「KPMGグローバルサステナビリティ報告調査2020」日本版の発行

「KPMGグローバルサステナビリティ報告調査2020」日本版を発行します。

「KPMGグローバルサステナビリティ報告調査2020」日本版を発行します。

―企業のサステナビリティ情報の報告について、52の国と地域の各上位100社、計5,200社を調査―

  • 日本は調査対象100社すべてがサステナビリティ報告書又は統合報告書を発行しており、サステナブルな課題の企業報告への取り組みでは世界で最も高い。また、第三者保証を受けている企業も、グローバルの51%に比べて、日本は66%と多い。
  • 世界的に気候変動や温室効果ガス等の事業に対するインパクトの認識が進んできているのに反し、生物多様性や生態系の維持に関するリスクの認識は低い。(グローバル23%、日本4%)
  • 財務報告において気候変動をリスクと認識している企業の割合は、グローバルの43%に比べて、日本は64%と高いが、リスクを踏まえての実際のビジネスモデル構築には遅れがみられる
  • 日本企業はSDGsの達成に対し、ネガティブな面の記載が不十分な傾向で、バランスの良いレポートができている企業は5%にとどまる

 

KPMGジャパン(東京都千代田区、チェアマン:森俊哉)は、世界52の国と地域の各上位100社・計5,200社が、ESG課題に対し自社のサステナブルな価値創造に向けた取り組みに関して、どのような報告を行っているかを調査し、その結果をまとめた「KPMGグローバルサステナビリティ報告調査2020」(原題:The Time Has Come: KPMG Survey of Sustainability Reporting 2020)日本版を発行します。

持続可能な社会の実現に向けて、企業はさまざまなステークホルダーの期待に応えるため、サステナブルな価値創造に焦点をあて、その進捗状況や成果を報告して共有する必要があります。本調査の結果、日本も含めて全世界的に企業のサステナビリティ報告自体は大きく進展しているものの、ネガティブな側面を報告している企業は少なく、今後はよりバランスのとれた開示および目標達成までの実務の工程の記載が求められています。また、世界的に企業の事業活動が生態系に与える影響と生物多様性の喪失がもたらすビジネスリスクに関してはほとんど報告が進んでおらず、今後注力する必要があることが明らかになりました。

本調査結果の主なポイント

1)日本は調査対象100社すべてがサステナビリティ報告書又は統合報告書を発行しており、サステナブルな課題の報告への取り組みでは世界で最も高い。また、第三者保証を受けている企業も、グローバルの51%に比べて、日本は66%と多い。

本調査では、サステナビリティ情報を報告している企業の割合は、グローバルの平均値で80%、日本は、調査対象企業100社すべてが報告を行っており、国別で1位となりました。日本では既に、一定規模以上の会社はサステナビリティ報告の必要性が社会的に共通認識されていると考えられます。
サステナビリティ情報に関し、独立した第三者保証を受けている企業の割合は、1993年の調査開始以来、グローバルで初めて50%を超えました。これは、サステナビリティ情報の保証が今や世界中の大企業の標準的な慣行になりつつあることを示しています。2014年にEUで制定された非財務情報開示指令(NFRD)により、近年欧州で複数の国や地域がサステナビリティを含む非財務情報の開示を国内法制化しており、報告に対する信頼性を高めるための保証はますます増加すると考えられます。
日本では、グローバルの平均値の51%よりも高い66%の企業が第三者保証を受けており、3年前の調査時と比較して15ポイントも増加しています。これは、日本企業が開示情報の信頼性を高めることに関心が高く、先進的な取り組みを積極的に採用していることを示していると考えられます。

サステナビリティ情報の第三者保証を受けている企業数

サステナビリティ情報の第三者保証を受けている企業数

2)世界的に気候変動や温室効果ガス等の事業に対するインパクトの認識が進んできているのに反し、生物多様性や生態系の維持に関するリスクの認識は低い。(グローバル23%、日本4%)

地域固有の生態系の働きによって、人類は生存に不可欠な、農林水産物、医薬品、水・空気・土壌などのサービスの恩恵を受けています(以下、生態系サービス)。
世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2021」でも「生物多様性の喪失」は「気候変動の緩和や適応への失敗」と並び最も重大なグローバルリスクの一つに挙げられています。企業は、利益の源泉でもある生物多様性の喪失に伴うビジネス上のリスクと、直接の事業やサプライチェーンを通じて生物多様性に及ぼす影響について把握・開示することが投資家からも求められています。
本調査の結果、グローバル5,200社のうち生物多様性の損失によるビジネスリスクを報告している企業は4分の1以下(23%)であり、多くの企業が生物多様性の損失によるビジネスリスクの全体像を報告できていないことが判明しました。

