改正実務対応報告40号のポイントは? LIBOR参照金融商品に関するヘッジ会計の留意点

旬刊経理情報(中央経済社発行)2022年6月20日号の特集「2022年6月 第1四半期決算の直前対策」に「改正実務対応報告40号のポイントは? LIBOR参照金融商品に関するヘッジ会計の留意点」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2022年6月20日号の特集「2022年6月 第1四半期決算の直前対策」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「旬刊経理情報2022年6月20日号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が1年延長され、2024年3月31日以前に終了する事業年度までとされた。
  • 金利スワップの特例処理および為替予約等の振当処理について、一定の要件を満たす場合には、金利指標置換後、2024年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降も、これらの処理を継続して適用できることが明確化された。
  • 前記の適用期間内に一定の要件を満たす契約条件の変更または契約の切替が行われた場合には、金利指標置換時が2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する場合であっても、金利スワップの特例処理および振当処理の適用を継続できることとされた。

お問合せ

はじめに

企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」という)は、2022年3月17日、改正実務対応報告40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下、「本実務対応報告」という)を公表した。本実務対応報告は、2020年9月29日に公表された実務対応報告40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下、「2020年実務対応報告」という)を一部改正したものである。

2020年実務対応報告では、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、公表から約1年後に金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定としていた。その経緯を踏まえ、また、米ドル建LIBORの一部ターム物についての公表停止時期が2023年6月末に延期されたことや、2020年実務対応報告公表以後に寄せられた意見を受け、ASBJは金利指標置換後の取扱いの再確認についての審議を2021年10月より開始し、2021年12月に公開草案を公表して意見を求め、寄せられた意見を踏まえて検討したうえで本実務対応報告を公表した。

本実務対応報告では、金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間の1年間の延長や、金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理の趣旨の明確化等が行われており、公表日以後適用することができる。本章では、2020年実務対応報告からの改正内容を中心に、本実務対応報告の内容を解説する。

なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを申し添える。

本実務対応報告の内容

本実務対応報告は、LIBORを参照する金融商品について金利指標改革に起因して行われる金利指標置換であって、その前後で経済効果がおおむね同等となることを意図した契約条件の変更や契約の切替を対象に、金利指標の置換前、置換時、置換後に分けて、ヘッジ会計の継続が可能となるような特例的な取扱いを定めている。本実務対応報告において、2020年実務対応報告から改正した主な内容は、金利指標置換後の取扱いであるため、次より金利指標置換後の取扱いを解説する。

 

ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)

(1)本実務対応報告の内容

本実務対応報告は、適用対象のヘッジ関係については、図表1のような特例的な取扱いを認めている。なお、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる。

また、ヘッジ手段が消滅している場合など金利指標改革とは無関係に既にヘッジ会計が中止されている場合の繰延ヘッジ損益について、その後金利指標置換のためヘッジ対象の契約が切替えられた場合であっても、契約の切替後のヘッジ対象に係る損益が認識されるまで、ヘッジ手段に係る損益または評価差額を繰り延べる。

図表1 繰延ヘッジの特例的な取扱い

ヘッジ取引時以降のヘッジ有効性の評価(事後テスト)
事後テストの免除 金利指標置換時以後、事後テストにおける有効性評価の結果、ヘッジの有効性が認められなかった場合であっても、2024年3月31日以前に終了する事業年度まではヘッジ会計を継続することができる。
有効性判定の起点

<事後テストの免除規定を適用しない場合>
ヘッジ開始時を起点として事後テストを実施することが原則的な考え方であるが、ヘッジ対象およびヘッジ手段の相場変動またはキャッシュ・フロー変動の累積を比較するにあたって、継続適用を条件に、金利指標置換時を起点とすることができる。

<事後テストの免除規定を適用する場合>
2024年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降に事後テストを実施する際には、原則としてヘッジ開始時を起点として、ヘッジ対象およびヘッジ手段の相場変動またはキャッシュ・フロー変動の累計を比較する。ただし、継続適用を条件に、金利指標置換時を起点として累積変動を比較することも選択できる。

