「KPMG Insight Vol.60/2023年5月号」では、「企業の最適なガバナンススタイルの検討~サステナブルな企業経営に向けて」と題して、機関設計の変更自体を目的化するのではなく、自社の持続的な成長・企業価値向上のための最適なガバナンススタイルとは何かを十分に議論し、手段としての機関設計について納得感をもって選択することの重要性を解説しました。また、自社に最適なガバナンスのスタイル検討にあたり重要と考えられる6つの要素を示したうえで、具体的な検討例を紹介しました。

本稿では、自社に最適なガバナンススタイルを検討した結果、モニタリングモデルを目指し、その手段として委員会設置型への移行を決断した場合を前提として、モニタリングモデルを機能発揮させ、期待どおりの効果を得るための実装上のポイントについて解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることを、あらかじめお断りいたします。

POINT 1:モニタリングモデルを目指す企業でみられる成熟度の大きなバラツキ

委員会設置型を選択してモニタリングモデルを志向する企業のなかにも、真価を発揮している企業と形式的な移行にとどまる企業があり、成熟度に大きなバラつきが生じている。

POINT 2:ガバナンスの後退を招きかねない目標と意思なき委員会設置型への移行

マネジメントモデルの設計のまま、漫然と委員会設置型に移行した場合、かえってガバナンスの後退を招く懸念がある。モニタリングモデルの機能を発揮できる委員会設置型へ移行するには、明確な目標と意志が不可欠である。

POINT 3:形だけの変革から、真に機能するモニタリングモデルへの変革へ

真に機能するモニタリングモデルへの変革は、監督と執行が一丸となり同じ目標と意志のもと、行動変革をすることが必要。特に執行がオーナーシップをもち、取締会へ的確な報告を上げることで、深度あるモニタリングを行うことが可能となる。

I はじめに

コーポレートガバナンス改革の議論の進展を受け、上場企業を中心に社外取締役の登用が急速に進むとともに、監督に特化した取締役会を志向する「モニタリングモデル」にシフトすべく、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社(以下、両者を併せて「委員会設置型」という)に移行する流れが進んでいます。

委員会設置型へ移行した企業の一部には、経営陣に権限委譲を進めたことで執行スピードが向上した、取締役会が戦略的な議論に集中できるようになったなど、狙いどおりの効果を獲得しているケースがみられます。

他方、委員会設置型に移行したものの実態はほとんど変わっていない、かえってコミュニケーションコストが増えて意思決定スピードが落ちたなど、企図した効果を得られていないとの声も少なからず聞かれます。

モニタリングモデルへの外形的な変革は進展がみられるものの、多くの企業では、真に機能するモニタリングモデルへの試行錯誤を繰り返している段階にあると見受けられます。

そこで本稿では、委員会設置型へ移行した企業の特徴を分析することで改革を成功に導く要因を探ったうえで、真に機能するモニタリングモデルを実装するために押さえるべき重要要素について考察します。

II 社外取締役の活用状況から紐解くモニタリングモデルの成熟度

1.委員会設置型でモニタリングモデルを目指すことの強み

監査役設置型から委員会設置型に移行してモニタリングモデルを目指す場合の最大の強みは、会社法上の制約により監査役設置型では限界がある経営陣への意思決定権限の委譲を、大胆かつ柔軟にできる点にあります。これにより、監督と執行を分離し、取締役会は中長期的な会社の方向性に関する大所高所の議論と執行の監督に集中することが可能となります。

2.「機能するモニタリングモデル」を探るための分析観点

委員会設置型を採用することで、マネジメントモデルからモニタリングモデルへのシフトを目指すにあたっては、前述の委員会設置型の強みを発揮すべく、取締役会の議題設計や審議の在り方を意識的に変革する必要があります。また、連動して、経営陣への権限委譲や執行への監督の在り方も設計し直すべきです。

さらに、取締役会の役割の変化に応じて、おのずから取締役会メンバーの期待役割や選任の在り方も見直すべきでしょう。この点で指名委員会を中心とした委員会の活用の在り方も、執行への実効性ある監督とも相まって、モニタリングモデルの実効性を確保するうえで欠かすことのできない要素です。