生物多様性に関する開示項目のトレンド
生物多様性のもたらす様々な生態系サービスの価値を貨幣換算すると年間44兆米ドル*1に及ぶとされ、多くのビジネスがそれに依存し、また影響を及ぼしています。生物多様性の喪失に係るビジネスリスクとしては、以下が挙げられます。

物理的リスク 気候変動の悪化、水害など自然災害の深刻化、農林水産物等自然資源の供給減少・途絶、新型感染症など、生物多様性の喪失に起因する物理的な変化が操業に悪影響を与える
移行リスク

生物多様性や生態系の保全の目的で規制が強化され、資源開発や利用に要する追加的なコストの発生、天然資源の調達コストが増加する

レピュテーションリスク 生態系サービスの毀損につながる事業やそれに対する投融資に関与することで、商品のブランドイメージや企業のイメージが悪化する
訴訟リスク 事業の影響により生態系サービスが毀損した場合に地域社会から損害賠償や環境修復を求められる

物理的リスクの一例として、新型感染症のパンデミックのケースもあります。生物多様性を損なう企業活動が野生生物の生態系に影響を及ぼし、ウイルスや細菌をもつ野生生物と人類の接点が増えることが、感染症を引き起こす原因の一つとなりえます。
企業には、生物多様性の喪失に対応する役割を担う責任がありますが、まずはサプライチェーン全体が、自然と生態系サービスに大きく依存していることを、認識する必要があります。
生物多様性の喪失に伴う財務リスクについても気候関連開示と同様に、今後は投資家による評価の対象となることが予想されます。

*1出典:World Economic Forum (2020) New Nature Economy Report (NNER) series, “Nature Risk Rising”

3)財務報告において気候変動をリスクと認識している企業の割合は、グローバルの43%に比べて、日本は64%と高いが、ビジネスモデル構築に遅れがみられる

持続可能な社会のために、気候変動リスクは企業経営にとっても重要な課題となっています。本調査では、財務報告において気候変動とリスクを認識している日本企業の割合は64%と3年前の調査時点と比較して大きく増加しています。これは、世界の平均値43%に比べても高く、日本企業が気候変動への取り組みの開示に積極的に対応していることが示されています。背景として、日本はTCFD*2賛同企業数が世界一であることが考えられます。しかし、KPMGの調査「ネットゼロに向けて」によると、脱炭素戦略を掲げている日本企業は相対的に低く、リスクとして認識しておきながらも、TCFDの規制対応の開示で終わってしまっています。本質的な脱炭素のビジネスモデル構築においては、ドイツやフランスから遅れており、ステークホルダーからの評価に結び付いていない事実が浮かび上がります。

*2 TCFD:金融安定化のため、金融コミュニティは気候関連課題にどう対処していくべきかについての議論を行うための国際的なイニシアチブ

財務レポートで気候変動リスクを認識している企業の割合

財務レポートで気候変動リスクを認識している企業の割合

Co2排出量削減と気候変動リスクについては、日本政府より2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が公表されました。企業においても具体的な政策や規制がこれから立案・実施されることが見込まれます。
従前は炭素削減と気候変動リスクについては中長期リスクとして、財務的な影響額を見積もることが困難でした。しかし今後は事業ポートフォリオの組み換えなどによる引当金の計上や固定資産の減損として、財務的影響を一定程度正確に見積もることが可能になると考えられます。つまり、現時点では財務的にはインパクトを持たない気候変動リスクの一部が、将来的には財務的インパクトとして貸借対照表と損益計算書上に顕在化する可能性があります。

