本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

宇宙から挑戦するESGの取組み

地球温暖化対策にも宇宙ビジネスは役立ちます。温室効果ガスとして二酸化炭素(CO₂)に次いで影響が大きいメタンの発生源の特定や排出量の測定に、人工衛星を活用しようという動きが加速しています。企業のESGの取組みに宇宙から挑戦できる環境も整いつつあります。

温室効果ガスといえば、CO₂が真っ先に思いつくかもしれませんが、メタンの温室効果はCO₂の25倍にも上るとされるほど強力です。温室効果ガスが「どこから」「どれくらい」排出されているのかを把握するのに、地上に設置したセンサーや航空機による観測が世界で進んでいますが、人工衛星の活用にも注目が高まっています。
メタンの排出源の発見に人工衛星を使うメリットの1つは、地球規模で情報を取得できることです。一度にグローバルなスケールで情報が手に入るため、地上のセンサーや航空機による観測より手間やコストを抑えられます。人工知能(AI)やディープラーニング(深層学習)技術の向上で、人工衛星から入手した大量のデータを迅速に分析できるようになったことも、メタンの検出に人工衛星を使う理由として挙げられます。

米航空宇宙局(NASA)は2022年10月、宇宙からのデータを活用して中央アジア、中東、米国南西部などで50以上のメタンガスの「大量発生源」を特定したと発表しました。また、国連環境計画(UNEP)は、衛星データを活用してメタン排出量を観測し、関係する政府や企業にデータを共有することで効果的な排出削減につなげる計画を、国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)に合わせて公表しています。
日本も取組みを進めており、宇宙航空研究開発機構(JAXA)はCOP27で、人工衛星を使ってメタンを含む温室効果ガスを観測する技術を紹介しています。

今後は公的な研究機関だけでなく、スタートアップなど民間の参画も増えてくることが考えられます。メタンの測定にはこれまで、大型で高価な人工衛星が用いられてきましたが、人工衛星の小型化で開発や打ち上げコストが抑えられるようになったことで、スタートアップなどの新規プレーヤーへの参入障壁が下がってきています。
たとえば、衛星データとAIを活用してメタンの排出量を推定し、「ESGスコア」などの向上や、温室効果ガスの排出削減量の取引を可能にする「カーボンクレジット」の発行支援に貢献するサービスの提供が検討されています。

参画するプレーヤーが増えることで技術や知見の蓄積が進み、人工衛星を活用した地球温暖化対策がより加速的に進んでいくことが期待されます。今後は、宇宙から温室効果ガス排出量を実質ゼロにする、「ネットゼロ」への挑戦が進むかもしれません。

日経産業新聞 2023年3月30日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
コンサルタント 中村 剛也

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