これからの報告の質向上のカギとなる統合報告フレームワークと統合的思考

2022年5月25日に、IASB審議会議長とISSB審議会議長が、Value Reporting Foundation(VRF)が有する「統合報告フレームワーク」と「統合的思考に関する原則」に関する将来的な役割、ガバナンス体制と開発について声明を公表しました。

IASB審議会議長とISSB審議会議長が、VRFが有する「統合報告フレームワーク」と「統合的思考に関する原則」に関する将来的な役割、ガバナンス体制と開発について声明を公表。

IASB審議会とISSB審議会が統合報告の将来の位置づけを表明

2022年5月25日に、国際会計基準審議会(以下、「IASB審議会」)議長と国際サステナビリティ基準審議会(以下、「ISSB審議会」)議長が、Value Reporting Foundation(価値報告財団:以下、「VRF」)が有する「統合報告フレームワーク」と「統合的思考に関する原則」に関する将来的な役割、ガバナンス体制と開発について声明(以下、「当声明」)を公表しました。これは2022年6月末に予定されている、IFRS財団とVRFの統合を見据えたものであり、VRFが有する「SASB基準」の利用に関連するISSB審議会による声明に続くものです。
以下、当声明の内容の概略を紹介していきます。包括的な企業報告の実現を通じて、市場に質の高い情報を提供し、持続的な社会の実現と企業価値の向上を推進のために、これまで以上に統合報告フレームワークの理念と統合的思考に関する原則の意義を適用する意義が高まってくると考えられます。

統合報告フレームワークと統合的思考に関する原則の今後の展開

当声明では、VRFと統合後のIFRS財団が統合報告フレームワークを保有し、当面は任意で利活用するツールとしての位置づけとしながらも、IFRS財団、IASB審議会とISSB審議会は、発行体による統合報告フレームワークの継続的採用と適用の拡大を積極的に奨励しています。
併せて、統合的思考に関する原則も、IFRS財団の所有となることを表明しています。そして、企業による統合的思考に関する原則の継続的な適用と、ステークホルダーとのエンゲージメントを奨励し、企業のガバナンスの強化と報告書の質向上に資するガイダンスの開発を進めることとしています。

IFRS財団はVRFとの統合後、IASB審議会とISSB審議会は、共に統合報告フレームワークに関わる取り組みを遂行する責任を担います。どのように双方の審議会の基準設定に関連するプロジェクトや要求と、統合報告フレームワークを関連づけるのかを検討し、双方の協調と合意をめざしていきます。この協調には、統合報告フレームワークを進化・改良し、IASB審議会とISSB審議会の双方に適応するものを公表する目的を有する、共同プロジェクト立ち上げの可能性も含まれます。なお、統合報告フレームワークの将来的な展開は、IFRS財団のデュープロセスに基づき、市場参加者とも意見交換をしながら、そのタイミングとアプローチを決定します。
IASB審議会とISSB審議会は、それぞれの基準設定にあたり、統合報告フレームワークの原則と概念を利活用します。これは、IASB審議会やSASBの概念フレームワークなど、統合報告フレームワークと類似している概念の整合をはかり、統一のための模索を視野にいれたものです。また、IASB審議会より公表されている実務記述書 第1号「経営者による説明」と、統合報告フレームワークの相違点についての適切な対応を含むことが、両審議会の議長より表明されています。さらに、IASB審議会とISSB審議会の両議長は、統合報告フレームワークの原則と概念に基づいた、企業報告フレームワークの策定とその永続的な保持についても約束しています。企業報告フレームワークは、統合報告書の作成、ならびに、IASB審議会とISSB審議会により求められる報告書のコネクティビティを支援するガイダンスを、報告書作成企業に提供します。これにより、企業は報告書内の情報の関連性と整合性をもたせながら、その全体像を報告することが可能になります。

IFRS財団は、統合報告フレームワークを両審議会に適応したものに発展させるプロセスへの理解と、統合的思考に関する原則の利用と開発に向け、マーケットに対するエンゲージメントプログラムを実施する予定です。

VRFに既存するボードや評議会の行方について

VRFは統合報告や統合的思考の推進活動に関連したボードや評議会を有しています。例えば、統合報告フレームワークに対する改定や変更を提案・承認する役割を持つ「統合報告フレームワークボード」は、IFRS財団との統合後は、いったんその役割を終えます。そのボードメンバーは、今後IFRS財団にて、統合報告フレームワークの原則と概念を利活用し進化させるプロジェクトに関連して設置されるアドバイザリー組織として招集される予定です。
また、統合報告や統合的思考に関するマーケットインプットを提供する役割を有する「統合報告カウンシル」は、IFRS財団との統合後は、IFRS財団トラスティーズと両審議会に対しアドバイスを提供する機関に移行します。「統合報告カウンシル」は、IASB審議会とISSB審議会により求められる報告のコネクティビティを担保するためのアドバイスやインプットを担い、IFRS財団が目指す整合性のとれた企業報告の実現に向けた重要な役割を果たします。「統合報告カウンシル」は、2年間の継続後、存続に関して、IFRS財団トラスティーズにより検討される予定です。

まとめ

統合報告フレームワーク(2013年)、GRIスタンダード(2016年)、TCFD提言(2017年)、SASB基準(2018年)の公表など、2010年代には多くのサステナビリティ関連基準やフレームワークが誕生しました。一方、数多くのサステナビリティ関連基準やフレームワークの存在により、個別の基準やフレームワークを参照・活用しつつ、目的に適合した報告書による情報提供は、発行体の負担となっていました。特に投資家向けの報告書においては、事業活動と関連性の薄いサステナビリティ情報が記載される一方で、企業価値創造にマテリアルな情報やメトリクスが示されていないなど、報告書利用者にとって必ずしも有用な内容となっていない状況でした。
そのため、本年3月のグローバルに統一されたサステナビリティ関連報告におけるベースラインとなる、ISSB開示基準の公開草案の公表は、企業価値に焦点をあてたサステナビリティ関連情報の比較可能性改善という見地からの大きな進展といえます。この背景の下、統合報告フレームワークと統合的思考に関する原則が、IFRS財団によって取り扱わることで、財務報告と関連し整合のとれたサステナビリティ関連報告のさらなる進展が予想されます。その結果、報告書の利用者にとって、企業の価値創造能力の判断に資する有用な情報を含む、良質な企業報告の促進に繋がっていくと期待できます。

執筆者

KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
有限責任 あずさ監査法人
パートナー 高橋 範江

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