本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

持続可能な医療介護データの運用基盤づくり

団塊の世代が75歳以上に達し、現状の医療介護では支えきれなくなる「2025年問題」が迫っています。今後も繰り返されるであろう感染症や超高齢化社会の到来による疾病の量的増加と質的変化に対し、いかに医療介護サービスを提供していくべきでしょうか。
スマートシティでは、ICT(情報通信技術)を活用した医療介護データの利用により、これらの課題解決が期待されています。

政府が進める医療介護ICTの取組みには、電子受療記録(EHR)とパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)があります。
EHRは、国民の健診・医療記録を電子的に記録し医療機関間で共有することで、どの医療介護機関を受診しても共通の受療記録により同質の医療介護サービスが受けられる仕組みです。
PHRは、健康情報や受療記録などを個人で管理・活用する仕組みで、国民に医療介護に極力かからずにすむよう健康管理を促すことに加え、生活圏以外の地域で医療介護サービスを受ける際にその情報を用いるものです。
しかしながら、いずれも普及が進んでいるとは言えないのが実情です。システムを構築運営するコストが参加施設側の負担となっていることに加え、施設側で対応にあたる民間事業者側に経済的なメリットがないためです。普及促進には経営面・経済面でもメリットが出るようにする必要があるでしょう。

全国でも有数の参加機関数を維持する滋賀県医療情報連携ネットワーク協議会(守山市)の取組みは参考になります。同協議会では数多くの関係者を巻き込み、参加メリットを協議するなど、県と連携して新規参画者への補助などを実施しています。
EHR側が規定するデータ形式・交換方式を補助の条件としており、将来的には行政などでのデータ活用やPHRとしての利用も見えてくるでしょう。(1)統一したデータ形式によるデータの集積管理に加え、(2)地域統一の患者IDによる名寄せが実現できるため、全国から関心が寄せられています。
実はこのような日本版EHRの取組みは全国に250件程度あります。しかし、設備のリプレースコストや保守コストが重くのしかかることから、自主財源では対応できず、運用中断や運用継続の断念も耳にします。

スマートシティには、EHRが抱える運用上の課題を解決する社会システムとなることが期待されますが、それには、住民が安心・信頼して自身のEHRの管理とPHRを活用できるよう、民間中心のEHR運用維持努力に対し、自治体が積極的な調整機能を発揮することが必要です。
また、そのためには、個々人の正確な本人認証と、自分のデータが「どこにあり」「何の情報を」「誰に対し」「どのように使用させる」のかを自身で決定できるヘルスケア版の認証・流通データ選定ツールの実現が求められ、早期の実現が望まれます。

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日経産業新聞 2022年9月26日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 中林 裕詞

スマートシティの社会実装に向けて

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