はじめに

KPMGインターナショナルは2022年下旬、テクノロジー・メディア・通信(TMT)業界のトップマネジメント767名を対象としたグローバル調査を実施しました。調査結果によると、多くのトップマネジメントはメタバースが消費者や企業に大きな影響を与えると考えていますが、メタバースの活用体験や関連する業務プロセスの準備が十分に整っていないとの見解が示されました。また、TMT業界のトップマネジメントは、メタバースをブランディング、マーケティング、カスタマーエクスペリエンスに活用することで最大の価値が得られると考えている一方で、導入に際してはまず新人研修や教育、コラボレーションなど社内での活動に利用する可能性が高いと認識しています。

メタバースという未知の領域への巨額の投資には何らかのリスクが伴うため、多くの企業がメタバースへの投資を抑えていることが明らかになりました。しかし、行動を起こさないことにも代償があり、メタバース市場が発展する中で後れをとる企業は、野心的なライバル企業に取り残される可能性があるでしょう。

調査ハイライト

  • TMT業界のトップマネジメントは、収益・利益、カスタマーエクスペリエンス、顧客ロイヤルティ、従業員の業務体験、従業員の定着率など、事業全体でメタバースに価値を見出している
  • トップマネジメントはメタバースに期待を寄せる一方で警戒心も抱いており、テクノロジー予算全体の5%以上をメタバースに投じる企業がほぼ存在しない
  • 84%のトップマネジメントが、今後5~10年の間に投資を維持または増やす予定であると回答し、92%が今後2~4年の間に投資を維持または増やす予定であると回答
  • 大多数が、メタバースの導入に向けた技術インフラと必要なスキルの面で体制が整備されていないと考えている
  • 自社のメタバース戦略を成功させるためにビジネスモデルの構築を重要な次のステップとして捉えている企業は34%に過ぎない

メタバースのメリットを享受するためにTMT企業は何をすべきか?

調査回答者はメタバース導入のメリットとして、カスタマーエクスペリエンス向上やブランド力強化などを挙げています。しかし、現時点では消費者や企業の関心がまだ高まっていないため、これらのユースケースの実現はまだ数年かかるとみられます。それに対して、現時点で関心が高いのが、従業員研修や従業員間コラボレーションなど社内でのユースケースです。56%の回答者がメタバースを活用したエンゲージメントには採用・募集活動の改善が期待できるとし、51%が従業員の生産性向上につながる可能性があると回答しています。しかし、社内での活動やプロセスにメタバースへの投資を予定している企業は3分の1程度に留まっています。

メタバースの活用にあたって重要なのは、まず社内での使用を試みることです。これにより、低コストかつ低リスクで長期的なケパビリティを開発することが可能になります。例えば、従業員定着率の向上や、組織がメタバースの活用方法を学ぶ速度を高めることにつながるでしょう。社内にはすでにメタバースを理解し、専門スキルを習得している潜在的な人材がいるかもしれません。企業はこれらの人材を採用し、育成することが求められます。

高まる期待感・同時に抱く警戒心

メタバースがもたらす可能性については期待が高まる一方、懐疑的な見方も根強く、27%が「夢物語」と見なし、20%は「一時的なブーム」と考えています。TMT企業は、メタバースへの投資に躊躇しており、10名中7名が2023年度の投資予定額はテクノロジー予算の5%未満と回答し、27%は投資しない意向です。

また、60%の回答者は、顧客の需要が高まってからメタバース分野にさらなるリソースを投入することを考えています。しかし、新しいテクノロジーに対する顧客のフィードバックは信頼できない場合もあり、先進的な企業であっても、従来のやり方にこだわりすぎて、イノベーションの新しい波を逃すリスクがあります。そのため、既存顧客の意見に耳を傾けることをどの時点でやめるべきかを見極め、利益が少ない小さな市場でも投資する体制を整えることが重要でしょう。

企業は、迅速に行動し、メタバースの進展を注視すべきです。メタバース導入の準備が整っている企業は、野心的で競合企業の2倍の資金を投じる計画を立てています。ただし、当面は大規模な導入よりも学習に重点を置き、イノベーションラボやセンター・オブ・エクセレンスに資金を投入すると予想されます。

可能性とその実現のギャップを解消

TMT業界のトップマネジメントの大多数はメタバースを中長期投資とみなし、デジタルトランスフォーメーションや製品イノベーション、顧客エンゲージメント、人材の新規獲得への影響を期待しています。しかし、ビジネスモデルの構築をメタバース戦略の成功に不可欠なステップと考えている企業は34%に過ぎません。アーリーアダプターとして早期にメタバースを導入した企業の中には、製品開発から企業買収まで大規模な投資を行っているものも存在します。急成長するエコシステムに対応するには、明確な目標と戦略の再評価が必要です。社内外でのメタバースのバリュープロポジションを明確に示すことで、投資目標の設定と有望なユースケースの推進が可能になります。

重要なのは、KPIやパイロットプロジェクトの設定・検証を行い、いち早く動く体制を整え、初期的な成功を積み重ねて投資を拡大させることです。成果が出ない場合は「フェイルファスト」の方法を取り入れて速やかに撤退する必要があります。テクノロジーではなく事業価値を中心に議論し、実現すべきことを明確にしたビジネスモデルを構築して、現実的なKPIを早期に定義すべきでしょう。

結論

最先端の進化を遂げたメタバースが現れるのはまだ先ですが、TMT企業は開発の準備を進め、機会が巡ってきた際に迅速に行動できるようにしておくべきです。今回の調査によると、十分な対応が可能な企業はわずか25%でした。十分な対応が可能な企業には以下のような特徴があります。

  • メタバースへの投資は、デジタルトランスフォーメーション(DX)、製品イノベーション、顧客満足、顧客満足、人材獲得、従業員の業務体験、収益拡大など、事業全体に大きな影響を与えると予想している
  • 準備が不十分な企業と比べて2倍の資金をメタバースに投入している
  • 顧客対応と社内のユースケースの両方において価値向上を見出している
  • メタバース上でクライアントとの商談をする可能性が高い

大多数のTMT企業がメタバースへの対応が不十分な中、次の一手の準備ができている企業には大きな機会があります。しかしながら、準備不足の企業は収益を上げる機会を逸する可能性があるでしょう。

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