地方経済とコロナショック - "コロナショック"をどう読むか -

地方経済とコロナショック - "コロナショック"をどう読むか -

今回(第5回目)が最終回となります。今回は、地方経済とコロナショックについて、「各地に共通する課題」と「中長期的に何を考えるか」などについて解説します。

水口 毅

ディレクター

あずさ監査法人

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1.各地に共通する課題

今回のコロナショックは、地方経済に深刻な影響を与えている。観光業等について域外からの需要の急減などが目立つほか、コロナショックの発生の前から存在する問題への対処も難しくなってきている(図表1参照)。

図表1 地方経済とコロナショック:問題の所在
図表1 地方経済とコロナショック:問題の所在

図表1における(1)~(5)の順に説明する。

(1)観光需要の落ち込み
わが国は、国を挙げてインバウンド観光需要の取り組みを進めてきただけに、今回のコロナショックで外国人観光客が「蒸発」したことは非常に厳しい。この先、延期されたオリンピックが来年に開催され、対日インバウンド観光需要が回復するシナリオもあるだろう。ただ、現時点では「太鼓判」を押しにくいように思う。海外では、新型コロナウイルスの感染拡大がなお続いているからである。
海外からに比べ、国内他府県からの来客の需要のほうが、比較的早期の回復が期待できそうだ。ただ、他府県の人々が観光地に来て前向きにお金を使うためには、やはり景気全般が上向くことが必要だ。今後、景気全般は上向いていくのだろうか。観光業界の設備投資時期を決断する際などには、第1回から第4回でご説明したさまざまな情報源をご覧頂き、世界や日本の経済の全体的な流れをよく読むことが必要だと思う。

(2)サプライチェーンの中の企業の難しさ
各地で経済を支える企業の中には、グローバルにビジネスを展開する企業群の中の「関連会社」が存在する。大手自動車メーカーと継続的に取引をしている部品メーカーなどをイメージするとわかりやすい。
今回のコロナショックで、中国で経済活動が事実上ストップしていた今年の春頃には、中国にあるサプライチェーンの上流からの素材や部品の供給が止まる事態が生じた。そうした上流からの流れの問題は、現在は落ち着いているように思う。しかし、現在も、世界的に自動車などの「耐久消費財」の売れ行きは落ち込んでいる。つまり、サプライチェーンの中に位置する各地の「関連会社」は、主に需要面の問題を背景として、厳しい局面にある。

(3)サービス業の提供の際の問題
各地の経済の中では「域内需要」に対応するものも重要だ。卸・小売から住宅関連・不動産・交通・公共サービス等々が、地域の生活や経済を支えている。
大都市部との対比でとらえると、次の特徴があると思われる。

  • 「高齢化」が先行している。このため、介護等の高齢者向けのサービスの比重が高い。
  • 「人口密度」が相対的に低い。このため、財・サービスの提供の主体が、相対的に小規模で散在していることが多い。そして、情報基盤などの整備も大都市部に比べて遅れがちであることが多い。

今回の新型コロナウイルスは、その感染拡大防止のために「ソーシャルディスタンス」の確保を人々に要求した。しかし、地域の「域内の需要」に応えるための、例えば介護などのサービス業では、どうしても人と人との「密」なふれあいが必要である。

(4)生産性の低さ・人手不足・経営者の高齢化・事業承継
地域経済では、介護サービス等の需要増加に伴い、就業者一人当たりの生産性が低下し、人手が一段と不足するという悩みが生じている。
また、地元企業の経営者の高齢化、事業承継等もコロナ前からの大きな課題である。

(5)道路・橋・水道・教育・医療
日本では、高度成長期に道路・橋・水道などのインフラ整備が集中した結果、それらが老朽化し維持や補修等が必要になる時期も集中する。人口密度が低い地域ではそのコストの負担は特に重い。コロナショックが地域経済に負の影響を与えると、インフラ維持の負担は一段と重く感じられることになるだろう。
高齢化が進んだ地域で、若者の能力を伸ばすとともに高齢者を守ることが重要な課題である。コロナショックで「情報技術を活用したオンライン教育」が広く使われるようになってきたし、「オンライン診療」も認められるようになった。こうした変化は、地方経済にとって、優先的に対応すべき課題のように思われる。