4)日本企業はSDGsの達成に対し、ネガティブな側面からの報告ができておらず、バランスの良いレポートができている企業は5%にとどまる

本調査では、年次報告書において自社の事業活動とSDGsを紐づけて報告している日本企業は94%と、世界の平均値69%より非常に高く、国別ではトップの結果となりました。企業がSDGsを経営戦略や価値創造のプロセスと結び付ける一連のプロセスが、日本企業において定着しつつあることが数値から読み取れます。
一方で、バランスの取れたSDGsレポーティングができている企業は、グローバルでは14%、さらに日本企業においてはわずか5%という結果でした。
バランスの取れたレポーティングにおいては、ポジティブな側面(目標達成への貢献や事業機会)とネガティブな側面(目標達成に対する阻害または事業機会の損失)の両方が説明されていることが必要です。日本企業は事業とSDGsの紐づけが最も進んでいるにも関わらず、ポジティブな面にフォーカスした報告にとどまっている、という状況を表しています。

自社の事業活動とSDGsを紐づけて報告している企業の割合

自社の事業活動とSDGsを紐づけて報告している企業の割合

バランスのとれたSDGsレポーティングができている企業の割合

バランスのとれたSDGsレポーティングができている企業の割合

SDGsは、企業の中長期的なリスクとなり得る課題につながるものも多く、その課題解決に向けた企業の取り組みは、事業やレピュテーションに対するリスク管理体制の構築も可能とします。
企業はネガティブな側面も含めて取り組みに関する情報を自ら開示し、企業が透明性を担保しリスクの低減に努めている姿勢を伝えることで、投資家だけでなく、より広い範囲のステークホルダーからの信頼と共感を得ることに繋がると考えられます。

日本企業において関連付けて報告されているSDGsの割合

KPMGジャパンの提言

本調査から、日本企業のサステナビリティ報告は世界と比べて件数は進んでいるものの、項目別にみれば、改善を必要とする事項も少なくないことがわかりました。
今後、非財務報告のためのルールや共通の指標の整備に基づいて、既存の報告枠組みやガイダンスが融合し、グローバルな企業報告システムが構築されることが予測されます。さらに日本では、2021年にコーポレートガバナンスコードの改訂が予定されており、企業には中長期的な持続可能性に関連したESG課題を含む諸課題に対するガバナンス体制の強化が求められています。
持続可能な社会の実現に向け、目標だけでなくその目標をどのように実現するのか自社の戦略を明確に説明し、また自社の取り組みを自らポジティブとネガティブの両側面から報告することで、投資家だけでなくより広い範囲のステークホルダーと信頼と共感を高めていくことが日本企業に期待されます。

「KPMGグローバルサステナビリティ報告調査2020」について

KPMGインターナショナルは、世界52か国・地域を対象に、各国・地域の収益ランキングの上位100社、計5,200社に対し、2019年7月1日から2020年6月30日に発行された年次報告書、統合報告書、サステナビリティ報告書および企業のホームページ上で公表されている情報をもとに、企業のESG課題に対するサステナブルな価値創造に向けた取り組みの報告に焦点を当て独自に調査を実施しています。またレポートの一部には、2019年度Fortune Global 500の上位250社に対象を絞って、情報を掲載しております。2020年度と2017年度2つの情報を比較し、セクターに関する調査結果も紹介しています。
The Time Has Come: KPMG Survey of Sustainability Reporting 2020 (英語版)
日本の視点を加えた、「KPMGグローバルサステナビリティ報告調査2020」日本版フルレポートは2021年2月26日に発行予定です。

KPMGジャパンについて

KPMGジャパンは、KPMGインターナショナルの日本におけるメンバーファームの総称であり、監査、税務、アドバイザリーの3つの分野にわたる7つのプロフェッショナルファームによって構成されています。クライアントが抱える経営課題に対して、各分野のプロフェッショナルが専門的知識やスキルを活かして連携し、またKPMGのグローバルネットワークも活用しながら、価値あるサービスを提供しています。
日本におけるメンバーファームは以下のとおりです。
有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人、KPMGコンサルティング株式会社、株式会社KPMG FAS、KPMGあずさサステナビリティ株式会社、KPMGヘルスケアジャパン株式会社、KPMG社会保険労務士法人、株式会社KPMG Ignition Tokyo

KPMGインターナショナルについて

KPMGは、監査、税務、アドバイザリーサービスを提供する、独立したプロフェッショナルファームによるグローバルな組織体です。世界146の国と地域のメンバーファームに約227,000名以上の人員を擁し、サービスを提供しています。KPMGの各ファームは、法律上独立した別の組織体です。
KPMG International Limitedは英国の保証有限責任会社(private English company limited by guarantee)です。KPMG International Limitedおよびその関連事業体は、クライアントに対していかなるサービスも提供していません。

お問合せ