本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

先端テクノロジーを活かした脅威への対処法

自然災害、新型コロナウイルス感染症、ウクライナ侵攻、犯罪の多様化など、社会の安全性や安心感を大きく損なう出来事が相次いでいます。スマートシティの推進では、こうした脅威からいかにして市民を守り、安全・安心な街づくりをできるかが課題です。

脅威への対処法には、(1)脅威の根本原因の解消・抑止(犯罪監視・警備・防御や検知、災害予兆検知、顔認証の活用や高精度化など)(2)発生した脅威による影響の最小化(災害発生時の迅速な捜索・救助・支援活動や、事故の制圧対応の高精度化など)という2つのアプローチがあります。
いずれのアプローチも今後一層発展させるには技術、つまりセンサー、カメラ、ドローンなどのエッジデバイス・ロボティクスやビッグデータの利用がカギとなります。

2つのアプローチ双方に有効な技術の例として、合成開口レーダー(SAR)衛星があります。SAR衛星は自ら電波を対象範囲に向けて照射し、反射した電波を検出して画像化します。光学衛星とは異なり、雲やスモッグがあっても、夜でも撮像できるのがメリットです。
この衛星を活用すれば、常時撮像した画像を時系列で比較することで、たとえば違法盛り土や違法伐採、不法投棄による変化の検知が期待できます。さらに、常に監視可能な衛星の存在そのものが犯罪の抑止力ともなります。また、地形の変化や不法投棄の発生時に早期解決に向けて活用できるほか、防災用としての利用も期待されます。災害直後の悪天候や立入困難地域において、あるいは時間的制約があるなかでも、被害の全容を早期に把握し、より早く細やかに救助・支援できる可能性があります。

脅威の根本原因の解消・抑止でもう1つ欠かせないのは、直接的に市民を守る警備オペレーションの高度化です。警備保障会社は、長年の警備業務で培ったノウハウを映像解析技術などのテクノロジーと連動させて、警備の高度化・効率化を進めています。
たとえば、綜合警備保障(ALSOK)は監視カメラに加えてドローンを巡回させ、映像解析技術も活用して不審者や異常をより早く検知します。異常発見時にはドローンが先に急行することで、ガードマンの移動速度を超えた迅速な対応と効率化を実現しています。これらのシステムは、東京スカイツリーや羽田空港で試行済みで、今後、全国の市区町村への展開も考えられます。

脅威への対処方法や技術は進歩しており、従来は不安がありながらも対処法がなかった箇所にも早く深く手が届くようになってきています。
ただし、脅威への対処と市民のプライバシーはともすれば対立関係になる点には注意が必要です。対処の目的と必要性、見込まれる効果を丁寧に説明し、理論だけでは解消し得ない不安心理にも寄り添いながら、市民の理解を得つつセキュリティのレベルを高めていくことが重要です。

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日経産業新聞 2022年9月27日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 本下 雄一郎

スマートシティの社会実装に向けて

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