2.中長期的に何を考えるか

図表2 地方経済とコロナショック:期待される対処の方向性

グローバル需要の中での自県の位置づけの再確認
デジタル化による生産性の向上、テレワーク対応、外国人労働者受入れ態勢の再確認
地域ごとのBCP態勢の強化


(1)グローバル需要の中での自県の位置づけの再確認
コロナショックは長く続いた「グローバル化」に揺らぎを与えている。大企業は「これまでのグローバルサプライチェーンのあり方の再検討」を進める可能性がある。そうした中で、各地域が、自らの産業の歴史・伝統を踏まえて、次の時代における当該地域の個性を訴え、存在感を出していくことは重要だと思われる。

(2)デジタル化による生産性の向上、テレワーク対応、外国人労働者受入れ態勢の再確認
わが国では、大きな流れとして労働力人口の減少が進んでいる。コロナショックは、非対面・オンラインでのビジネスを大きく後押しした。
そうした中で、製造業であっても、観光業・飲食関連などの非製造業であっても、顧客管理、受発注管理、売上・会計の処理、資金決済等について、新しい技術を活用して、少ない人数で効率的に処理できるようにする(=生産性を高くする)ための設備投資が重要だと考えられる。
「テレワーク対応」も重要なキーワードだ。東京などの企業に勤める職員が住環境として優れる地方の都市に住みつつ「オンライン」で働くことが可能になる。良いことだと思うし、そのような地方都市への移住者も出るかもしれない。
デジタル化による生産性の向上・省人化の努力をしてもなお、地域経済が「域内」「域外」の双方の需要に対応していくためには、なお「人手不足」が続く可能性がある。様々な議論を踏まえつつ、外国人労働者の受け入れにどのように対応していくか、各地域でのコンセンサスづくりは重要だ。

(3)地域ごとのBCP(業務継続計画)態勢の強化
感染症の拡大もある種の「災害」だが、わが国では、地震、台風、大雨などの自然災害のリスクも大きい。各地域は、それらへの備えも怠れない。(2)で述べた「地方都市への移住」も、それらの都市における安心・安全が大きな誘因となるのではないだろうか。
首都直下地震や南海トラフ地震をはじめ、想定される脅威は大きい。リスクを抱える環境を所与のものとして受け入れ、地域の今後を「守る」ことを考えていくべきだろう。

3.おわりに

今回の連載「これからはじめる経済教室 - “コロナショック”をどう読むか - 」では、次のような流れで解説を試みた。

図表3 これまでの流れ

    ポイント
第1回
第2回
IMFの世界経済見通しを読み解く コロナショックが世界経済と日本経済に与える影響を考える
第3回 日銀短観の見方 日銀短観調査結果から、規模別・業種別に企業の景況感を把握する
第4回 ESPフォーキャストなどの見方 民間エコノミストや政府の景気判断等について、知識を得る
第5回 地方経済とコロナショック 地元経済へのコロナショックの影響と今後を考える

企業の経営環境が大きな変化の中にある今、コロナショックが世界経済の中の日本経済にどう影響するか。その日本経済の中で地元の経済はどのような状況にあるか。そしてその地元において、これから企業はどのように対応していくか。様々な経済関係の情報を上手に使って頂ければと思う。
変化は、チャンスでもある。本誌の読者が関係する企業が、そのチャンスを活かして成長していかれることを祈りつつ、本連載の筆を擱くこととする。

参考:

「観光需要の落ち込み」関係:
(1)沖縄県と全国の業況判断DI(%)

  2020/3 2020/6 先行き
沖縄県 a ▲1 ▲35 ▲26
全国 b ▲4 ▲31 ▲34
a - b +3 ▲4 +8
  • 出所:日銀(本店、那覇支店)。
  • 計数は全産業・全規模の業況判断DI(%)。
  • 地域経済の中で観光業の存在感が大きい沖縄県は、直近の業況判断DIの悪化幅が、全国比で大きかった。


