本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

宇宙ビジネスの新たな市場となる「軌道上サービス」

宇宙ビジネスの1つに、宇宙活動を支える「軌道上サービス」があります。人工衛星への燃料補給・修理、宇宙ゴミの監視・除去に代表されるサービスです。人工衛星が多数打ち上げられるようになり、衛星の寿命延長や安全確保などの重要性が増しています。「燃料が尽きれば寿命を迎える」「一度打ち上げたら修理不能」といった、これまでの人工衛星の常識を覆すサービスが広がろうとしています。

さまざまなミッションを持った対象衛星に、軌道上でサービスを提供するのが「サービス衛星」です。「検査(点検・監視)」「再配置(移動・除去)」「燃料補給」「修理・交換」などにより、対象衛星の寿命の延長、宇宙ゴミの発生抑制を担います。これまで衛星は一度打ち上げると、深刻な故障が発生したり燃料が枯渇したりしてもなすすべはなく、ミッションは中止せざるを得ませんでした。しかも、その使えなくなった衛星自体が新たな宇宙ゴミとなる懸念もありました。
こうした課題を解決しようとするサービスが広がろうとしている背景には、2つのニーズがあります。

1つ目は、宇宙空間の持続的な利用可能性の確保です。衛星の打ち上げ増加に伴い、廃棄される衛星なども増えます。宇宙ゴミとなって他の運用中の人工衛星と衝突する懸念が高まっており、衛星の運用を脅かす宇宙ゴミを捕獲して廃棄軌道などに移動させる宇宙ゴミ除去が課題となっています。
宇宙ゴミ除去衛星とドッキングしやすくするため、打ち上げ前に衛星にけん引フックのような装置を装着しておく対策も始まっています。日本はこの分野の商業化に向けた取組みをリードしており、国内外の政府機関と連携しながら技術開発と実証実験を進めています。
各国も宇宙ゴミ対応を強めています。米連邦通信委員会(FCC)は、2022年に運用終了後の低軌道衛星の大気圏突入(廃棄)までの期間を、従来の「25年以内」から「5年以内」に大幅に短縮する「5年ルール」を発表しました。

2つ目は、各国の安全保障期間が運用する軍事衛星に対するニーズです。自国の軍事衛星に再配置や燃料補給、修理・交換を軌道上で実施することで、衛星の長期運用性と機能・性能の向上を期待しています。
米国防総省傘下の研究開発機関などが、官民連携による研究開発・実証実験を活発化させています。今後、日本政府も軌道上の不審な衛星などの状況を把握するための衛星を整備する方針を示しており、安全保障分野でも軌道上サービスのニーズが高まる可能性があります。

軌道上サービスの立ち上げに向けた技術開発と実証の取組みは、米欧日などで加速しています。今後の市場形成には、宇宙の持続可能性を確保する国際的なルール作りや商業性の見極め、そして各国・地域の動向がカギとなるでしょう。

日経産業新聞 2023年4月6日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
コンサルタント 間野 晃充

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