IFRS適用企業に対するCOVID-19の影響 - 事象又は状況は、事業継続する企業の能力に重要な疑義を生じるか?

IFRS適用企業における、COVID-19が事象・状況と事業継続能力に及ぼす影響の解説記事です。

IFRS適用企業における、COVID-19が事象・状況と事業継続能力に及ぼす影響の解説記事です。

論点は何か?

COVID-19 コロナウイルス感染拡大の影響により、経済状況が大幅に悪化している企業もあれば、経済的な不確実性が高まっている企業もあります。経営者は、これらの事象や状況(「現在の事象や状況」)が、個別または集計して、企業の継続企業としての存在能力に対して重要な疑義を生じさせているかどうか、あるいは深刻な場合には、継続企業の前提が当該企業の財務諸表作成のための基礎として依然として適切かどうかを評価する必要があります。

一部の分野や法域は他の分野よりも影響を受ける可能性がありますが、すべての法域にまたがるすべての企業が、継続企業の評価に対する潜在的な影響を検討する必要があります。

需要の減少、売上高の減少、利益率の低下を経験し、高いリスクにさらされている分野の企業、特に旅行業・観光業、ホスピタリティ・エンターテインメント・スポーツ業界、小売業、石油産業は、より重大な影響を受けることが明らかです。不確実性が後退するまで消費者が高額購入を先延ばしにすれば、時間の経過とともに自動車業界などの分野への影響が大きくなる可能性があります。

現在の事象や状況は、企業が継続企業としての存続能力に重大な影響を及ぼす可能性があります。

詳細説明

資金調達の課題を含む、継続企業の考慮事項

IFRSでは、経営者は継続企業として存続する能力を評価することが求められています。経営者に当該企業の清算若しくは営業停止の意図がある場合、又はそうする以外の現実的な代替案がない場合、企業はもはや継続企業ではありません。[IAS 1.25]

企業は、継続企業としての存続能力に重要な疑義を生じさせるような事象や状況に関する重要な不確実性を開示することが求められています。加えて、経営者が重要な不確実性はないと結論づけたものの、結論に至る過程において重要な判断を行った場合(いわゆる「紙一重」(close call))にも開示が求められています。[Insights into IFRS 第16版 1.2.80]

経営者は、継続企業としての存続能力を評価する際には、COVID-19の感染拡大に起因する現在の経済の不確実性と市場のボラティリティを考慮する必要がありますが、それは原油価格の下落によってさらに悪化しています。

継続企業の前提が適切であるかどうかを評価する際に、経営者は、事象や状況の変化について起こりうる結果、及び当該利用可能な事象や状況に対して現実的に可能な対応を考慮しながら、将来(少なくとも報告期間の末日から12ヶ月間は必要であるが、それに限定されない)に関するすべての入手可能な情報を評価します。[IAS 1.26]

予算及び業績予測の修正

多くの場合、急速に変化している経済やビジネス環境を考えると、2019年に作成された2020年の予算や予測は、現在は目的適合性が低下しているかもしれません。これにより、現在の環境下での経営者の評価を裏付けるために、予測売上高、粗利益率、運転資本の変化などの、大幅な修正を必要とする可能性があります。

経営者の評価では、合理的に妥当と思われる下振れのシナリオを含む、様々なシナリオを考慮することが重要です。予測を更新した後、経営者は財務制限条項を遵守し続られるかどうかを評価する必要があるでしょう。

経営者にとっては、現在の事象や状況が企業の経営やキャッシュ・フローの予測にどのような影響を与えるかを評価することが重要であり、論点の鍵は、債務の返済期限が到来した際に、企業がその債務を継続して履行するのに十分な流動性を有しているかどうかという点になるでしょう。