(2)改正内容とその背景

2020年実務対応報告では、金利指標置換後における繰延ヘッジの特例的な取扱いの適用期間は「2023年3月31日以前に終了する事業年度まで」とされていた。これは、LIBORの公表停止が見込まれていた2021年12月末からおおむね1年間を想定して定められていたものである。

しかし、2020年実務対応報告公表後の2021年3月に、米ドル建LIBORの一部のターム物については、公表停止時期が2023年6月末に延期された。これにより、2020年実務対応報告における金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が米ドル建LIBORの公表停止時期より先に終了することとなった。そのため、ASBJにおける金利指標置換後の取扱いの再確認についての審議の過程で、この取扱いの適用期間を一定程度延長すべきとの意見が聞かれた。

一方、特例的な取扱いを定めることは、有用な財務情報を提供する観点としては望ましいとはいえない可能性があることを考慮すると、米ドル建LIBORについてのみ適用期間を延長することが考えられた。しかし、米ドル以外の通貨建てのLIBORに関する不確実性が完全になくなったわけではなく、また、適用期間を延長しても濫用のおそれがないと考えられた。そのため、本実務対応報告において、米ドル建LIBORとそれ以外の通貨建てのLIBORを分けることなく、一律に適用期間が1年延長された。

金利スワップの特例処理

(1)本実務対応報告の内容

企業会計基準10号「金融商品に関する会計基準」および日本公認会計士協会会計制度委員会報告14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、「金融商品実務指針」という)では、一定の要件を満たす場合、金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を当該資産または負債に係る利息に加減して処理する特例処理(以下、「金利スワップの特例処理」という)が認められている。

本実務対応報告は、金利指標置換前の取扱いとして、金利スワップの特例処理を適用しているもしくは適用するヘッジ関係について、金利スワップの特例処理が認められるための図表2の6つの条件のうち、3. 4.および5.の3つの条件を満たしているかどうかの判断にあたっては、ヘッジ対象およびヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができるとしている。

図表2 金利スワップの特例処理が認められるための条件(金融商品実務指針178項の要件)

  1. 金利スワップの想定元本と貸借対照表上の対象資産又は負債の元本金額がほぼ一致していること
  2. 金利スワップの契約期間とヘッジ対象資産又は負債の満期がほぼ一致していること
  3. 対象となる資産又は負債の金利が変動金利である場合には、その基礎となっている金利指標が金利スワップで受払される変動金利の基礎となっている金利指標とほぼ一致していること
  4. 金利スワップの金利改定のインターバル及び金利改定日がヘッジ対象の資産又は負債とほぼ一致していること
  5. 金利スワップの受払条件がスワップ期間を通して一定であること(同一の固定金利及び変動金利の金利指標がスワップ期間を通して使用されていること)
  6. 金利スワップに期限前解約オプション、支払金利のフロアー又は受取金利のキャップが存在する場合には、ヘッジ対象の資産又は負債に含まれた同等の条件を相殺するためのものであること

金利指標置換時以後についてもこの取扱いを適用し、2024年3月31日以前に終了する事業年度まで金利スワップの特例処理の適用を継続することができるという特例的な取扱いを認めている。また、この特例的な取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても金利スワップの特例処理の適用を継続できる。

なお、金利指標置換後に図表2の5. 以外の条件が満たされている場合には、2024年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降も金利スワップの特例処理の適用を継続することができる。

また、金利指標置換時が2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日までに到来していない場合であっても、2024年3月31日以前に終了する事業年度までに行われた契約条件の変更または契約の切替が金利スワップの特例処理の要件のうち図表2の5. 以外の条件を満たしているときは、2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する金利指標置換時以後も金利スワップの特例処理を継続することができる。

