ソフトウェアに飲み込まれる世界。生き残るために必要な力とは?

いまから11年前の2011年、ウォールストリートジャーナル(WSJ)に寄稿されたあるコラムが話題となりました。

Forbes Japan Onlineに記事が掲載されました。

それは、世界で初めて一般に普及したWebブラウザ「Netscape」の開発者として知られ、現在はベンチャーキャピタリストとなったマーク・アンドリーセン氏が書いたもので、コラムのタイトルは、”Software Is Eating the World”。「ソフトウェアが世界を飲み込む」というものでした。

彼はこのコラムの中で、多くの産業がソフトウェア企業によって置き換わりつつあることを指摘し、そのトレンドがその後もより広範囲な産業に影響を及ぼすと予想していました。この11年前のアンドリーセン氏の予想は現実となり、いまやファッション、金融、自動車など、ほとんどの産業において、ソフトウェアによって成立することを前提とした戦略とアクションが必須となっています。

しかも、ソフトウェアを動かすコンピュータの高性能化は激しく、スーパーコンピュータの過去30年の性能向上は、5年で10倍、10年で10倍x10倍の100倍、20年で100倍x100倍の1万倍、30年で100万倍になったとも言われています。

企業が持つ経営資源の中で、これほどの速度で成長していくものはなく、このコンピュータをいかにして自社の経営の進化のために使うかというのが、生き残るための重要なポイントになってきていることは、言うまでもありません。

競争の法則を変えたソフトウェア化

ソフトウェア化は、機能や性能を指数関数的に進化させていきます。1年目を1とすると、2年目には2、3年目には4、4年目には8、5年目には16になっているといった具合です。これは進化が2のべき乗(「aのn乗」の形で表される数のこと)だった場合ですが、3のべき乗だったりすると、進化は更に急速になっていきます。これがデジタル化においては、「勝者総取り」(Winner Takes All)という結果を導きます。

指数的な成長性は、デジタルドリブンなビジネスモデルに成功した企業に対して、2番手以後がなかなか勝負をひっくり返すのが難しいという状況を作り出します。

逆に考えれば、デジタル時代には、べき乗の法則になりやすい形でプラットフォームやソリューションを組み立てる事が重要になります。さまざまなプラットフォーム提供者が機能の構成要素をマイクロサービス化し、デジタルドリブンな競争に備えているのはそのためです。

つまり、旧来の線形な差分成長型の仕組みから、指数的な仕組みを持つことで競争の法則を異なる次元に進化させることができるわけです。

ソフトウェア時代に必要な3つの力

こういった動向から、今後必要とされるスキルが明らかにこれまでと異なってきていることがわかると思います。

自己啓発本やビジネス本などではいろいろな提案がなされていますが、私からもより基本的なスキルを提示したいと思います。かつては大学などで学んだことをベースに業務経験を積んでいくことでスキルを向上させていくアプローチが普通でした。しかし、昨今のデジタル化・ソフトウェア化においては、日々新しいテクノロジーや科学的発見があり、過去の常識を常にアップデートしなくてはなりません。

私が考える、デジタル時代に特に重要と思われる「力」はこの3つです。

学習力
どんどん出てくる新しいことを、次々と吸収していく能力

ソフトウェア技術が事業の中心になれば、常に革新へと導く新たなアイデアが出てきます。それらは未完成だったり、課題があったりするものの、そういった提案を吸収し、理解し、自らのものとして使えるようになり、プロダクトやソリューションを創造できる人材になることが重要と考えます。

探索力
自ら新分野を好奇心を持って探索していく能力

新たなアイデアは、先端技術者があるカンファレンスでヒントを述べたことが契機となって、一流のテクノロジストの間で話題になり、盛り上がって行くことが少なくありません。こういった新たなアイデアに遭遇するためには、自ら好奇心を持ち、常にアンテナを張って探索していく以外ないと考えます。

連想力
一見無関係に見える事象、現象を関連付けて理解できる能力

新たなアイデアは、多くの場合、皆さんが日々関わっている業務に一見関係なさそうに見えるかも知れません。あるいは、このアイデアだけではソリューションやプロダクトを創造するには足りないと感じることもあるでしょう。ただ、「もしこれにあれが加わったら」、といった連想力を発揮することで、それまで無関係と思われた提案が意味を持った形で見えてくるように思います。

生涯教育といわれて久しいですが、学習することをおざなりにすると、日々進化していくデジタルエコノミー下では置いてきぼりを食ってしまいます。「努力する人は夢中になる人にかなわない」という言葉を聞いたことがあります。まさしく、夢中になれるテーマを個々人が見つけ、デジタル時代の新たな価値を創造する人になっていくことが重要だと考えます。

未来の社会の先読みは若い世代の行動を観察する

将来を予測する1つの方法を紹介しましょう。それは若い世代がどういった行動をし、どういったものを好むかを観察することです。本や映像などのエンタメや体験した商品を紹介し合うというトレンドはすっかり定着し、それらがコンテンツとなって情報共有の新たなエコシステムができています。

例えば、UGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)の映像配信サービスには、さまざまなコト・モノの解説動画がアップされています。豊富な機能を持つビデオ編集アプリ、音楽制作アプリなどのソフト、ビデオスイッチャーやオーディオインタフェースのような画像音声編集用のハード機器の使い方を知りたいときに、もはや取扱説明書を見ることはほとんどなくなりました。

決して取扱説明書が不親切なほど薄っぺらだと言っているのではありません。私が使っているビデオ編集アプリの取扱説明書は、数千ページもあったりします。数百ページではなく、数千ページです。電子ファイルだと読むのが面倒なので、製本に出そうかと思いましたが、ページ数を見て諦めました。

ところが知りたい機能や使い方をUGC映像配信で検索してみると、実際にそのアプリを作ったメーカーではなく、ヘビーユーザーや映像制作を生業にしているプロの方々が既に解説動画を上げてくれていたりします。メーカー提供のヘルプビデオ以上の親切さで、メーカーにとってはコスト不要のカスタマーサービスのエコシステムが出来上がっています。

こうなると、UGC映像配信サービスに解説ビデオがあるプロダクトに人気が集まるようになりそうで、いわゆるWinner Takes All が加速しそうです。

※この記事は、「2022年6月6日掲載 Forbes JAPAN Online」に掲載されたものです。この記事の掲載については、Forbes Japanの許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

茶谷 公之

KPMG Ignition Tokyo フェロー, パートナー

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