経済の先行きが不透明ななか、企業がどのようにデジタル化の機運を維持しようとしているのかを探るため、KPMGとHARVEY NASHが共同で毎年実施していたグローバルCIO調査の対象範囲を拡大し、KPMG独自のグローバルテクノロジーレポートとしてまとめました。2,200人以上の経営層に対して調査を実施し、業界の専門家と議論を深め、先例のないほど市場の変動が激しい時代において、競合他社より一歩先を行くために採用しているテクノロジー戦略を紐解きました。

カスタマーエンゲージメント向けテクノロジーへの高まる熱気

今回の調査によると、回答者のほぼ全員が、デジタルトランスフォーメーションによって過去2年間で自社の収益性と業績、またはどちらか一方が向上したと述べています。また、先端テクノロジーを声高に求める動きが広がっており、今後2年以内におよそ67%が、メタバース、非代替性トークン(NFT)、Web3などの先端テクノロジーの採用を計画しており、72%が量子コンピューティングへの投資を予定しています。

Q:デジタルトランスフォーメーションによって、過去2年間で収益性または業績にどの程度プラスの影響がありましたか?

KPMGグローバルテクノロジーレポート2022_図表1

調査結果は、顧客体験がデジタルトランスフォーメーションへの予算制約をなくす重要な要素の1つであり、顧客価値がIT活動における大きな原動力になることを示しています。
カスタマージャーニーを円滑に進めるために、各機能向けに効率化したエンタープライズアプリケーションを備えている(51%)との回答がある一方、依然として機能間のサイロ化への対応に取り組まなければならない状況であるとの回答も62%ありました。また、回答者の多くは、サイバーセキュリティ対策を単なるコンプライアンス上の義務としてではなく、成長を実現する手段、つまり、信頼できるビジネスモデルを構築し、顧客体験を充実させるツールであると捉えていることもわかりました。

デジタル化の進展と依然として続く脅威

回答者は、先端テクノロジーが持つ潜在的可能性を認識し、その導入に向けた基礎固めをしており、半数近く(46%)が将来的な投資や導入の計画を立てています。しかしながら、計画は立てたものの実際の活動を進める動きがほとんど、または、まったくない企業が、このうち半数以上(65%)を占めています。
特にメタバースに関しては、競合他社が関連技術を取り入れるか、同技術に依拠する製品・サービスへの顧客需要が高まるまで、投資を保留している企業が大半でした。これは、デジタル効率性や収益性が最も高い企業でも同様です。業界別で比較すると、2023年中にメタバースへの投資を行う意欲が最も高いのが金融サービス業界であり、反対に最も低いのがエネルギー・化学業界です。

先端テクノロジーに関しては、社内のケイパビリティ不足の兆候がみえ始めています。37%以上の企業が、自社のケイパビリティを高めるよりも、IT企業と連携してメタバースやWeb3を取り入れようとしています。デジタルトランスフォーメーションを非常に効果的に進め、高いROIを達成している企業ほど、メタバースやWeb3の機能を社内で構築できるという自信が比較的高く、回答者平均を5%上回っています。

クラウド導入によって総所有コスト減少の傾向
クラウドの導入に進展がみられたという回答は88%に上りました。エンドツーエンドのオンプレミスやITインフラに比べて、クラウドシステムが企業にもたらす最大の恩恵として、総所有コストを引き下げられること(35%)、また効率性の向上(33%)が挙げられています。デジタル化を非常に効果的に進め、高いROIを達成している企業ほど、回答者全体と比較して、クラウド機能を効率性と持続可能性の向上に活かしていると考えられます。

Q:クラウドトランスフォーメーションプログラムの成功にどの程度満足していますか?