例えば、企業は以下の点を考慮する必要があるかもしれません。

  • 短期的な需要に間に合わせるために、十分なキャッシュと未使用の与信枠/借入枠があるかどうか;
  • 返済期限が到来した際に企業が債務を履行するために、十分なキャッシュ・フローを生み出すことを可能にするため、経営者がさらなる行動を起こす必要があるかどうか;
  • 融資先との交渉により、借入枠の再編や増枠を行う必要があるかどうか;
  • 運営コストを削減するために経営改革をするかどうか;
  • 資本的支出を延期するかどうか:または、
  • 株主や、ビジネスを支援するために設計された政府のプログラムに財政的支援を求めるかどうか

資金調達の課題

現在の状況では、融資は容易に代替できず、資金調達コストも高くなる可能性があるため、経営者は資金調達可能性を再評価すべきです。

  • 信用格付けの低い借手は、債券市場へのアクセスが困難になり、銀行や他の貸手が借入枠の更新や増額に消極的になる可能性があります。
  • 貸手は、特にリスクの高い分野の企業に対して、大幅に高い利回りや担保の改善など、新たな条件を要求する可能性があります。
  • 貸手自身が流動性の問題を抱えている可能性があり、融資を継続又は増額するために中央銀行の支援が必要になる可能性があります。
  • 外貨建債務を持つ借手は、現地通貨の下落により、債務返済費用が大幅に増加する可能性があります。
  • 融資契約における財務制限条項により、貸手に融資を回収する機会が与えられる可能性があります。

感染拡大の結果、報告期間の末日後に、継続企業の前提がもはや適切ではないほど深刻な経営成績および財政状態の悪化をもたらすと経営者が結論付けた場合、財務諸表を修正する必要があるでしょう。すなわち、継続企業の前提条件の変更は、修正事象とみなされます。[IAS 10.14–15]
 

開示

継続企業としての存続能力に関して重要な疑義を生じさせるような事象や状況が確認された場合で、これらの事象が重要な不確実性を構成する場合、または重要な不確実性がないとの経営者の結論に重要な判断を伴う場合には、不確実性の開示が必要となります。[Insights into IFRS 第16版 1.2.80]

サプライチェーン、物流、その他の混乱や需要の大幅な変化は、企業の運転資金に影響を与える可能性があります。多くの企業は、現在の市場の混乱に対応するために、代替の資金源の利用を含め、流動性の管理方法を調整する必要があるでしょう。これらの変化と、このような困難な経済状況の中で企業がどのように流動性を管理しているかを説明する追加的な開示が必要となるでしょう。

IFRS第7号「金融商品:開示」は、金融商品から生じる流動性リスクに関する定量的なデータの開示を要求しています。また、企業は、前事業年度からの変化や流動性リスクの集中を含めて、このリスクをどのように管理しているかを説明する必要があります。これらの要求事項に対応する開示は、COVID-19の影響に対する企業の対応に焦点を当てて、拡充する必要があるかもしれません。[IFRS 7.33]

要求される具体的な開示の例としては、以下のようなものがあります。

  • 流動性リスクをどのように管理しているかの説明
  • 期中および報告期間の末日に認識された、借入金に関する債務不履行および違反の開示。[IFRS 7.18–19, 39(c)].

COVID-19 の重大性と広範囲な影響を考慮すると、開示の拡充が必要となるかもしれません。

経営者が今すべきこと

継続企業としての存続能力を評価する際、経営者は以下のことを行う必要があるかもしれません。

  • 識別されたリスク要因と様々な起こりうる結果を考慮に入れて、適切と考えられる場合には、予測と感応度を更新します。下振れのシナリオを考慮することが重要です。例えば、関連する場合には「ロックダウン」の影響を考慮します。
  • 様々なシナリオで予測される財務制限条項の遵守を見直します。
  • 継続企業としての存続能力に重大な疑義を生じさせるような事象や状況を緩和するための計画を評価します。特に、経営者は資金調達の可能性を再評価することが期待されるでしょう。企業は、その計画が達成可能で現実的かどうかを評価する必要があります。

英語コンテンツ(原文)

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

このページに関連する会計トピック

会計トピック別に、解説記事やニュースなどの情報を紹介します。

このページに関連する会計基準

会計基準別に、解説記事やニュースなどの情報を紹介します。

お問合せ