NFT/DAOの活用による地方創生

本稿は、NFTやDAO、およびこれらを含むWeb3.0の特性について理解するとともに、地方創生に活用される背景について解説します。

本稿は、NFTやDAO、およびこれらを含むWeb3.0の特性について理解するとともに、地方創生に活用される背景について解説します。

Web3.0と呼ばれるパブリック型ブロックチェーンとスマートコントラクトを基盤とする、従来とは根本的に異なる価値や情報の移転手段が登場したことで、NFT(非代替性トークン)やDAO(分散型自律組織)を地方創生に活用する事例が増えています。Web3.0には仲介機関が不要である、グローバルネットワークへのアクセスが容易であるといった特性がありますが、その特性を生かすことで地方に埋もれる潜在価値を顕在化させる地域活性化が可能になったからです。

しかしながら、法規制や会計・税制などの制度面の整備は遅れており、NFTやDAOをさらに有効活用できる環境にまではいたっていません。そのため、現時点では法規制等の制約を十分に理解したうえで、地方創生に係る活動を進めることが求められます。本稿は、NFTやDAO、およびこれらを含むWeb3.0の特性について理解するとともに、地方創生に活用される背景について解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

POINT 1
NFT(非代替性トークン)やDAO(分散型自律組織)を地方創生に活用する事例が増えている。

POINT 2
従来の仕組みと異なる価値や情報の移転手段を提供するWeb3.0(NFTやDAOを含む)は、その特性を生かすことで、地方に埋もれる潜在価値を顕在化することが可能になる。

POINT 3
法規制や会計・税制がWeb3.0の新しい仕組みに十分追い付いていない現状において、当面は既存の制度の下で制約を理解しながら地方創生に係る活動を進める必要がある。

ⅠNFT/DAOとWeb3.0

1. NFT・DAO・Web3.0等について

NFTやDAO、あるいはこれらの要素を含むWeb3.0という用語について、確立された定義があるものは多くありませんが、本稿では以下のように捉えることとします。

  •  NFT:一般的に、唯一性が付与されたブロックチェーン上のトークンを指します。
  • DAO:一般的に、いわゆるガバナンストークンの保有者がスマートコントラクトを用いた投票システム等により意思決定を行う組織形態を指します
  • ガバナンストークン:一般的に、DAOにおける組織としての意思決定を行うための投票権等が付与されたブロックチェーン上のトークンを指します。
  • Web3.0:一般的に、パブリック型ブロックチェーンとスマートコントラクトを活用した革新的な価値や情報の移転手段や機能を指します。

Web3.0の主要な構成要素には、NFT以外にも暗号資産やセキュリティトークン、ステーブルコインといったトークン、DAO以外にもDeFi(分散型金融)といった機能がありますが、本稿ではNFTやDAO以外の構成要素についての詳述は控えます。

2. Web3.0等の特性について

Web3.0における価値や情報の移転は、従来の金融システムやGAFA等のプラットフォーマーとは根本的に異なる仕組みにより提供されています。このため、価値や情報の移転という同じ機能を提供していながら、従来の仕組みとはまったく異なる特徴を備えています。

Web3.0と既存の仕組みとの大きな相違点は2つあります。1つは、価値や情報の移転に係る仲介機関が不要であるという点です。もう1つは、移転が可能なネットワークが国境を越えて構築されているという点です。価値や情報の移転は、ビジネス等の経済活動やコミュニケーションを含む社会活動の根幹をなすものです。その基盤が大きく変わろうとしているなか、地方創生の分野においても、NFTやDAOといった、これまでにない特徴を持つ選択肢が登場したということになります。

3. Web3.0に係る法規制について

前述のように、従来の仕組みとは根本的に異なるアプローチで広く経済社会活動全般に変化をもたらすWeb3.0は、ビジネスや社会活動を行う主体の関心を集める一方、法規制や会計・税制面で大きな課題を提示しています。

現時点では、先行して発展した暗号資産や金融に近いセキュリティトークンおよびステーブルコインについては徐々に法規制が整備されてきていますが、NFTやDAOについては明確な法規制はいまだ整備されていません。

NFTについては、規制が少ないことから、非金融機関も含め、さまざまな業界で積極的な活用が検討されています。このため、主な課題は会計や税制といった制度面が中心となっています。一方、DAOについては、後述するように法的位置付けが明確でないこと、既存の法的枠組に当てはめようとしてもDAOの特長を生かしきれないという課題があります。

なお、ガバナンストークンについては、Web3.0の構成要素となるトークンの種類には含めていません。それは、ガバナンストークンが投票権等を付与されたトークンを意味しているだけで財産的価値の有無や種類を問わないからです。投票権等の付与は、NFTのみならず、暗号資産やセキュリティトークンにも付与することが可能です。また、NFTや暗号資産、セキュリティトークン、ステーブルコインのどれにも該当しない投票権等が付与されただけのガバナンストークンもあり得るのです。