KPMGグローバルテクノロジーレポート2022_図表2

人材不足がデジタルトランスフォーメーションの最大の課題に
デジタル技術の導入において企業が直面している最大の課題は、優秀な人材の不足です。この傾向は、ヘルスケア(52%)と製造業(48%)で特に顕著です。社員研修や採用のための資金が不十分であることから、新たなエンタープライズシステムの導入、クラウドの活用、サイバーセキュリティへの取組みが困難になるなど、企業全体に影響が広がっています。

変化を恐れる組織はデジタルトランスフォーメーションの脅威という結果に
リスクを避ける企業文化は、デジタルトランスフォーメーションを阻むトップ5の課題の1つに位置付けられ、回答者の24%が取組みの阻害要因に挙げています。調査に回答したすべての業界を比較すると、小売業とライフサイエンス関連の企業は、リスク回避型の文化によって苦戦する確率が高いと言えます。ライフサイエンス業界がリスク回避型である理由は、患者の安全を守るために厳しいコンプライアンス要件が課されていることによるものです。

デジタルトランスフォーメーションの課題となる予算不足
デジタルトランスフォーメーションを進めるうえで次に大きな課題となるのが、新たなシステムの購入と導入、そして必要な人材確保にかかるコストの高さです。多くの場合、年間のIT予算は企業の年間予算の10~20%にとどまっており、10%に満たない企業(46%)も少なくありません。4分の1の企業は、投資への承認または経営層の同意が得られず、先端テクノロジーの活用が制限されているとしています。

Q:新たなデジタル技術の導入において、自社が直面している最大の課題は何ですか?

KPMGグローバルテクノロジーレポート2022_図表3

対応に追われるサイバーセキュリティチーム

企業にとって、サイバーセキュリティに関する目標の達成を妨げる最大の課題は、キーとなるスキルの欠如です。回答者の半数以上(58%)が、サイバーセキュリティ対策のスケジュールに遅れが生じていることを認めており、これは、サイバーセキュリティチームにのしかかる責任がビジネス全体で増大している現状を反映した結果なのかもしれません。

顧客チャネルのデジタル化はハイブリッドな働き方の導入に次ぐ重要課題
調査結果は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応として新たな働き方の導入に投資が行われたことで、サイバーセキュリティに関する脅威への状況認識が変化したという見方を裏付けています。十分な監視体制がなければ、システムには新たな脆弱性が生じ、顧客との関係性を損ねる恐れがあります。KPMGが2022年に発行したサイバーレポート「Cyber trust insights2022」によると、データ保護に関する懸念は、企業のデータ管理体制に対するステークホルダーからの信頼を損ねる最大の要因となっています。

デジタル成熟企業の7つの特徴

デジタルリーダーシップについて新たな定義を定めるにあたり、ここからはデジタル化において最も先行している企業に共通する7つの特徴を紹介します。これらの特徴が互いに結びつき働くことで、ITの成果を最大化することができます。つまり、持続的なデジタルトランスフォーメーションによって、絶えず付加価値をもたらし、長期的な観点で顧客のロイヤルティ獲得と顧客体験向上に寄与することができるのです。

デジタル成熟企業の特徴

(1)組織間の風通しを良くするため、サイロ化を解消している
テクノロジーリーダーは、テクノロジー投資において無駄が生じることを回避するため、組織のサイロ化を解消し、従業員からのフィードバックを通じて主要なステークホルダーの意見を継続的に聞き、それをプロジェクト運営に活かしています。
さまざまなビジネス部門においてITの専門知識が一段と求められるようになるなか、組織の枠を越えた連携や教育の機会を定期的に設けることで、ビジネス部門とIT部門の担当者同士が抱く誤解を解消し、それぞれの視点をより明確に理解できるようになります。こうした健全な動きは、チームの生産性を高め、顧客体験において利便性を改善できる機会もみつけやすくなります。

(2)人材不足の解決に自ら取り組んでいる
目下の人材不足はさらに深刻化するとみられる一方、先進的な企業では、エコシステムを通じて専門人材を採用し研修するというアプローチが見直されつつあります。また、企業自体が必要な人材を自ら増やすことで、人材不足の解決に努めています。たとえば大学と連携した取組みでは、エントリーレベルの仕事に就こうとしている学生を教育し、最も需要の高いスキルの習得を促しています。
そうした試みに加え、テクノロジーリーダーは、人材不足とスキルギャップを解消する手段として、自動化に期待を寄せています。単純かつ大量のタスク処理を自動化されたワークフローに任せることで、企業は人員の再配置やチームのスキル向上に取り組み、ビジネスの至るところに存在する戦略上のギャップを埋めることができます。

