本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

世界的に活発となる、スタートアップ企業への「クリーンテック」投資

脱炭素は息の長い取組みです。技術的に未解決の問題も多く、出来合いのシステムを導入すれば済むという話ではありません。そうした脱炭素のさまざまな課題を新たな視点で解決しようとしているのが、スタートアップ企業です。国際的な脱炭素気運の高まりを受け、環境対策の技術を持つスタートアップ「クリーンテック」に投資する動きが世界で活発になっています。

スタートアップ企業への投資動向などを調査する米CBインサイツによると、太陽光発電や風力発電、バイオ燃料など再生可能エネルギー関連技術のスタートアップへの投資額は2021年、79億5,100万ドルと過去最高になる見通しです。なかでも太陽光関連企業に対する投資が目立ちます。二酸化炭素(CO2)を回収・貯留・再利用する「CCUS」スタートアップへの投資も急増しており、CBインサイツによると、2021年の投資額は11億ドルと前年比3倍に増える見込みです。
クリーンテックに投資するのはベンチャーキャピタル(VC)だけではありません。事業会社がCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を通じて投資するケースも増えており、そのなかでも脱炭素の動向が今後の収益に直結する石油メジャーなどがクリーンテックへの投資を増やしています。

ただ、この領域に投資する場合、いくつかの要素を押さえておく必要があります。
はじめに挙げられるのは、投資地域です。脱炭素のルールを決める主戦場は欧州や北米であるため、投資先は海外中心となります。
次に技術が実現するまでの期間です。この領域は水素やCO2から化学品などを作るカーボンリサイクルなど、商用化に時間がかかる技術が少なくありません。結果、投資回収が長期となる可能性が高くなります。もちろん、革新的な代替技術に投資することで十数年後に知的財産の整備や標準化、ビジネスモデルの構築などにより、その分野での覇権を握る可能性もあります。実際、北米では運用年数を通常よりも長期に設定し、実用時期がまだわからない核融合エネルギーなどに投資するVCも存在します。しかし、特殊なケースを除き、社外の投資家や社内の経営層に対する説明上、運用年数を長期に設定することは困難な場合が多々あります。このため、デジタル要素を含む技術など開発スピードが比較的速く、短期的に市場に受け入れられやすい分野に分散投資することが必要となるでしょう。デジタル分野としてはたとえば、交通を効率化してグリーンな物流を実現するサービス、電気自動車(EV)の充電拠点位置サービス、エネルギーを自給する住宅(ZEH)やビル(ZEB)の電気制御サービス、排出量算定サービス、気候変動リスクやファイナンスを評価するサービスなどがあります。
最後に政策要素です。国や地域によって環境政策で公的資金が供給される分野は若干異なります。特に欧州は水素、英国は洋上風力、日本は経済産業省のグリーン成長戦略に基づき、14分野に対する多方面型の資金供給となっています。

炭素税、排出量取引など各国内のカーボンプライシング(炭素の価格付け)政策が決着していないことにも気をつけたいところです。たとえば民間による排出枠取引が勃興していますが、日本で公的な排出量報告に転用できるかどうかなどは定まっていません。この分野のスタートアップに投資する場合、政策動向に対する注視が必要となります。

【脱炭素スタートアップ投資の要点】

投資先 北米や欧州に多い
分散投資 長期的な取組みが必要な革新的な代替技術と短期的な成果が期待できる既存技術の強化など
脱炭素政策や国際標準の動き 各国、各地域の動きを常に監視する
ロビー活動 資金力などが許せば、業界団体などを通じてロビー活動を行う

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 馬渕 裕貴

日経産業新聞 2021年11月10日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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