はじめに

件数・金額とも大幅な減少

テクノロジー・メディア・通信(TMT)セクターのM&A市場は、広範囲にわたる不確実な経済情勢を反映して、2023年は低調なスタートを切りました。2023年第1四半期における案件数は1,115件(前期比23%減)、取引金額は520億ドル(同60%減)となりました。取引規模も小型化し、メガディールはほぼ消滅しています。

米連邦準備制度理事会(FRB)が高止まりするインフレに対処するため、金利に対してタカ派の姿勢を維持したことが、ディールメーカーの間でネガティブな心理を助長する主な要因となりました。金利の上昇に伴い、トランザクションのための資金調達コストが上昇する一方、投資対象となる資産の評価は下がっています。こうした傾向により、数多くの買い手と売り手がM&Aから遠ざかっていますが、インフレ率がFRBの目標値である2%付近へ減速し、金利が景気循環のピークを脱するまでは、その傾向が逆転する可能性は低いでしょう。

概況

テクノロジー

テクノロジー分野のM&Aディールは、2023年第1四半期のTMT案件全体の3分の2以上を占めましたが、その勢いは大幅に失われました。案件数は2022年第4四半期の1,034件から778件に減少し、取引金額は847億ドルから466億ドルに減少しました。企業向けソフトウェアおよびサービス分野の案件が、引き続きテクノロジーサブセクターのトランザクションの中心となりましたが、Open AIのChatGPTのような生成人工知能(AI)技術に対する投資家の関心が爆発的に高まっていることから、今後数ヵ月の間にテクノロジー関連のM&Aの新たな領域が切り拓かれる可能性もあります。

メデイア

2023年第1四半期において、メディア分野の取引件数はわずかな減少にとどまりました(前期の341件から279件に減少)が、取引金額は308億ドルから9億ドルに急激に減少しました。オンラインゲーム運営会社Golden Matrixによる欧州のスポーツベッティング企業MeridianBetの3億ドルでの買収が、当四半期におけるメディア分野の最大案件でした。

通信

2023年第1四半期における通信分野の取引件数は、2022年第4四半期の73件から58件に減少し、取引金額は136億ドルから45億ドルに落ち込みました。デジタルインフラで大型案件がみられ、スウェーデンのPEファンド会社EQTと、カナダのPublic Sector Pension Investment Boardが共同で、フィラデルフィアを拠点とするRadius Global Infrastructureを30億ドルで買収しました。

深掘り

ストリーミング業界における合理化

数年にわたって成長を遂げたストリーミングサービス企業は、より困難な局面にさしかかっています。市場は飽和状態にあり、業界再編の機は熟しています。インフレに苦しむ消費者は、ストリーミングの契約数を減らしており、ストリーミング配信会社は加入者の追求から利益の追求へと方向転換しています。収益性を高める経路の1つがM&Aであり、ストリーミング企業が類似のサービスを統合することで、コンテンツの拡充を図るだけでなく、マーケティングからテクノロジーまで、大幅かつ徹底したコストシナジーを生み出すことが可能です。統合はすでに進行しており、2022年4月に完了した、430億ドルにのぼるDiscoveryとWarnerMediaのメガディールは、HBO、CNN、HGTVといった象徴的なブランドを1つの傘下にまとめる取引で、大きな注目を集めました。

見通し

市場の回復を見据える

インフレ率はFRBの目標値である2%を上回っており、FRBは金融政策の引き締めを継続すると予想されます。M&A市場を取り巻く不確実性がすぐに解消される可能性は低いため、TMTセクターのディールメーカーは、市場が回復する場面でチャンスをつかめるよう、以下の3つのポイントを重視ながら準備に注力すべきでしょう。

  • M&A戦略によって12ヵ月後のビジネスをどのような状態にしたいのか、事前に計画する
  • 買い手は、有望なディールに対する競争を想定し、スピードを差別化要因として活用する
  • 売り手は、売却機会を最大化するために、自社資産の持続可能な価値創造ストーリーの構築に投資する

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