4. DAOと法規制について

法規制とどう向き合うかは、DAOによって異なります。ただ、価値や情報の移転手段としてのWeb3.0の文脈で用いられるDAOとしては、主として、意思決定を通じてDeFi等を運営する「プロトコルDAO」と、意思決定を通じて集めた資金の使途を決める「インベストメントDAO」の大きく2つに分けることができます。

プロトコルDAOは、DeFi等を全体として機能させるために、流動性供給者といったDeFiが機能するために貢献する者にガバナンストークンを報酬として配布するとともに、彼らがガバナンストークンの価値を向上させるために機能向上に向けた運営を行うインセンティブを与えるというシステムを採用する傾向があります。このためプロトコルDAOのガバナンストークン保有者は、特定の者に集中せず分散する傾向があります。また、DAOの法的位置付けを明確にするインセンティブはなく、法的位置付けを明確化しないケースがほとんどです。一方、インベストメントDAOは、ガバナンストークン保有者が意思決定への関与を求める傾向があることから、保有者を分散させずに参加人数に上限を設けるようなDAOも多くなっています。また、実物資産への投資・購入対象の拡大や、ガバナンストークン保有者に係る税務上の取扱いを明確化する観点から、あえてLLC等として法人登記するようなDAOも増えています。

まとめれば、プロトコルDAOは法的位置付けにそもそも関心がなく、インベストメントDAOは法人格や税制上のメリットを勘案しながら積極的に法人登記を目指しているということになります。

では、地方創生を目的とするDAOには、どのような法的枠組みや税制が必要なのでしょうか。地方創生DAOを使いやすくする法制度や会計・税制の整備は、DAOを活用した地方創生がどれだけ拡大できるかに大きく影響します。

ⅡNFT/DAOと地方創生

NFTやDAOを地方創生に活用する事例が広がる背景は、NFTやDAOに対する法規制が少ないことだけが要因ではありません。

地方には、都市部と比べて、これまで保有しながら活用しきれていない有形無形の資産が多く埋もれています。これがNFTを活用することによって、潜在価値が顕在化されたり、DAOを活用することで新たな財源の創出やコミュニティの活性化につながったりすることも大きな要因と考えられます。

1. 地方創生におけるNFTの活用

NFTを活用した地方創生としては、たとえば、地域の名産品をモチーフにしたNFTの販売が考えられます。これはNFTの制作であり、基本的に少ない限界費用で収益機会の増加につながる可能性があります。また、地元アーティスト等が創るデジタルアートといった作品をNFTとして販売したり、ふるさと納税の返礼品とすることも考えられます。

つまり、NFTを活用することで、地域の埋もれた資産を有効に活用し、収益拡大を図ることが容易になるのです。こうした活用には、前述のWeb3.0の特性である、仲介機関が不要であることやクロスボーダーでのアクセスの容易化が寄与しています。

デジタル化以前、絵画のような一点物の市場は買い手とのマッチングが非常に難しく、価格査定にも専門性が必要であったことから、よほど知名度がある作品でない限り、販売は画廊等の仲介業者に依拠せざるを得ませんでした。しかし、そうした仲介業者は売りたいものを必ず取り扱ってくれるわけではありません。それがNFTであれば、仲介業者に拒まれることなく、容易に出品することができます。

さらに、ブロックチェーン上のトークンとすることで、一般的な仲介業者よりも幅広く世界中の潜在的な買い手にきわめて安価にアクセスすることが可能となります。

一点物ではない一般的な商品にも、デジタル化以前は卸売りや小売りといった中間流通システムが存在しました。そうした流通システム下では、品種が多く、生産量が少ない地方の商品は敬遠され、大量生産や多額の広告宣伝が可能な大企業の商品が優位となります。デジタル後はeコマースが台頭したことにより、小規模事業者の個性的な商品が顧客に届きやすくなりました。このため、「地」ビールや「地」酒など、地元ならではの商品の販売が底堅く伸びる一方、全国区ブランドは苦戦を強いられるケースも少なくありません。

NFTは、この流れを加速させます。モノではなくデジタルデータなので、物流上の制約もなければ、国境の制約もないため、ニーズを持っている可能性のある買い手の対象を世界中に広げることができます。つまりNFTは、地方が抱える価値や資産の収益機会を広げることができるということです。ただし、課題もあります。それは、NFTを購入するためには、基本的にイーサリアム等の暗号資産で代金を支払う必要があることです。購入するためにウォレットを開設したり、暗号資産を購入するだけでなく、取得したNFTを保管するウォレットの管理にも気を払わなければなりません。それがハードルとなり、NFTの購入をためらう可能性があります。なお、日本円に対応するNFTマーケットプレイスもありますが、その分購入可能なNFTは限られます。売り手からすると、潜在的な買い手が限定されるということになります。

いずれにせよ、NFTの活用を広げるには、ウォレットを保有する利用者の増加と、NFTといったトークン保有に関する利用者の経験値を上げる必要があります。また、現状では暗号資産の売買益にかかる税金も、一般的金融商品よりも煩雑で高額になるケースが大半です。したがって、NFTの地方創生への活用を促すには、少額免除などの制度整備が望まれます。

