現在、あらゆる領域においてデジタルを活用した業務や組織等の変革、すなわちデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれています。特に、人々の生活に密接に関わる公共領域においては、コロナ禍でデジタル化の遅れが顕在化したことも契機として、DXの実現に向けたさまざまな取組みが進められています。2021年9月にはデジタル庁が発足し、2022年6月には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が改訂されるなど、中央省庁側からのアプローチはもちろん、地方自治体側においてもDXの推進部門を新設したり民間のデジタル人材を登用したりといった動きが活発です。今回は、このような「自治体DX」について、現状を概観しつつ、推進にあたってのポイントを考察します。

1.DXとは何か

日本におけるDXの定義
そもそもDXとは何でしょうか。この言葉が初出したのは、2004年に当時スウェーデンのウメオ大学の教授だったErik Stolterman氏による論文「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE」だと言われています。そこでは、「The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life(直訳:デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術が人々の生活のさまざまな面において引き起こす、または影響を与える変化のことであると理解できる)」とされています。
現在の日本においては、経済産業省によるレポート※1や総務省による白書※2に記載の定義が引用されることが多いですが、それらの文書ではデジタル化を「Digital transformation(デジタルトランスフォーメーション)」「Digitalization(デジタライゼーション)」「Degitaization(デジタイゼーション)」という3つの異なる段階として定義しています。これらの共通事項を整理すると、DXとは、「外部変化への対応やデジタルによる新結合を通じて組織横断/全体での変革を成し、顧客に対して“新たな価値”を創出し提供すること」であると理解できます。

スマートシティを支える自治体DX_図表1

DXによる“新たな価値”の創出
では、DXによって創出される“新たな価値”とは何でしょうか。「Digitalization」や「Digitization」があくまで従来の延長線上にある取組みとして、デジタルツールの導入などを通じて生産性や品質の向上を目指すのに対して、DXは従来とは異なる非線形な取組みです。これにより実現を目指すことも、生産性や品質とは別の次元の全く新しい価値になります。たとえば、レンタルショップで借りたDVDを視聴する顧客に対してストリーミング配信を実現した動画配信サービスや、タクシー乗り場で乗車して降車時に支払う顧客に対して車両呼出しから支払いまでのワンストップ提供を実現したタクシー配車アプリは、“新たな価値”を創出した例の1つと言えるでしょう。

スマートシティを支える自治体DX_図表2

2.自治体におけるDX「3つの対象」

自治体におけるDX、すなわち「自治体DX」を考える場合、“新たな価値”を提供すべき対象には、自治体を構成し運営する「職員」はもちろん、自治体が行政サービス等を提供する相手である「住民」や「地場企業」も含まれます。この3つの対象それぞれのためのDXは目的や実現方法などが異なり、「自治体DX」は以下の3つに類型化することができます。

「職員」のためのDX
1つ目は、自治体で働く「職員」の業務を変革するためのDXです。職員のQoW(Quality of Works:仕事の質)ならびに、これを通じた自治体のQoS(Quality of Services:サービスの質)の向上が目的となります。
DXの手前の段階でも、紙の書類や内部手続きを電子化したり、はんこを電子署名に置き換えたり、住民等からの電話応対を自動でテキスト化したりするなど、「職員」の業務における生産性や品質を向上させる取組みは着実に進められ、大きな効果を上げています。しかし、「職員」のためのDXは、この次元に留まらず、ウェブ会議ツールや各種クラウドサービスによって時間や場所の制限なくいつでもどこでも働けるようになったり、ノーコード・ローコードツールによってベンダーに頼らず自らの手でアプリ等を開発できるようになったりするなど、「職員」に対する“新たな価値”を提供します。なお、ノーコード・ローコードツールを用いた「職員」による“内製”については、利用者の声を迅速かつ的確に行政サービスに反映し、またこのプロセスを反復できるという点で、次に示す「住民」のためのDXにも大きく寄与します。

「住民」のためのDX
2つ目は、自治体で暮らす「住民」に提供する行政サービスを変革するためのDXです。住民のQoL(Quality of Life:生活の質)を向上することが目的となります。
DXの手前の段階でも、各種行政手続きをオンライン化したり、公共施設の料金支払いをキャッシュレス化したりするなど、「住民」の日々の暮らしにおける利便性を高める取組みは徐々に進められ、以前と比べて便利になったと実感する場面が増えているように感じます。しかし、「住民」のためのDXはそれだけではなく、民間サービスとの新結合によって日常生活で使い慣れているSNSから行政手続きを行うことができるようになったり、コンビニエンスストアとの新結合によって自宅のすぐそばで住民票が取得できるようになったりするなど、「住民」に対する“新たな価値”の提供を可能にするものです。

