英国上場企業のTCFD対応と今後求められるTransition Plan開示について

2022年5月の記事(英国上場企業におけるTCFD開示動向)は、2021年にTCFD開示が義務化された英国上場各社の開示動向について解説しました。本稿は、英国上場企業のその後の動向と、英国で検討が進められているTransition Plan(移行計画)開示の新たなフレームワークについて説明します。

本稿では、英国上場企業のその後の動向と、英国で検討が進められている移行計画開示の新たなフレームワークについて説明します。

2022年5月の記事(英国上場企業におけるTCFD開示動向)では、2021年にTCFD開示1が義務化された英国上場各社の開示動向について解説しています。

1 Task force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)の略。

1.英国上場企業のTCFD開示に関するFCA・FRCのレビュー結果

2022年にFCA(Financial Conduct Authority:金融行動監視機構)ならびにFRC(Financial Reporting Council:英国財務報告評議会)によって、ロンドン証券取引所プレミアム市場上場企業を対象としたTCFD開示状況の調査・分析が実施されました。対象となった171社の自己回答によると、TCFDのフレームワークに準拠した開示を行っている企業数は2020年と比較して大幅に増加し、遵守している割合は全体で90%にのぼります(図表1)。

図表1 TCFDへの準拠に関する英国プレミアム市場上場企業の自己回答結果(2021年12月期)

項目 推奨される開示項目 ×
ガバナンス(a)
  • 気候関連のリスクと機会に関する取締役会の監督
98% 2%
ガバナンス(b)
  • 気候変動に関連するリスクと機会の評価と管理における経営者の役割
98% 2%
戦略(a)
  • 短期/中期/長期における気候関連のリスクと機会
88% 12%
戦略(b)
  • リスクと機会が、事業/戦略/財務に与える影響
84% 16%
戦略(c)
  • 2℃以下シナリオを含むさまざまな気候関連シナリオを考慮したレジリエンス
76% 24%
リスク管理(a)
  • 気候関連リスクを特定し、評価するプロセス
96% 4%
リスク管理(b)
  • 気候関連リスクをコントロールするプロセス
96% 4%
リスク管理(c)
  • 上記プロセスと全体のリスクマネジメントとの統合
98% 2%
指標と目標(a)
  • 気候関連のリスクと機会を評価するために使用する指標
86% 14%
指標と目標(b)
  • GHG排出量(スコープ1、2、および必要に応じて3)と関連リスク
89% 11%
指標と目標(c)
  • リスクと機会を管理するための目標と目標に対するパフォーマンス
81% 19%
  合計 90% 10%

出所:Review of TCFD-aligned disclosures by premium listed commercial companies(FCA、2022年8月5日)


上記の結果からも分かるとおり、ロンドン証券取引所プレミアム市場上場企業においては、TCFD開示の義務化初年度からすでに開示対応が十分進んでいるように思われる一方で、FCAならびにFRCは調査・分析の中で、次のような今後の課題を指摘しています。

(1)ガバナンス

前述の通り、ガバナンスに関してはほぼすべての対象企業が開示対応できていると自己回答していますが、FCA・FRCの調査・分析では、より具体的なガバナンスのあり方を示していくべきと指摘されています。

たとえば、ガバナンスの説明において「定期的に取締役会に気候変動に関する情報が提供されます」といった抽象的な表現にとどまり、(1)取締役会が関与する頻度や、(2)提供される情報の中身、(3)検討事項に関して具体的な説明が欠けているケースが多いことが指摘されています。また、取締役会と経営者の具体的な役割・責任の分担についての説明も不十分とされています。

(2)戦略

シナリオ分析は、TCFD開示において最も対応の難しい項目の1つとされています。英国上場企業においても、定量的なシナリオ分析の結果を開示できている企業はまだまだ少なく、分析に用いるシナリオもきわめて限定的であると指摘されています。具体的な製品・セクター・地域ごとに、気候リスク種類ごとの時間軸での潜在的な損失を可視化することができれば、戦略的な方向性検討に結びつけることもできますが、不十分なシナリオ分析のもと、企業戦略と切り離され遊離しているように見えるケースもあることが指摘されています。

(3)リスク管理

多くのケースにおいて、「気候変動リスクの評価プロセスは、全社リスク管理プロセスの一部である」と言った抽象的な説明にとどまり、具体的にどのようにプロセスが統合されているかについて説明されている事例が少ないことが指摘されています。

前述のシナリオ分析とも関連しますが、時間軸ごと、事業やロケーションごとのリスクが定量化できていないため、リスクの優先順位付けや全社の企業リスクフレームワークへの統合が困難となっている可能性が考えられます。

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