「常時接続」の消費者

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大を機に、消費者はオンライン取引の利便性と安全性を受け入れ、デジタル商取引は爆発的に拡大しました。その結果、あらゆる企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、消費者が期待するシームレスでパーソナライズされた顧客体験を提供することができるようになりました。

消費者がオンラインビジネスやお気に入りのブランドと接する際、素晴らしい体験と安全の両方を望んでいます。最初の関わりからすべての体験が可能な限りスムーズに進むといった具合に、オンライン体験に魅了されることを望んでいます。進化し続ける消費者の好みに適応するための競争において、理想的な顧客体験はもはや「あったらいいな」ではなく、重要な差別化要因になっています。

また、昨今の情報通の顧客はデジタルのセキュリティとプライバシーにも注意を向けており、詐欺、違反、プライバシー侵害から自身のデータを保護することを求めています。新たなデジタル機能は新たな脅威と「攻撃対象」を生み出すため、適切なセキュリティを提供することが極めて重要となっています。

デジタル商取引に向け大きく舵を切ったことにより、「デジタル・トラスト」がオンラインでのやりとりの中心軸となりました。デジタル・トラストとは、企業における潜在的な侵害や混乱(サイバー攻撃等)に直面した場合の対応だけではなく、顧客データの保護、使用方法の管理、顧客が企業に期待するサービスの提供方法を尊重することでもあります。安全で信頼できる体験を提供できない場合、顧客は他の企業、つまり、顧客を満足させることができる競合他社や新規参入企業に流れるかもしれません。そして、そういった負の噂はSNSを通じて瞬時に広まり、影響がさらに大きくなる可能性があります。

アイデンティティは信頼の通貨

デジタル技術とオムニチャネルサービスは、今日の小売業にとって必要不可欠なものとなっています。ビジネスモデルの急速なデジタル化と顧客中心主義への強いこだわりを背景に、顧客IDのアクセス管理(CIAM)システムは、顧客のデジタル製品・サービスへのアクセスを見守る、コンシェルジュの役割を果たす重要な機能を提供しています。

CIAMは本質的に、顧客体験を差別化する上で重要な役割を担っています。コンシェルジュ体験の質によって、顧客を魅了して離さないか、不満を抱いた顧客がニーズや期待に応えるために競合他社に流れるか、が左右されます。デジタル・トラストは双方向に作用し、デジタル・トラストを高めることは関係者間の信頼性を高めることにつながります。情報漏えいやセキュリティ事故のニュースによって企業やブランドへの信頼が脅かされている今、消費者にとってデジタル・トラストは特に重要なことと言えるでしょう。

一方、正規の顧客になりすました詐欺師や攻撃者のせいで、企業に対する消費者の信頼は揺らいでいます。消費者の本人認証を確実とするためには、以下の3つの優先事項を含む、リスクに応じたアプローチが必要です。

  1. セキュリティに新たな考え方を導入する
    過去、セキュリティとは、企業が保有するデータの価値など金銭や資産などを保護することを意味していました。しかし、デジタル・トラストについても考慮が必要となった現在においては、企業はデータの価値以上のもの、つまり顧客のアイデンティティそのものを保護し、脅威の防止と特定に一段と熟達する必要があります。これは、セキュリティに対する考え方の転換であり、何を保護するべきかをより総合的に考えていく必要があります。
  2. 顧客との接点を妨げない
    企業やブランドは、顧客がサービスを利用したり、製品を購入したりするのをできるだけ簡単にすることが不可欠です。流れを乱さないようにし、デジタルでのやり取りが常に効率的で良い体験ができることを目標にします。適切なリスク許容度を設定し、消費者に常にシームレスで便利な体験を提供しましょう。
  3. リスクとの向き合い方の改善
    企業がセキュリティを次のレベルに引き上げる方法の1つは、同様の考えを持つ企業との情報共有です。情報漏えいの可能性について顧客に警告するために、企業間でログイン情報と漏えいしたアカウント情報を共有します。

消費者のデジタル・トラストを獲得し、シームレスな体験を提供するには、特定の個人の行動や属性に基づいて個人を識別するための統合IDモデル(Federated Identity Model:FIM)を活用する方法もあります。便利なオンラインサービスや取引をサポートするために、他の企業の既存顧客プロファイルを採用する方法です。

SNSのプロフィールなど、既存の顧客情報を利用してサービスにアクセスできるようになれば、顧客は個人情報を繰り返し入力することなく、以前入力したデータに基づいてプロフィールを作成できるため、使い勝手が良くなります。一方、企業は、独立したセキュリティ・インターフェースに投資する必要がなく、より大きな組織のリソースの一部として活用することができます。どのようにすれば他の企業の既存顧客プロファイルを完全に信頼できるでしょうか?それは、企業のリスク許容度によります。すべての企業は、それぞれのFIMをどの程度まで信頼するかを評価し、企業にとって適切なフレームワークを開発する必要があります。

統一された消費者IDに関連する一元化された信頼モデルは、デジタル上で顧客の代わりに取引をしたり、アカウントになりすましたりしようとする詐欺師にどのような影響を与えるかを評価するのに役立ちます。

高まり続ける信頼性への関心

人々が従来の対面取引からオンライン取引にシフトし、ブランドがより多くのデジタルおよびオムニチャネル体験を開始するに伴い、デジタル・トラストに対する重要性は高まり続けています。顧客とのつながりにおける質と安全性に投資しない企業は、デジタル技術を駆使した競合他社に市場で駆逐される危険性があります。

消費者中心で急速に進化する今の時代、積極的に行動し、顧客の信頼を高めるのに遅すぎるということはありません。デジタルワークフローにかかる大幅な圧力の増加を監視しながら増え続ける顧客を管理できるかどうかが、成功への重要な要素になります。安全・円滑に顧客認証を行い、安全なデジタル境界を確保するビジネスは、自らの長期的な存続を保証するものになるのです。

本稿は、KPMGインターナショナルが、2022年6月に発表した「Reaching the ideal state of consumer digital trust」を翻訳したものです。翻訳と英語原文間に齟齬がある場合には、当該英語原文が優先するものとします。

原文はこちらから(英語)
Reaching the ideal state of consumer digital trust

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