水積もりて川を成す、循環する水がもたらすもの

生命を育み、国民生活及び経済活動の重要な役割を果たす水の循環過程において、カーボンニュートラルを実現する観点から、河川流域の総合的かつ一体的な管理が求められています。

生命を育み、国民生活及び経済活動の重要な役割を果たす水の循環過程において、カーボンニュートラルを実現する観点から、河川流域の総合的かつ一体的な管理が求められています。

地球上の水の総量は、14億立方キロメートルと推定されます。それがどれだけの量なのか、ピンとはきませんが、その内訳は塩水が97.47%、淡水が2.53%と言われると、地表を海洋で覆われた水の惑星、地球の塩水割合は、そんなものかなぁと感覚的に思えます。

しかし、この淡水の殆どが南極・北極の氷や氷河として存在する水や地下水であり、人が容易に利用できる河川や湖沼等の水は、地球上に存在する水の量のわずか0.008%にすぎないとのことです。これがどれだけ僅少なのか、再びピンとこないのですが、淡水は非常に貴重なものだということはわかります(令和3年版 水循環白書を参考)。

あらためて考えると、淡水は、太陽エネルギーによって、海水や地表の水が蒸発して上空で雲となり、再び地表に雨や雪となって降り注き、その集積が川となって海に至るという、絶え間ない水の循環によって維持されています。

この循環する水を維持することの重要性は、国が水循環基本法という法律を定めていることからも明らかです。水循環基本法では、水循環とは、「水が、蒸発、降下、流下又は浸透により、海域に至る過程で、地表水、地下水として河川の流域を中心に循環すること」であり、その重要性について「地球上の生命を育み、国民生活及び産業活動に重要な役割を果たしていることに鑑み、健全な水循環の維持又は回復のための取組が積極的に推進されなければならない」とされています。

水循環の過程で課題となるのは、水源地の森林荒廃、渇水、湧水枯渇や地下水位の低下、洪水、水質汚濁、水インフラの老朽化、都市型水害等が挙げられます。これらの水の循環における課題の特徴は、過程内で生じた事象は他に連鎖的に影響を及ぼすということです。水循環基本法でも、「水循環の過程において生じた事象がその後の過程においても影響を及ぼすものであることに鑑み、流域に係る水循環について、流域として総合的かつ一体的に管理されなければならない」とされています。

そして、水循環の過程に最も影響を及ぼすのは、温暖化による異常気象であります。水循環の過程で、流域としてカーボンニュートラルへの取組みを総合的、一体的に行うことが求められます。

愛知県は、1994年3月に県の地球温暖化対策を体系化した「あいちエコプラン21」を全国に先駆けて作成し、2018年2月に作成した「あいち地球温暖化防止戦略2030」に基づき取組みを進めています。それを加速し新たな取組みとなるカーボンニュートラルの実現に資する具体的なプロジェクトとして、2021年9月に「矢作川カーボンニュートラル(CN)プロジェクト」に着手しています。本プロジェクトは、“水循環”をキーワードに、森林保全、治水、利水、下水処理などにおいて、カーボンニュートラルの実現に向け、最新の技術を活用し、総合的かつ分野横断的にあらゆる施策を推進するものです。

2022年3月に知事会見によって、矢作川カーボンニュートラル(CN)プロジェクトの全体像と対策案の概要が公表されています。

そこで示されたプロジェクトの方向性は、以下の通りです。

(1)CO2削減及び吸収対策の推進

  • 再生可能エネルギーの創出として、水力発電の増強、小水力・太陽光発電施設の設置、バイオマス発電の推進
  • エネルギーの省力化として、浄水場再編によりポンプ圧送から自然流下配水への変更、老朽化機器の省エネ機器への更新等によりCO2削減
  • 緑地保全や木材利用促進によりCO2吸収量の拡大

(2)分野を横断した流域マネジメントの実施

地域グリッドによる電力マネジメント、水循環マネジメントによる水利用最適化、上下水道施設の連携による省エネ化によって、分野を超えた一元管理運用による流域マネジメントの実現

(3)CNに関する総合的な取組みの検討

  • 排出されるCO2の分離回収・新技術活用
  • 低炭素型建設機械の使用による建設業全般におけるCO2排出削減
  • 気候変動が森林環境へ及ぼす影響と水循環、食料生産、野生動物とヒト感染症を総合的に理解し、水資源、食料生産、健康へのリスク低減を実現

これらは、矢作川の流域の水循環の過程をプラットフォームとして、総合的かつ一体的な取組みによってカーボンニュートラルの実現を目指すという、非常に意欲的な取組みです。

国土のおよそ3分の2が森林であり河川の治水及び利水が重要な我が国においては、河川の流域マネジメントにカーボンニュートラルの実現を組込むことは、“サステナブルな水循環”によって、地域の住民生活、地域経済の活性化に資するものです。

水道の蛇口をひねれば水がでるのは、水の循環という自然の摂理に抗うことなく、循環の過程を絶やさぬ努力があるからであります。我々が今後、水循環においてカーボンニュートラルへ取り組むことは、あらたな恵みをもたらしてくれるものとなるでしょう。そのために、官民の双方による取組み、連携が重要であると考えます。

執筆者

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
あずさ監査法人 パブリックセクター本部長
パートナー 村松 啓輔

村松 啓輔

あずさ監査法人 常務執行理事/パブリックセクター本部長、PPP・PFI推進室長/パートナー/公認会計士

あずさ監査法人

メールアドレス

お問合せ

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター連載コラム