これらの点に鑑み、本稿では「機能するモニタリングモデル」のカギを探るうえで、以下の5つの観点(図表1参照)から、委員会設置型に移行している企業の状況を分析することとします。

【図表1:委員会設置型企業の分析観点】

  分析観点
(1) 取締役会メンバーの期待役割と選任
(2) 取締役会の審議の在り方
(3) 取締役会の議題設計
(4) 指名委員会等の活用
(5) 経営陣への権限委譲と監督

出所:KPMG作成

3.社外取締役の活用状況から整理する3つのパターン

取締役会の役割の重心を、意思決定機能から監督機能へ移す場合に重要性を増すのが、独立した客観的立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行う社外取締役の活用です。

モニタリングモデルの機能を十分に発揮するカギを紐解くうえで、図表1に挙げた(1)~(5)の観点に、社外取締役の活用・関与を加味することで、より実態に沿った分析が可能になると考えられます。

そして、KPMGが支援したコーポレートガバナンス改革に対するプロジェクトにおける観察などから、社外取締役の活用状況という軸にしたがって委員会設置型を採用する現在の企業のモニタリングモデルの成熟度を分類すると、以下の3つのパターンで整理することができると考えます(図表2参照)。

【図表2:社外取締役の活用状況で整理するモニタリングモデルの成熟度】

真に機能するモニタリングモデルの実装_図表1

出所:KPMG作成

A.社外ご意見拝聴型
マネジメントモデルの設計のまま委員会設置型に移行しており、社外取締役の意見は参考として伺うにとどまるなど、執行判断への活用は限定的であり、社外取締役による監督も受動的なケース(実態は「看板の掛替え」にとどまる)。

B.社外知見活用型
モニタリングモデルを意識して経営陣から取締役会への積極的な説明責任を通じて監督を受けるとともに、社外取締役の個別知見に基づく助言を執行判断に活用しているケース。

C.社内・社外一体対話型
社内・社外の取締役が各々の知見を活かして双方向的に議論を行い、重要な経営課題への対応方針の決定と、執行に対する能動的な監督を行っているケース。

III 「3つのパターン」の傾向

ここでは、前節で整理した3つのパターンの傾向を、図表1の(1)~(5)の観点からそれぞれ解説します(図表3-1~3参照)。

1.A.社外ご意見拝聴型の傾向

マネジメントモデルの設計からの脱却ができておらず、社外取締役は一定のチェック&バランス機能を果たすものの、モニタリングモデルで期待される監督や社外取締役の役割発揮までには至っていないパターンです。

(1)取締役メンバーの期待役割と選任
このパターンでは、会社が各取締役に期待する役割が明確化されていないことが多く、社外取締役の選任も中長期戦略に基づく観点より、ビジネスの関係や会社の沿革といった過去からの経緯で選任されるケースが多い傾向にあります。

(2)取締役会の審議の在り方
社外取締役の発言は議案に関する単発的な質問が中心で、コンプライアンス上の懸念やリスクが明らかな場合を中心に指摘する傾向がみられます。他方、社内取締役は経営会議などで審議を尽くしていることや、執行側での立場を踏まえ、意見表明に謙抑的であり、社外取締役の質問への対応が大半となるなど、議題を淡々と決裁する不活発な会議となりがちな傾向がみられます。

(3)取締役会の議題設計
法定事項を漏らさないよう、前年の議題設定を踏まえ、取締役会事務局を中心に議題設計する傾向にあります。
また、業界に関する深い知見が必要な個別の業務執行議案が多い傾向があり、この点が(2)の審議の不活性化にも影響しているものと考えられます。

(4)指名委員会等の活用
指名委員会は、社長が提出した後継者候補等について、社外委員が目を通すことで外形的な客観性を担保する役割を担い、事実上の追認機関となっている場合がみられます。

(5)経営陣への権限委譲と監督
取締役会で個別議案の意思決定を担うことが多く、経営陣で果敢な決断を伴う対応をしづらい傾向がみられます。また、社外取締役からの意見は参考として拝聴するにとどまり、執行に十分に活用されず、意見へのフォローアップが不十分であるケースもみられます。

