「年金運用ガバナンスに関する実態調査2022」について

企業による具体的な支援と利益相反管理が今後の課題

企業による具体的な支援と利益相反管理が今後の課題

有限責任 あずさ監査法人(東京都新宿区、理事長:森俊哉)は、確定給付型企業年金の運用担当者を対象に年金運用ガバナンスに関する実態調査を実施し、調査結果をまとめました。

前回同様、一定のガバナンス体制は整備されていますが、マネジメントへの運用報告といったモニタリング体制には企業間のばらつきも見られます。また、多くの企業では年金運用担当者への育成や従事体制等の支援が不十分な状況が続いており、担当者が孤軍奮闘している状況です。コーポレートガバナンス・コードの改定で企業マネジメントの関心はある程度高まったものの、運用人材の外部採用や運用人材育成費用の拡充といった具体的な支援は行われておらず、資産運用に関する利益相反管理にも課題がある状況です。

今年で第3回となる本調査は、2022年8月~9月に約1,400社の上場企業の年金運用実務担当者を対象に実施し、136名の有効回答を基に分析しました。ガバナンス・モニタリング体制、年金運用人材配置の状況、スチュワードシップ・コードの受け入れ方針などに加え、外部専門家の利用、コーポレートガバナンス・コード対応と利益相反管理やそれらに対する提言をまとめています。

<本調査結果の主なポイント>

大企業を中心に資産運用委員会の設置や財務経理部門の関与が進む

ガバナンス体制に関しては、大企業を中心として年金資産運用を検討する委員会(資産運用委員会等)の設置が進んでいます。モニタリング体制に関しても、多くの企業では、毎月あるいは四半期ごとといった頻度でマネジメント層への報告がなされています。

(図表)年金運用実績の報告頻度

年金運用実績の報告頻度

運用人材の配置・育成は依然として組織的対応が不十分

2020年度の調査と同様、年金運用担当者は兼務しながら年金運用に従事している状況であり、かつ兼務者における年金運用業務への従事割合も50%以下が大半となっています。
また、人材の配置時には適性や経験を踏まえて選任する企業が多いものの、育成については本人の努力に委ねられている企業が多くなっています。
さらに、コーポレートガバナンス・コードの改定で年金運用に関する企業マネジメントの関心はある程度高まっているものの、ヒト・モノ・カネといった支援が増えたという企業はごくわずかでした。
具体的な人材配置や育成、マネジメントの関与など組織的対応の確立が課題と言えます。

(図表)年金運用担当者の業務従事度

年金運用担当者の業務従事度

(図表)コーポレートガバナンス・コードを受けての企業経営者の姿勢変化

コーポレートガバナンス・コードを受けての企業経営者の姿勢変化

スチュワードシップ・コード対応が未確定の企業は約7割にのぼる

 

スチュワードシップ・コードについては、検討中が約25%、未検討が約45%と、まだ対応を決めていない企業が大半を占めています。

(図表)スチュワードシップ・コードの受入れ方針

スチュワードシップ・コードの受け入れ方針

運用委託先決定における利害関係の考慮

純粋に運用能力だけで委託先を決定している企業は全体の30%程度にとどまっており、多くの企業では金融機関との取引関係が考慮されています。規模の小さい企業ほど、母体企業との取引関係が重視される傾向が見られます。

(図表)運用委託先決定時の考慮事項

運用委託先決定時の考慮事項

今後の課題は運用担当者の配置育成に関する具体的支援と利益相反管理

多くの企業マネジメントはコーポレートガバナンス・コードによって年金運用への関心を強めましたが、具体的な支援がなされている企業は少なく、運用担当者の孤軍奮闘ぶりが目立ちます。ヒト・モノ・カネといった具体的な支援がなされ、運用人材の配置や育成が組織的に行われることが望まれます。また、年金受益者と運用受託機関との利益相反管理への取り組みも強めていくことが望まれます。

「年金運用ガバナンスに関する実態調査2022」について

本調査は、以下に該当する上場企業(約1,400社)の年金運用実務担当者を対象に実施しました。

  • 有価証券報告書に退職給付制度に関する注記をしている。
  • 連結ベースの年金資産が10億円以上である旨の注記がされている。

調査期間:2022年8月~9月
調査方法:インターネットによる回答
回答数:136名(回答率:約10%)

あずさ監査法人について

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