企業成長につながる従業員のレジリエンス向上とは

「レジリエンスを高める」第2回 - 事業継続計画や危機管理マニュアルに終わらないレジリエンスとは?米国の事例を紹介し、企業成長につながるレジリエンスついて解説する。

事業継続計画や危機管理マニュアルに終わらないレジリエンスとは?米国の事例を紹介し、企業成長につながるレジリエンスついて解説する。

異常気象やテロ、世界情勢の悪化が連日のようにニュースをにぎわしている。各企業はこのような危機に備え、事業継続計画(BCP)や危機管理マニュアルの整備を進めているが、果たしてどこまで実効性があるだろうか。
不確実性の高い社会において全ての危機事象を想定することは不可能である。「想定外」の事態にも被害を最小限に食い止め、早期復旧を実現するためのキーワードが「レジリエンス」である。本稿ではレジリエンスを「危機や環境変化に打ち克ち、それを糧に成長できる組織の力」と定義する。

BCPなどは、あくまでも事前に想定した範囲での計画であり、その想定を超えた場合、最後は従業員一人ひとりの能力や意識、組織力に依存することになる。つまりレジリエンスが高い組織は自らの存亡を左右するような危機的状況を受け入れ、柔軟に状況を判断し、あらゆる適応手段を探りつつ最善の方法を選択していくことができる組織といえる。
組織がレジリエンスを発揮した事例として、2005年に米国で発生した大型ハリケーン「カトリーナ」の被害を受けた銀行の例が挙げられる。自社の支店が破壊され、通常であれば業務を継続できない状況下にありながら、「顧客への奉仕、地域への奉仕」という企業理念に立ち返り、紙片に名前と住所、社会保障番号を書くだけで、求めてきた人すべてに 200ドルを融資した。それを3年間でほぼすべて回収し、1万件以上の新規口座と多大な預金を獲得した。単に災害から業務を復旧させるだけではなく、それを機にさらなる成長を実現したものであり、従業員のレジリエンスが発揮された事例であろう。

ここで大切なのは従業員一人ひとりが「自分は何(誰)のために、どう行動するのか」「どこまで自主的に行動できるのか」考えることである。このような組織をつくるには、BCPの作成や教育・訓練を行うだけでは足りない。業務プロセスの標準化・システム化により、災害に強い仕組みと明確な指揮命令系統や適切な権限移譲などで、従業員が自主的かつ主体的に行動できるような組織の仕組みを強化することが求められる。「危機は常に起こり得るものだ」という考えを組織の末端にまで浸透させ、平時の業務運営からレジリエンスを意識した組織へと変革していくことが重要である。


日経産業新聞 2017年11月7日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 土谷 豪

レジリエンスを高める

お問合せ