【図表3-1:「A.社外ご意見拝聴型」パターンでみられる一般的傾向】

(1) 取締役会メンバーの期待役割・選任
  • 各取締役の期待役割が明確ではない
  • ビジネスの関係や会社の沿革などの過去からの経緯を重視した社外取締役選任が多い
(2) 取締役会の審議の在り方
  • 社外取締役は質問が中心。明らかなリスクの認識がある場合のみ指摘する
  • 執行兼務取締役は社外取締役の質問対応が多く、意見は限定的
(3) 取締役会の議題設計
  • 事務局が前年の議題設定を踏まえ、議題計画を作成(議長は追認)
  • 業界に関する深い知見が必要な個別の業務執行議案が多い傾向
(4) 指名委員会等の活用
  • 社長提出の後継者候補を、社外取締役が目を通すことで外形的客観性を担保する場となっており、追認機関となる傾向
(5) 経営陣への権限委譲と監督
  • 取締役会が主要個別議案を意思決定し、経営陣主体の果敢な決断がしづらい
  • 社外取締役の意見は参考として拝聴するにとどまり、フォローが不十分である傾向

出所:KPMG作成

2.B.社外知見活用型の傾向

モニタリングモデルを意識した設計の工夫がなされ、社外取締役の知見を積極的に執行判断に活用する取組みがみられます。他方、あくまで社内取締役からのアクションが大半で、社外取締役からのアクションは限定的である傾向にあり、モニタリングモデルの効果の最大化に向けた道半ばにあるパターンと言えます。

(1)取締役メンバーの期待役割と選任
このパターンでは社外取締役を中心に「自社の常識が社会の非常識となっていないか」を的確に指摘し、各社外取締役の知見を活かした助言を行うことが期待役割とされる傾向にあります。
また、深度ある助言を得るため、経営経験のある社外取締役の選任を重視する傾向にあります。ただし、当該経営経験と自社ビジネスなどとのマッチングまでは至っていないケースが多いように見受けられます。

(2)取締役会の審議の在り方
経営上重要な戦略議論等を中心に、社外取締役の知見を活かすべく、議長が発言を促し、意見を引き出す工夫がみられます。ただし、社外取締役は自身の知見・経験に関連する議題を中心に経営陣への助言・指示・監督を行う傾向にあります。
他方、社内取締役はパターンA「社外ご意見拝聴型」と同様に社外取締役への説明や質問への対応が中心で、自らの意見は限定的である場合が多いように見受けられます。

(3)取締役会の議題設計
議長と取締役会事務局が中心となり、取締役会で審議すべき重要テーマや戦略、サステナビリティなどの社外取締役との議論が有効なテーマを意識的に選択するケースがみられます。
取締役会の年間議題計画を作成しているものの、議題に応じた社外取締役への情報インプットの連動性の確保までは至っていない場合が多いように見受けられます。

(4)指名委員会等の活用
取締役会の構成やサクセッションプランのデザインの主体は社長であり、社外取締役は選定基準やプロセスの適切性を中心に助言・監督しているケースが多い傾向にあります。

(5)経営陣への権限委譲と監督
執行側の体制・能力の成熟度を取締役会で監督し、成熟度に応じて段階的に権限委譲を行う傾向がみられます。
社外取締役が経営陣へ対応を求めた事項はフォローアップを行うことで実効的な監督を行うとともに、社外取締役の意見を執行判断に活用して執行の力を強化し、さらなる権限委譲を行うサイクルを回している企業もあります。

【図表3-2:「B.社外知見活用型」パターンでみられる一般的傾向】

(1) 取締役会メンバーの期待役割・選任
  • 自社と社会の常識の乖離の監督、社外取締役の知見に基づく助言が期待役割
  • 深度ある助言を得るため、経営経験ある社外取締役を優先する傾向
(2) 取締役会の審議の在り方
  • 戦略議論等を中心に議長が発言を促し、取締役の知見を引き出す工夫がみられる
  • 社外取締役は自身の知見に関連するテーマを中心に助言・監督。社内取締役はAと同様
(3) 取締役会の議題設計
  • 議長・事務局が中心となり、社外取締役との議論がより有益な重要テーマを決定
  • 年間議題計画はあるが、社外取締役への情報提供と連動した計画ではない
(4) 指名委員会等の活用
  • 取締役会の構成やサクセッションプランの検討・決定主体は社長
  • 社外取締役は候補者選定基準やプロセスの適切性を中心に助言・監督
(5) 経営陣への権限委譲と監督
  • 経営陣の執行力の成熟度を取締役会で監督し、成熟度に応じ段階的に権限委譲
  • 社外取締役の意見を活用して執行力を強化し、さらなる権限委譲につなげている