(2)改正内容とその背景

2020年実務対応報告では、金利指標置換後における特例的な取扱いの適用期間は「2023年3月31日以前に終了する事業年度まで」とされていた。これについて、米ドル建LIBORの一部のターム物の公表停止時期が2023年6月末に延期されたことから、繰延ヘッジへの対処と同様の理由で、本実務対応報告において適用期間が「2024年3月31日以前に終了する事業年度まで」に1年間延長された。

また、2020年実務対応報告では、金利指標置換後の特例的な取扱いの適用期限が到来した後の取扱いについては明記されていなかった。しかし、金利指標置換後の取扱いの再確認の過程では、金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理について、趣旨を明確化すべきという意見が聞かれた。2020年実務対応報告の開発時の考え方は、繰延ヘッジについて特例的な取扱いの適用期限到来後もヘッジ会計の継続が可能としたのと同様の効果を金利スワップの特例処理についても意図したものであって、今回の改正はこの点について新たな解釈を示すものではない。

しかしながら、多様な解釈が生じることで、実務に意図しない影響を及ぼすことが考えられるため、本実務対応報告において、金利指標置換後に一定の要件を満たす場合には、特例的な取扱いの適用期限到来後も金利スワップの特例処理の適用を継続することができることが明記された。

さらに、2020年実務対応報告では、契約条件の変更または契約の切替えが特例的な取扱いの適用期限までに行われていても、金利指標置換時が当該適用期限までに到来しない場合についての取扱いは定められていなかった。しかし、米ドル建LIBORの一部のターム物の公表停止時期が2023年6月末とされたことに伴い、金利指標置換前において金利スワップの特例処理の要件を満たしていた取引に関して、金利指標改革に起因した金利指標の置換がなされ、かつ、当該金利指標置換時以後において図表2の5. 以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしている場合であっても、金利指標置換時が当該特例的な取扱いの適用期間より後であるという理由で金利スワップの特例処理が適用できなくなる場合が想定された。たとえば、9月決算企業(特例的な取扱いの適用期限は2023年9月末)が2023年4月に米ドル建ての6か月物LIBORに関する契約条件の変更または契約の切替を行い、後継の金利指標が次回の金利更改日である2023年10月から適用開始される場合などである(図表3参照)。

図表3 9月決算企業が2023年4月に契約条件の変更または契約の切替えを行い、2023年10月から後継の金利指標が適用開始される場合

図表3

出典:第469回企業会計基準委員会(2021年12月3日開催)の審議資料を参考に作成

これについて、金利指標置換時が当該特例的な取扱いの適用期間より後であるという理由のみにより機械的に金利スワップの特例処理が継続できないとすることは、有用な財務情報の提供につながらない可能性があると考えられた。そのため、金利指標置換時が2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日までに到来していない場合であっても、2024年3月31日以前に終了する事業年度までに行われた契約条件の変更または契約の切替が金利スワップの特例処理に係る図表2の5. 以外の要件を満たしているときは、2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する金利指標置換時以後も金利スワップの特例処理を継続することができるとされた。契約条件の変更または契約の切替えが当該特例的な取扱いの適用期間内に行われることが求められているのは、適用にあたって一定の歯止めを設ける観点によるものである。

なお、外貨建会計処理基準等における振当処理に関する取扱いについても、金利スワップの特例処理に関する取扱いを同様に適用することができるとされている。

適用時期

本実務対応報告は、公表日以後適用することができるとされている。

おわりに

本章では、2020年実務対応報告から改正が行われた金利指標置換後の取扱いを解説した。米ドル建LIBORの一部のターム物を除き、2021年12月末で従来の方法によるLIBORの公表が停止されたことから、金利指標の置換も進んでいると思われる。該当取引がある企業では、本実務対応報告に基づき金利指標の置換後の会計処理を行うと考えられるが、本稿がその際の一助となれば幸いである。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
マネジャー 公認会計士
新開 朋春(しんがい ともはる)

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