「地場企業」のためのDX
3つ目は、自治体で事業を営む「地場企業」の事業活動の変革を促すためのDXです。地場企業の企業価値向上に寄与することが目的となります。
これまでも、デジタルツールの導入のための補助金を交付したり、経営者の意識改革や現場作業者のスキルアップのためのセミナーを開催したりするなど、「地場企業」の経営や事業活動におけるデジタルの導入や活用を促進する取組みは段階的に進められ、大企業のみならず中小企業においてもデジタルを用いた好事例を目や耳にする機会が増えてきました。しかし、「地場企業」のためのDXは、企業と企業等とをマッチングして協働を促す「場」を提供したり、事業活動において有効利用ができる自治体が保有するデータや設備等の「アセット」を提供したりするなど、「地場企業」に対する“新たな価値”を生み出します。

3.自治体におけるDXを推進するにあたってのポイント

成功事例における3つの共通点
全国各地の自治体においても成功例として語られるDX事例が芽吹きつつありますが、そこには、(1)UX/UI(User eXperience/User Interface)(2)組織横断(3)アジャイル、という3点の共通的な特徴があります。

(1)UX/UIとは、職員が業務用の各種デジタルツールを使用したり、住民や地場企業が行政サービスを利用したりする際の画面や操作等を通じた体験、すなわち「使いやすさ」に徹底的にこだわる姿勢です。たとえば、行政サービスが、住民が普段使っている民間サービスとあまりに乖離した使い勝手では、とうてい満足は得られません。
(2)組織横断とは、従来の縦割り主義を超越して、自治体自らの業務を改革したり、住民や地場企業に行政サービス等を届けたりする姿勢です。各部門が持つ業務やデータ等の連携を進めることで、利用者はワンストップでサービスを享受できるようになります。
(3)アジャイルとは、適宜利用者の声を吸い上げ、短いサイクルで行政サービス等の改善を繰り返す姿勢です。前述した2つのポイントもですが、一度で最適解に辿り着けることはなく、また周囲の環境や状況の変化により最適解も変わり得ることから、試行錯誤を続けることが肝要です。

推進にあたってのカギは、緩やかなガバナンスの下での地産地消
自治体DXは「上からの押し付け」では上手く進まないという点に注意が必要です。自治体DXにおいては、中央省庁から都道府県庁、都道府県庁から市区町村、DX推進部門から各部門など、上意下達や中央集権が生まれやすい構図にありますが、地域や業務部門等ごとに状況が異なるなか、画一的な施策や技術等を展開するだけではDXは根付きません。他方、各々の現場にすべてを委ねるだけでは、地域や業務部門等ごとの格差が生まれ、全体としても無駄が大きくなってしまいます。そこでカギとなるのは、緩やかなガバナンスの下で地産地消のDXを進めることです。

たとえば、ある都道府県庁では同庁が提供する行政手続サービスを一元的に構築・運用するクラウド基盤を導入していますが、本クラウド基盤によって、業務部門間でのデータ連携等を容易に行い、住民に対して統一的なデザインや操作性で使い勝手のよい行政サービスを職員自らの手で作ることが可能となっています。各々の業務部門にとっては、共通的なクラウド基盤を使用するという制約はありながらも、現場の実態に即した作り込みをする余地が与えられているのです。
また別の例ですが、昨今、都道府県庁や市区町村においては、デジタルを生業にする民間企業から派遣されるデジタル人材を受け入れるケースが増えています。このデジタル人材が触媒となって、職員や住民との対話による課題の明確化やニーズの吸い上げ、地場企業を巻き込んだ対策の検討などを行うことで、各々の地域の実態に即した実効性のあるDXを推進しています。

このように、中央集権的に強制力を働かせるのではなく、緩やかなガバナンスを効かせながら、自治体(職員)・住民・地場企業を巻き込んだ地産地消のDXの取組みを推進することが、自治体DXやその先にあるスマートシティの実現に向けた必要条件であると言えます。

スマートシティを支える自治体DX_図表3

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 新間 寛太郎

スマートシティによって実現される持続可能な社会

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