出所:KPMG作成

3.C.社内・社外一体対話型の傾向

社内・社外の取締役が各々の知見を活かして双方向的に議論を行い、会社の方向性を決定するとともに、社外取締役が能動的な監督を行っているパターンです。

(1)取締役メンバーの期待役割と選任
期初に議長と各取締役とが対話し、各取締役の期待役割の認識合わせを行うことで、役割を明確化する取組みを行っている傾向がみられます。
また、中長期的な経営戦略に照らして必要なスキル・経験をもつ社外取締役を計画的に選任している点が特徴的です。

(2)取締役会の審議の在り方
社内取締役と社外取締役が双方の知見と経験に基づき、社内外で一体となり、複合化する重要経営テーマを闊達に議論する傾向がみられます。
社外取締役は、業界の常識にとらわれず、「リスクテイクしないことのリスク」という観点も踏まえて能動的な監督を行うことで、執行のリスクテイクを後押しするという役割を果たしているケースが多くみられます。
執行を兼務する社内取締役も、執行での役割に縛られず、取締役の立場にたって意識的に発言するよう求められているケースもみられます。

(3)取締役会の議題設計
取締役会で議論を尽くすべき重要テーマや、社外取締役として監督すべき事項を十分に審議できるよう、社外取締役が議長を担ったり、議題選定に社外取締役が関与する傾向があります。
また、重要な経営テーマに対して深度ある議論ができるよう、社外取締役への情報インプットとの連動性も踏まえて年間議題計画を策定しているケースもみられます。

(4)指名委員会等の活用
指名委員会が中心となり、中長期的な観点で社長と社外取締役との間で、取締役会の構成やサクセッションプランを議論したり、社外取締役が社長の後継者候補の面談等を行うことで後継者の選定に積極的に関与しているケースがみられます。
また、社外取締役の任期を定めたうえで、中長期戦略を踏まえて将来にわたり適切な構成を維持できるよう、指名委員会において社内・社外取締役の双方でボードサクセッションプランを議論しているケースもみられます。

(5)経営陣への権限委譲と監督
委譲された権限を使いこなすことが経営陣の責任と捉え、トップマネジメントチームを組成してしっかりと権限を使いこなして責任を果たすとともに、執行状況(業績、リスク、戦略の進捗状況)を適時適切に取締役会に報告して監督を受け、健全な牽制と緊張関係の下で、執行のスピード向上を図っている傾向がみられます。

【図表3-3:「C.社内・社外一体対話型」パターンでみられる一般的傾向】

(1) 取締役会メンバーの期待役割・選任
  • 議長と各取締役との対話を通じて、各々の役割が明確化されている
  • 中長期戦略に照らし、必要なスキルや経験を持つ社外取締役を計画的に選任
(2) 取締役会の審議の在り方
  • 取締役一体で社内・社外双方の知見から、複合化する重要テーマの議論を促進
  • 社外役員は「リスクテイクしないことのリスク」の観点も踏まえ、能動的監督を実施
(3) 取締役会の議題設計
  • 重要経営テーマや監督すべき事項を審議できるよう、議題設定に社外取締役が関与
  • 深度ある議論を行うため、社外取締役への情報提供と連動した年間議題計画を作成
(4) 指名委員会等の活用
  • 指名委員会が主体となり中長期視点で経営者やボードのサクセッションプランを議論
  • 社外取締役が経営者の後継者候補と面談を行うなど、選定に積極的に関与
(5) 経営陣への権限委譲と監督
  • トップマネジメントチームを組成し、委譲された権限をしっかり使いこなし責任を果たす
  • 執行状況の監督による健全な緊張関係の下、執行力を強化し、執行スピードを向上

出所:KPMG作成

4. 小括

ここまで、社外取締役の活用状況を軸に、「A.社外ご意見拝聴型」、「B.社外知見活用型」、「C.社内・社外一体対話型」の3つのパターンに分類して、モニタリングモデルの成熟度を概観しました。

