成長へのゆるぎない自信

 本調査によると、現在の喫緊の懸念材料として「不況」を挙げるCEOは、グローバル全体で14%に上っています。この割合は、本調査の約半年前に実施した「KPMGグローバルCEO調査2022 パルス版」(2022年1月~2月に500人のCEOに対して実施)時点では9%(「パンデミックによる疲れ」を挙げる割合が15%で最大となっている)であり、半年間でわずかに増加するにとどまりました。起こりうる不況は懸念ではあるものの、CEOの58%は、「穏やかで短期的な」不況を予想しており、その先の成長を見通しています。それは、今後3年間の世界経済の成長見通しに自信を持つCEOはグローバル全体で71%に上昇していることからも明らかです。また、9割近く(85%)が、今後3年間の自社の成長にも自信を持っていることがわかりました。

 日本企業のCEOも67%が不況は「穏やかで短期的な」ものになることを予想しています。現在の喫緊の懸念材料として不況は3位にとどまり、引き続きパンデミックによる疲れが1位にランクされています。今後3年間の世界経済の成長見通しについては、グローバル全体での傾向と同様、71%が自信を強め、8割が、今後3年間の自社の成長にも自信を持っています。

 

不況への準備

 グローバル全体のCEOの8割以上(86%)が、今後1年の景気後退を予想しており、71%が自社の収益の最大10%まで影響すると考えています。また、CEOの大多数(73%)が、想定されている成長が不況によって阻害されると予測しています。ただし、4分の3(76%)は、差し迫った不況に備えて、すでに予防手段を講じていると回答しており、不況を乗り切る態勢ができているようです。

 日本企業のCEOも同様に、80%が今後1年の景気後退を予想しており、88%が自社の収益の最大10%に影響すると考えています。このことから、日本企業のCEOがロシア・ウクライナ戦争の影響から、インフレ・円安局面に伴う不況を予想していることが窺えます。ただし、収益への影響が21%以上と考えているグローバル全体のCEOが13%も存在する中、日本企業で21%以上の影響を予測しているCEOはおらず、影響は限定的と考えているものと思われます。実際のところ、約3人に1人は、「影響は5%以下」と回答しています(グローバル全体では25%)。そのため、約6割(61%)の日本企業が不況により成長が阻害されると予想しつつも、不況に備えた予防手段を講じている割合は66%と、グローバル全体に対し低い結果となったと推測されます。

 

今後1年にわたる不況により予想される収益への影響の程度

今後1年にわたる不況により予想される収益への影響の程度

地政学的な不確実性への対応

 地政学的な不確実性は、引き続き経営戦略に影響を与える可能性があり、グローバル全体のCEOの81%、日本企業のCEOの74%は、リスク管理に関する手続きを見直し中、または見直し予定であるとしています。

 その他の具体的な対応としては、ロシア・ウクライナ戦争に関連して、グローバル全体の51%、日本企業の42%がロシアとの取引を停止し、グローバル全体の34%、日本企業の41%が今後6カ月で取引を停止することを計画しています。また、グローバル全体の38%、日本企業の32%が海外事業の移転を実施済みであり、投資戦略の見直しもグローバル全体の47%、日本企業の42%が実施済みとなっています。更に、サプライチェーンの多様化を実施済みの企業はグローバル全体で32%、日本企業で27%を占め、今後6カ月以内の対応を予定中の企業も含めると、割合はそれぞれ79%、76%となり、地政学的な不確実性への対応の動きは自社のみならずサプライチェーン全体に広がっていると言えます。
 

地政学的な不確実性に対応して戦略を見直すための、サプライチェーンの多様化対策状況

地政学的な不確実性に対応して戦略を見直すための、サプライチェーンの多様化対策状況

 地政学的な不確実性は、他のリスクへの影響も与えており、地政学的な不確実性がサイバー攻撃の懸念を引き起こすと考えるCEOはグローバル全体で73%、日本企業で63%となっています。

 この調査結果から、グローバル全体の傾向に比して、日本企業の初動の悪さが懸念されます。不可確実性が高い局面において、慎重な意思決定を行わざるを得ないケースはありますが、初動の遅さの原因が、経営判断の前提となるリスクに対する「シナリオ想定の弱さ」にある場合は注意が必要です。地政学的な不確実性を分析する基盤が自社に具備されているか否かは、今後の経営の成否を左右する要素になると考えられます。


KPMG Insight Plus 専門家コラム

 

地政学リスク、税制・規制、そしてESGをはじめとする経営責任等、サプライチェーンが対応すべき課題は多岐にわたっています。今やサプライチェーンはCEOアジェンダであり、「新たな環境におけるサプライチェーン戦略」が多くの企業に求められています。本稿では、日頃のクライアントとの討議内容を参考に、戦略検討における取り掛かりのポイントを解説します。

「新たな環境におけるサプライチェーン戦略」

 

ロシア・ウクライナ情勢が象徴する昨今の地政学的変動の中で、各国で経済安全保障上の規制強化や制裁の執行が活発化しており、企業の貿易活動や技術情報の流出対策等にも見直しの必要性が高まっています。また米中関係、台湾情勢を懸念して、中国に係るサプライチェーンやビジネススキーム、データの流れなどを見直す動きも進みつつあります。このような地政学・経済安全保障に関わるリスク対応は、不確実性が高く、複合的なリスク観点を考慮すべきものです。また足元の事業継続のための対応と、中長期のグローバル戦略をまじえた経営判断を要します。以下に、対応に向けた検討ポイントをまとめました。

「地政学・経済安全保障リスクへの対応」

 

サプライチェーンは、KPMGグローバルCEO調査2022でも触れている地政学リスクの高まり、ESGへの取組み本格化に加えて、新型コロナウイルス感染症による行動変容、自国第一主義の台頭や、関税や輸出入規制といった貿易ルールの変更、インフレ圧力や円安などの影響の高まり、テクノロジー進化の加速などの大きな環境変化により、ビジネスモデルからサプライチェーン構造、オペレーション・基盤まで、抜本的な取組みが求められています。

「サプライチェーンの進化」

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