたとしても、そのこと自体は質問のキャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ関係においてIFRS第9項B6.3.13項の反証可能な推定を覆すことにはならない、とIFRS-ICは結論付けた。
  • IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」は第6項でキャッシュ・フローを「現金及び現金同等物の流入と流出」と定義しているが、性質上、これは名目金額として捉えられている。また、変動利付金融商品の利息も特定の通貨に関しての名目金額で定義される。よって、IFRS第9号のキャッシュ・フロー・ヘッジの要件を満たすためには、ヘッジ指定されたリスク要素に起因する変動利付金融商品のキャッシュ・フローの変動性は名目金額で評価する必要がある。名目金利(LIBOR等)は、長期的には期待インフレ率と実質金利の影響を受けるかもしれないが、インフレ率又は実質金利の変動を直接の原因としては変動しない。つまり、名目金利の決定において、これらは識別可能な価格決定要素ではない。

上記の理由から、IFRS-ICは、質問のキャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ関係において、実質金利の変動に起因するキャッシュ・フローの変動のエクスポージャーはなく、したがってIFRS第9項6.3.7項及び6.5.2(b)項は満たされないと結論付けました。結果として、質問のキャッシュ・フロー・ヘッジ関係において、実質金利要素はIFRS第9号6.4.1項のヘッジ対象の適格要件を満たさないことになります。

IFRS-ICは、2021年4月のIFRS-IC会議で、IFRS第9号の要求事項が十分な判断の基礎を示していると判断し、アジェンダに追加しないことを決定しました。当該アジェンダ決定は、2021年5月のIASB審議会で議論され、反対がなかったため、2021年5月に公表されました。

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