近年、わが国のコーポレートガバナンス改革が形式の整備から実質を求める段階に進んでいることもあり、モニタリングモデルを志向しているにもかかわらず、社外取締役の活用を形式的なものと捉えて、「A.社外ご意見拝聴型」にとどまっているケースは減少していると思われます。しかし、明確な目標や意志なく漫然と委員会設置型に移行したことで、マネジメントモデルの利点を失ったうえにモニタリングモデルの利点も享受できず、かえってガバナンスの後退を招いている企業もみられます。

また、「B.社外知見活用型」に歩みを進めつつも、モニタリングモデルの効果を最大化するまでには至っていない企業が少なくないと推察します。

経営環境の変化スピードが急速でボラティリティも大きい現代を企業が生き抜くためには、よりスピーディーかつ果断な意思決定が必要です。モニタリングモデルが真価を発揮できる体制を実装することは、そのための有力な一助となり得るでしょう。

この観点から、社外取締役の知見の活用と監督のみに満足せず、モニタリングモデルの真価の発揮に向けて、もう一段の取組みの工夫と進化が求められる段階にあると考えます。

IV 真に機能するモニタリングモデルのカギ

前述のとおり、モニタリングモデルの真価を発揮しているパターンは「C.社内・社外一体対話型」です。現在、そのパターンとなっている会社も元々はマネジメントモデルでしたが、明確な目標や意志をもって変革を推し進めています。ここからは、委員会設置型のメリットを最大限に活かし、モニタリングモデルを実効的なものとするための工夫について、図表1の分析観点から解説します。

1.(1)取締役会メンバーの期待役割と選任

取締役会メンバーの期待役割について、より具体的に明確化することが必要です。自社のビジネスモデルやコアコンピタンス、ステークホルダーの性質や中長期的な戦略方向性なども見据え、取締役会全体として備えるべき資質・スキル/知見・属性などを洗い出します。さらに、そのなかから主に社外取締役に対する期待と社内取締役に対する期待を整理します。併せて、長期的・普遍的な期待役割と中期的な戦略などの実現を見据えた期待役割を区別します。たとえば、取締役全員に求められる普遍的な期待機能ならば、環境変化やステークホルダーなどの期待の変化を客観的かつ予兆段階で察知する力や自社への影響を予測する力などが挙げられます。

社外取締役については、具体的な知識・経験に基づく期待役割を明確化する必要があります。たとえば、近時多くの会社の戦略の1つとしてDX化推進が挙げられていますが、それに伴い社外取締役にもIT知見やDX化に対するマネジメント経験を求めることが増えています。このように中期的な戦略と明確に紐づいた知見・経験を獲得することを意識することも重要です。

他方、社内取締役は執行を兼務しているケースも多く、管掌領域の責任者としての立場で取締役会へ臨んでいるケースが多くみられます。「社内・社外一体対話型」を目指すためには、社内取締役も全社的視点から管掌領域外の事項に対しても発言することを期待役割としています。

このように、取締役会メンバーに対する期待役割を文書化し、業務に対する意識付けを行います。たとえば、毎年取締役会議長が各取締役に対して個別に期待される役割を伝え、より具体的にその役割を果たせるようにするといった工夫は、モニタリングモデルの機能発揮に大きく寄与するものと考えます。

取締役の選任においても、取締役会の期待・役割を文書化したものを取締役の選任基準に取り入れたり、中期的に必要となるスキルなどを具体的に可視化して(スキルマトリクスなどを活用しますが、現在のスキルではなく、将来的に必要なスキルを予測するために作成する点がポイントです)、中長期的な取締役の選任計画を策定することが重要です。

特に、社外取締役については、3年から5年のおおよその任期を決めておくことで、中期的な戦略の方向性も見据え、必要なスキル・経験をもった人材の選任準備を計画的に進めることができます。それにより、よりタイムリーに自社が必要とする社外取締役を選任することが可能となります。

2.(2)取締役会の審議の在り方

モニタリングモデルを意識し、戦略議論を充実させている取締役会においては活発かつ深度ある議論が行われています。

個々の期待役割が明確になっていることから、期待役割からの視点で取締役会資料の内容を確認し、取締役会での発言につなげることができ、より的確な質問や意見出しが行えます。それにより深い議論とすることが可能となります。