2. 地方創生におけるDAOの活用

NFTだけでなく、DAOの持つコミュニティを形成するという特性を地方創生に活用しようという動きも活発化しています。地域に絡めたNFTを販売するだけでなく、そのNFTに投票権を付与してガバナンストークンとし、NFT販売によって得た収益の一部の使途を投票によって決定するのです。投票を通じて、地域外の住民が有する知見等を地域活性化に活用するというわけです。行政上の正式な住民ではないものの、地域に対する帰属意識を醸成するとともに、地域活性化に向けて知見等を生かすことができます。

こうした地域のコミュニティがDAOを基点として、投票以外にもチャット等を通じて地域内外でのコミュニケーションを活発化させ、そこから交流が生まれたり、実際に現地を訪問するガバナンストークン保有者が出てくるかもしれません。そうなれば、国外の居住者とのコミュニケーションも容易になるなど、非常に高い費用対効果を生み出します。このような地方創生DAOが求める法規制や税制のあり方には、深刻な課題があります。プロトコルDAOのように地域活性化という活動を運営する側面とインベストメントDAOのように収益の使途を意思決定するという側面の双方を併せ持つため、法規制に求める内容は非常に高度なものとなるからです。

3. DAOの活用における課題

現時点では、DAOにより組織化されるコミュニティ側および参加者側双方の法的位置付けは明確ではありません。

コミュニティの観点では、法的位置付けが明確でないことにより、NFTの販売収益に係る会計や税務上の取扱いが不明確となるほか、NFTの所有権もあいまいとなります。所有権があいまいということは、NFTの管理責任主体も不明確ということです。そうなると、流出事故等が起きた場合の法的責任もあいまいとなります。

一方、DAO参加者から見ると、ガバナンストークン保有者としての法的地位が不明確となります。日本における組織に係る法制度には、民法上の任意組合や商法上の匿名組合、一般社団法人や権利能力なき社団などさまざまな形態があります。それでは、地方創生を目的とするDAOの場合、どのよう法的枠組や税務上の取扱いが望ましいのでしょうか。

まず、論点となるのが、組合員等の構成員に対する責任が有限責任か無限責任かということです。組織が外部に対して負わせた損害に対して無限責任を負う場合、地方創生DAOへの出資を委縮させてしまうおそれがありますし、世界中に点在するガバナンストークン保有者から出資額以上の賠償金を徴収する手段も課題となります。このため、ガバナンストークン保有者については、有限責任とすることが前提になると考えられます。

また、意思決定も過半数で行えるものと総意に基づくものがありますし、そもそも業務執行は組合員以外が行うという形態もあります。少なくともガバナンストークン保有者の総意を意思決定の条件とすることは、現実的にDAOとして機能しないおそれがあります。

さらに、収益を獲得し、ガバナンストークン保有者に配当を実施するタイプのDAOである場合、DAOの段階で課税されると、ガバナンストークン保有者にとっては二重課税となるおそれがあります。これを回避するには、DAOレベルで課税を行わない、いわゆるパススルー課税が求められます。

その他にも、資金使途に係る条件がないなど、上記の条件をすべて満たす法人形態は国内にはないと理解しています。

上記論点だけなく、海外居住者が構成員となることに対応できるか、定款等をスマートコントラクトで代用できるか、オンライン申請が可能かなど、細かい論点もあります。

いずれにしても、地方創生DAOを構築するうえでは、法制度や会計・税制だけでなく、ブロックチェーンやスマートコントラクトに係る技術的知見も必要となり、適切な専門家と連携することが望まれます。

Ⅲ課題の解決に向けた取組み

NFTやDAOをはじめとするWeb3.0が地方創生に有用であることは、地方自治体自身が認識しています。Web3.0の進展に向けた規制改革案を公表し、トークンに係る税務・会計処理基準の明確化やDAOの法制化および既存規制緩和等を提言するような自治体も現れはじめました。規制当局が普及に慎重なパブリック型ブロックチェーンとスマートコントラクトを基盤とするWeb3.0の進展に向けた改革案を、一自治体が提言することは非常に興味深いことだと考えます。

地方には、価値や情報の移転に係るさまざまな障害から埋もれたままになっている資産が多く存在します。現在、Web3.0という従来とは異なる仕組みが登場したことにより、その活用しだいで潜在価値を顕在化させる新たな道筋が見えてきました。ただ、その潜在価値をフルに有効活用するためには、法規制や会計・税制のさらなる整備が欠かせません。

現時点では、地方創生におけるNFTやDAOといったWeb3.0の活用は、法規制や税制上の制約を十分に理解したうえで、適切に進める必要があります。

執筆者

KPMGジャパン
Web3.0推進支援部 部長 
あずさ監査法人 金融統轄事業部
ディレクター 保木 健次

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