1.デジタル化が加速する未来に向けた戦略に取締役会(米国)が積極的に関与する

消費財・小売企業は、消費者とのデジタルチャネルを通じた結びつきに意欲的な姿勢を見せています。こうしたなか、取締役会が果たすべき重要な役割は、経営陣が積極的な市場感応型の投資を行うことを支持し、イノベーションに関する前向きな考え方を奨励することです。現在のデジタル技術は多岐にわたり、簡単に利用できるものから、投資の回収が数年先になるものもあります。デジタルトレンドに精通している取締役会であれば、購入か開発かの意思決定をする際の調査も効果的に行うことができます。そして取締役会は、事業の長期的な成功に不可欠なものや、基盤となるべきデジタル機能やソリューションについて、経営陣が明確に説明できるよう補佐することが重要です。

2.気候リスクやDEIを含め、ESGをリスクと戦略に関する議論に組み込み、「何を」「どのように」行うかについて話し合いを進める

消費財・小売セクターにおいて、ESGは「あるとよいもの」から「生き残りに不可欠なもの」へと変化しつつあります。ESGとDEIはすべてのステークホルダーにとって重要であることから、経営陣が中核となる戦略やイニシアチブにESGおよびDEIを組み込んでおり、それが長期的な業績を推進する原動力の一部になっていることを取締役会は確認すべきです。取締役会の段階でトップマネジメントの姿勢を明らかにし、はっきりとした形で自社の文化に取り込むことが求められます。

3.インフレーション、経済、税制に関する政策変更を適切に監視し、対応するプロセスが導入されていることを確認する

インフレーションの懸念は2022年も継続することが予想されます。消費財・小売企業は、調達物の価格上昇や労働者の賃上げなどコスト上昇の影響を受けているものの、消費者は値上げに対して行動を起こすことが明確であり、消費者への転嫁には慎重にならざるを得ません。取締役会が経営陣とともに調査すべき重要な点は、どのくらいの期間にわたってインフレーションが過去の水準を上回り続けるのか、またそれが価格決定にどのように影響するかという点です。経済的要因の重要性や金融政策が動くタイミングを正確に予測することは困難ですが、企業が経済指標や消費者需要が示す兆候を注意深く監視し、適切に対処できるよう、取締役会は経営陣に働きかける必要があります。

4.経営陣とともに、サプライチェーンの混乱、回復力、および進化の優先順位を決定する

コロナ禍によるデジタルコマースの急拡大、および優れた顧客エクスペリエンスをスピーディに実現することの大切さを考えると、消費財・小売企業にとってサプライチェーンの重要性は高まる一方です。取締役会は、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱を、さまざまなリスクに対処するための未来思考の戦略やレジリエンスプランを策定する機会として利用することができます。サプライチェーン問題に対処するには、多額の資本支出を必要とする場合もありますが、企業にとって最善の決断がなされるべきであり、取締役会は、経営陣が効率、コスト、および回復力の間でバランスを取れるよう支援する必要があります。

5.顧客、進化する顧客行動、そして市場チャネルに再び焦点を当てる

パンデミックにより消費財・小売企業は、オンラインとモバイルの拡大、店舗ピックアップの対応、デリバリーの拡大など市場チャネルを根本的に変えざるを得ませんでした。コロナ禍に生じた消費者の行動や思考の一部は今後も続くと考えられます。取締役会は、パンデミック中に十分な顧客エクスペリエンスを提供できなかった部分を明らかにし、改善のプロセスを示すよう経営陣に圧力をかけなければなりません。

6.文化と人材、特に、採用、定着率、新たなスキルの開発を優先課題とする

消費財・小売セクターでは、データとデジタル人材が重要になりつつあるものの、人材が不足しています。また店舗、工場、流通、およびフルフィルメントセンターの現場で働く労働者不足も継続するでしょう。人材獲得戦争が行われていることを考えると、報酬や福利厚生は組織内の従業員のパーソナリティを理解したうえで決定されなければなりません。取締役会は、企業が、必要な人材を惹きつけ、定着を図るために、自社の文化を見直し、あらゆるレベルの採用候補者や従業員に対する価値提案を再評価できるよう働きかける必要があります。

7.サイバーセキュリティ、ランサムウェア、データガバナンス、プライバシーを特に重視する

パンデミック中のデジタルセールスの加速は、マーケティング活動の向上と価値の創出につながる顧客データをより多く収集することができるという意味で、企業にとってプラスになるはずです。一方で、デジタルチャネルの増加は、サイバーリスクやランサムウェアリスクの拡大につながり、堅牢なデータセキュリティとプライバシー戦略が欠かせません。特に信頼性に大きく左右されるビジネスの場合、取締役会は、サプライヤー、サプライチェーンパートナー、およびその他のサードパーティのセキュリティおよびデータガバナンスポリシーについて、経営陣に詳しく尋ねる必要があります。

8.取締役会のメンバーと多様性について戦略的検討を行う

事業環境の変化に伴い、消費財・小売企業の取締役会メンバーは、組織の戦略に沿った経験とスキルを保有していなければなりません。そして取締役会のメンバー構成や多様性が、確実に企業とブランドを象徴するものとなるようにする必要があります。取締役会の年次評価は、取締役会が有用なスキルセットを保有しているかどうかを判断する機会にもなります。そして、年次評価の後、取締役会は過去1年間の功績だけでなく、改善すべき点についてもまとめ、取締役会レベルで改善に必要な変革を行うべき分野に対する計画、または長期的なロードマップを作成する必要があります。

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