また、十分議論が尽くされていない・意見が十分に引き出せていないと議長が判断した場合には、議長自らが論点をより明確にし、発言を促すことも重要です。あえて、社内取締役に発言を促すよう差配するケースもあります。さらには、各役員の審議に対する意識をもたせるため、議長が決議の際、全員の取締役に対し、賛成・反対の理由を含めて発言させるケースもあります。

活発かつ深度ある議論によって、取締役会メンバー、経営陣双方に良い緊張感が生まれます。経営陣にとっては、取締役から「手痛い指摘」を受けないように「通すための審議」ではなく、取締役会がリスク・機会を判断し得る状況が作れるようになります。他方、取締役は経営陣から「的外れな意見」と思われないよう、より多面的・予測的に審議内容を吟味するようになります。それにより、取締役会における意思決定の質や監督能力は大きく向上することとなります。

3.(3)取締役会の議題設計

モニタリングモデルにおいては、取締役会でサステナビリティや中期経営計画検討などの経営の重要課題や戦略議論を充実化させ、執行が重要課題に取り組み、戦略を実行しているかをモニタリングすることが重要です。また、有限な取締役会の時間において効率的・効果的に審議を行うためには、戦略的な議題設定も必要です。そのためには、今後どのようなテーマを議題として設定すべきか、社外取締役に他社での経験を踏まえて助言してもらうといいでしょう。アイデアを引き出し取り込むことで、自社のみでは気づかないテーマを議題として設定することが可能となります。

当年度の取締役会の議題計画策定では3年から5年先を見据え、自社がどのようになっていたいのか、どのような戦略目標を達成すべきかを意識しながら、中期的な経営課題の主要テーマを検討します。そして、そこからバックキャストして当年度の取締役会の議題を洗い出すとともに、前年度の重要テーマで継続審議が必要なテーマなどの棚卸しを行います。

多くの会社では、取締役会以外に、「オフサイト」や「意見交換会」などの名称で取締役会メンバーなどが集まり、経営の重要テーマについてフリーディスカッションの機会を設定していると思います。社内・社外一体対話型が実現できている会社では、取締役会の年間議題計画と「オフサイト」をうまく連動させ、議論することで、取締役会での議論の質を上げることに成功しています。

社外取締役に対しては、議題計画に合わせた執行現場の見学や執行部門側との意見交換会なども実施し、審議において具体的なイメージをもった判断ができるようなケアをしているケースもあります。

4.(4)指名委員会等の活用

委員会設置型の会社のほとんどが、指名・報酬・監査の3委員会を設置(監査等委員会設置会社の場合は、任意で指名・報酬委員会を設置。会社によっては指名・報酬を1つの委員会で構成している)しています。

委員会を設置することで、監査・指名・報酬に関わる議論をより時間をかけて行うことができ、取締役会の議題を戦略議論により特化することが可能になります。

モニタリングモデルを志向した場合、一番変化があるのが指名委員会です。モニタリングモデルは、取締役会で描いた戦略方向性の範囲内で執行側に対応させ、うまくいっているか、目標が達成できたかなどを「事後的に」確認するスタイルです。なかでも、社長や社内取締役等の評価・指名等は重要な役割であり、指名委員会が実質的に機能することでモニタリングモデルとしての真価が発揮されることとなります。取締役会メンバーの役割や求められるスキルなどについても、中長期も含めて明確化しており、それに基づく社外取締役の選任に関わる計画的な検討・実行も重要なミッションです。

指名委員会の審議範囲について、社内は社長のみならず、経営陣全体のサクセッションを意識し、指名委員会の検討範囲を執行役員クラスまで対象とすることで、中長期的に経営の質を維持・向上させることが可能となります。社外についても、取締役会や個々の役員の中長期的な期待役割を踏まえ、各社外取締役の目安の任期を参考にしながら、指名委員会において計画的に審議を行うことで、時々にマッチした社外取締役の登用の可能性を高めることが可能となります。

