本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

スマートシティにおけるEBPMの活用

スマートシティではEBPM(証拠に基づく政策立案)が広がると考えられます。EBPM(Evidence Based Policy Making)は、その名のとおり証拠に基づく政策形成を意味します。政府は2017年8月に「EBPM推進委員会」を設置、2021年10月からはデジタル庁のデジタル社会推進会議の下に開催しています。同委員会は「統計等データを用いた事実・課題の把握、政策効果の予測・測定・評価による政策の改善、また、その基盤である統計等データの整備・改善を進めることにより、国民により信頼される行政の実現に資する」ことを目的としています。
EBPMが注目を集めるのは、限られた政策資源の有効活用の重要度が増しているからと考えられます。経験や勘に頼りがちだった従来の政策立案に対し、データを積極的に活用し政策の精度・効果を高めようとする背景には、社会のデジタル化の進展があります。

スマートシティでは、デジタル技術を活用したスマートサービスが提供されます。スマートフォン、ウエアラブルデバイスやセンサーなどにより従来とは比較にならない高い頻度・詳細な粒度でデータが収集可能となり、人工知能(AI)が膨大な情報の効率的な活用を可能にします。
自治体におけるEBPMの導入では、和歌山県の事例がよく知られます。同県は2016年に策定した「和歌山県データ利活用推進プラン」で、「統計的思考・エビデンスに基づく行政の推進」を基本目標の1つとして掲げています。その成果として、社会インフラ公共サービスの必要量を推計し、これに基づく県内の公共インフラの維持費用を算出しています。このほか、実態把握が困難な空き家の分布推定などにも取り組んでいるようです。

民間におけるEBPMの取組みとしては、政府が2020年に新型コロナウイルス対策として国民1人あたり10万円を支給した特別定額給付金事業について、マネーフォワードと早稲田大学などが効果を検証した例があります。同社のサービス利用者を対象に、給付金の流れや消費行動の変化を計測したものです。自治体によって給付時期が異なったことから、そのずれによって生じた自然な実験環境を活用して、給付金に対する消費の反応を明らかにしています。

社会のデジタル化が進むにつれ重要度が増すEBPMですが、課題もあります。いかにプライバシーを確保し、市民の不安を払拭しつつ、データを有効に活用していくのかという点です。
マネーフォワードの事例では、「パーソナルデータステートメント」として、個人情報保護法で定める個人情報だけでなく、ユーザーに関わるすべてのデータの取り扱いを公表しています。こうした取組みは、行政においても求められると考えられます。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

日経産業新聞 2022年9月16日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 山中 英生

スマートシティの社会実装に向けて

お問合せ