本連載は、日経産業新聞(2023年11月~12月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

導入が進む洋上風力発電と支援策の動向

ウクライナ情勢以降、各国はエネルギー調達の多角化を推進し、化石燃料から再生可能エネルギー(以下、再生エネ)への転換を急いでいます。市場が急拡大する再生エネの1つとして注目が集まるのが洋上風力発電です。世界市場において出遅れた日本ですが、ここにきて事業拡大に向けた動きが目立っています。

また、原油や天然ガスなどの化石燃料の価格も高騰しています。資源価格の高騰により経済的な打撃を受け、「化石燃料への依存は安全保障上のリスクだ」と再認識させられた国や地域も多く、エネルギー調達の多角化を目指す動きが顕著です。たとえば、欧州連合(EU)は、ロシア産化石燃料からの脱却を目指す「リパワーEU」計画で、再生エネ導入を推進することを掲げました。サステナビリティ(持続可能性)の観点から重視されてきた再生エネが安全保障上でも重要性を増しています。

再生エネのなかで、近年、特に導入が進んでいるのが、洋上風力発電です。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、世界の洋上風力発電の累積導入量は2013年末時点で7ギガワットでしたが、2022年末に63.2ギガワットに達したと言います。世界風力会議(GWEC)は、2032年に世界の導入量が447ギガワットに達すると予想しています。世界各地で武力紛争が発生するなか、サプライチェーンの混乱、輸送や原材料コストの高騰などの課題もありますが、今後も成長を続ける市場であることは間違いないでしょう。

日本は洋上風力において世界市場で周回遅れの状況です。2014年に固定買取制度(FIT)が導入されたものの、政府による長期目標の設定が遅れ、企業がリスクを取れず産業が育たなかったとの指摘があります。出遅れは否めないものの、政府は2020年、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」を公表し、2040年までに最大45ギガワットの導入にめどをつける目標を掲げ、アジア進出を狙っています。これを受け、政府や自治体は矢継ぎ早に支援策を打ち出しており、関連企業にとって事業参入のチャンスが広がっています。

たとえば、発電事業者の負担軽減のための施策として「日本版セントラル方式」の導入があります。洋上風力事業に参加する事業者は公募により選定されます。現行方式では、公募に参加する事業者ごとに同一海域で類似の現地調査を実施していましたが、今後導入される新しい方式では、公募前調査を政府が一括して行います。すでに欧州では実績があり、日本では2025年度の公募から適用される予定です。

また、日本企業と海外企業とのビジネスマッチングの取組みも進んでいます。また、資源エネルギー庁は、洋上風力人材の育成を促進するため、訓練カリキュラムの策定や、トレーニング施設等の整備を目的とした人材育成事業を対象に補助金を提供しています。

洋上風力発電産業を拡大させるための取組みが相次ぐなか、企業は支援策の動向を注視し、事業への参入を検討することも有用と言えます。

日経産業新聞 2023年11月29日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
コンサルタント 上船 開法

経済安保時代の経営課題

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