また、社外取締役が過半数を占める委員会であるため、社長から提案される候補案について「良し悪しの判断がつきづらい」といった課題があります。この課題を解消するため、指名委員が候補者と接する機会を充実化させているケースがあります。たとえば、取締役会で候補者を説明者とさせたり、個別に面談する機会を設けたり、懇談等の機会を設けるなど、意識的に接点を設けています。また、判断の目線を広げるため、あえて候補者以外とも対話する機会を設定し、比較しやすい環境を作っているケースもあります。

このように、指名委員会に実効性を持たせるためには、指名委員は相当な時間を割くこととなるため、時間的なコミットをしてもらうことも必要です。

5.(5)経営陣への権限委譲と監督

委員会設置型のメリットの1つに、会社の裁量で執行への権限委譲ができることがあります。しかしながら、経営陣が未成熟な段階で権限委譲をしてしまうと、会社が思わぬリスクを負ってしまう可能性があることも否めません。

執行能力を十分備えた経営陣であるための重要なポイントとして、トップマネジメントチームを組成し、社長やCEO(最高経営責任者)のみならず、CFO(最高財務責任者)やCSO(最高戦略責任者)などの各トップマネジメントを定義し、責任・権限を明確にしたうえで、権限委譲を進めていくことが重要です。これにより、社長への意思決定の集中を防ぎ、各トップマネジメントのオーナーシップを高め、スピード感をもって業務執行を行うことが可能となります。さらに、トップマネジメントチームを中心に経営会議等を実質議論の場とすることで、戦略策定能力を底上げします。同時に、各トップマネジメントから社長への直接的なレポートラインを設けて、経営上の重要課題を速やかに経営トップへ報告し、適時の経営判断を行うことで、意思決定のスピードを確保しているケースもあります。

また、経営陣が適切なリスクテイクを行い、目標を達成し得るかについて、適切なタイミングで報告し、取締役会からの監督を受けることも大切です。

取締役会へは、業績・リスク・機会・戦略の進捗状況を的確に伝えるため、戦略目標達成に向けた計画を明確化するとともに、KPIを設定することが必要です。取締役会において、効率的かつ効果的に執行の状況を伝えるためには、KPIのような定量的な情報を織り交ぜ、比較可能な状態をつくることが重要です。わかりやすく、ポイントをついた説明とすることで、取締役会において、当初想定していた戦略方向性と合致しているか、また新たなリスク・機会などへ適切に対処ができているかなどについて、大所高所の観点からの指摘を引き出すことが可能となります。

【図表4:取締役会・執行の両輪で進めるコーポレートガバナンス改革】

真に機能するモニタリングモデルの実装_図表2

出所:KPMG作成

V さいごに

モニタリングモデルへの移行は、長年慣れ親しんだ日本の会社のスタイルからの脱却であり、単に体制や仕組みを変えるだけではなく、目的や考え方を抜本的に変えていく必要があります。

そのためには、モニタリングモデルを志向した取締役会で何を実現したいのか、また監督と執行の関係をどのようにしたいのかをなるべく具体化し、取締役会の役割や構成するメンバーの知見・スキルなどを明確化し、取締役会の議題設定や執行への権限委譲のレベル感を決定していきます。そして、この大きな変革を取締役会メンバー、執行サイドも十分理解し、行動を変えていくことも必要となります。

特に、執行側がより強いオーナーシップをもち、大きな戦略方向性を実現すべく、委譲された権限を使いこなしていくことが必要です。また、取締役会に対する適時かつ判断根拠を明確にするような報告を行うことで、実質的なモニタリングを行わせることも重要となります。

そして、会社が目指す姿や目標に向かって監督・執行双方が努力し、意義のある取締役会と経営陣の議論ができているか、取締役会実効性評価等を通じ、定期的に振返りを行い、課題を導出し、継続的なPDCAを回していくことで、単に形だけを変えるのではなく、真に機能するモニタリングモデルを実現・維持する必要があります。

このように、監督・執行双方が目標と意志をもって、改革に臨むことが必要です。また、本当に実効性が確保できているのか、定期的な振返りとともに、さらなる改善を不断に続けていくことで、モニタリング機能を発揮し続けることが可能となります。

執筆者

KPMGコンサルティング
パートナー 木村 みさ
シニアマネジャー 松田 洋介

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