本連載は、日刊工業新聞(2022年5月~8月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

スマートシティの実現に期待されるMaaS

交通とは、ある地点から別の地点に移動することを指す言葉であり、日常生活において欠かすことができないものです。交通はそれ自体が目的になることもありますが、通勤・通学や買い物、通院など、何らかの目的に付随して発生する場合がほとんどです。このため、交通分野はその性質から都市や地域にかかわる複数分野にまたがる課題、あるいは、さまざまな分野の活動を支える基盤となる分野と捉えることができます。
しかし、高齢化により自動車の運転ができない人の増加や、人口減少や運転士不足によりバスをはじめとする地方の公共交通機関の維持が困難になるなど、交通を取り巻く環境は厳しい状況にあります。
このような状況下で、複数の交通事業者が提供する交通手段を組み合わせたシームレスな交通の提供や、予約から決済、情報提供などを一元化し、1つの交通サービスとして統合しようとする動きが進んでいます。MaaS(乗り物のサービス化)と呼ばれるこの概念は、すでに全国でさまざまな実証実験が行われています。

MaaSは、交通事業者を含むサービス提供者が別々に保有する技術やデータを組み合わせて活用することから、交通のデジタル変革と言えます。MaaSは、人々の移動要求という需要と事業者が提供する交通サービスという供給とのギャップを埋め、かつ最適化するところがポイントです。今後、さらなるオープンデータ化の推進や、取得したデータに基づくサービス改善を繰り返していくことが実装に向けて重要となってきます。
また、MaaSの取組みは、複数の交通手段やサービスといった交通分野を連携、統合することに加え、移動の目的となる商業や医療、金融、観光といった他の分野とも連携、統合する試みも始まっています。MaaSは、交通を軸とした分野間連携のプラットフォームとして機能する可能性を秘めているのです。

スマートシティは、情報通信技術(ICT)などの新しい技術を活用し、都市インフラや交通データ、消費行動、天候などのさまざまなデータを収集、解析することで都市経営を高度化、効率化し、企業やその都市で生活する人の利便性や快適性の向上を目指す取組みです。MaaSがスマートシティを実現する上で果たす役割への期待は極めて大きいと言えるでしょう。

【交通が起点となる分野を横断したサービス】

交通 分野 サービスイメージ
商業 移動型店舗サービス
医療・福祉 移動診療、オンライン診療
金融 各種サービス利用の一元化決済
観光 交通手段、観光施設などをセットとしたデジタルチケット
保険 走行距離や運転内容に応じた保険料の設定
気象 屋内ルート、雨雲レーダーと連携した移動推奨時刻の提案
公共 道路状況・破損モニタリング、自動運転によるごみ収集
農業 農機械・農車両シェアリング、ドローン散布
広告 位置情報や移動状況、空き時間に応じた情報提供、レコメンド

日刊工業新聞 2022年6月17日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 小竹 輝幸

進化するスマートシティ

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