レピュテーション毀損にならないために

「レジリエンスを高める」第3回 - 情報、業務、時間、影響、評価の5つの観点から有事と平時の状況差を挙げ、レピュテーション毀損とならないための備えについて解説する。

情報、業務、時間、影響、評価の5つの観点から有事と平時の状況差を挙げ、レピュテーション毀損とならないための備えについて解説する。

昨今、企業が有事対応で失敗し、レピュテーション(評判)を毀損し、最悪の場合は市場からの撤退にまで及ぶケースも目にする。利害関係者だけでなく、一般社会が企業に求めるレベルは厳しくなっている。企業は日ごろから、テロや自然災害、内部起因による不祥事などの有事を想定し、被害を最小限に抑える取組みを実施することが、社会的な責務として強く求められている。
しかし、有事への対応方法に正解はない。大概のケースで「初めての経験」に対応することになり、あらかじめ明確な正解を見いだしておくことは極めて難しい。そのようななかでは、以下の観点で平時の判断や対応と大きな違いが発生することを留意しておくことが求められる。
 

  1. 情報量:状況が刻々と変化し、「平時のリポートラインが機能しない」「報告された情報の信ぴょう性が低い」などの状況に陥るため、乏しく不確実な情報に基づいて判断し行動しなければならない。

  2. 業務量:通常業務に加えて新たな状況に対応するための追加業務が発生した結果、業務量が増加し、従業員は疲弊する。

  3. 時間的制約:状況の変化は企業に十分な時間を与えない。じっくりと検討する時間的余裕はなく、平時の手続きが機能しなくなる可能性が高い。

  4. 影響度:個々の行動や判断が企業全体に与える影響が大きくなる。場合によっては人命や企業の存続にかかわるため、経営層や従業員にとってのプレッシャーも非常に大きい。

  5. 外部評価:自社に直接責任がなくても、企業の行動に対する世間からの注目度は上がり、それに伴いレピュテーションが毀損されるリスクも非常に高くなる。

このような有事での特殊性を考慮すると、従業員の健康に留意することも非常に重要となる。刻々と状況が変化するなか、対策本部の人員は睡眠をとれずに業務に従事するケースも発生し得る。そのため、有事の際には、対策本部員のシフトを作成し、常に2人体制で業務を行い、日次で引き継いで対応の漏れを防ぐなどの工夫が必要である。
有事において、企業は取り得る選択肢のなかで「最善」を模索することになる。平時とは比較にならない悪条件下での対応や意思決定、業務をあらかじめ想定し、心理的に備え、またそれらを前提にした手続きや体制を整えることが「最善」への近道である。


日経産業新聞 2017年11月8日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 岩田 啓
 

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