(2)地域別にみた外国人旅行者シェア(%)

  2017 a 2012 b a - b
全国 15.7 6.0 9.7
北海道 21.4[3] 7.0[3] 14.4[3]
東北 2.7 0.7 2.0
関東 19.9 9.8[1] 10.1
北陸信越 6.4 1.7 4.7
中部 9.6 3.5 6.1
近畿 25.7[1] 9.7[2] 16.0[2]
中国 6.5
2.6 3.9
四国
6.3
1.5
4.8
九州 13.5 4.7 8.8
沖縄 21.8[2] 5.0 16.8[1]
  • 出所:国土交通省「日本経済における存在感が高まりつつある「観光」」、図表II-33。
  • 計数は「延べ宿泊者数中の外国人旅行者のシェア」(%)。2017年は速報値。
  • []内の数字は、上位3つを示す。
  • 2017年時点で、近畿、沖縄、北海道の順に外国人旅行者のシェアが高い。
  • 最近数年間の変化をみると、沖縄、近畿、北海道の順で外国人旅行者の増加が目立つ。


「サプライチェーンの中の企業の難しさ」関係:
(3)群馬県・広島県と全国の業況判断DI(%)

  2020/3 2020/6 先行き
群馬県 a ▲3 ▲35 ▲39
広島県 b ▲1 ▲35 ▲34
全国 c ▲4 ▲31 ▲34
a - c +1 ▲4 ▲5
b - c +3 ▲4 0
  • 出所:日銀(本店、前橋・広島支店)。
  • 計数はいずれも全産業・全規模の業況判断DI(%)。
  • 群馬県、広島県は、他県に比べて自動車産業関連企業のウエイトが高いと思われる。
  • 群馬県、広島県では、直近の業況判断DIの悪化幅が、全国比で大きかった。


「サービス業の提供の際の問題」「生産性の低さ・人手不足・経営者の高齢者・事業承継」関係:
(4)都道府県別高齢化率(%)

北海道 31.3 石川県 29.2 岡山県 30.1
青森県 32.6 福井県 30.2 広島県 29.0
岩手県 32.5 山梨県 30.3 山口県 33.9
宮城県 27.8 長野県 31.5 徳島県 33.1
秋田県 36.4 岐阜県 29.8 香川県 31.5
山形県 32.9 静岡県 29.5 愛媛県 32.6
福島県 30.9 愛知県 24.9 高知県 34.8
茨城県 28.9 三重県 29.4 福岡県 27.6
栃木県 28.0 滋賀県 25.7 佐賀県 29.7
群馬県 29.4 京都府 28.9 長崎県 32.0
埼玉県 26.4 大阪府 27.5 熊本県 30.6
千葉県 27.5 兵庫県 28.8 大分県 32.4
東京都 23.1 奈良県 30.9 宮崎県 31.7
神奈川県 25.1 和歌山県 32.7 鹿児島県 31.4
新潟県 31.9 鳥取県 31.6 沖縄県 21.6
富山県 32.0 島根県 34.0 全国 28.1
  • 出所:内閣府ホームページ「高齢化の状況」地域別にみた高齢化。
  • 計数は2018年の総人口に占める65歳以上人口(%)。
  • 高齢化率は、最も高い秋田県で36.4%、最も低い沖縄県で21.6%。


(5)30年間の65歳以上人口の増加率

  増加率
全国 +16
大都市 +33
人口30万人以上の都市 +24
人口10万人以上30万人未満の都市 +16
人口5万人以上10万人未満の都市 +8
人口5万人未満の都市 ▲10
  • 出所:内閣府ホームページ「高齢化の状況」地域別にみた高齢化。
  • 計数は2015→45年の30年間における65歳以上人口の増加率の見込み(%)。
  • 都市規模が大きいほど、65歳以上人口の伸びが大きい見込みとなっている。


(6)参議院「地域の労働生産性と地域活性化の在り方


国土交通省「「道路・橋・水道・教育・医療」関係:
(7)社会資本の老朽化の現状と将来

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融アドバイザリー部
ディレクター 水口 毅

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