本連載は、日刊工業新聞(2022年5月~8月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

デジタル地域通貨の導入で地域消費を促す

地域通貨を導入する地域・自治体が増えています。地域通貨とは、法定通貨と同様の価値交換媒体のことを指し、特定の地域(一般的に基礎自治体あるいはより狭い地域)においてのみ流通することが特徴です。
地域通貨にはさまざまな形態が存在しますが、近年の主流はスマートフォンアプリケーションやICカードとして提供されることが多い「デジタル地域通貨」です。なかでも導入事例が目立つのが店舗側の導入負担が少ないスマートフォンアプリ型です。総務省の「2021年通信利用動向調査」によれば、スマートフォンの個人普及率は15歳以上人口の76.4%であり、おおよそ8400万人が利用し得る状況です。

デジタル地域通貨の普及を後押ししている事象の1つとして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)があります。キャッシュレス・ポイント還元事業や、非接触であるキャッシュレス決済の一般化に加え、地域経済循環促進効果も注目を集めた要因です。地域経済循環については、特定地域でしか使えないため、そもそも消費の域外流出が起こらないことに加え、有効期限を設定することで、地域内での貨幣の流通速度を上げられる点が大きいと言えます。
衰退する地域の商業を維持していく上で、地域内で経済を循環させることも重要です。これは単に地域の商業者を支えるというだけではありません。日常生活圏内に、快適な暮らしを送るために必要な店舗が存在することは、地域のレジリエンス維持に不可欠です。
地域通貨を導入したからといって、利用につながるわけではありません。数ある決済手段のなかから、あえて地域でしか使えず、使わないでいると失効する、不便な地域通貨を選択してもらうには、工夫が必要となります。

地域のために貢献したい、という意識に訴えることは重要です。地域貢献活動への参画に対して地域通貨を付与することは、シビックプライド(市民の誇り)醸成効果も期待できます。さらに地域通貨でしか購入できない商品、体験・権利を設定するなど、地域通貨の活用の場を広げることと組み合わせることで、地域通貨利用の好循環を生み出す可能性があります。
デジタル地域通貨導入の効能には、地域の消費の可視化も挙げられます。地域の消費データとモビリティ、ヘルスケアなどのスマートシティサービスのデータをかけ合わせることで、付加価値向上につなげることが期待されます。民間視点では、商品・サービスの改善・マーケティングに活用することになるでしょう。行政視点では、政策形成におけるデータ活用(EBPM)を推進することで、効率的・効果的な施策の導入・実施が期待されます。

日刊工業新聞 2022年7月15日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 山中 英生

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