(3)クラウドに対するステークホルダー間の緊密な連携を構築している
ステークホルダー同士の意見の不一致は、多くの企業にとってクラウド移行を阻害する大きな要因となっています。CISOはクラウド導入において、セキュリティやコンプライアンス要件以上に、成果に対する見方がステークホルダー同士で異なることの方が、深刻な影響を与えていると語っています。特に、クラウド活用を重視したビジョンを描くIT部門と、クラウドへの優先順位が異なる他のビジネス部門との間の温度差が、こうした対立につながっています。
一部のデジタル成熟企業は、専任のクラウド責任者を置くことで、この点において一歩先を進んでいます。専任のクラウド責任者が、個々のステークホルダーグループの要件を検討し、企業全体のクラウドジャーニーを最適化する戦略を策定しています。

Q:クラウドジャーニーにおいて、自社が直面しているまたは直面した主要な課題は何ですか?

KPMGグローバルテクノロジーレポート2022_図表5

(4)サイバーセキュリティの専門家が、早い段階でテクノロジー選定や社員研修に必ず関与するようにしている
デジタル成熟企業は、早い段階からサイバーセキュリティ専門家の協力を得ることで、テクノロジーイノベーションによるワークフローを用いて事業を推進しています。今回の調査に回答したCISOは、2023年は投資対象としてIoTに注目が集まると予測する一方で、IoTサービスには大きなサイバーセキュリティリスクが潜んでいることも認めています。そのため、デジタル成熟度を高めるためには、CISOやサイバーセキュリティチームの協力を仰ぎ、テクノロジーをどの領域でどのように活用し、それが顧客体験にどのような影響をもたらすのかを、初期段階からともに議論していく必要があります。
また、従業員の行動やサイバーセキュリティに対する意識の低さが大きなリスク要因となっていることから、定期的なリスクマネジメント研修をCISOが担っている企業もあります。

Q:自社のサイバーセキュリティ目標を達成するうえで、最も大きな社内の課題は何ですか?

KPMGグローバルテクノロジーレポート2022_図表4

(5)顧客の声を活かした先端テクノロジー戦略を描いている
テクノロジーを選定しワークフローを設計するうえで、顧客のニーズや期待に沿っているかどうかを常に考慮する必要があります。たとえば部門の枠を越えたワークショップを通じて、特定のテクノロジーの価値を検証し、現実的な洞察を引き出すことができます。
デジタル成熟企業は、顧客にとって最も価値のある成果を生む可能性に賭け、そうした機能を持つ先端テクノロジーに資金を投じています。このアプローチは、経済の先行きが不透明な時代にあっても、より多くの顧客からのブランドロイヤルティを維持するうえで役立ちます。

(6)顧客体験を向上させるため、プラットフォームプロバイダーを変更する準備を進めている
企業のデジタルエコシステムの観点からは、ビジネスニーズに合致するプラットフォームを1つに決めるか、あるいは少なくとも企業全体にわたる技術基盤の種類を減らすことが望ましいとされています。
企業の技術基盤の種類は、数多くのプロバイダーから提供されるさまざまなシステムに依拠しています。そのためテクノロジーリーダーは、エンタープライズプラットフォームの基盤統合を進め、顧客体験においてシームレスな顧客接点を提供できるよう取り組んでいます。アプリケーションプログラミングインターフェース(API)の統合については、サイロ化によってカスタマージャーニーの分断が生じないよう、慎重に検討されています。

(7)臆せず、新たな手法を賢明に取り入れている
デジタル成熟企業は、自社の成功が過度に保守的あるいは完璧主義的な企業文化を生み出し、イノベーションの足かせとなることがないよう工夫しています。すべての取組みが完了してから利益を享受することを前提とした、従来の投資フレームワークから脱却しなければなりません。大切なのは、行き止まりの道もあると認識しておくことです。最終目標を細分化し、途中で達成できる小さな目標を設定することで、たとえ外部環境によって当初の投資戦略やビジネス目標に変更が生じたとしても、有益な成果を達成することができます。

※調査結果の全文はPDFよりご覧いただけます。

お問合せ